【改善の処置を要求したものの全文】
農山漁村の活性化のために実施された事業の達成状況の評価等について
(平成30年10月22日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律(平成19年法律第48号。以下「法」という。)等に基づき、農山漁村の活性化を図るために、農山漁村における定住等及び農山漁村と都市との地域間交流を促進する施策を推進している。
法によれば、都道府県又は市町村(以下「都道府県等」という。)は、単独で又は共同して、当該都道府県等の区域内の地域であって、当該地域において定住等及び地域間交流を促進することが農山漁村の活性化にとって有効かつ適切であると認められるものなどについて、定住等及び地域間交流の促進による農山漁村の活性化に関する計画(以下「活性化計画」という。)を作成することができるとされている。そして、国は、活性化計画を作成した都道府県等(以下「計画主体」という。)が、活性化計画に基づく事業(以下「活性化事業」という。)等の実施をしようとするときは、その実施に要する経費に充てるため、予算の範囲内で交付金を交付することができるとされている。
そこで、貴省は、活性化計画の実現に必要な施設整備を中心とした取組を支援するために、活性化事業を実施する計画主体に対して、農山漁村振興交付金(平成27年度以前は農山漁村活性化プロジェクト支援交付金。以下、これらを合わせて「交付金」という。)を交付している。そして、交付を受けた計画主体は、活性化事業を実施する農林漁業団体等(以下「事業主体」という。)に交付金を配分している。
農山漁村振興交付金実施要綱(平成28年27農振第2325号農林水産事務次官依命通知。以下「要綱」という。)等によれば、活性化事業の対象は、「定住等の促進」及び「地域間交流の促進」という法の二つの目的に応じて区分されており、それぞれに対応した活性化事業が定められている。「定住等の促進」を目的とした活性化事業としては、農業用用排水施設、農林水産物の処理加工・集出荷貯蔵施設等の整備等、「地域間交流の促進」を目的とした活性化事業としては、農林漁業の体験施設、交流促進施設等の整備等がある。
法によれば、計画主体は、交付金を充てて活性化事業を実施しようとするときは、活性化計画を農林水産大臣に提出しなければならないとされている。活性化計画には、活性化計画の区域(以下「活性化計画区域」という。)、活性化事業、計画期間、活性化事業と一体となってその効果を増大させるために必要な事業等を記載するとともに、活性化計画の目標(以下「活性化計画目標」という。)、活性化事業に関連して実施される事業(以下「関連事業」という。)等を記載するよう努めることとされている。また、「農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律に基づく活性化計画制度の運用に関するガイドライン」(平成28年27農振第2449号農林水産省農村振興局長通知。以下「ガイドライン」という。)によれば、活性化計画目標は、活性化計画の達成状況等の評価に用いるもので、原則として定量的な指標を用いて具体的に記述することが望ましいとされており、活性化計画区域における居住者や滞在者の増加数等が適当な目標であると例示されている。
また、要綱等によれば、計画主体は、活性化事業の内容や活性化計画目標のうち活性化事業等により達成される目標(以下「事業目標」という。)等を定めた事業実施計画等を作成し、農林水産大臣に提出することとされている。この際、計画主体は、事業目標として、子ども農山漁村交流の促進、農林水産物等の販売・加工促進、農山漁村への定住促進等の項目の中から一つを選定した上で、評価指標として、要綱等に示されている中から定住人口の増加、交流人口の増加、滞在者数及び宿泊者数の増加、地域産物の販売額の増加及び雇用者数の増加を選択して定めることなどとされている。
要綱等によれば、計画主体は、農林水産大臣に活性化計画を提出する場合、活性化計画の内容及び活性化事業の適切性について自ら点検の上、事前点検シートを作成することとされている。事前点検シートには、活性化計画目標が法と適合しているか、活性化計画目標及び事業目標と活性化事業の内容の整合性が確保されているかなどの項目が挙げられている。
そして、農林水産大臣は、活性化計画、事業実施計画及び事前点検シートの内容について、活性化計画目標及び事業目標が適切に設定されているか、活性化事業の総合的な実施が活性化計画目標及び事業目標の達成に資すると認められるかなどを審査した上で、交付金の交付対象となる活性化計画の決定を行うこととされている。
要綱等によれば、計画主体は、活性化計画が終了する年度の翌年度以降に事業目標の達成状況等について評価を行うことなどとされている。そして、事業目標の達成率が低調(70%未満)である場合、計画主体は、その要因、推進体制及び施設の利用計画等の見直し等、事業目標の達成に向けた方策を内容とする改善計画を作成して、公表した後、農林水産大臣に提出する(以下、これら一連の手続を「事後評価」という。)こととされている。
一方、活性化計画目標の達成状況等について、要綱等では事後評価と同様の評価を行うことは規定されていないが、ガイドラインによれば、活性化計画を作成するに当たり留意することが望ましい事項として、計画主体は活性化計画について評価(以下、この計画主体による評価を「自己評価」という。)しておくこととされている。貴省は、この自己評価について、計画主体が活性化計画目標の達成状況等を評価するものであるとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、活性化計画目標は達成され活性化事業が十分に効果を発現しているか、設定された活性化計画目標は適切なものとなっているかなどに着眼して、交付金制度を開始した19年度から28年度までに実施された活性化事業のうち、活性化計画の計画期間が終了して事後評価が行われた1,223事業(428計画主体が作成した活性化計画693計画に係るもの。事業費計1364億7685万余円、交付金交付額計734億9549万余円)を対象として、貴省本省、7農政局等(注1)及び23都道府県(注2)において、活性化事業の実施状況等を確認するとともに、活性化事業の実施状況に関する調書の提出を受け、その内容を分析するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
検査の対象とした活性化事業1,223事業の活性化計画693計画について、活性化計画目標の達成状況を確認したところ、活性化計画目標の定量的な評価が困難であるなどのものがあったため、達成状況を確認できたものは346計画(623事業)となっていた。これらについて、活性化計画目標と事業目標の達成状況を比較したところ、表のとおり、事業目標が全て達成されている236計画(387事業)の27.1%に当たる64計画(100事業)について、活性化計画目標が達成されていなかったが、このうちの48計画(75事業。事業費計56億1084万余円、交付金交付額計27億3640万余円)について、これを作成した41計画主体は、自己評価を行うなど、活性化計画目標の達成に向けた検討を行う上で重要となる原因分析等を行っていなかった。
表 活性化計画目標と事業目標の達成状況及び原因分析等の状況
区分 | |||||
---|---|---|---|---|---|
活性化計画目標の達成状況を確認できたもの | 左のうち、事業目標が全て達成されているもの (注) |
活性化計画目標が達成されているもの | 活性化計画目標が達成されていないもの(a) | (a)のうち、原因分析等を行っていないもの | |
計画数 | 346 | 236 | 172 | 64 | 48 |
事業数 | 623 | 387 | 287 | 100 | 75 |
そして、上記の41計画主体に、活性化計画目標が達成されていない理由を徴取したところ、活性化事業の実施だけでは活性化計画目標を達成できなかったり、関連事業等との連携による相乗効果が発揮されなかったりしていたため、関連事業等の実施や見直しにより、活性化事業が関連事業等と相まってその効果を十分に発現するよう改善する余地があるとしているものが22計画(45.8%)見受けられた。
上記について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
愛知県及び愛知県岡崎市は、共同の計画主体として、平成24年度から26年度までを計画期間とする小望(こもう)地区活性化計画を作成している。そして、1.2kmの農業用用排水施設を整備して営農意欲を喚起し農業後継者を定着させることで、小望地区の23年時点の人口の維持確保を目指すことを活性化計画目標に設定している。
計画主体は、当該活性化計画目標を達成するための活性化事業として、定住等の促進に資する農業用用排水施設を整備することとした上で、事業目標については活性化計画目標と異なる評価指標として、農業用用排水施設の機能が確保される農地面積13haを設定している。そして、事業主体である明治用水土地改良区は、当該活性化事業を事業費7800万円、交付金交付額3300万円で実施している。
活性化計画の計画期間終了後の事後評価において、13haに係る農業用用排水施設の機能が確保されたことから、事業目標が達成されていたものの、小望地区の27年時点の人口は23年時点より減少していて、活性化計画目標が達成されていなかったが、計画主体は、自己評価を行うなどの原因分析等を行っていなかった。
そこで、活性化計画目標が達成されていない理由を計画主体から徴取したところ、就労、就学等により地元を離れる若い世代の人口が多かったため、農業後継者を定着させることができず、人口の維持確保ができなかったとしていたが、活性化計画においてこれに対処する関連事業等は計画されていなかった。
このため、計画主体は、活性化計画目標の達成に向けて、関連事業等の実施により、活性化事業が関連事業等と相まってその効果を十分に発現するよう改善する余地があるとしている。
また、活性化計画目標の設定状況をみたところ、29計画(60事業。事業費計61億7548万余円、交付金交付額計30億6692万余円)の活性化計画について、「定住等の促進」を目的とする活性化事業が実施されているにもかかわらず、活性化計画目標が「地域間交流の促進」に係るものとなっていたり(25計画)、「地域間交流の促進」を目的とする活性化事業が実施されているにもかかわらず、活性化計画目標が「定住等の促進」に係るものとなっていたり(4計画)していて、活性化事業等により実現しようとする法の二つの目的と活性化計画目標とが適切に対応していなかった。
そして、貴省は、これらの活性化計画を審査の上、交付金の交付対象となるものとして決定していた。
上記について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
山形県最上郡舟形町は、計画主体として、平成25年度から28年度までを計画期間とする舟形町地区活性化計画を作成している。そして、活性化計画区域への入込み者数を24年度の244,000人から28年度までに265,000人に増加させることや、地域生産物の販売量を24年度の737トンから28年度までに776トンに増加させることを活性化計画目標に設定している。
同町は、上記の活性化計画目標を達成するための活性化事業として、自らが事業主体となり、農林水産物処理加工施設の整備を事業費4969万余円、交付金交付額2484万余円で実施している。
しかし、上記農林水産物処理加工施設の整備は、要綱等において、「定住等の促進」を目的とした活性化事業とされているにもかかわらず、活性化計画目標として設定したもののうち入込み者数の増加は、「地域間交流の促進」に係るものとなっていて、活性化事業等により実現しようとする目的と活性化計画目標とが適切に対応していなかった。
そして、貴省は、当該活性化計画を審査の上、交付金の交付対象となるものとして決定していた。
(改善を必要とする事態)
活性化事業について、活性化計画目標が達成されていないのにその原因分析等が行われていなかったり、活性化計画目標が活性化事業等により実現しようとする法の二つの目的と適切に対応していなかったりしている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
近年、我が国の人口が減少傾向にある中、貴省は、農山漁村における定住等及び農山漁村と都市との地域間交流を促進して農山漁村の活性化を図ることが重要であるとして、今後も活性化事業の実施を支援することとしている。
ついては、貴省において、活性化事業が適切かつ効果的に実施されるよう、次のとおり改善の処置を要求する。