農林水産省は、家畜伝染病予防法(昭和26年法律第166号。以下「家伝法」という。)に基づく防疫措置として、高病原性鳥インフルエンザ等の家畜の伝染性疾病にかかっている疑いがある家畜(以下「疑似患畜」という。)の殺処分及び埋却並びに汚染された物品の焼却、埋却等が行われた際に、疑似患畜となる前における当該家畜及び焼却又は埋却前における当該物品の評価額に5分の4を乗じて算定した手当金及び評価額に5分の1を乗じて算定した特別手当金(以下、これらを合わせて「へい殺畜等手当金等」という。)を、疑似患畜等の所有者に交付している。
家伝法によれば、農林水産大臣は、上記の評価額を決定するには、関係都道府県知事の意見を聴かなければならないこととされている。このため、へい殺畜等手当金等交付規程(昭和32年農林省告示第119号)によれば、疑似患畜等の所有者が農林水産大臣にへい殺畜等手当金等の交付申請書を提出する際には、関係都道府県知事は、殺処分を行った家畜及び焼却又は埋却を行った物品の評価額に関する意見を記載した動物評価意見具申書及び物品評価意見具申書(以下、これらを合わせて「評価意見具申書」という。)を同時に提出することとされている。
また、へい殺畜等手当金等を交付する場合における高病原性鳥インフルエンザの疑似患畜の評価額について、「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」(平成27年農林水産大臣公表)等において評価方法等が示されており、帳簿により確認した飼料費等により1日当たりの生産費を算定するなどして評価額を算定することとなっている。
本院は、合規性等の観点から、へい殺畜等手当金等の交付額の基となった疑似患畜等の評価額は適切に算定されているかなどに着眼して、6道県(注)の8交付先について、平成26年度から28年度までの間に交付されたへい殺畜等手当金等を対象として、交付申請書、評価意見具申書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
農林水産本省は、青森、新潟両県に農場が所在する2交付先に対するへい殺畜等手当金等の交付に当たり、2県から提出を受けた評価意見具申書に記載された殺処分等を行った疑似患畜等の評価額計305,964,726円を当該疑似患畜等の評価額と決定し、へい殺畜等手当金等計305,964,719円を交付していた。
しかし、当該評価額を2県が算定する際に、1日当たりの生産費のうち飼料費を、疑似患畜の飼養期間に含まれない期間の飼料の調達に要した費用を含めて算定したり、飼料の購入金額について値引きを受けていたのに当該値引額を考慮していない購入金額を用いて算定したり、飼料の購入金額に既に消費税(地方消費税を含む。以下同じ。)相当額が含まれているのに更に消費税率を乗じた額を用いて算定したりするなどしていた。
そして、農林水産本省は、上記により過大となっていた評価意見具申書に記載された評価額をそのまま採用していた。
したがって、飼養期間に含まれない期間の飼料の調達に要した費用を飼料費から除くなどして適正な評価額を算定すると計296,730,084円となり、前記の評価額計305,964,726円との差額9,234,642円が過大に評価され、同額のへい殺畜等手当金等が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、農林水産本省において、家畜及び物品の評価額の決定に当たり、2県から提出を受けた評価意見具申書に記載された評価額の妥当性の確認が十分でなかったことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
農事組合法人Aは、平成28年11月29日に、運営するB農場(新潟県所在)において高病原性鳥インフルエンザの疑似患畜が確認されたことから、採卵鶏315,330羽の殺処分等を行った。そして、新潟県は、疑似患畜等の評価額を計265,491,651円とした評価意見具申書を農林水産本省に提出し、農林水産本省はこれに基づき、へい殺畜等手当金等265,491,648円を農事組合法人Aに交付していた。
同県が疑似患畜の評価額を算定する際に用いた飼料費は、農事組合法人Aが26年1月から28年12月までの3年間で飼料の調達に要した費用を基にして算定されていた。しかし、へい殺畜等手当金等の交付の対象となった疑似患畜は、最も飼養期間が長いものでも27年3月から飼養されていたものであるにもかかわらず、農林水産本省は、疑似患畜の評価額について同県から提出を受けた動物評価意見具申書に記載された評価額をそのまま採用していたため、評価額5,974,888円が過大に評価され、同額のへい殺畜等手当金等が過大に交付されていた。