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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(1) 第三者行為事故に係る年金の支給と第三者からの損害賠償との調整に関する事務について、督促等の手続が適切に行われるよう適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに年金の支給停止等を行うために必要な損害賠償金の受領状況や医療費等実支出額を把握するための手続を整備するなどして、年金の支給停止等の事務が適切に行われるよう意見を表示し及び改善の処置を要求したもの


所管、会計名及び科目
内閣府及び厚生労働省所管
年金特別会計(基礎年金勘定) (項)基礎年金給付費
(国民年金勘定) (項)国民年金給付費
(厚生年金勘定) (項)保険給付費
平成19年度から26年度までは、
厚生労働省所管
年金特別会計(基礎年金勘定) (項)基礎年金給付費
(国民年金勘定) (項)国民年金給付費
(厚生年金勘定) (項)保険給付費
18年度以前は、
厚生労働省所管
国民年金特別会計(基礎年金勘定)
(項)基礎年金給付費
(国民年金勘定)
(項)国民年金給付費
厚生保険特別会計(年金勘定) (項)保険給付費
部局等
厚生労働本省(平成21年12月31日以前は社会保険庁)
支給停止等の根拠
厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)、国民年金法(昭和34年法律第141号)
第三者行為事故に係る年金の支給と損害賠償との調整の概要
年金給付の原因である被保険者の障害又は死亡が第三者の行為により生じたものであり、被保険者等が第三者から損害賠償を受けたときに、国がその損害賠償額を限度として年金の支給停止等を行うことにより、年金の支給と第三者からの損害賠償との重複を避けるための調整を行うもの
支給停止等に係る事務の一部を委任又は委託している相手方
日本年金機構(平成22年1月1日以降)
督促等の手続に長期間を要しており、損害賠償金の受領状況等を把握できていないため、年金の支給と損害賠償との調整が行われていない事案の件数
967件
上記の事案に係る調整の対象となる年金支給額(1)
14億0171万円(平成15年度~28年度)
損害賠償金を受領したことは把握できているものの、受給権者から同意書を取得できていないため、損害保険会社等に確認書類の提出を求めることができず、損害賠償金の総額やその内訳を把握できていないため、年金の支給と損害賠償との調整が行われていない事案の件数
345件
上記の事案に係る調整の対象となる年金支給額(2)
4億2202万円(平成15年度~30年度)
損害賠償金の受領状況は把握できているものの医療費等の実支出額を把握できていないため、年金の支給と損害賠償との調整が行われていない事案の件数
176件
上記の事案に係る調整の対象となる年金支給額(3)
2億9525万円(平成18年度~30年度)
(1)から(3)までの純計
19億4929万円(背景金額)(平成15年度~30年度)

【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに意見を表示し及び改善の処置を要求したものの全文】

第三者行為事故に係る年金の支給と損害賠償との調整に関する事務について

(平成30年10月30日付け
厚生労働大臣
日本年金機構理事長
宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに同法第36条の規定により意見を表示し及び改善の処置を要求する。

1 第三者行為事故に係る年金の支給と損害賠償との調整に関する事務の概要

(1) 制度の概要

厚生労働省は、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)、国民年金法(昭和34年法律第141号)等に基づき、被保険者の老齢、障害又は死亡に関し、被保険者又はその遺族(以下「被保険者等」という。)に対して、老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金等の年金給付を行っている。

このうち、年金給付の原因である被保険者の障害又は死亡が第三者の運転する車両による交通事故等のように第三者の行為によって生じたものであって、当該損害を被った被保険者等に対して第三者が損害賠償の義務を負う場合(以下「第三者行為事故」という。)については、厚生年金保険法又は国民年金法において年金給付に関する特例が定められている。

すなわち、被保険者等が被った第三者行為事故に係る損害は、最終的には事故発生の原因となるなどした第三者が賠償すべきものであることなどから、被保険者等が第三者から損害賠償を受けたときには、国はその損害賠償額を限度として年金の支給停止ができることとされている。この特例により、第三者行為事故に係る損害について、年金の支給と第三者からの損害賠償との重複が避けられることとなっている。

(2) 年金の支給を停止する期間等

厚生労働省が定めた「厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整の取扱いについて」(平成27年管管発0930第6号)によれば、第三者行為事故に該当する場合に年金の支給を停止する期間は、次のように定めることとされている。

① 被保険者等が第三者から受領した損害賠償金の総額から医療費、葬祭料等の実支出額(以下「医療費等実支出額」という。)及び慰謝料の合計額を控除して、生活補償費相当額に対応する損害賠償金(以下「調整対象損害賠償金」という。)を算出する。

② 調整対象損害賠償金を所定の1月当たりの基準生活費で除するなどして、基本となる支給停止月数(以下「基本支給停止月数」という。)を算出する。

③ 基本支給停止月数が36月(第三者行為事故が発生した日が平成27年9月30日以前の場合は24月)以下の場合は、その月数、また、基本支給停止月数が36月(同)を超える場合は、36月(同)をそれぞれ上限として支給停止月数の調整措置を行う。

④ 事故発生の翌月から年金の受給権発生月までの月数を調整措置後の支給停止月数から控除した後の月数を、実際の支給停止月数(以下「支給停止期間」という。)とする。

このように、支給停止期間を定めるためには、損害賠償金の総額及びその内訳(慰謝料等)並びに医療費等実支出額を把握する必要がある。

(3) 第三者行為事故に係る年金の支給と損害賠償との調整に関する事務

日本年金機構(以下「機構」という。)は、日本年金機構法(平成19年法律第109号)、厚生年金保険法等に基づき、厚生労働省の監督の下で、厚生労働省から委任又は委託を受けて、厚生年金保険等の事業に関する事務を行っている。機構は、当該事務の一環として、「第三者行為事故に係る損害賠償と年金との調整に関する事務処理要領」(平成26年要領第156号業務渉外部長決定。以下「事務処理要領」という。)に基づき、第三者行為事故に係る年金の支給と損害賠償との調整に関する事務を行っている。

事務処理要領によれば、当該事務を行うに当たっては、障害厚生年金等の申請を行う受給権者のうち、病死等の明らかに第三者行為による原因ではないものを除く全ての受給権者に対して、年金の申請時に、事故の状況や第三者の関与の有無等を示す第三者行為事故状況届の提出を求め、さらに、当該届書の内容から第三者行為事故の可能性があると機構が判断したものについては、損害賠償金の総額及びその内訳(慰謝料等)が確認できる示談書、和解調書等の損害賠償金の受領状況を示す資料並びに医療費等実支出額の領収証書(以下、これらを合わせて「確認書類」という。)の提出を求めることとされている。

(4) 損害賠償金の受領状況等の確認及び職権による支給停止

上記のとおり、機構は、第三者行為事故の可能性があると判断した受給権者に対して、確認書類の提出を求めることとなっている。

しかし、年金の申請時に、第三者と示談交渉中等のため確認書類の提出ができないことが多く、また、受給権者から確認書類が自主的に提出されることが少ないことから、事務処理要領によれば、確認書類を提出していない受給権者に対して確認書類の提出を勧奨することとされている。

そして、事務処理要領によれば、機構は、確認書類を提出していない受給権者に対して、のとおり、第三者行為事故状況届を受け付けた月からおおむね6か月後に照会文書を送付し、損害賠償金の受領状況等の回答及び確認書類の提出を求めることとされている。そして、当該照会に対して示談交渉中等の理由により損害賠償金を受領していないとの回答があった場合には、その後の経過を把握するために、おおむね1年後に再度照会文書を送付し、文書による回答を求めることとされている。

また、照会文書送付後、5か月を経過しても回答がない場合には、再照会及び督促を実施し、繰り返し文書等により回答を求めることとされている。さらに、督促からおおむね1か月を経過しても受給権者から回答がない場合には、厚生年金保険法等に基づき、厚生労働大臣の認可を得た上で、確認書類の提出を受給権者に命じ(以下「最終督促」という。)、これに応じなかった受給権者については、同法等に基づき、年金の支給停止(以下「職権による支給停止」という。)を行うことができることとされている。

図 損害賠償金の受領状況等の確認に係る受給権者に対する照会等の流れ

図 損害賠償金の受領状況等の確認に係る受給権者に対する照会等の流れ 画像

そして、厚生労働省によると、職権による支給停止は制裁的な性格を有するものであり、前記の36月等を限度とする支給停止期間には職権による支給停止が行われた期間は含まないとしている。

また、損害賠償金を受領したものの、確認書類を破棄してしまったり、機構からの照会に対して回答を敬遠したりする受給権者が多いことなどから、事務処理要領によれば、機構は、受給権者に代わり損害保険会社等から確認書類の提供を受けることに同意する文書(以下「同意書」という。)を受給権者から得た上で、損害保険会社等に対して確認書類の提出を依頼することができることとされている。そして、機構は、第三者行為事故状況届や照会等により損害賠償金を受領していることを確認した受給権者に対し、同意書を送付してその提出を求めている。

(5) 受給権者が損害賠償を受ける前の年金支給

第三者行為事故が発生してから受給権者が損害賠償を受けるまでには相当の期間を要することから、その間に年金が支給されなければ、受給権者は何の生活補償も受けられないことになるとして、機構は、通常、受給権者が損害賠償を受けるのを待たずに先行して年金を支給している。

機構は、受給権者が損害賠償を受けた場合には、既に支給した年金に係る月数を含めて支給停止期間を設定することとなっている。そして、機構は、支給停止期間から既に支給した年金に係る月数を除いた残りの期間について年金の支給停止を行うとともに、既に支給した年金については、厚生年金保険法等に基づき、年金の内払とみなしてその後に支払う年金から差引調整すること(以下「内払調整」という。)などにより返還を求めることとなっている。

(6) 支給停止等が行われるまでに支給された年金の返還請求権の消滅時効

年金の支給停止等が行われるまでに支給された年金については、受給権者が第三者から損害賠償を受けた日から返還請求権が発生し、同日の翌日から5年を経過した場合には、返還請求権について消滅時効が成立することになる。このため、機構は、事務処理要領に基づき、内払調整等により年金の支給と損害賠償との調整を行うことができなくなったものとして処理(以下「不該当処理」という。)することとなっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、有効性等の観点から、第三者行為事故に係る年金の支給と損害賠償との調整に関する事務が適切に実施されているかなどに着眼して、厚生労働本省及び機構本部において、会計実地検査を行った。

検査に当たっては、第三者行為事故を契機として障害厚生年金、遺族厚生年金等を受給している受給権者について、29年度末現在において年金の支給停止等の処理が行われていない事案(以下「未処理事案」という。)のうち、照会後5か月以上経過しても回答がない事案2,655件(受付は15年から29年までの間。これらに係る15年度から30年度(30年6月支給分まで)までの間の調整の対象となる年金支給額計35億5531万余円)及び28、29両年度において不該当処理を行った事案807件(受付は15年から29年までの間。これらに係る15年度から29年度までの間の調整の対象となる年金支給額計11億5031万余円)を対象として、機構本部から調書を徴してその内容を分析するとともに、厚生労働本省及び機構本部において、支給申請書、確認書類等を確認するなどして検査した。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた((1)ア、イ及び(2)の事態には重複しているものがある。)。

(1) 督促等の手続に長期間を要していたり、同意書を取得できていなかったりしていて、損害賠償金の受領状況等を把握できていないため、年金の支給と損害賠償との調整が行われていない事態

ア 督促等の手続に長期間を要しており、損害賠償金の受領状況等を把握できていない事態

967件 調整の対象となる年金支給額計14億0171万余円

前記のとおり、機構は、受給権者における損害賠償金の受領状況等を確認するために、第三者行為事故状況届を受け付けた後、受給権者に対して、照会、再照会及び督促を実施し、さらに、督促後に回答がない場合には、厚生労働大臣の認可を得て、最終督促を実施した上で、職権による支給停止を行うこととなっている。

しかし、事務処理要領において、照会については、第三者行為事故状況届を受け付けた月からおおむね6か月後に行うこととなっているものの、再照会、督促、最終督促及び職権による支給停止については、一定の期間受給権者から回答がない場合等に次の段階の手続をとることなどが定められているだけで、具体的な事務手続は定められていない。

そこで、未処理事案2,655件について、照会、再照会及び督促(損害賠償金の受領状況等について何らかの回答をしたことのある受給権者に対する最後の回答後の照会、再照会及び督促を含む。)の実施状況をみたところ、照会については、第三者行為事故状況届を受け付けた年度の末日から平均5.7か月で実施されていた。他方、再照会については、照会から平均34.7か月、また、督促については、再照会から平均11.4か月、それぞれ経過して実施されており、長期間を要している状況となっていた。また、事務処理要領に定められた照会、再照会及び督促の回答期限等を単純に通算すると、第三者行為事故状況届の受付からおおむね12か月経過した後に督促の実施に至ることになるが、上記のとおり、再照会及び督促に長期間を要しているため、第三者行為事故状況届を受け付けた年度の末日からの経過期間でみても平均58.8か月とこれを大幅に上回っていた。

そして、12か月の2倍となる24か月(2年)以上を経過している967件(調整の対象となる年金支給額計14億0171万余円)について、その事務処理の進行状況をみると、照会を実施しているが、再照会を実施していない事案が9件(967件に対する割合0.9%、同調整の対象となる年金支給額計1902万余円)、再照会を実施しているが、督促を実施していない事案が275件(同28.4%、同3億6581万余円)、督促を実施しているが、実施までに24か月以上経過していた事案が683件(同70.6%、同10億1686万余円)となっていて、事務処理に長期間を要している状況となっていた(表1参照)。

前記のとおり、これらはいずれも未処理となっているものであって、督促を実施した事案についても、最終督促や職権による支給停止は実施されていなかった。また、上記967件の中には、既に支給した年金の返還請求権について消滅時効が成立していると思料される事案が7件(調整の対象となる年金支給額計1646万余円。消滅時効の起算点に関わる損害賠償金を受領した日を口頭により把握しているものを含む。)含まれていた。

このように、長期間を要している理由について、機構は、受給権者から回答が得られている事案を優先的に処理したためであるとしている。

しかし、事務処理に長期間を要していると、受給権者からの協力を得ることが一層難しくなったり、確認書類が散逸したりするおそれがあるほか、確認書類を提出しない受給権者に対する職権による支給停止を行うための要件が満たされないままとなり、第三者行為事故に係る損害について、年金の支給と第三者からの損害賠償との調整を行うことを困難にすることになる。

したがって、再照会、督促等について具体的な事務手続が定められておらず、その実施に長期間を要している事態は、適切とは認められない。

イ 損害賠償金を受領したことは把握できているものの、受給権者から同意書を取得できていないため損害保険会社等に確認書類の提出を求めることができず、損害賠償金の総額やその内訳を把握できていない事態

345件 調整の対象となる年金支給額計4億2202万余円

前記のとおり、機構は、第三者行為事故状況届や照会等により受給権者が損害賠償金を受領したことを確認した後、受給権者から同意書を取得して、損害保険会社等に確認書類の提出を依頼することができることとされている。

そこで、前記の2,655件について、確認書類の提出状況をみると、機構において、損害賠償金を受領したことを把握できている(内訳まで把握できているものを除く。)にもかかわらず、受給権者から同意書の提出を受けていないため、損害保険会社等に対して確認書類の提出を求めることができていない事案が345件(調整の対象となる年金支給額計4億2202万余円)見受けられた(表1参照)。

同意書は、受給権者から十分な回答が得られない場合等において、機構自ら損害保険会社等から確認書類の提供を受けて、損害賠償金の内訳を含む受領状況を把握できる有効な手段である。上記345件のように、損害保険会社等から損害賠償金が支払われている可能性が高いと思料される事案においても、同意書が提出されない場合が多数あること、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づく保険給付については、労働基準監督署において、当該保険給付と損害賠償との調整が必要になる可能性がある場合には、保険給付の支給に先立って、申請者から、保険者が損害保険会社等に対して保険金の支払状況等の照会を行うことに同意する文書の提出を受けることを要件としていることを踏まえると、年金の支給と第三者からの損害賠償との調整を適切に実施するために、機構においても、年金の支給に先立って受給権者から必ず同意書の提出を受けるようにすることなどを検討する必要があると認められる。

表1 督促等の手続に長期間を要していたり、同意書を取得できていなかったりしていて、損害賠償金の受領状況等を把握できていないため、年金の支給と損害賠償との調整が行われていない事態

区分
受付年度
督促等の手続に長期間を要しており、損害賠償等の受領状況等を把握できていない事案 損害賠償を受領したことは把握できているものの、受給権者から同意書を取得できていないため、損害保険会社等に確認書類の提出を求めることができず、損害賠償の総額やその内訳を把握できていない事案
第三者行為事故状況届を受け付けた年度末後2年以上経過しているのに、照会は実施しているが、再照会を実施していない事案 第三者行為事故状況届を受け付けた年度末後2年以上経過しているのに、再照会は実施しているが、督促を実施していない事案 督促を実施しているが、実施までに2年以上経過していた事案
件数
(件)
調整の対象となる年金の支給年度 調整の対象となる年金支給額
(円)
件数
(件)
調整の対象となる年金の支給年度 調整の対象となる年金支給額
(円)
件数
(件)
調整の対象となる年金の支給年度 調整の対象となる年金支給額
(円)
件数
(件)
調整の対象となる年金の支給年度 調整の対象となる年金支給額
(円)
平成15年度 1 15 612,798 2 15、16 1,166,848 2 15、16 1,166,848
16年度 1 16~18 2,702,520 16 16~20 20,886,459 7 16~18 15,143,505
17年度 1 18 49,666 5 17~19 7,387,703 18 17~19 27,544,581 9 17~19 9,531,186
18年度 5 18~20 5,948,436 44 18~20 65,348,798 9 18~20 8,910,884
19年度 1 19~21 2,495,795 11 19~21 12,580,997 69 19~22 104,437,844 12 19~21 11,324,482
20年度 2 20 4,770,609 11 20~22 11,170,625 88 20~23 138,436,509 19 20~22 28,303,637
21年度 13 21~23 25,931,145 127 20~23 211,310,402 24 20~23 38,003,124
22年度 8 22~24 8,684,634 170 21~25、28 239,752,629 26 22~24、28 34,294,563
23年度 1 24、25 3,653,895 28 23~26 43,954,084 138 23~25 190,724,598 25 23~25 38,452,297
24年度 3 24~27 5,960,495 54 20、24~27 62,688,912 8 24~27 9,474,313 37 20、24~26 39,399,014
25年度 1 25、26 2,098,114 134 25~27 180,939,166 3 25~27 7,785,663 20 25~27 31,855,332
26年度 4 26~28 3,213,575 66 25~28 71,153,571
27年度 58 21~23、27~30 68,197,947
28年度 23 28~30 24,112,805
29年度 8 29 2,172,399
9 19,028,574 275 365,814,595 683 1,016,868,644 345 422,021,594
合計 967件 1,401,711,813円  

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

機構は、平成21年10月に第三者の運転する自動車によって発生した交通事故により生じた死亡に関して、同年12月に、当該死亡した者の配偶者である受給権者Aから第三者行為事故状況届の提出を受けて、22年1月から遺族年金を支給している。機構は、Aから確認書類が提出されないことから、第三者行為事故状況届の提出から15か月以上経過した23年3月に、照会を実施し、同年6月にAから示談交渉中であるとの書面による回答を得た。その後、24年7月にAから、電話により示談が成立したこと及び損害賠償金を受領したことの報告を受けたことから、同月に改めて照会を実施するとともに、同意書の提出を求めたが、書面による回答は得られず、同意書も取得することができなかった。機構は、その後43か月以上経過した28年3月に再照会を実施するとともに、同意書の提出を求めたが、Aから回答を得られず、同意書も取得することができなかったことから、同年9月に督促を実施するとともに、同意書の提出を求めたが、Aから回答を得られず、同意書も取得することができなかった。このため、29年度末現在において、機構は、Aについて、損害賠償金の総額やその内訳を全く把握できておらず、事故発生の翌月から支給停止期間の上限である24月の間に支給した年金計3,052,237円について、第三者からの損害賠償との調整を行うことができない状況となっていた。

なお、Aの口頭報告のとおり、24年7月までに損害賠償金を受領していたとすると、29年度末時点において、受領日の翌日から5年以上経過しており、既に支給した年金の返還請求権について消滅時効が成立していると思料される。

(2) 損害賠償金の受領状況は把握できているものの、医療費等実支出額を把握できていないため、年金の支給と損害賠償との調整が行われていない事態

176件 調整の対象となる年金支給額計2億9525万余円

前記のとおり、機構は、支給停止期間を定めるためには、損害賠償金の総額及びその内訳並びに医療費等実支出額を把握する必要があるが、このうち医療費等実支出額は、受給権者から報告を受けない限り把握することができないことから、損害賠償金の受領状況が把握できているにもかかわらず、医療費等実支出額について受給権者から回答がない場合には、支給停止期間を定めることができず、年金の支給と第三者からの損害賠償との調整を行うことができない。そして、支給停止期間を定めることができないまま、既に支給した年金について消滅時効が成立すると、内払調整等を行うことができなくなる。

そこで、前記の2,655件について、年金の支給と第三者からの損害賠償との調整状況をみると、機構が照会や同意書等に基づいて損害賠償金の総額及びその内訳を把握できているものの、医療費等実支出額について受給権者から回答がないため、支給停止期間を定めることができていない未処理事案が50件(調整の対象となる年金支給額計6308万余円)見受けられた。また、前記の不該当処理が行われた事案807件(全て第三者行為事故が発生した日が27年9月30日以前。調整の対象となる年金支給額計11億5031万余円)について、年金の支給と第三者からの損害賠償との調整状況をみると、上記の50件と同様に、医療費等実支出額について受給権者から回答がないため、年金の支給停止期間を定めることができなかった事案が126件(調整の対象となる年金支給額計2億3216万余円)見受けられた(表2参照)。

しかし、第三者行為事故に係る損害は、本来、第三者が賠償すべきものであることから、年金の支給と第三者からの損害賠償との調整を行うために、損害賠償金の受領が明らかになっているにもかかわらず、医療費等実支出額について受給権者が回答しない場合には、一旦医療費等実支出額がないものとして支給停止期間を設定して、年金の支給と第三者からの損害賠償との調整を行うなどの手続を整備することを検討する必要があると認められる。

表2 損害賠償金の受領状況は把握できているものの、医療費等実支出額を把握できていないため、年金の支給と損害賠償との調整が行われていない事態

受付年度 未処理事案 受付年度 不該当処理が行われた事案
件数
(件)
調整の対象となる年金の支給年度 調整の対象となる年金支給額
(円)
件数
(件)
調整の対象となる年金の支給年度 調整の対象となる年金支給額
(円)
平成18年度 平成18年度 1 18 495,798
19年度 1 19 396,048 19年度 5 19~21 9,464,232
20年度 1 20 495,048 20年度 16 20~22 23,975,370
21年度 2 21~24 6,919,095 21年度 25 21~23 46,069,684
22年度 3 22~24 4,028,275 22年度 42 22~24 87,047,450
23年度 13 23~25 16,283,046 23年度 26 23~25 51,010,164
24年度 7 24~26 12,652,811 24年度 7 24~26 6,897,695
25年度 2 25 3,436,278 25年度 4 19~21、25 7,209,178
26年度 3 26、27 1,497,518 26年度
27年度 8 27~29 8,133,512 27年度
28年度 6 28~30 6,522,873 28年度
29年度 4 29、30 2,716,377 29年度
50 63,080,881 126 232,169,571

(是正及び是正改善並びに改善を必要とする事態)

機構において、督促等の手続に長期間を要しており、損害賠償金の受領状況等を把握できていないため、年金の支給と損害賠償との調整が行われていない事態は適切でなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。また、受給権者から同意書を取得できていないため、損害保険会社等に確認書類の提出を求めることができず、損害賠償金の総額やその内訳を把握できていなかったり、損害賠償金の受領状況は把握できているものの、医療費等実支出額を把握できていなかったりしているため、年金の支給と第三者からの損害賠償との調整を行うことができていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

  • ア 機構において、再照会、督促、最終督促及び職権による支給停止について具体的な手続を事務処理要領に定めていないこと
  • イ 機構において、受給権者から同意書を第三者行為事故状況届と併せて提出させるなど、年金の支給開始前に同意書を取得する手続について検討していなかったこと
  • ウ 機構において、損害賠償金の受領が明らかになっているにもかかわらず、医療費等実支出額について受給権者が回答しない場合には、一旦医療費等実支出額がないものとして支給停止期間を設定して、年金の支給と第三者からの損害賠償との調整を行うなどの手続を整備することを検討していなかったこと
  • エ 厚生労働省において、第三者行為事故に係る年金の支給停止等に関する事務が適切に実施されるようにするための、機構に対する指導監督が十分でないこと

3 本院が要求する是正の処置及び求める是正改善の処置並びに表示する意見及び要求する改善の処置

第三者行為事故について、受給権者が年金の支給と第三者からの損害賠償とを重複して受けることにならないように、機構は、第三者行為事故に係る年金の支給と損害賠償との調整に係る事務処理を適切に実施する必要がある。

ついては、第三者行為事故に係る損害について、督促等の手続に長期間を要している事案について、速やかに次の段階の手続をとるよう是正の処置を要求するとともに、年金の支給と第三者からの損害賠償との調整が適切に行われるよう、次のとおり是正改善の処置を求め並びに意見を表示し及び改善の処置を要求する。

  • ア 機構において、再照会、督促、最終督促及び職権による支給停止について具体的な手続を事務処理要領に定めるとともに、当該事務処理要領に基づき、再照会等を適切に行うよう担当部局に周知徹底すること(会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求めるもの)
  • イ 機構において、受給権者から同意書を第三者行為事故状況届と併せて提出させるなど、年金の支給開始前に同意書を取得する手続を整備することなどについて検討すること(同法第36条の規定により意見を表示するもの)
  • ウ 機構において、損害賠償金の受領が明らかになっているにもかかわらず、医療費等実支出額について受給権者が回答しない場合には、一旦医療費等実支出額がないものとして支給停止期間を設定して、年金の支給と第三者からの損害賠償との調整を行うなどの手続を整備することについて検討すること(同法第36条の規定により意見を表示するもの)
  • エ 厚生労働省において、機構における第三者行為事故に係る年金の支給停止等の事務が適切に実施されるよう、アからウまでについて、機構に対して必要な指導監督を行うこと(同法第36条の規定により改善の処置を要求するもの)