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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(3) 農業農村整備事業等により整備した小水力発電施設の売電収入に係る国庫納付制度について、土地改良区に対して国庫納付対象額の算定を手引に従った会計処理により適切に行うよう指導するなどするよう是正改善の処置を求め、並びに渇水準備引当金を発電施設運営経費から除外するよう改善の処置を要求し及び建設改良積立金を更新等事業費に充当する場合の取扱い、発電施設運営経費とする範囲等を見直すなどするよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省
(項)農業生産基盤保全管理・整備事業費
(項)農山漁村地域整備事業費 等
部局等
農林水産本省
直轄事業 東北農政局
補助事業等 北陸、中国四国両農政局
事業及び補助等の根拠
土地改良法(昭和24年法律第195号)等、予算補助
事業主体
直轄事業 東北農政局
補助事業等 新潟、富山、石川、岡山各県、五城土地改良区
計 6事業主体
補助事業等
農山漁村地域整備交付金等
事業及び補助事業等の概要
農村における地域資源の潜在力を活用した再生可能エネルギーの利用を促進し、土地改良施設の維持管理費の負担等を低減するもの
国庫納付額算定の前提となる発電施設運営経費の妥当性が確認できない8施設に係る事業費の計
106億7061万余円(平成27年度末)
上記に対する国庫負担額及び国庫補助金額の計
60億1692万円(背景金額)
国庫納付制度における取扱いを見直すべき渇水準備引当金に係る6施設の引当金残高
1億3315万余円(平成27年度末)
上記に対して国の負担割合等を乗じて算出した国費相当額(1)
7610万円
国庫納付制度における取扱いを見直すべき建設改良積立金に係る8施設の積立金残高
13億6215万余円(平成27年度末)
上記に対して国の負担割合等を乗じて算出した国費相当額(2)
7億8232万円
(1)及び(2)の計
8億5842万円

【是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求し及び意見を表示したものの全文】

農業農村整備事業等により整備した小水力発電施設の売電収入に係る国庫納付制度の運用について

(平成30年9月3日付け 農林水産大臣宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、並びに同法第36条の規定により改善の処置を要求し及び意見を表示する。

1 制度の概要

(1) 農業農村整備事業等における小水力発電施設の整備等の概要

貴省は、農村における地域資源の潜在力を活用した再生可能エネルギーの利用を促進し、土地改良施設の維持管理費の負担等を低減するために、土地改良法(昭和24年法律第195号。以下「法」という。)等に基づき、昭和58年度以降、国営かんがい排水事業、地域用水環境整備事業等の農業農村整備事業等により小水力発電施設等の導入を図っている。小水力発電施設の整備に当たっては、国営かんがい排水事業等の法に基づく国の直轄事業として、国が都道府県、市町村(以下、これらを合わせて「都道府県等」という。)、土地改良区(土地改良区連合を含む。以下同じ。)等に事業費の一部を負担させて整備するほか、都道府県等又は土地改良区が事業主体となって地域用水環境整備事業等の国庫補助事業として整備する場合に、事業の実施に要する経費の一部を補助している。

そして、小水力発電施設においては、発電した電気を電力会社に供給する事業(以下「発電事業」という。)が行われており、その整備数は、平成23年度末で27施設であったが、再生可能エネルギーの利用促進を目的に24年7月に固定価格買取制度(注1)が開始されて以降増加して、27年度末は75施設となっている。このうち、国の直轄事業として整備された発電施設(以下「直轄事業施設」という。)は20施設で、これらに係る国庫負担額(事業費に係る国の支出額のうち都道府県等及び土地改良区の負担により充当される金額を除いた額。以下「国庫負担額」という。)は計75億0259万余円、国庫補助事業として整備された発電施設(以下「補助事業施設」という。)は55施設で、これらに係る国庫補助金額は計132億7930万余円となっている。

(注1)
固定価格買取制度  電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号)等に基づき、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定価格で買い取るなどする制度

直轄事業施設については、貴省が法等に基づく管理委託に係る協定により、発電施設の管理を都道府県等又は土地改良区に委託している。一方、補助事業施設については、事業主体である都道府県等又は土地改良区が自ら管理を行うほか、事業主体である一部の都道府県等が管理委託に係る協定により土地改良区に管理を委託するなどしている(以下、発電施設を管理する者を「発電施設管理者」といい、管理委託に係る協定に基づき管理を受託した者を「管理受託者」という。)。そして、上記75施設のうち、8割に当たる60施設については、土地改良区が自ら又は管理受託者となって発電施設の管理を行っている。

また、土地改良法施行令(昭和24年政令第295号)に基づき、管理受託者は受託に係る発電施設の管理に必要な費用を負担することとされており、受託に係る発電施設の売電収入等は管理受託者に帰属することとなっている。

(2) 小水力発電施設の売電収入に係る国庫納付制度の概要

小水力発電施設のうち補助事業施設を管理する発電施設管理者は、「国の補助に係る土地改良事業における水力発電施設の取扱いについて」(昭和58年5月23日付け58構造D第403号構造改善局長通知)等により、売電収入等の収益が発電に関する管理運営に必要な費用(以下「発電施設運営経費」という。)及び発電施設管理者が管理する発電施設以外の土地改良施設の操作に必要な費用(以下「土地改良施設維持管理費」という。)の合計額を上回る場合において、その差額(以下「国庫納付対象額」という。)に国庫補助事業の実施に係る国の補助率を乗じた額(以下「国庫納付額」という。)を国庫に納付することとされている。そして、国庫納付額の算定に当たっては、その基礎資料として、地方公共団体の経営する企業のうち地方公営企業法(昭和27年法律第292号)の適用を受ける電気事業(以下「公営電気事業」という。)の会計処理に準じて、複式簿記方式による貸借対照表及び損益計算書(以下、これらを合わせて「計算書」という。)を発電施設管理者が作成することとされている。

また、貴省は、直轄事業施設についても、管理受託者に補助事業施設に準じて発電事業の会計経理を行わせ、国庫納付対象額が生ずる場合は、これに直轄事業施設に係る国の負担割合を乗じた額を国庫に納付させることとしている。

(3) 国庫納付の算定に係る土地改良区の会計処理等の概要

土地改良区は、法に基づいて設立された公共法人であり、貴省は、土地改良区会計基準(平成23年4月1日付け22農振第2410号農村振興局長通知)や「小水力発電施設の管理に係る発電事業会計(複式簿記)の手引」(平成24年3月農村振興局水資源課作成。以下「手引」という。)を作成して、土地改良区に対して複式簿記方式による会計処理の方法について指導を行い、国庫納付対象額の算定に当たっては原則として手引に従って行うこと、土地改良区会計基準のみでは処理できない部分については公営電気事業の会計処理に基づいて行うことなどとしている。

前記のとおり、国庫納付対象額は、売電収入等の収益が発電施設運営経費及び土地改良施設維持管理費の合計額を上回る場合のその差額とされている。手引によれば、発電施設運営経費は、発電事業に要する人件費、施設修繕費、事務費、減価償却費、修繕や渇水に備える引当金の繰入額等の費用(以下、これらを「発電施設の維持管理に係る総費用」という。)のほか、将来生ずる可能性がある特定の目的に支出するために、公営電気事業に準じて、未処分利益剰余金から任意に積み立てられる利益積立金、災害準備積立金及び建設改良積立金(以下、これらを合わせて「発電事業積立金」という。)の積立額から成るとされている。また、売電収入を充当できる土地改良施設維持管理費は、土地改良施設の維持管理に要する人件費、修繕費、定期点検費等から成るとされている。

なお、売電収入を充当できる土地改良施設維持管理費の範囲は、従前は発電施設との共用施設に係るものに限られていたが、貴省は、固定価格買取制度の開始を契機として小水力発電の活用を更に促進するとの観点から、23年10月に、その範囲を土地改良区が管理する土地改良施設全体に係るものに拡大した。

そして、国庫納付対象額の算出に当たっては、手引において、発電事業に係る売電収入等の総収益から発電施設の維持管理に係る総費用及び土地改良施設維持管理費への充当額を差し引いて未処分利益剰余金を算出し、その範囲内で積み立てた発電事業積立金の金額を未処分利益剰余金から差し引くこととされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

前記のとおり、固定価格買取制度の開始等を契機として小水力発電施設は近年増加しており、農業農村整備事業等により整備された小水力発電施設に係る国庫負担額及び国庫補助金額は、いずれも多額なものとなるなどしている。

そこで、本院は、合規性、経済性等の観点から、小水力発電施設に係る国庫納付対象額の算定が適切に行われているか、国庫納付制度の仕組みは適切に機能しているかなどに着眼して、小水力発電施設75施設のうち、土地改良区が発電施設管理者として27年度に売電を行っている50施設(国庫負担額計65億6870万余円、国庫補助金額計102億1365万余円)を対象として、貴省本省、4農政局(注2)、16県(注3)等において、小水力発電施設の運営に関する資料等を確認するとともに、上記の50施設を管理している46土地改良区における発電事業の運営状況に関して調書の提出を受け、その内容を分析するなどして会計実地検査を行った。

(注2)
4農政局  東北、北陸、近畿、九州各農政局
(注3)
16県  青森、新潟、富山、石川、福井、静岡、三重、兵庫、和歌山、岡山、広島、徳島、福岡、大分、宮崎、鹿児島各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

土地改良区は、国庫納付額の算定に当たり、前記のとおり、計算書を作成することとされているが、貴省は、国庫納付額が生ずる場合等を除き、計算書等により発電事業の運営状況を把握することとはしていなかった。

そこで、本院は、前記の調書により、前記の50施設に係る27年度の計算書に計上された発電事業に係る収入等の状況を検査して、その計数等を集計したところ、売電収入額は、直轄事業施設(15施設)が計10億0620万余円、補助事業施設(35施設)が計17億7349万余円、合計(50施設)で27億7969万余円となっていた。そして、このうち1施設当たりの27年度の売電収入が1億円以上で単独の土地改良区が管理している発電施設が8施設(東北農政局管内3施設、北陸農政局管内4施設及び中国四国農政局管内1施設)あり、それらを管理している7土地改良区(注4)における発電施設の運営状況等をみたところ、次のような状況となっていた。

(注4)
7土地改良区  馬淵川沿岸、安積疏水、会津宮川、五城、小矢部川上流用水、手取川七ヶ用水、吉井川下流各土地改良区

(1) 7土地改良区の8施設における整備及び発電事業の実施状況

上記8施設のうち、直轄事業施設の3施設については東北農政局が、補助事業施設の5施設のうち4施設については富山、石川、岡山各県が、残りの1施設については新潟県及び五城土地改良区が、それぞれ事業主体となって整備しており、8施設の事業費計106億7061万余円に対して、国庫負担額及び国庫補助金額の計は60億1692万余円となっている。そして、直轄事業施設に係る国の負担割合は3分の2又は7割となっており、補助事業施設に係る補助率は2分の1となっている(以下、直轄事業に係る国の負担割合と補助事業に係る補助率とを合わせて「国の負担割合等」という。)。一方、事業費に占める土地改良区の負担額の割合(以下「土地改良区負担率」という。)は、直轄事業施設が0%から16.3%、補助事業施設が15.0%から30.0%となっている。

また、発電事業による1kWh当たりの売電単価の状況について、固定価格買取制度の適用を受けている27年度の売電単価をその適用前の売電単価と比較すると、最も低いものでも2.4倍(新田原井堰発電所)に上昇している。これは、固定価格買取制度においては、再生可能エネルギーの利用を促進するために、政策的に電源ごとの買取価格及び買取期間が設定されていることなどによるものである(表1参照)。

表1 7土地改良区の8施設における整備及び発電事業の概要

発電施設名 土地改良区名 施設種別 事業費
(千円)
(国の負担割合等(%))
国庫負担額又は国庫補助金額
(千円)
(土地改良区負担率(%))
土地改良区の負担額
(千円)
平成27年度における売電収入額
(千円)
27年度における売電単価
(円/kWh)
固定価格買取制度適用前の売電単価
(円/kWh)
大志田ダム発電所 馬淵川沿岸土地改良区 直轄事業施設 2,056,843 (70.0)
1,439,790
(0)
134,024 30 7.0
安積疏水管理用発電所 安積疏水土地改良区 直轄事業施設 1,136,359 (66.7)
757,573
(16.3)
185,567
182,252 24 9.1
新宮川ダム発電所 会津宮川土地改良区 直轄事業施設 404,278 (70.0)
282,994
(1.1)
4,544
124,917 24 9.0
五城発電所 五城土地改良区 補助事業施設 1,708,990 (50.0)
854,495
(22.5、30.0)
453,492
155,684 24 9.5
臼中発電所 小矢部川上流用水土地改良区 補助事業施設 492,663 (50.0)
246,331
(15.0)
73,899
126,987 29 10.0
山田新田用水発電所 補助事業施設 536,736 (50.0)
268,368
(15.0)
80,510
76,084 29
七ヶ用水発電所 手取川七ヶ用水土地改良区 補助事業施設 1,372,933 (50.0)
686,466
(25.0)
343,233
109,328 29 10.0
新田原井堰発電所 吉井川下流土地改良区 補助事業施設 2,961,811 (50.0)
1,480,905
(25.0)
740,452
280,913 24 9.7
10,670,613 6,016,922 1,881,697 1,190,189
(注)
補助事業施設5施設のうち、五城発電所は、新潟県及び五城土地改良区がそれぞれ事業主体となって、異なる二つの国庫補助事業により整備されており、新潟県が事業主体として整備した分については五城土地改良区に譲与されている。五城土地改良区を除く4施設は、富山、石川、岡山各県が事業主体となって整備して土地改良区に譲与されている。

次に、7土地改良区の8施設における27年度の発電事業の収支の状況をみると、売電収入、預金利息等を含む総収益から発電施設の維持管理に係る総費用を差し引いた金額(以下「売電利益」という。)の総収益に占める割合は63.2%から75.6%、8施設全体で70.3%となっている。そして、売電利益はいずれも土地改良施設維持管理費及び発電事業積立金に全額充当されており、このうち売電利益に占める発電事業積立金の積立額の割合は0%から96.5%、8施設全体で64.5%となっている(表2参照)。

表2 7土地改良区の8施設における発電事業の収支の状況(平成27年度)

(単位:千円、%)
発電施設名 土地改良区名 総収益 発電施設の維持管理に係る総費用 売電利益 総収益に占める売電利益の割合 土地改良施設維持管理費 発電事業積立金の積立額 売電利益に占める発電事業積立金の積立額の割合
(A) (B) (C=A-B) (D=C/A) (E) (F) (G=F/C)
大志田ダム発電所 馬淵川沿岸土地改良区 118,766 39,110 79,655 67.0 29,934 49,721 62.4
安積疏水管理用発電所 安積疏水土地改良区 182,252 54,663 127,588 70.0 87,430 48,754 38.2
新宮川ダム発電所 会津宮川土地改良区 117,585 39,686 77,898 66.2 77,898 0
五城発電所 五城土地改良区 141,230 51,877 89,352 63.2 21,424 67,927 76.0
臼中発電所 小矢部川上流用水土地改良区 127,355 32,629 94,725 74.3 10,000 84,725 89.4
山田新田用水発電所 76,238 19,022 57,216 75.0 2,000 55,216 96.5
七ヶ用水発電所 手取川七ヶ用水土地改良区 109,563 35,235 74,327 67.8 45,117 29,209 39.2
新田原井堰発電所 吉井川下流土地改良区 247,763 60,248 187,514 75.6 13,895 173,618 92.5
1,120,754 332,475 788,279 70.3 287,701 509,174 64.5
(注)
計数は、各土地改良区の計算書に基づいて計上している。

このように、7土地改良区の8施設においては、固定価格買取制度の開始を契機に既存の小水力発電施設に係る売電単価が上昇し、これに伴う売電利益の全額が土地改良施設維持管理費や発電事業積立金の積立額に充当されている状況が見受けられた。そして、7土地改良区の8施設を含めた全ての小水力発電施設において、売電利益が国庫に納付された実績は30年3月末まで全くない状況となっていた。

そこで、7土地改良区について内部留保等の状況をみることとし、減価償却累計額、渇水準備引当金(注5)及び発電事業積立金について集計したところ、表3のとおり、27年度末で計26億4859万余円と多額に上っていた。

(注5)
渇水準備引当金  渇水により計画発電量を下回ったため売電収益が減少した場合において、その収益の減少又は費用の増加に対して、経理の変動を防止するための引当金

表3 7土地改良区の8施設における減価償却累計額、渇水準備引当金残高及び発電事業積立金残高の状況(平成27年度末)

(単位:千円)
発電施設名 土地改良区名 減価償却累計額 渇水準備引当金 発電事業積立金 引当金、積立金等の合計
利益積立金 災害準備積立金 建設改良積立金
大志田ダム発電所 馬淵川沿岸土地改良区 14,035 335,676 16,569 319,107
限度額設定なし
349,711
安積疏水管理用発電所 安積疏水土地改良区 91,260 21,377 248,857 14,190 12,400
限度額設定なし
222,267
限度額設定なし
361,494
新宮川ダム発電所 会津宮川土地改良区 16,891 15,779 12,147 10,234
限度額設定なし
1,913
限度額設定なし
44,817
五城発電所 五城土地改良区 340,274 18,589 192,160 12,863 179,297
(4,567,216)
551,023
臼中発電所 小矢部川上流用水土地改良区 84,853 17,336 401,381 5,000
(20,000)
396,381
(1,071,400)
503,570
山田新田用水発電所 10,538 102,017 5,000
(15,000)
97,017
(1,355,800)
112,555
七ヶ用水発電所 手取川七ヶ用水土地改良区 145,287 101,236 5,061 96,175
(400,000)
246,523
新田原井堰発電所 吉井川下流土地改良区 362,111 46,040 70,755 20,755 50,000
(50,000)
478,906
1,051,214 133,156 1,464,229 69,438 32,634 1,362,157 2,648,599
注(1)
災害準備積立金及び建設改良積立金の各欄は上段が積立金残高、下段が積立金限度額である。
注(2)
大志田ダム発電所は土地改良区の事業費の負担がないため、減価償却費を計上していない。

(2) 7土地改良区の8施設における国庫納付対象額の算定に係る会計処理

ア 減価償却費の算定の基礎となる固定資産台帳の作成状況

7土地改良区における27年度末の減価償却累計額は、表3のとおり、6土地改良区の7施設で計10億5121万余円となっている。そして、手引によれば、発電施設管理者である土地改良区は、減価償却費の算定の基礎となる発電施設の取得価額、構造及び用途、供用開始年月等を固定資産台帳により整理することとされている。

しかし、上記の7施設について確認したところ、いずれも固定資産台帳が作成されておらず、これらの7施設に係る減価償却費(27年度末の減価償却累計額計10億5121万余円)は、減価償却費の算定の基礎となる取得価額の妥当性が確認できない状況となっていた。

イ 発電事業積立金の積立金限度額の設定状況

発電事業積立金のうち、7土地改良区における災害準備積立金及び建設改良積立金の27年度末残高は、表3のとおり、災害準備積立金については3土地改良区の4施設で計3263万余円、建設改良積立金については7土地改良区の8施設で計13億6215万余円となっている。そして、手引によれば、公営電気事業に準じて、災害準備積立金については落雷等の災害による不時の損失に備えるために過去の被災実績等を勘案した必要額を、また、建設改良積立金については、将来の発電施設の改良・更新(以下「更新等」という。)に備えるために更新等に要する経費(以下「更新等事業費」という。)の総額を、それぞれ適切に見積もり、各見積額の範囲内で土地改良区における総会等の議決を経た積立金限度額を限度として積み立てることができるとされている。

しかし、上記の積立金限度額の設定状況をみたところ、災害準備積立金については2土地改良区の2施設、建設改良積立金については3土地改良区の3施設において、過去の被災実績等を勘案した必要額又は更新等事業費の総額を見積もるなどして積立金限度額が設定されておらず、災害準備積立金(27年度末残高計2263万余円)及び建設改良積立金(27年度末残高計5億4328万余円)は、積立額の妥当性を確認できない状況となっていた(発電施設ごとの設定状況については表3参照)。

ア及びイのとおり、減価償却費並びに災害準備積立金及び建設改良積立金の積立額について、国庫納付対象額の算定に係る会計処理が手引に示された手続に従って行われておらず、発電施設運営経費の妥当性が確認できない状況が8施設(事業費計106億7061万余円、国庫負担額及び国庫補助金額計60億1692万余円)において見受けられた。

(3) 小水力発電施設の国庫納付制度における渇水準備引当金及び建設改良積立金の取扱い

ア 渇水準備引当金

貴省は、渇水による売電収入の減少に伴い、土地改良施設維持管理費に充当する売電利益が減少した場合に、土地改良施設維持管理費等の財源として土地改良区の組合員から徴収する賦課金に影響が生ずることを緩和するために、渇水準備引当金を公営電気事業に準じて計上できることとしている。そして、手引によれば、渇水準備引当金は、渇水準備引当金に関する省令(昭和40年通商産業省令第56号)を参考として定めた算定方法により算定した額を引き当てることとされている。

しかし、公営電気事業においては、23年に行われた地方公営企業会計基準の見直しに伴って引当金の要件が明確にされ、渇水準備引当金は26年度決算から計上を認めないこととされている。

したがって、渇水準備引当金については、発電施設運営経費から除外するよう見直す必要があると認められる。そして、前記の8施設のうち渇水準備引当金を計上している6施設に係る渇水準備引当金の27年度末残高は計1億3315万余円であり(表3参照)、これに国の負担割合等を乗じて国費相当額を算出すると7610万余円となる。

イ 建設改良積立金

貴省は、将来にわたって安定した発電を継続するために、発電施設の更新等に当たり、予算の制約等により国庫補助事業等を活用できない場合等も考慮して、土地改良区の判断により更新等事業費の総額までを積立金限度額として建設改良積立金を積み立てることができることとしている。一方、建設改良積立金には実質的な国の負担となる国費相当額が含まれており、国庫補助事業等により発電施設の更新等を行う場合は、建設改良積立金を事業費の自己負担分に充当できることとしていることから、のとおり、発電施設の更新等に係る実質的な国の負担割合等が国庫補助事業の補助率を上回ることになっている。このように、建設改良積立金は、国庫補助事業に等しい財政援助効果があることから、農業農村整備事業等の枠組みにおける公平性を損なうおそれがある。

図 国庫補助事業の自己負担分に建設改良積立金を充当した場合の実質的な国の負担割合等の概念図(補助率50%の場合)

図 国庫補助事業の自己負担分に建設改良積立金を充当した場合の実質的な国の負担割合等の概念図(補助率50%の場合) 画像

また、建設改良積立金は、前記のとおり、国庫補助事業を活用できない場合等も考慮して積み立てることができるとされているが、法等に基づく土地改良施設の整備等に係る直轄事業や国庫補助事業における土地改良区の負担の実状に鑑みれば、土地改良区においてあらかじめ更新等事業費の総額を積み立てる必要性は低いと認められる。さらに、積立てに当たっては、発電施設の耐用年数(コンクリート造建物38年、構築物30年及び水力発電設備20年)が構造及び用途ごとに異なることから、それぞれの更新時期に応じて資金需要も異なるが、建設改良積立金が、発電施設の更新等に要する資金の必要額や必要となる時期を勘案して計画的に積み立てられていない状況が見受けられる(表4参照)。このように、国費相当額が含まれている建設改良積立金を発電施設の更新等に要する資金需要を勘案することなく積み立てることができる状況になっており、土地改良区が不要不急の余裕資金を保有することになるおそれがある。

表4 7土地改良区の8施設における建設改良積立金の状況(平成27年度末)

発電施設名 土地改良区名 建設年月 事業費
(千円)
(国の負担割合等(%))
国庫負担額又は国庫補助金額
(千円)
(土地改良区負担率(%))
土地改良区の負担額
(千円)
積立金限度額
(千円)
積立金残高
(千円)
事業費に占める積立金残高割合
(A) (B) (C=B/A)
大志田ダム発電所 馬淵川沿岸土地改良区
平成
21.3
2,056,843 (70.0)
1,439,790
(0)
設定なし 319,107 15.5%
安積疎水管理用発電所 安積疎水土地改良区 16.4 1,136,359 (66.7)
757,573
(16.3)
185,567
設定なし 222,267 19.5%
新宮川ダム発電所 会津宮川土地改良区 16.3 404,278 (70.0)
282,994
(1.1)
4,544
設定なし 1,913 0.4%
五城発電所 五城土地改良区 12.3 1,708,990 (50.0)
854,495
(22.5、30.0)
453,492
4,567,216 179,297 10.4%
臼中発電所 小矢部川上流用水土地改良区 10.11 492,663 (50.0)
246,331
(15.0)
73,899
1,071,400 396,381 80.4%
山田新田用水発電所 25.3 536,736 (50.0)
268,368
(15.0)
80,510
1,355,800 97,017 18.0%
七ヶ用水発電所 手取川七ヶ用水土地改良区 16.3 1,372,933 (50.0)
686,466
(25.0)
343,233
400,000 96,175 7.0%
新田原井堰発電所 吉井川下流土地改良区 15.3 2,961,811 (50.0)
1,480,905
(25.0)
740,452
50,000 50,000 1.6%
(注)
五城発電所、臼中発電所及び山田新田用水発電所の積立金限度額は、発電施設以外の土地改良施設の更新等に要する経費を含めるなどしていて更新等事業費の総額を上回って設定されている。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

小矢部川上流用水土地改良区は、平成10年度に県営かんがい排水事業(国庫補助事業)として富山県が整備した臼中発電所を同年12月に同県から譲与されている。また、同土地改良区は、24年度に地域用水環境整備事業(国庫補助事業)として富山県が整備した山田新田用水発電所を25年3月に同県から譲与されている。

上記のうち山田新田用水発電所の建設改良積立金について、同土地改良区は25年度分を3075万円、26年度分を6626万余円それぞれ積み立てたことから、27年度末の積立金残高9701万余円の事業費に対する割合は稼働開始から実質2か年で18.0%となっており、更新時期を考慮した計画的な積立てとなっていない。また、臼中発電所及び山田新田用水発電所の積立金限度額10億7140万円及び13億5580万円は、更新等事業費の総額5億9300万円及び5億1000万円に発電施設以外の土地改良施設の更新等に要する経費を含めたものとなっており、積立金限度額の設定に係る会計処理が適切ではない。

なお、会計実地検査時点において、両発電所における具体的な発電施設の更新計画は作成されていなかった。

したがって、建設改良積立金については、農業農村整備事業等の制度の枠組みと整合しつつ、発電施設の更新等に要する資金需要を勘案した計画的な積立てがなされるよう、これを更新等事業費に充当する場合の取扱い、発電施設運営経費とする範囲等を適切に見直す必要があると認められる。そして、前記の8施設に係る建設改良積立金の27年度末残高は13億6215万余円であり(表3参照)、これに国の負担割合等を乗じて国費相当額を算出すると7億8232万余円となる。

(是正改善及び改善を必要とする事態)

7土地改良区の国庫納付額算定の前提となる発電施設運営経費の妥当性が確認できない事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。また、渇水準備引当金の取扱いについて公営電気事業に準ずるなどした見直しが行われていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。さらに、建設改良積立金の財政援助効果により農業農村整備事業等の枠組みにおける公平性を損なうおそれがあったり、建設改良積立金が発電施設の更新等に要する資金需要を勘案して計画的に積み立てられていなかったりしている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、発電施設管理者である土地改良区において手引の内容の理解が十分でなく、国庫納付対象額の算定に係る会計経理を手引に従って適切に行うことの重要性に対する理解が十分でないことなどにもよるが、貴省において次のことなどによると認められる。

  • ア 国庫納付対象額の算定の基礎となる発電施設の運営に係る収支、会計処理等の土地改良区の発電事業に係る運営状況を適時適切に把握していないこと
  • イ 固定価格買取制度の開始や地方公営企業会計基準の見直し等の発電事業を取り巻く社会経済情勢の変化等に応じて国庫納付制度を適時適切に見直すことの重要性についての理解が十分でないこと

3 本院が求める是正改善の処置並びに要求する改善の処置及び表示する意見

貴省は、法等に基づき、小水力発電施設等の整備を今後も引き続き実施することとしていることから、引き続き農業農村整備事業等を適正に実施していくとともに、近年の国の厳しい財政状況に鑑み、国庫納付制度について事業の目的に沿った適切な運用を図っていく必要がある。

ついては、貴省において、次のとおり是正改善の処置を求め、並びに改善の処置を要求し及び意見を表示する。

  • ア 発電事業に係る運営状況を適切に把握して、必要に応じた指導ができる体制を整備し、土地改良区に対して、国庫納付対象額の算定を手引に従った会計処理により適切に行うよう指導すること(会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求めるもの)
  • イ 渇水準備引当金については、公営電気事業に準ずるなどして発電施設運営経費から除外するよう見直すこと(同法第36条の規定により改善の処置を要求するもの)
  • ウ 建設改良積立金については、農業農村整備事業等の制度の枠組みと整合しつつ、発電施設の更新等に要する資金需要を勘案した計画的な積立てがなされるよう、これを更新等事業費に充当する場合の取扱い、発電施設運営経費とする範囲等を見直すこと。そして、渇水準備引当金及び建設改良積立金の見直しにより過大に引き当て又は積み立てた金額が算出される場合は、当該算出額に係る国費相当額について、国庫納付を含めた国の負担の軽減に資する方策を講ずること(同法第36条の規定により意見を表示するもの)