厚生労働省所管の医療保障制度には、後期高齢者医療制度、医療保険制度及び公費負担医療制度があり、これらの制度により次の医療給付が行われている。
これらの医療給付においては、被保険者((1)ウの被保護者等を含む。以下同じ。)が医療機関で診察、治療等の診療を受けた場合等に、広域連合、保険者、都道府県又は市町村(以下「保険者等」という。)及び患者が、これらの費用を医療機関に診療報酬等として支払う。
このうち、診療報酬の支払の手続は、次のとおりとなっている(図参照)。
図 診療報酬の支払の手続
ア 診療を担当した医療機関は、診療報酬として医療に要する費用を所定の診療点数に単価(10円)を乗ずるなどして算定する。
イ 医療機関は、診療報酬のうち、患者負担分を患者に請求して、残りの診療報酬(以下「医療費」という。)については、高齢者医療確保法に係るものは広域連合に、医療保険各法に係るものは各保険者に、また、生活保護法等に係るものは都道府県又は市町村に請求する。
このうち、保険者等に対する医療費の請求は、次のように行われている。
(ア) 医療機関は、診療報酬請求書(以下「請求書」という。)に医療費の明細を明らかにした診療報酬明細書(以下「レセプト」という。)を添付して、これらを国民健康保険団体連合会又は社会保険診療報酬支払基金(以下「審査支払機関」と総称する。)に毎月1回送付する。
(イ) 審査支払機関は、請求書及びレセプトにより請求内容を審査点検した後、医療機関ごと、保険者等ごとの請求額を算定して、その後、請求額を記載した書類と請求書及びレセプトを各保険者等に送付する。
ウ 請求を受けた保険者等は、それぞれの立場から医療費についての審査点検を行って金額等を確認した上で、審査支払機関を通じて医療機関に医療費を支払う。
保険者等が支払う医療費の負担は次のようになっている。
ア 高齢者医療確保法に係る医療費(以下「後期高齢者医療費」という。)については、広域連合が審査支払機関を通じて支払うが、この費用は国、都道府県、市町村及び保険者が次のように負担している。
(ア) 高齢者医療確保法に基づき、原則として、国は12分の4を、都道府県及び市町村はそれぞれ12分の1を負担しており、残りの12分の6については、各保険者が納付する後期高齢者支援金及び後期高齢者の保険料が財源となっている。
(イ) 国民健康保険法に基づき、国は市町村等が保険者として納付する後期高齢者支援金に要する費用の額の一部を負担している。
(ウ) 健康保険法に基づき、国は全国健康保険協会が保険者として納付する後期高齢者支援金に要する費用の額の一部を負担している。
イ 医療保険各法に係る医療費については、国は、患者が、①全国健康保険協会管掌健康保険の被保険者である場合は全国健康保険協会が支払った額の16.4%を、②市町村が行う国民健康保険の一般被保険者である場合は市町村が支払った額の41%を、③国民健康保険組合が行う国民健康保険の被保険者である場合は国民健康保険組合が支払った額の13%から47.4%までを、それぞれ負担している。
ウ 生活保護法等に係る医療費については、国は都道府県又は市町村が支払った医療費の4分の3又は2分の1を負担している。
国民医療費は、医療の高度化や人口の高齢化に伴って、平成25年度に40兆円を超え、28年度には42兆1381億円に達している。また、このうち後期高齢者医療費は、高齢化が急速に進展する中でその占める割合が3割を超えている。このような状況の中で医療費に対する国の負担も多額に上っていることから、本院は、後期高齢者医療費を中心に、合規性等の観点から、医療費の請求が適正に行われているかに着眼して検査した。
本院は、8厚生(支)局及び20都道府県において、保険者等の実施主体による医療費の支払について、レセプト、各種届出書、報告書等の書類により会計実地検査を行った。そして、医療費の支払について疑義のある事態が見受けられた場合は、地方厚生(支)局及び都道府県に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査の結果、20都道府県に所在する121医療機関の請求に対して351実施主体において、25年度から29年度までの間における医療費が、43,937件で計779,453,524円過大に支払われており、これに対する国の負担額307,470,638円は負担の必要がなかったものであり、不当と認められる。
これを診療報酬項目の別に整理して示すと次のとおりである。
診療報酬項目 |
実施主体 (医療機関数) |
過大に支払われていた医療費の件数 | 過大に支払われていた医療費の額 | 不当と認める国の負担額 |
---|---|---|---|---|
件 | 千円 | 千円 | ||
①入院基本料 | 134市区町村等 (70) |
7,174 | 477,794 | 188,048 |
②リハビリテーション料 | 90市区町等 (27) |
13,306 | 217,933 | 86,548 |
③入院基本料等加算 | 81市区町等 (4) |
4,183 | 35,767 | 13,564 |
④初診料・再診料 | 125市区町等 (9) |
12,840 | 27,559 | 11,004 |
⑤医学管理料等 | 69市区町等 (11) |
6,434 | 20,399 | 8,305 |
計 |
351実施主体 (121) |
43,937 | 779,453 | 307,470 |
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。
医療費が過大に支払われていた事態について、診療報酬項目の別に、その算定方法及び検査の結果の詳細を示すと次のとおりである。
診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号。以下「算定基準」という。)等によれば、入院基本料のうち、療養病棟入院基本料等については、療養病棟等に入院している患者に対して、患者の疾患、状態等について厚生労働大臣が定める区分に従い、1日につき所定の点数を算定することとされている。
検査したところ、16都道府県に所在する70医療機関において、入院基本料等の請求が不適正と認められるものが7,174件あった。その態様は、療養病棟入院基本料等に定められた区分のうち、より低い点数の区分の状態等にある患者に対して、高い区分の点数で算定していたものである。
このため、上記7,174件の請求に対して、134市区町村等において医療費が計477,794,990円過大に支払われており、これに対する国の負担額188,048,824円は負担の必要がなかったものである。
算定基準等によれば、リハビリテーション料のうち、運動器リハビリテーション料又は脳血管疾患等リハビリテーション料については、厚生労働大臣が定める施設基準に適合している旨の届出を地方厚生(支)局長に対して行った医療機関が同大臣の定める患者(以下「対象患者」という。)に対して個別療法であるリハビリテーションを行った場合に、発症、手術等から150日又は180日以内に限り、その届出に係る所定の点数を算定することなどとされている。そして、この場合には、レセプトの摘要欄に当該疾患名、発症日等を記載することとされている。
ただし、治療を継続することにより状態の改善が期待できるなどの対象患者については、150日を超えて算定することができるなどとされている。
また、介護保険の要介護被保険者等である対象患者に対して、必要があって150日を超えてリハビリテーションを行った場合には、所定の点数より低い点数を算定することなどとされている。
検査したところ、11都道府県に所在する27医療機関において、リハビリテーション料等の請求が不適正と認められるものが13,306件あった。その主な態様は、次のとおりである。
(ア) 患者に疾患の発症等があった後、新たな疾患の発症等がないのに、レセプトの摘要欄に150日以内に新たな疾患の発症等があったなどと記載して、150日以内に限り算定することとされている運動器リハビリテーション料の算定を繰り返し行っていた。
(イ) 治療を継続することにより状態の改善が期待できるなどの対象患者に該当していないのに、150日を超えて運動器リハビリテーション料を算定するなどしていた。
(ウ) 要介護被保険者等である対象患者に対して、所定の点数より低い点数で算定すべきところ、所定の点数で運動器リハビリテーション料を算定するなどしていた。
このため、前記13,306件の請求に対して、90市区町等において医療費が計217,933,127円過大に支払われており、これに対する国の負担額86,548,076円は負担の必要がなかったものである。
算定基準等によれば、入院基本料等加算のうち、療養病棟療養環境加算等については、厚生労働大臣が定める施設基準に適合している旨の届出を地方厚生(支)局長に対して行った医療機関について、1日につき所定の点数を算定することとされている。ただし、療養病棟療養環境加算は、当該医療機関における医師、看護師等の数が医療法(昭和23年法律第205号)に定める標準となる数(以下「標準人員」という。)を満たしていない場合には算定できないこととされている。
検査したところ、4府県に所在する4医療機関において、入院基本料等加算の請求が不適正と認められるものが4,183件あった。その主な態様は、看護師等の数が標準人員を満たしていないのに、療養病棟療養環境加算を算定していたものである。
このため、上記4,183件の請求に対して、81市区町等において医療費が計35,767,304円過大に支払われており、これに対する国の負担額13,564,142円は負担の必要がなかったものである。
算定基準等によれば、初診料については、患者の傷病について医学的に初診といわれる医師の診療行為があったときに、また、再診料については、その後の診療行為の都度、それぞれ算定することとされている。ただし、指定障害者支援施設等に配置されている医師(以下「配置医師」という。)が当該施設の入所者に対して行う診療については、原則として、初診料、再診料等は算定できないこととされている。
検査したところ、5府県に所在する9医療機関において、初診料、再診料等の請求が不適正と認められるものが12,840件あった。その態様は、配置医師が指定障害者支援施設等の入所者に対して行った診療について、初診料、再診料等を算定していたものである。
このため、上記12,840件の請求に対して、125市区町等において医療費が計27,559,016円過大に支払われており、これに対する国の負担額11,004,004円は負担の必要がなかったものである。
算定基準等によれば、医学管理料のうち、特定疾患療養管理料等については、生活習慣病等を主病とする患者に対して、治療計画に基づき療養上必要な管理を行った場合等に算定することとされている。ただし、配置医師が指定障害者支援施設等の入所者に対して行う診療については、特定疾患療養管理料等は算定できないこととされている。
検査したところ、7道府県に所在する11医療機関において、医学管理料等の請求が不適正と認められるものが6,434件あった。その主な態様は、配置医師が指定障害者支援施設等の入所者に対して行った診療について、特定疾患療養管理料等を算定していたものである。
このため、上記6,434件の請求に対して、69市区町等において医療費が計20,399,087円過大に支払われており、これに対する国の負担額8,305,592円は負担の必要がなかったものである。
医療費が過大に支払われていた事態について、医療機関の所在する都道府県別に示すと次のとおりである。
都道府県名 | 実施主体 (医療機関数) |
過大に支払われていた医療費の件数 | 過大に支払われていた医療費の額 | 不当と認める国の負担額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|---|
件 | 千円 | 千円 | |||
北海道 |
18市町等 (12) |
4,256 | 117,069 | 47,656 | ①②⑤ |
山形県 |
5市等 (2) |
212 | 3,391 | 1,253 | ①② |
茨城県 |
30市区町等 (8) |
4,336 | 76,776 | 30,489 | ①②④ |
栃木県 |
42市区町等 (4) |
2,477 | 9,969 | 3,823 | ②④⑤ |
千葉県 |
49市区町等 (7) |
4,756 | 41,276 | 16,346 | ①④ |
東京都 |
26市区等 (11) |
2,319 | 26,265 | 10,977 | ①② |
神奈川県 |
36市区村等 (4) |
942 | 76,746 | 27,426 | ① |
愛知県 |
41市町等 (14) |
7,010 | 41,361 | 15,939 | ①②④⑤ |
三重県 |
15市町等 (1) |
529 | 1,533 | 593 | ③ |
京都府 |
41市町等 (11) |
4,495 | 56,606 | 22,568 | ①③④⑤ |
大阪府 |
23市町等 (15) |
2,902 | 76,668 | 30,195 | ①②⑤ |
兵庫県 |
31市町等 (11) |
4,508 | 41,847 | 15,519 | ①②⑤ |
和歌山県 |
12市町等 (3) |
1,222 | 67,846 | 28,373 | ①② |
岡山県 |
9市町等 (1) |
811 | 25,277 | 10,020 | ③ |
徳島県 |
15市町等 (2) |
254 | 15,350 | 6,841 | ① |
香川県 |
5市等 (5) |
726 | 56,592 | 21,355 | ①② |
福岡県 |
27市区町等 (1) |
895 | 2,408 | 658 | ③ |
長崎県 |
13市町等 (5) |
1,013 | 20,117 | 8,232 | ①②⑤ |
宮崎県 |
5市等 (3) |
144 | 9,597 | 4,078 | ① |
鹿児島県 |
3市等 (1) |
130 | 12,748 | 5,120 | ① |
計 |
351実施主体 (121) |
43,937 | 779,453 | 307,470 |