北海道開発局函館開発建設部(以下「開発建設部」という。)は、平成22年度に、北海道北斗市上磯地区内において実施する国営造成土地改良施設防災情報ネットワーク事業として、「道南地域 防災情報ネットワーク設備設置工事」(以下「ネットワーク設備工事」という。)に係る請負契約を、一般競争契約により、日本テクロ株式会社との間で契約額16,066,000円で締結している。
ネットワーク設備工事は、上磯ダムに係る貯水位、流入量、放流量及び雨量の観測情報を、通信事業者が提供する通信サービスを利用して、千葉県柏市に所在する防災中央データセンターに防災情報として転送すること(以下、これを「データ転送」という。)を目的として、通信事業者の提供する通信サービスとの接続に必要なルーター、データ転送サーバ(データ転送サーバに導入するソフトウェアを含む。)、モニター等の機器(以下、これらを合わせて「データ転送装置」という。)を上磯ダム管理所に設置するなどするものである。
開発建設部は、ネットワーク設備工事の設計業務を委託しており、この委託業務の成果品において、データ転送装置については、デジタル通信であるADSL等を利用することとして設計していた。
そして、上記設計のうち通信方式の決定に当たっては、データ転送装置の設置箇所である上磯ダム管理所が、ADSL等の通信サービスの提供エリア内とされていたことから、上記の通信サービスを提供している通信事業者に利用の可否を確認することなくデータ転送装置をADSL等に対応する仕様としていた。
本院は、合規性、有効性等の観点から、ネットワーク設備工事の設計が適切に行われているか、設置されたデータ転送装置は事業の目的に沿って使用されているかなどに着眼して、開発建設部において、ネットワーク設備工事の契約やこれにより設置されたデータ転送装置等を対象として、契約書、仕様書、成果品等の書類、データ転送装置の運用に係る資料及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
開発建設部は、ネットワーク設備工事の完了後の23年4月に、前記の通信事業者等に対してADSL等による通信サービスの利用の可否について確認したところ、上磯ダム管理所は、通信事業者の基地局からの線路距離長が長いため、ADSL等については通信速度の低下によって利用できないことから、データ転送装置は、データ転送に使用できないことが判明した。
しかし、開発建設部は、データ転送装置の改修を行うなどデータ転送を行うための必要な措置を講じていなかった。このため、データ転送装置は、工事完了(23年3月)から30年9月まで、データ転送に使用されていなかった。
したがって、データ転送装置は、その設計及び運用が適切でなかったなどのため、データ転送に使用できない状態となっており、工事の目的を達しておらず、これに係る工事費16,066,000円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、開発建設部において、ADSL等の利用の可否についての検討が十分でなかったこと、データ転送装置を事業の目的に沿って使用することの重要性についての認識が欠けていたことなどによると認められる。