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  • 平成29年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 厚生労働省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(4) 労災診療費の算定における労災治療計画加算について、指定医療機関等では入院診療計画書をもって労災治療計画書に代えていたり、労災治療計画書の書式と入院診療計画書の書式とで多くの記載項目が同一であったりするなどの労災治療計画書の作成の実態等を踏まえて、労災治療計画加算を設けた趣旨をいかした運用が可能であるか改めて検討し、その結果を踏まえて廃止を含めた抜本的な見直しを行うよう意見を表示したもの


会計名及び科目
労働保険特別会計(労災勘定) (項)保険給付費
部局等
厚生労働本省(支出庁)
47労働局(審査庁)
労災治療計画加算の概要
傷病労働者の入院の際に医師、看護師等が共同して総合的な治療計画を策定し、医師が労災治療計画書等を同人に交付して説明を行った場合に入院基本料等に加算するもの
入院診療計画書をもって労災治療計画書に代えていたり、労災治療計画書の書式と入院診療計画書の書式とで多くの記載項目が同一であったりするなどしていた労災治療計画加算に係る労災診療費の支払額
76,714件 8957万円(平成28年度)

(「労働者災害補償保険の療養の給付に要する診療費の支払が過大となっていたもの」参照)

【意見を表示したものの全文】

労災診療費の算定における労災治療計画加算について

(平成30年9月27日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 制度の概要

(1) 労災診療費の概要

貴省は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づき、業務上の事由又は通勤により負傷し又は疾病にかかった労働者(以下「傷病労働者」という。)に対して療養の給付を行っている。

この療養の給付は、傷病労働者の請求により、都道府県労働局長の指定する医療機関又は労災病院等(以下、これらを合わせて「指定医療機関等」という。)において、診察、処置、手術等(以下「診療」という。)を行うものである。そして、診療を行った指定医療機関等は、都道府県労働局(以下「労働局」という。)に対して診療に要した費用(以下「労災診療費」という。)を請求することとなっており、労働局が請求内容を審査した上で支払額を決定して、これにより、貴省本省が労災診療費を支払うこととなっている。

労災診療費は、「労災診療費算定基準について」(昭和51年基発第72号。以下「算定基準」という。)等に基づき算定することとなっている。算定基準によれば、労災診療費は、①原則として、健康保険法(大正11年法律第70号)等に基づく保険診療に要する費用の額の算定に用いる「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号)の別表第一医科診療報酬点数表(以下「健保点数表」という。)等により算定した診療報酬点数に12円(法人税等が非課税となっている公立病院等については11円50銭)を乗じて算定すること、②初診料、入院基本料、手術料等の特定の診療項目については、健保点数表の所定の点数とは異なる点数、金額、算定項目等を別に定めて、これにより算定することとされている。

(2) 健保点数表における入院診療計画書等

 「基本診療料の施設基準等」(平成20年厚生労働省告示第62号)及び「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(平成28年保医発0304第1号。以下「施設基準等通知」という。)によれば、保険医療機関において、患者の入院の際に、医師、看護師その他必要に応じて関係職種が共同して総合的な診療計画(以下「入院診療計画」という。)を策定し、患者等に対して、文書により病名、症状、治療計画、検査内容及び日程、手術内容及び日程、推定される入院期間等について、入院後7日以内に説明を行うことなどとされている(以下、当該文書を「入院診療計画書」という。)。

そして、健保点数表等によれば、入院診療計画が策定され、原則として患者等に上記の説明が行われている場合に限り、入院している患者について、入院基本料又は特定入院料(以下「入院基本料等」という。)として、1日につき所定の点数を算定することとされている。

(3) 労災診療費の算定における労災治療計画加算

労災診療費の算定においては、上記の入院基本料等に加えて、算定基準等により、傷病労働者をできる限り早く治癒に導き、社会復帰をさせる必要があるため、これに適した治療計画を策定する必要があることを考慮して、労災診療費独自の算定項目として、労災治療計画加算が定められている。

 「労災診療費算定マニュアル」(平成28年厚生労働省労働基準局補償課作成。以下「算定マニュアル」という。)等によれば、労災治療計画加算については、指定医療機関等において、傷病労働者の入院の際に、医師、看護師その他関係職種が共同して総合的な治療計画を策定し、医師が労災治療計画書又はこれに準ずる文書を傷病労働者に交付して、傷病名及び傷病の部位、症状、治療計画、検査内容及び日程、手術内容及び日程、推定される入院期間、入院中の注意事項、退院時において見込まれる回復の程度等について、入院後7日以内に説明を行った場合、1回の入院につき1回限り100点を入院基本料等に加算できることとされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、経済性、有効性等の観点から、労災治療計画加算は指定医療機関等における労災治療計画書の作成の実態等に照らして適切なものとなっているかなどに着眼して、平成28年度に全国47労働局の審査に基づいて支払われた労災治療計画加算に係る労災診療費のうち病床数20床以上の指定医療機関等に係るもの76,714件(労災治療計画加算に係る労災診療費の支払額8957万余円)を対象として、47労働局のうち20労働局(注)において、診療費請求内訳書等の書類により会計実地検査を行った。また、残りの27労働局についても、調書等の提出を受けるなどして検査した。

(注)
20労働局  北海道、秋田、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、山梨、愛知、滋賀、京都、大阪、兵庫、鳥取、山口、香川、愛媛、高知、福岡、沖縄各労働局

(検査の結果)

検査したところ、全47労働局において、次のような事態が見受けられた。

(1) 労災治療計画書の作成状況

労災治療計画加算に係る労災診療費を算定していた前記の76,714件について、労災治療計画書の作成状況をみると、指定医療機関等が算定基準等に定められた労災治療計画書を作成していたのは全体の3.2%に当たる2,518件(労災治療計画加算に係る労災診療費の支払額297万余円)にすぎず、全体の96.2%に当たる73,818件(同8616万余円)については、健保点数表等に基づいて作成した入院診療計画書をもって労災治療計画書に代えていた。このように、実際には、大多数の指定医療機関等では改めて労災治療計画書を作成せず、健康保険法等に基づく保険診療と労災診療とで特段異なった取扱いをしていなかった。また、残りの378件(同43万余円)については、労災治療計画書及び入院診療計画書のいずれも作成していなかった(表参照)。

(2) 労災治療計画書の記載項目及び記載状況

算定マニュアルに定められた労災治療計画書の書式と施設基準等通知に定められた入院診療計画書の書式とを比較すると、いずれの書式においても、病名、症状、治療計画、検査内容及び日程、手術内容及び日程、推定される入院期間等が記載項目となっており、労災治療計画書の記載項目と入院診療計画書の記載項目の多くは同一であった。

また、労災治療計画書には、上記記載項目のほかに独自の記載項目として、「傷病部位」「入院中の注意事項」及び「退院時において回復が見込まれる程度」があるが、このうち「傷病部位」については、通常、医学的所見を記載する文書においては、傷病部位は傷病名と合わせて記述されることから、実質的には労災治療計画書独自の項目とはなっていないと認められた。現に、検査した労災治療計画書においても、内科疾患、精神疾患等の傷病部位を特定できない傷病労働者以外の傷病労働者に係る傷病名欄には、傷病部位を冠した傷病名が記載されていた。

また、「入院中の注意事項」及び「退院時において回復が見込まれる程度」の両項目の記載状況をみると、指定医療機関等が労災治療計画書を作成していた前記の2,518件中850件(33.7%)においては、いずれの項目についても記載がなかった。そして、残りの1,668件においては、いずれかの項目について何らかの記載があったものの、その記載内容は、いずれも、「特になし」「不明」等の実質的な内容が乏しいものであったり、「安静」「禁煙」等の労災診療に限らず入院中の患者が通常指示されるようなものであったりしていた。

このように、労災治療計画書を作成している場合であっても、書式上、その多くの記載項目が入院診療計画書の記載項目と同一であり、また、労災治療計画書独自の記載項目についても、実際には記載がなかったり、労災診療に限らず入院中の患者が通常指示されるような内容の記載であったりするなどしていた(表参照)。

表 労災治療計画書の作成状況

(単位:件、円)
労働局名 算定基準等に定められた労災治療計画書を作成していたもの 入院診療計画書をもって労災治療計画書に代えていたもの 労災治療計画書及び入院診療計画書のいずれも作成していなかったもの
労災診療特有の内容の記載があったもの 労災診療特有の内容の記載がなかったもの
件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額 件数 支払額
北海道 0 0 216 253,700 4,952 5,810,800 14 16,250 5,182 6,080,750
青森 0 0 23 27,600 568 657,100 0 0 591 684,700
岩手 0 0 79 94,050 860 993,550 4 4,600 943 1,092,200
宮城 0 0 21 24,800 1,104 1,282,800 4 4,650 1,129 1,312,250
秋田 0 0 14 16,150 590 678,850 2 2,300 606 697,300
山形 0 0 17 19,800 646 744,300 5 5,750 668 769,850
福島 0 0 90 103,850 818 946,750 3 3,500 911 1,054,100
茨城 0 0 32 38,350 1,209 1,416,200 14 16,650 1,255 1,471,200
栃木 0 0 102 119,050 856 998,750 6 7,000 964 1,124,800
群馬 0 0 51 59,350 1,315 1,538,250 11 12,650 1,377 1,610,250
埼玉 0 0 270 322,600 3,102 3,651,850 31 36,200 3,403 4,010,650
千葉 0 0 61 70,750 2,947 3,464,150 44 50,850 3,052 3,585,750
東京 0 0 133 159,550 4,411 5,167,500 26 30,250 4,570 5,357,300
神奈川 0 0 47 56,400 3,510 4,106,350 28 32,500 3,585 4,195,250
新潟 0 0 170 198,900 1,589 1,855,050 4 4,700 1,763 2,058,650
富山 0 0 8 9,600 924 1,068,150 5 5,750 937 1,083,500
石川 0 0 29 33,350 607 707,150 0 0 636 740,500
福井 0 0 35 41,150 459 535,200 0 0 494 576,350
山梨 0 0 4 4,800 323 373,950 1 1,200 328 379,950
長野 0 0 22 25,300 1,273 1,467,900 5 5,750 1,300 1,498,950
岐阜 0 0 41 47,600 842 974,950 3 3,450 886 1,026,000
静岡 0 0 3 3,450 2,203 2,551,850 5 5,750 2,211 2,561,050
愛知 0 0 74 88,800 4,055 4,701,450 37 42,850 4,166 4,833,100
三重 0 0 5 6,000 1,076 1,244,800 8 9,200 1,089 1,260,000
滋賀 0 0 23 26,550 693 802,550 5 5,800 721 834,900
京都 0 0 9 10,800 1,819 2,138,950 3 3,550 1,831 2,153,300
大阪 0 0 51 60,500 5,649 6,613,000 15 17,400 5,715 6,690,900
兵庫 0 0 5 6,000 3,971 4,640,300 23 26,850 3,999 4,673,150
奈良 0 0 1 1,200 1,061 1,242,850 4 4,650 1,066 1,248,700
和歌山 0 0 19 22,600 699 812,050 4 4,600 722 839,250
鳥取 0 0 10 12,000 437 507,900 0 0 447 519,900
島根 0 0 12 14,250 286 331,000 1 1,200 299 346,450
岡山 0 0 28 33,600 1,723 1,999,850 5 5,900 1,756 2,039,350
広島 0 0 15 18,000 2,362 2,770,450 17 19,600 2,394 2,808,050
山口 0 0 1 1,200 1,080 1,250,400 5 5,750 1,086 1,257,350
徳島 0 0 15 18,000 664 774,650 5 5,800 684 798,450
香川 0 0 44 52,800 770 893,200 2 2,350 816 948,350
愛媛 0 0 45 53,300 1,240 1,446,700 5 5,750 1,290 1,505,750
高知 0 0 98 117,350 568 661,500 1 1,150 667 780,000
福岡 0 0 112 134,350 3,418 4,015,400 13 15,300 3,543 4,165,050
佐賀 0 0 19 22,800 808 946,200 2 2,300 829 971,300
長崎 0 0 113 135,500 1,104 1,283,300 1 1,200 1,218 1,420,000
熊本 0 0 165 190,100 1,439 1,682,100 2 2,300 1,606 1,874,500
大分 0 0 21 25,200 1,102 1,286,850 0 0 1,123 1,312,050
宮崎 0 0 50 60,000 972 1,131,250 5 5,800 1,027 1,197,050
鹿児島 0 0 111 131,550 1,134 1,316,800 0 0 1,245 1,448,350
沖縄 0 0 4 4,800 580 675,700 0 0 584 680,500
0 0 2,518 2,977,400 73,818 86,160,600 378 439,050 76,714 89,577,050

このような労災治療計画書の作成の実態等からみて、前記の76,714件(労災治療計画加算に係る労災診療費の支払額8957万余円)については、入院基本料等に加えて労災治療計画加算を設けた趣旨がいかされていないと認められる。

(改善を必要とする事態)

大多数の指定医療機関等では改めて労災治療計画書を作成せず、入院診療計画書をもって労災治療計画書に代えていたり、労災治療計画書の書式と入院診療計画書の書式とで多くの記載項目が同一であったりするなどしているのに、算定基準等に労災診療費独自の算定項目として労災治療計画加算を定めて、入院基本料等に労災治療計画加算を行っている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省本省において、算定基準等に定めた労災診療費の算定における労災治療計画加算について、労災治療計画書の作成の実態、健保点数表等における類似規定との異同等を踏まえた検討が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

労災診療費の支払額は毎年度多額に上っており、その支払は労働者を使用する事業主から徴収した労働者災害補償保険の保険料等を原資として行われることから、貴省は、その算定が適切なものとなるよう、各算定項目の内容等を不断に見直していくことが求められている。

ついては、貴省本省において、労災診療費の算定における労災治療計画加算について、労災治療計画書の作成の実態等を踏まえて、労災治療計画加算を設けた趣旨をいかした運用が可能であるか改めて検討し、その結果を踏まえて廃止を含めた抜本的な見直しを行うよう意見を表示する。