【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
国営造成土地改良施設防災情報ネットワーク事業の実施について
(平成30年10月30日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
貴省は、国の防災情報の充実と土地改良法(昭和24年法律第195号。以下「法」という。)等に基づき整備された国営造成土地改良施設(以下「国営施設」という。)の被災や地域の被害の防止・軽減を目的として、国営施設から収集した防災情報を内閣府の総合防災情報システム(以下「内閣府防災情報システム」という。)に提供するとともに、国から国営施設の管理を受託した者(以下「管理受託者」という。)や国営施設が所在するなどする市町村(以下「関係市町村」という。)等に防災情報を提供し、国営施設の的確な操作運用、関係市町村における迅速な初動態勢の整備等を図るために、国営造成土地改良施設防災情報ネットワーク事業(以下「防災ネット事業」という。)を行っている。
国営造成土地改良施設防災情報ネットワーク(以下「防災ネットワーク」という。)は、国営施設に設置された水位計、雨量計等の観測機器により得られた計測情報等(以下「観測情報」という。)のうち、貴省が提供対象として選定したダム、頭首工(注1)等(以下、これらを「対象施設」という。)の観測情報を防災情報として、千葉県柏市に所在する防災中央データセンター(以下「中央センター」という。)において運用されている情報提供システムから、インターネットを通じて管理受託者や関係市町村等に提供するとともに、内閣府との協議に基づいて選定した一部の防災情報を内閣府が運営する内閣府防災情報システムに提供するものである。そして、各対象施設から中央センターへの防災情報の転送は、対象施設が所在する各地区に設置された送信設備(以下「データ転送装置」という。)を経由して行われている。
防災ネットワークの整備に当たっては、平成21、22両年度に、貴省が、防災ネット事業に必要な中央センターのシステム等の開発を行い、当該システムに関する運用や保守管理等を行う中央センターを設置するとともに、全国に所在する国営施設を管理する土地改良調査管理事務所等(以下「管理事務所等」という。)がそれぞれ対象施設を検討の上選定し、データ転送装置の設計及び設置を行うなどしており、23年2月から防災ネットワークの運用が開始されている。そして、管理事務所等は、22年度から27年度末までの間に138の地区ごとに1台を基本としてデータ転送装置を設置するとともに、27年度から耐用年数を迎えたデータ転送装置の更新を行っており、それらの総事業費は、表1のとおり、計25億4202万余円となっている。さらに、貴省は、30年度以降も34地区においてデータ転送装置を設置することとしている。
表1 防災ネット事業に係る事業費等の内訳
年度
\
事業費等 |
平成21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 計 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
総事業費 | 69,825 | 362,569 | 1,123,312 | 324,883 | 200,127 | 158,356 | 141,905 | 70,298 | 90,746 | 2,542,024 | |||
270,445 | 1,067,833 | 298,907 | 167,967 | 95,571 | 25,533 | 9,806 | 4,644 | 1,940,710 | |||||
データ転送装置の設置及び更新に係る事業費 | 設置 | 地区数 | 18 | 88 | 17 | 9 | 5 | 1 | 138 | ||||
事業費 | 270,445 | 1,067,833 | 298,907 | 167,967 | 95,571 | 6,176 | 1,906,902 | ||||||
更新 | 地区数 | 9 | 7 | 1 | 17 | ||||||||
事業費 | 19,357 | 9,806 | 4,644 | 33,808 | |||||||||
中央センターに係る事業費 | 69,825 | 92,123 | 55,478 | 25,975 | 32,159 | 62,784 | 116,371 | 60,491 | 86,102 | 601,313 |
防災ネットワークは、図のとおり、国営施設に設置された観測機器、国営施設を監視し制御する水管理制御設備、データ転送装置、中央センターのシステム機器等から構成されており、対象施設から水管理制御設備に送信された観測情報のうち防災情報は、データ転送装置から通信事業者の提供する通信サービスを利用して、中央センターへ転送される。
図 防災ネットワークの概念図
防災ネットワークを構成する機器等(以下「機器等」という。)のうち、国営施設である対象施設の観測機器及び水管理制御設備の管理については、法等に基づき貴省と管理委託協定を締結している都道府県、土地改良区等の管理受託者が行うとともに、機器等の保守、修繕等についても上記の管理委託協定に基づき、管理受託者がその費用を負担して適切に行うこととなっている。また、防災ネット事業により設置されたデータ転送装置等については、管理事務所等が管理して、それらの保守、修繕等を行うこととしている。
防災情報には、対象施設における水位、雨量等の計測情報のほか、ダム、頭首工等の設備の運転を遠隔制御するために必要なゲートの開閉やポンプの稼働・停止等の状態監視情報がある。そして、防災情報は、データ転送装置を通じて中央センターに原則として10分ごと(通信サービスの種類によっては1時間ごと)に転送される。
また、貴省は、中央センターに転送する防災情報の項目(以下「転送項目」という。)及び内閣府防災情報システムに提供する防災情報の項目(以下「内閣府提供項目」という。)については、「国営造成土地改良施設防災情報ネットワーク(平成22年2月作成)」の冊子により、管理事務所等にそれぞれ例示している。そして、データ転送装置の設置に当たっては、管理事務所等が管理受託者と協議し、地区内の対象施設を決定した後に、上記の例示された項目の中から中央センターに転送可能な観測情報を転送項目及び内閣府提供項目として選定し、それぞれデータ転送装置に登録している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、防災ネットワークは、防災ネット事業の目的に沿って適切に運用されているかなどに着眼して、21年度から29年度までの間に支出した防災ネット事業に係る事業費計25億4202万余円を対象として、貴省本省、9農政局等(注2)においてデータ転送装置等の整備に係る契約書等の関係書類、防災ネットワークの運用状況に係る資料等を確認するとともに、138地区に設置されているデータ転送装置に係る27年度から29年度までの間の稼働状況等に関する調書の提出を受け、その内容を分析するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴省は、前記の138地区における対象施設並びに転送項目及び内閣府提供項目の登録状況を把握しておらず、中央センターにおいても把握する仕組みとはなっていなかったことから、138地区における29年度末の対象施設ごとの転送項目等を前記の調書により徴取して集計したところ、各地区で同種の対象施設に係る転送項目数は区々となっており、対象施設614施設に係るデータ転送装置に登録された転送項目の項目数(以下「登録項目数」という。)は3,865項目となっていた。また、このうち内閣府提供項目の対象施設601施設に係る登録項目数は738項目となっていた。
そこで、上記3,865項目の転送項目について、28、29両年度における中央センターへの転送状況を確認したところ、表2のとおり、上記の期間内において、地区内に設置されたデータ転送装置で転送することとしている防災情報が全て転送されていない状態(以下、この状態を「欠測」という。)が180日以上連続しているものが32地区、422項目(うち内閣府提供項目は32地区、134項目)、また、欠測を繰り返すことにより転送項目の欠測が2年間の累計で365日以上生じているものが31地区、343項目(うち内閣府提供項目は31地区、120項目)、純計で35地区、436項目(うち内閣府提供項目は35地区、142項目)見受けられた。
そして、上記35地区のデータ転送装置等の設置に要した費用は計3億9291万余円となっている。
表2 欠測状況(平成28、29両年度)
区分 | 中央センターに対して欠測が生じていたもの | 左のうち内閣府提供項目に係るもの | ||
---|---|---|---|---|
地区数 | 項目数 | 地区数 | 項目数 | |
(1) 平成28、29両年度の期間内において欠測が180日以上連続しているもの |
32 | 422 | 32 | 134 |
(2) 28、29両年度の期間内において欠測を繰り返すことにより転送項目の欠測が累計で365日以上生じているもの |
31 | 343 | 31 | 120 |
純計 | 35 | 436 | 35 | 142 |
欠測が生じている前記の35地区について、それらの原因を現地に赴くなどして確認したところ、いずれも管理事務所等が自ら登録した防災情報の重要性を十分に理解していなかったことから、データ転送装置等の不具合が生じた際に専門業者に調査を依頼するなどして根本的な原因を調査することなく、データ転送装置の再起動等の一時的な措置で対応していたり、これを放置していたりなど、機器等の管理に起因するものであった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
北陸農政局管内の西北陸土地改良調査管理事務所は、河北潟放水路潮水門に係る海水位、雨量等の転送項目5項目(うち内閣府提供項目4項目)を中央センターに転送するため、平成24年3月にデータ転送装置(事業費1312万余円)を設置して管理している。そして、24年3月の運用開始後、28年10月にデータ転送装置の電源が突然切れる状況となり、それ以降防災情報を中央センターへ転送することができなくなった。
しかし、同事務所は、原因調査を行うなどの適切な改善の方策を講ずることなくこれを放置していた。このため、河北潟地区の防災情報は、28年10月から29年10月の会計実地検査時点までの13か月間にわたり、中央センターへ転送されていない状態となっていた。
なお、29年12月に、当該データ転送装置の不具合原因を調査したところ、同事務所が雨量計のメンテナンスを怠っていたため、これが漏電したことが原因であったことが判明した。
雨量計の観測情報は、貴省が、内閣府提供項目の一つとするなど重要な防災情報であり、前記の138地区における30年3月末現在の内閣府提供項目の登録項目数738項目のうち、雨量計の観測情報は498項目となっている。
政府機関及び地方公共団体が気象の観測に使用する雨量計については、気象業務法(昭和27年法律第165号)等に基づき、気象庁長官の登録を受けた者が行う検定に合格したものでなければ使用してはならないなどとされており、雨量計に係る検定の有効期間は5年となっている。
しかし、119地区の247か所に設置されている雨量計について検定の有効期限を確認したところ、管理事務所等が検定の重要性を認識していなかったり、検定の有効期限を管理していなかったりしていたことなどにより、30年3月末現在で、50地区の116か所の雨量計が検定の有効期限を経過しており、このうち、検定の有効期限を経過して雨量計の観測情報を180日以上内閣府や関係市町村等に防災情報として提供することができなかったものが、(1)の事態と重複している地区(14地区の19か所)を除くと27地区の77か所(内閣府提供項目126項目)見受けられた。
そして、上記27地区のデータ転送装置等の設置に要した費用は計3億8538万余円となっている。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
関東農政局管内の管理受託者である葛西用水土地改良区等は、利根中央地区で平成24年3月に行った防災ネット事業の整備(事業費2100万円)に伴い、国営土地改良事業により設置した既存の雨量計3台の検定を同時期に受け、これらを管理している。
しかし、同土地改良区等は、雨量計の有効期限を管理していなかったため、当該雨量計3台は、いずれも29年3月に検定の有効期限を経過していた。このため、利根中央地区では29年3月から30年5月の会計実地検査時点までの1年3か月間にわたり、雨量計の観測情報を防災情報として提供できない状況となっていた。
(是正及び是正改善を必要とする事態)
データ転送装置等の管理が適切でないため、防災情報が中央センターへ転送されていなかったり、雨量計の検定の有効期限が経過しているため、雨量計の観測情報を防災情報として提供できなかったりしている事態は、国営施設の被災や地域の被害防止・軽減を目的として防災情報を提供するという防災ネット事業の目的を十分に達成していないことから適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、管理事務所等において、転送項目等の登録等に当たり、防災ネット事業における防災情報の重要性に係る理解が十分でないことなどにもよるが、貴省において、次のことなどによると認められる。
貴省は、国営施設に係る防災情報の迅速な収集、伝達等を行うために防災ネット事業を今後も引き続き維持することとしている。
ついては、貴省において、防災ネット事業の適切な運用を図るよう次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。