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  • 平成29年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(6) 介護保険制度の下で、交付金と保険給付との重複を避けて、介護自立支援事業と介護サービスとの整合を図るために、要介護者が一時的に受けることができる介護サービスの範囲を実施要綱に明記するなどして市町村に周知するよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)高齢者日常生活支援等推進費
部局等
厚生労働本省
補助の根拠
介護保険法(平成9年法律第123号)
補助事業者
事業主体
市35、町18、村11、広域連合2、計66市町村等
介護自立支援事業の概要
介護サービスを受けていない中重度の要介護者を現に介護している家族を慰労するための事業
66市町村等における交付金交付対象者とされていた慰労金支給対象者の延べ人数及び当該慰労金支給対象者に係る介護自立支援事業の対象経費の実支出額
74,633人 9億8224万余円(平成27、28両年度)
上記に係る交付金相当額
3億8307万余円
前記74,633人のうち継続的なサービス受給者に係る慰労金支給対象者の延べ人数及び当該慰労金支給対象者に係る介護自立支援事業の対象経費の実支出額
67,732人 8億9063万余円(平成27、28両年度)
上記に係る交付金相当額
3億4734万円

【改善の処置を要求したものの全文】

地域支援事業交付金における介護自立支援事業に係る交付金交付対象者について

(平成30年10月17日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 介護自立支援事業の概要等

(1) 地域支援事業の概要

貴省は、介護保険法(平成9年法律第123号)等に基づき、平成18年度から、市町村(特別区、広域連合及び一部事務組合を含む。以下同じ。)が実施主体として実施する地域支援事業に対して地域支援事業交付金(以下「交付金」という。)を交付している。

地域支援事業は、介護保険の被保険者が要介護状態又は要支援状態となることを予防し、社会に参加しつつ、地域において自立した日常生活を営むことができるよう支援することを目的とするもので、介護予防・日常生活支援総合事業、包括的支援事業及び任意事業の3事業から構成されている。

上記3事業のうち任意事業は、地域支援事業実施要綱(平成18年老発第0609001号別紙。以下「実施要綱」という。)によれば、被保険者及び要介護被保険者を現に介護する者その他個々の事業の対象者として市町村が認める者に対し、地域の実情に応じた必要な支援を行うことなどを目的とするものとされており、家族介護支援事業等の3事業から構成されている。

このうち家族介護支援事業は、介護方法の指導その他の要介護被保険者を現に介護する者の支援のため必要な事業とされており、介護自立支援事業等の6事業から構成されている(図参照)。そして、介護自立支援事業は、「介護サービスを受けていない中重度の要介護者を現に介護している家族を慰労するための事業」とされている。

図 地域支援事業の構成(平成27年度以降)

図 地域支援事業の構成(平成27年度以降) 画像

(2) 介護自立支援事業の新設と慰労金支給事業

上記の介護自立支援事業は、28年1月に貴省が実施要綱の改正を行い、その前身に当たる家族介護継続支援事業(介護の慰労のための金品の贈呈)を改定して新設したものである。

市町村は、従来、高齢者等の要介護者を介護している家族を慰労するなどのために、条例等で定める要件を満たす高齢者等を介護している家族に金品(以下「慰労金」という。)を支給する事業(以下「慰労金支給事業」という。また、慰労金の支給対象となる家族を「慰労金支給対象者」という。)を実施していた。

そして、任意事業については、地域の実情に応じ、創意工夫を生かした多様な事業形態が可能とされており、改正前の実施要綱では、家族介護継続支援事業の一つの例として、「介護の慰労のための金品の贈呈」と記載されているのみで、具体的な事業内容は定められていなかったことから、同事業の対象者に介護サービスを受けている要介護者(以下「サービス受給者」という。)に係る慰労金支給対象者を含めることも可能であった。

その後、貴省は、27年度に実施要綱を改正して、任意事業として実施できる事業及び各事業の事業内容を定めるなどして、介護自立支援事業に係る交付金の交付対象者を、「介護サービスを受けていない中重度の要介護者を現に介護している家族」とした(以下、介護自立支援事業に係る交付金の交付対象となる家族を「交付金交付対象者」という。)。貴省は、交付金交付対象者が介護する要介護者について「介護サービスを受けていない」という条件を設けた趣旨を、交付金交付対象者への交付金の交付と当該交付金交付対象者が介護する要介護者が継続的に介護サービスを受けることによる当該要介護者本人に対する保険給付との同一家族内での重複(以下「交付金と保険給付との重複」という。)を避け、介護保険制度の下で、介護自立支援事業と介護サービスとの整合を図ることであるとしている。

そして、貴省は、上記条件の取扱いについて、任意事業は、実施要綱において、地域の実情に応じ、創意工夫を生かした多様な事業形態が可能とされていることを踏まえ、例えば慰労金支給対象者の病気等の事情により、その間、要介護者が短期入所生活介護(注1)を利用するなど、要介護者が年間10日以内の範囲で一時的に介護サービスを受けることを許容する一方、介護サービスを受けた日数の合計が年間10日を超える要介護者(以下「継続的なサービス受給者」という。)に係る慰労金支給対象者を交付金交付対象者に含めることは想定していないとしている。

(注1)
短期入所生活介護  居宅の要介護者が介護老人福祉施設等に短期間入所して受ける入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話及び機能訓練

(3) 交付金の概要

交付金の交付対象は、地域支援事業交付金交付要綱(平成20年厚生労働省発老第0523003号別紙)によれば、実施要綱の規定により市町村が行う地域支援事業とされており、交付金の交付額は、「包括的支援事業(地域包括支援センターの運営)及び任意事業」等の区分ごとに、事業に必要な経費(以下「対象経費」という。)の実支出額等に、「包括的支援事業(地域包括支援センターの運営)及び任意事業」については交付率(100分の39)を乗ずるなどして算定することとされている。

そして、市町村は、慰労金支給対象者が交付金交付対象者に該当する場合には、当該交付金交付対象者に係る慰労金支給事業の実施に要した経費を介護自立支援事業の対象経費の実支出額に算入することができることとなっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、介護保険制度の下で、介護自立支援事業の運用は介護サービスとの整合が図られたものとなっているかなどに着眼して、27年度又は28年度に慰労金支給事業の実施に要した経費を介護自立支援事業の対象経費の実支出額に算入して交付金の交付を受けていた18府県(注2)の157市町村等が実施した介護自立支援事業(27、28両年度の慰労金支給事業の実施に要した経費計10億5755万余円、交付金相当額計4億1244万余円)を対象として検査した。

検査に当たっては、貴省本省及び18府県の100市町村等において、事業実績報告書等の関係書類により会計実地検査を行うとともに、14府県の57市町については、調書等の提出を受けて、その内容を確認するなどして検査した。

(注2)
18府県  京都、大阪両府、福島、茨城、栃木、埼玉、千葉、新潟、山梨、長野、静岡、山口、徳島、香川、高知、福岡、大分、鹿児島各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

検査の対象とした18府県の157市町村等の介護自立支援事業の実施状況を確認したところ、18府県の91市町等は、介護サービスを受けていないことを慰労金支給対象者の要件としていたり、事業実績報告において、慰労金支給対象者のうち、サービス受給者に係る慰労金支給対象者を交付金交付対象者に含めないこととしていたりしていた。

一方、16府県の66市町村等(27、28両年度の慰労金支給事業の実施に要した経費計9億8224万余円、交付金相当額計3億8307万余円)は、サービス受給者に係る慰労金支給対象者延べ71,622人を含めた延べ74,633人を交付金交付対象者としていた。

そして、サービス受給者に係る慰労金支給対象者延べ71,622人が介護する要介護者延べ17,103人について、過去1年間に当該要介護者が介護サービスを受けた日数を確認したところ、年間10日以内の範囲で一時的に介護サービスを受けていた要介護者は延べ819人(4.7%)となっており、残りの延べ16,284人(95.2%)は、継続的なサービス受給者に該当していた。また、当該要介護者延べ16,284人の介護サービスを受けた日数の平均値は140であり、10日ごとに区切った場合の最頻値は101から110となっていた。

このように、66市町村等では、貴省が交付金交付対象者に含めることを想定していなかった継続的なサービス受給者延べ16,284人に係る慰労金支給対象者延べ67,732人を交付金交付対象者に含めていることから、交付金と保険給付との重複が生じていて、介護保険制度の下で介護自立支援事業と介護サービスとの整合が十分に図られていなかった。

上記の66市町村等について、継続的なサービス受給者に係る慰労金支給対象者延べ67,732人に支給した慰労金に係る27、28両年度の慰労金支給事業の実施に要した経費計8億9063万余円を控除して介護自立支援事業の対象経費の実支出額を算定すると計9161万余円となり、前記の計9億8224万余円と比べて8億9063万余円の差を生ずる。そして、これに基づいて算定される交付金相当額は計3572万余円となり、66市町村等が交付を受けた交付金計3億8307万余円と3億4734万余円の差が生ずることとなる(表参照)。

表 継続的なサービス受給者に係る慰労金支給対象者を交付金交付対象者としていたもの

(単位:人、万円)
都道府県名 年度 市町村等数 交付金交付対象者としていた慰労金支給対象者
(A)
(A)に係る介護自立支援事業の対象経費の実支出額
(B)
  交付金交付対象者
(D)
(D)に係る介護自立支援事業の対象経費の実支出額
(E)
  (A)のうち継続的なサービス受給者に係る慰労金支給対象者
(G)=(A)-(D)
(G)に係る介護自立支援事業の対象経費の実支出額
(H)=(B)-(E)
 
(B)に係る交付金相当額
(C)
(E)に係る交付金相当額
(F)
(H)に係る交付金相当額
(C)-(F)
(延べ人数)     (延べ人数)     (延べ人数)    
  平成                    
福島県 27 5 318 577 225 25 53 20 293 524 204
28 5 339 605 236 49 78 30 290 526 205
茨城県 27 1 120 360 140 14 42 16 106 318 124
28 2 221 449 175 30 68 26 191 381 148
栃木県 28 2 3,755 2152 839 379 224 87 3,376 1928 751
埼玉県 27 5 6,751 5840 2277 1,182 981 382 5,569 4859 1895
28 4 6,739 5828 2273 1,169 939 366 5,570 4889 1906
千葉県 27 1 231 230 90 31 31 12 200 199 77
28 1 58 57 22 37 37 14 21 20 8
新潟県 27 1 16,853 5073 1978 736 238 93 16,117 4835 1885
28 1 144 43 16 144 43 16 0 0 0
山梨県 27 8 3,484 3680 1435 313 452 176 3,171 3228 1258
28 8 3,474 3523 1374 399 462 180 3,075 3061 1193
長野県 27 17 10,000 2億3252 9068 780 1619 631 9,220 2億1633 8437
28 16 4,502 2億1700 8463 273 1620 631 4,229 2億0080 7831
静岡県 27 4 2,754 1361 531 121 87 34 2,633 1274 496
28 3 508 242 94 41 47 18 467 194 75
京都府 27 5 1,111 3313 1292 80 240 93 1,031 3073 1198
28 5 1,125 3368 1313 75 233 91 1,050 3135 1222
山口県 27 1 54 163 63 6 67 26 48 96 37
徳島県 27 1 140 140 54 0 0 0 140 140 54
28 1 92 92 35 0 0 0 92 92 35
香川県 27 2 2,145 2180 850 186 215 84 1,959 1965 766
28 2 1,982 1994 777 98 110 43 1,884 1884 734
福岡県 27 4 1,572 2869 1119 230 415 162 1,342 2454 957
28 4 1,567 2508 978 142 293 114 1,425 2215 864
大分県 27 3 620 1468 572 35 105 40 585 1363 531
28 3 588 1541 600 26 96 37 562 1445 563
鹿児島県 27 5 1,668 1755 684 138 164 64 1,530 1591 620
28 5 1,718 1847 720 162 192 74 1,556 1655 645
27 63 47,821 5億2269 2億0384 3,877 4714 1838 43,944 4億7554 1億8546
28 62 26,812 4億5955 1億7922 3,024 4446 1734 23,788 4億1508 1億6188
合計 66 74,633 9億8224 3億8307 6,901 9161 3572 67,732 8億9063 3億4734
注(1)
市町村等数欄の合計は、純計である。
注(2)
表示単位未満を切り捨てているため、介護自立支援事業の対象経費の実支出額又は交付金相当額を集計しても計欄及び合計欄と一致しない。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

A県B市は、同市の条例に基づき、慰労金支給事業を実施しており、同条例が規定する慰労金支給対象者が介護する要介護者については、介護サービスの受給の有無等に関する要件を設けていない。そして、同市は、任意事業については、地域の実情に応じ、創意工夫を生かした事業形態が可能であり、その対象者は市町村が認める者と認識していたことから、平成28年度に、条例に基づいて決定した慰労金支給対象者延べ717人について、慰労金支給対象者が介護する要介護者が介護サービスを受けているかを考慮することなく、慰労金支給事業の実施に要した経費6986万余円の全額を介護自立支援事業の対象経費の実支出額に算入し、交付金2724万余円の交付を受けていた。

しかし、上記の717人には、継続的なサービス受給者に係る慰労金支給対象者が延べ688人含まれており、当該688人に係る経費を控除して介護自立支援事業の対象経費の実支出額を算定すると計306万余円(交付金相当額計119万余円)となり、前記の6986万余円と比べて6680万円(交付金相当額計2605万余円)の差が生ずることとなる。

(改善を必要とする事態)

前記の16府県66市町村等において、継続的なサービス受給者に係る慰労金支給対象者を交付金交付対象者に含めていることから、交付金と保険給付との重複が生じていて、介護保険制度の下で、介護自立支援事業と介護サービスとの整合が十分に図られていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、介護自立支援事業の実施に当たり、要介護者が一時的に受けることができる介護サービスの範囲を、実施要綱に明記するなどして市町村に周知していないことによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

貴省は、市町村が実施する介護自立支援事業に対して交付金を交付するなどして、引き続き要介護者に係る介護者の慰労のための事業に対して助成していくこととしている。

ついては、貴省において、介護保険制度の下で、介護自立支援事業と介護サービスとの整合を図るために、要介護者が一時的に受けることができる介護サービスの範囲を、実施要綱に明記するなどして市町村に周知するよう改善の処置を要求する。