【是正改善の処置を求め及び改善の処置を要求したものの全文】
データ入力等の請負等業務における監督、検収等について
(平成30年10月22日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、及び同法第36条の規定により改善の処置を要求する。
記
貴省は、契約の事務を会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号。以下「予決令」という。)等に基づいて実施している。貴省本省が、国の事務、事業等に係る役務について、業者に請け負わせ、又は委託する契約(以下「請負契約等」という。)により実施しようとする場合、①それぞれの業務を所掌している部局等(以下「事業実施部局」という。)の担当者は、業務の具体的な内容、履行期限等を明記した仕様書等を含む役務を調達するための要求書を作成して、大臣官房会計課経理室(一般会計予算による契約であって、会計課長が支出負担行為担当官となる場合。以下「契約実施部局」という。)に送付し、②契約実施部局は、提出された仕様書の内容を基に仕様を決定するとともに、予定価格を算定して入札を実施するなどした上で、請負人、契約額等を決定して、支出負担行為担当官が契約を締結することとしている。
会計法によれば、支出負担行為担当官は、工事又は製造その他についての請負契約を締結した場合、自ら又は補助者に命じて、契約の適正な履行を確保するために必要な監督をしなければならないこととされている(以下、支出負担行為担当官から監督を命ぜられた職員を「監督職員」という。)。また、請負契約又は物件の買入れその他の契約について、自ら又は補助者に命じて、給付の完了の確認をするために必要な検査(以下「検収」という。)をしなければならないこととされている(以下、支出負担行為担当官から検収を命ぜられた職員を「検査職員」という。)。そして、貴省は、支出負担行為担当官の補助者として、契約ごとに当該契約に係る事業実施部局の職員を監督職員又は検査職員に任命している。
予決令及び契約事務取扱規則(昭和37年大蔵省令第52号)によれば、支出負担行為担当官又は監督職員は、必要があるときは、請負契約の履行について、立会い、工程の管理等の方法により監督をし、契約の相手方に必要な指示をすることとされている。また、支出負担行為担当官又は検査職員は、請負契約等の給付の完了の確認につき、契約書、仕様書及び設計書その他の関係書類に基づき、かつ、必要に応じて当該契約に係る監督職員の立会いを求め、当該給付の内容について検収を行わなければならないこととされている。
そして、支出負担行為担当官又は検査職員は、検収を行った場合には、契約金額が200万円を超えない契約に係るものである場合等を除き、検査調書を作成しなければならないとされている。また、検査調書を作成しなければならない場合、当該検査調書に基づかなければ支払をすることができないとされている。
「公共調達の適正化について」(平成18年財計第2017号)によれば、再委託の適正化を図るために、随意契約により、試験、研究、調査、システム開発等を委託(予定価格が100万円を超えないものを除く。)する場合には、一括再委託の禁止、再委託の承認、履行体制の把握及び報告徴収の取扱いにより、適正な履行を確保しなければならないとされている。また、競争入札による委託契約についても、契約の相手方が再委託を行う場合には承認を必要とするなどの措置を定めて、その適正な履行を確保することとされている。
貴省は、総務大臣から「契約の適正な執行に関する行政評価・監視の結果(勧告)」(平成20年総評評第157号)により勧告を受けて、「再委託の適正化を図るための措置について」(平成21年厚生労働省大臣官房会計課長通知)を発して、「再委託の取扱い」「再委託の承認に係る手続等」「履行体制の把握及び報告徴収」等についての取扱いを示して、これらを確実に実施するために契約書、仕様書等に上記の再委託の適正化を図るための取扱いを記載することとしている。また、再委託の承認に係る手続として、契約相手方から再委託の必要性、再委託の内容等を記載した「再委託に係る承認申請書」を支出負担行為担当官に提出させて、支出負担行為担当官は、再委託を行う合理的な理由、再委託の相手方が再委託される業務を履行する能力等を審査し、その結果を契約相手方に通知することとなっている。
そして、貴省は、これらの再委託に係る取扱いについて、請負契約で実施する場合の下請についても同様の取扱いをしている。
貴省は、仕様書等において、契約締結日以降、作業のために貴省が請負人又は受託者(以下「請負人等」という。)に開示する一切の情報(公に入手できるものなどを除く。)を機密情報とするとともに、請負人等に対して、①機密情報を機密にしておくために合理的な安全保障の予防措置を執ること、②機密情報の引渡し及び受領については、日時、種類、受取人等を記録すること、③機密情報の複写は、事前に書面にて事業実施部局の許可を得た場合を除き禁止することなどとして規制するなどしている。
また、請負人等が当該契約において知り得たセキュリティ、個人に関する情報その他の業務上の秘密に関して、これを第三者に漏らし、又は他の目的に使用してはならないなどとしている。
日本年金機構(以下「機構」という。)は、平成30年3月以降、機構が29年度に株式会社SAY企画(以下「SAY企画」という。)と締結した扶養親族等申告書等の入力業務に係る委託契約において、SAY企画が契約条項に違反して海外の業者に再委託をして入力作業を行わせたり、機構が検収を適切に行わなかったりしたことなどにより、データの入力漏れや入力誤りがあったため、30年2月の年金支給時に正しい源泉徴収額を反映させることができず、約10万人の受給者の年金約20億円が過少支給となったことを公表している。そして、機構は、業務委託における事務処理の在り方等を検討するなどするために調査委員会を設置して、同年6月に同委員会の報告書を公表している。
上記の事案を受けて、貴省は、25年度から29年度までに貴省本省においてSAY企画と締結したデータ入力業務等の請負契約等73件(契約金額計7億5833万余円)の履行状況等について調査を実施して、30年7月に調査結果を公表している。貴省は、調査の結果、上記73件のうち27、28両年度の社会・援護局の所掌に係る戦没者等援護関係資料の電子化業務に関連した請負契約において、履行期限の時点で業務が完了していなかったにもかかわらず、完了したとする事実と異なる検査調書を作成してSAY企画に代金を支払っていたこと、貴省職員が契約を締結した年度を超えて納品することを認容する趣旨の発言をしていたことなどが判明したとして、今後とも事実関係等の確認を進めるとともに、組織的な業務実施の徹底、契約の進捗管理の仕組みの構築等により、再発防止、経理事務の適正化等を図る旨を明らかにしている。そして、再発防止策として、契約については、会計課等から各部局に対して、定期的に契約の進捗状況を確認し、注意喚起を行う仕組みを検討すること、検収の際にダブルチェックを徹底すること、援護関係資料の電子化業務については、事業実施部局が行う事務の標準手順書を整備するとともに、早期に発注することなどとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性等の観点から、貴省本省が締結したデータ入力業務等の請負契約等について、会計事務は会計法令等に従って適正に行われているか、契約は契約書、仕様書等どおりに適切に履行されているか、貴省が実施することとしている再発防止策は十分なものとなっているかなどに着眼して、貴省本省及び契約相手方のうちSAY企画等5会社において会計実地検査を行った。
検査に当たっては、25年度から29年度までの間に貴省本省がSAY企画と締結した請負契約等73件、支払額計7億5833万余円及びSAY企画以外の6会社と締結した契約であって前記の貴省が公表した不適正な事態に係る契約と共通性のあるデータ入力等の請負契約等21件、支払額計2億2710万余円を対象として、契約書、請求書、検査調書等を精査するとともに、関係者から契約の履行状況等についての説明を聴取するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のとおり、前記の貴省が公表した不適正な事態に係る契約とは別の契約においても同様の事態が見受けられたり、また、調査の対象とした契約において、新たな適切とは認められない事態が見受けられたりした。
5件 支払額計1685万余円
貴省が、25、27、28、29各年度に、雇用均等・児童家庭局(29年7月11日以降は子ども家庭局)及び社会・援護局の所掌に係る業務についてSAY企画等4会社と請負契約を締結した5契約(支払額計1685万余円)の履行期限は、契約書において各年度末の3月31日等となっていた。そして、貴省は、検査職員等が作成した検査調書等に基づいて、いずれの契約についても、履行期限までに業務が適正に完了したとして、契約代金全額を支払っていた。
しかし、表1のとおり、実際には、いずれの契約においても履行期限までに業務が完了していなかったにもかかわらず、検査職員等(4名)は契約の内容に適合する給付が完了したことを確認したとする事実と異なる検査調書等を作成するなどしており、貴省は、これらの検査調書等に基づき契約代金全額を支払っていた。
表1 履行期限までに業務が完了していなかったにもかかわらず、事実と異なる検査調書等を作成するなどし、これらに基づき代金を支払っていた契約一覧
年度 | 契約件名 | 契約相手方 | 契約日 | 履行期間 | 支払額 | 支払日 | 実際の履行完了日 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
始期~終期 | |||||||
平成 27 |
平成27年地域児童福祉事業等調査データ作成及び集計等業務 | 株式会社SAY企画 | 28.2.5 | 28.2.5~28.3.31 (56日間) |
千円 2,359 |
28.4.18 | 28.6.14 注(1) |
25 | 平成25年度画像情報検索システムのデータ登録及び機能改修等業務 | クボタシステム開発株式会社 | 25.9.17 | 25.9.17~26.3.31 (196日間) |
8,694 | 26.4.18 | 26.4.11 |
27 | 平成27年度乳幼児栄養調査調査票のデータ作成及び集計表の作成業務一式 | 東水戸データーサービス株式会社 | 27.12.8 | 27.12.8~28.3.31 (115日間) |
988 | 28.4.18 | 28.6.21 注(1) |
28 | 中国残留邦人等の証言映像収集・公開事業に係る映像資料制作業務一式 | 株式会社アエラス | 28.12.14 | 28.12.14~29.3.31 (108日間) |
2,138 | 29.4.21 | 29.9.5 注(1) |
29 | 平成29年度中国残留邦人等の証言映像収集・公開事業に係る映像資料制作一式 | 株式会社アエラス | 29.10.19 | 29.10.19~30.1.31 (105日間) |
2,678 | 30.4.23 | 30.6.14 注(1) |
計 | 16,859 | \ |
また、これら5契約については、いずれも契約締結日が9月以降となっており、中には年度末の2月になって契約を締結したものがあるなど、事業実施部局において、仕様書等を含む役務を調達するための要求書の作成に当たって契約の適正な履行を確保する上で履行期間等が十分なものとなっているかを十分に検討する必要があったと認められる。さらに、当該履行期間を前提とするのであれば、履行期限までに履行を完了するために請負人において十分な実施体制等を有している必要があるが、事業実施部局は、請負人から実施体制等に係る書面を提出させるなどするにとどまっており、実施体制等の確認を十分に行っていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
貴省は、平成27年度に雇用均等・児童家庭局の所掌に係る「平成27年地域児童福祉事業等調査データ作成及び集計等業務」をSAY企画に請け負わせて実施している。この業務は、保育所を利用している世帯や認可外保育施設等から徴した「地域児童福祉事業等調査票」計30,760枚に記載されている事項12,349,570タッチ(入力数)を入力するものであり、契約締結日は28年2月5日、履行期限は同年3月31日、履行期間は56日間となっていた。そして、貴省は、同局所属の検査職員が作成した検査調書に基づき、業務が履行期限までに適正に完了したとして、同年4月18日に代金2,359,800円を支払っていた。
しかし、SAY企画に対する上記調査票の一部の引渡しが遅れたことなどから、履行期限までに業務が完了していなかったにもかかわらず、上記の検査職員は、履行期限までに契約のとおり履行されたことを確認したとする事実と異なる検査調書を作成していた。
そして、本件業務の成果物が実際に納入されて業務が完了した時点を示す資料は確認できなかったが、SAY企画において会計年度を超えて少なくとも同年6月14日までは業務が実施されており、業務完了日は同日以降となっていた。
4件 支払額計2億2007万余円
前記のとおり、貴省は、請負人等が下請等をさせる場合、あらかじめ承認申請書を提出させて、これを審査の上、請負人等に対して、承認する旨又は承認しない旨を通知することとしており、当該手続を契約書、仕様書等に明記している。
しかし、貴省が大臣官房統計情報部(28年6月21日から30年7月30日までは政策統括官(統計・情報政策担当)、同月31日以降は政策統括官(統計・情報政策・政策評価担当))及び社会・援護局の所掌に係る業務についてSAY企画と請負契約を締結した4契約(支払額計2億2007万余円)について、SAY企画における関係資料を確認したところ、下請の承認の手続がとられていないのに、データ入力等の業務の一部を、表2のとおり、中華人民共和国に所在する2業者、ベトナム社会主義共和国に所在する1業者及び我が国に所在する1業者に下請けさせており、当該業者が入力したデータをSAY企画に納入させるなどしていた。
上記の事態は、前記の貴省が監督及び検収を実効性のあるものにするために契約において付した条件に違反するものであって、契約の適正な履行の確保等の観点から適切ではない。また、前記の4契約については、いずれも仕様書等において機密保持の条項が定められており、機密保持の観点からも適切ではない。
前記の4契約については、いずれも仕様書等において、貴省は請負人の事業所に赴いて履行体制及び履行状況を確認する立入調査ができるとしている。しかし、前記4契約のうち3契約については、監督職員等は立入調査を行っておらず、契約の内容に従った履行が行われているか十分に把握していなかった。
表2 承認の手続をとることなく業務の一部を下請けさせていた契約一覧
年度 | 契約件名 | 契約日 | 支払額 | 支払日 | 下請先 | 請負人に対する立入調査の実施 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
海外 | 国内 | ||||||
平成
25 |
戦没者等援護関係資料の電子化業務(25年度) | 25.6.10 | 千円 105,658 |
26.4.15 | 〇 | 〇 | × |
26 | 戦没者等援護関係資料の電子化業務(26年度) | 26.7.1 | 84,951 | 27.4.24 | 〇 | × | |
26 | 戦没者等援護関係資料の電子化業務(26年度追加) | 27.2.6 | 20,502 | 27.4.24 | 〇 | × | |
27 | 平成27年賃金構造基本統計調査調査票入力業務の請負 | 27.7.14 | 8,964 | 27.11.19 | 〇 | 〇 | |
計 | 220,076 | \ |
(是正改善及び改善を必要とする事態)
業務が完了していないのに事実と異なる検査調書を作成するなどして代金を支払っている事態、請負人が貴省の承認の手続をとることなく業務の一部を下請けさせている事態及び契約の適正な履行を確保するための監督が十分に行われていない事態は適切ではなく、是正改善及び改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、契約内容を遵守することについての請負人の認識が欠けていることにもよるが、次のようなことなどによると認められる。
貴省は、業務の効率的な処理のために、今後もデータ入力等について業者に請け負わせ、又は委託することが見込まれる。
ついては、貴省において、会計法令等に従った適正な契約事務が実施され、契約の適正な履行等が確保されるよう、貴省が公表した再発防止策を適切に実行することに加えて、次のとおり是正改善の処置を求め及び改善の処置を要求する。