自立支援給付は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(平成17年法律第123号)に基づき、障害者及び障害児が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、市町村(特別区を含む。以下同じ。)が必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行うものである。
自立支援給付のうち、障害福祉サービスに係る給付費の支給には、訓練等給付費及び介護給付費(以下、これらを合わせて「訓練等給付費等」という。)がある。訓練等給付費の支給の対象には就労移行支援(注)、就労継続支援等がある。
そして、障害者及び障害児が障害福祉サービスを受けようとする場合の手続は、次のとおりとなっている。
① 障害者又は障害児の保護者は、居住地等の市町村から訓練等給付費等を支給する旨の決定を受ける。
② 支給決定を受けた障害者又は障害児の保護者(以下、これらを合わせて「支給決定障害者等」という。)は、支給決定の有効期間内に都道府県知事又は政令指定都市若しくは中核市の市長(以下「都道府県知事等」という。)の指定を受けた指定障害福祉サービス事業者等(以下「事業者」という。)の事業所において、障害福祉サービスを受ける。
また、都道府県知事等は、自立支援給付に関して必要があると認めるときは、事業者に対する指導等を行うことができることとなっている。
事業者が障害福祉サービスを提供して請求することができる費用の額は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービス等及び基準該当障害福祉サービスに要する費用の額の算定に関する基準」(平成18年厚生労働省告示第523号。以下「算定基準」という。)等に基づき、障害福祉サービスの種類ごとに定められた基本報酬の単位数に各種加算の単位数を合算し、これに単価(10円から11.44円)を乗じて算定することとなっている。
そして、就労移行支援のサービスに要する費用の額は、障害者の就労への移行を促進するために、平成24年10月以降、算定基準等に基づき、就労移行支援に係る指定障害福祉サービス事業所(以下「指定就労移行支援事業所」という。)において、就労移行支援を利用して企業等に雇用されてから、当該企業等に連続して6か月以上雇用されている者又は雇用されていた者(以下「就労定着者」という。)の人数が①過去3年間0である場合は、基本報酬の単位数に100分の85(27年度以降は100分の70)を乗じて得た単位数等、②過去4年間0である場合は、基本報酬の単位数に100分の70(同100分の50)を乗じて得た単位数等を基に算定することとなっている。また、27年度以降、就労移行支援を利用して企業等に雇用された者(以下「就労移行者」という。)の人数が過去2年間0である場合は、基本報酬の単位数に100分の85を乗じて得た単位数等を基に算定することとなっている。
また、同年度以降、障害者が企業等により長く就労を継続できるよう支援するために、指定就労移行支援事業所において、就労定着者の割合等が所定の要件を満たす場合は、就労定着支援体制加算として、基本報酬の単位数に所定の単位数を加算することとなっている。そして、就労定着支援体制加算の単位数は、前年度における就労定着者について、企業等に雇用されてから就労を継続している又は継続していた期間(以下「雇用期間」という。)が6月以上12月未満、12月以上24月未満又は24月以上36月未満である者の人数をそれぞれ当該指定就労移行支援事業所の利用定員で除した数(以下「定着率」という。)を算出し、その定着率に応じた区分ごとに定められている。
市町村は、支給決定障害者等が事業者から障害福祉サービスの提供を受けたときは、これに係る訓練等給付費等を事業者に支払うこととなっており、訓練等給付費等は、障害福祉サービスに要した費用の額から当該支給決定障害者等の家計の負担能力その他の事情をしんしゃくして政令で定める負担の上限額等を控除して得た額となっている。
訓練等給付費等の支払手続については、①事業者は、訓練等給付費等を記載した介護給付費・訓練等給付費等請求書等(以下「請求書等」という。)を、市町村から訓練等給付費等に係る支払に関する事務の委託を受けた国民健康保険団体連合会に送付し、②同連合会は、事業者から送付された請求書等の点検を行い、訓練等給付費等を市町村に請求して、③請求を受けた市町村は、金額等を算定基準等に照らして審査した上で、同連合会を通じて事業者に訓練等給付費等を支払うことになっている。
そして、国は、障害福祉サービスに要した費用について市町村が支弁した訓練等給付費等の100分の50を負担している。
本院は、合規性等の観点から、訓練等給付費の算定が適正に行われているかに着眼して、24都道府県及び36市(14政令指定都市、22中核市)において、指定就労移行支援事業所を設置する440事業者に対する訓練等給付費の支払について、訓練等給付費の請求に係る関係書類等により会計実地検査を行った。そして、訓練等給付費の支払について疑義のある事態が見受けられた場合には、更に都道府県等に事態の詳細な報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。
検査したところ、3県及び3市(1政令指定都市、2中核市)に所在する9事業者は、事業所における過去3年間若しくは4年間の就労定着者又は過去2年間の就労移行者の人数が0となっていたのに基本報酬の単位数に100分の85等を乗ずることなく算定していたり、前年度における雇用期間ごとの定着率を誤って算定し、適切な区分によらずに就労定着支援体制加算の単位数を算定していたりするなどしていた。このため、25年度から29年度までの間に、上記の9事業者に対して17市町が行った訓練等給付費の支払が計809件、計27,493,704円過大となっていて、これに対する国の負担額13,746,851円は負担の必要がなかったものであり、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事業者において算定基準等を十分に理解していなかったことにもよるが、市町において訓練等給付費の算定について審査が十分でなかったこと、県等において事業者に対する指導が十分でなかったことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
群馬県に所在する事業者Aは、平成25年度に実施した就労移行支援に係る訓練等給付費の算定に当たり、過去3年間の就労定着者の人数が0となっていたのに、同年度において障害福祉サービスの提供を受けた利用者について、基本報酬の単位数に100分の85を乗じていなかった。また、26年度に実施した就労移行支援に係る訓練等給付費の算定に当たり、過去4年間の就労定着者の人数が0となっていたのに、同年度において、障害福祉サービスの提供を受けた利用者について、基本報酬の単位数に100分の70を乗じていなかった。
このため、上記の事態に係る185件の請求に対して6市町が支払った訓練等給付費が計6,500,182円過大となっていて、これに対する国の負担額計3,250,091円は負担の必要がなかった。
以上を事業者の所在する県等別に示すと、次のとおりである。
県等名 |
実施主体 (事業者数) |
年度 | 過大に支払われた訓練等給付費の件数 | 過大に支払われた訓練等給付費 | 不当と認める国の負担額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|---|---|
件 | 千円 | 千円 | ||||
群馬県 |
6市町(1) | 25~27 | 185 | 6,500 | 3,250 | 就労移行支援 |
前橋市 |
2市(1) | 28、29 | 49 | 1,263 | 631 | 同 |
山梨県 |
5市町(3) | 26~29 | 248 | 13,587 | 6,793 | 同 |
福岡市 |
1市(1) | 25~27 | 90 | 2,172 | 1,086 | 同 |
鹿児島県 | 1市(1) | 27~29 | 48 | 1,023 | 511 | 同 |
鹿児島市 | 2市(2) | 27、28 | 189 | 2,947 | 1,473 | 同 |
計 |
17市町(9) | 25~29 | 809 | 27,493 | 13,746 |