【改善の処置を要求したものの全文】
米穀周年供給・需要拡大支援事業の実施について
(平成30年10月10日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、平成27年度から、米穀周年供給・需要拡大支援事業実施要綱(平成27年26生産第3466号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等に基づき、米穀周年供給・需要拡大支援事業(以下「周年事業」という。)を実施している。
実施要綱等によると、周年事業は、需要に応じた米の生産・販売が行われる環境を整備するため、豊作等の影響により必要が生じた場合に、主食用米を長期計画的に販売する取組(以下「長期販売の取組」という。)や業務用向けなどへの販売促進等を図る取組(以下「業務用向けの取組」という。)等を行う集荷業者等を支援するものである。
長期販売の取組は、豊作の影響により主食用として作付・収穫された米穀の供給が需要を上回ることになった場合等に、当該米穀を生産年の翌年11月から翌々年の3月まで長期計画的に販売するものである。
集荷業者等は、米穀を販売するに当たり、生産者との間で出荷契約を締結して米穀販売の委託を受けるなどしている。そして、一般的に、集荷業者等は、生産者から集荷した米穀を倉庫に保管し、集荷した米穀に対する前渡金に相当する金額を金融機関等から借り入れることにより生産者に支払い、その後、次年産米の販売時期である生産年の翌年10月頃までに、順次、卸売業者等に米穀を販売し、販売代金を回収した時点で、生産者との間で上記の前渡金に相当する金額と販売代金との差額を精算している。
一方、長期販売の取組は、前記のとおり主食用として作付・収穫された米穀を翌年11月以降、長期計画的に販売するものであり、一般的な販売よりも販売代金の回収が遅れることなどに伴う経費が生ずることから、貴省は、周年事業において、長期販売の取組を行う集荷業者等の事業実施主体に対して、当該取組の実施に伴って生ずる経費について支援を行うこととしている。
米穀周年供給・需要拡大支援事業実施要領(平成27年26生産第3472号農林水産省生産局長通知。以下「実施要領」という。)によれば、長期販売の取組に対する支援の対象経費は金利倉敷料及び集約経費とされている。このうち、金利倉敷料は、長期販売の取組において、販売時期が遅れることに伴い増加することになる金融機関等への支払利息及び米穀の保管経費の2分の1に相当する額(以下、このうち支払利息の2分の1に相当する額を「金利相当額」という。)であり、金利倉敷料の基本単価については、実施要領において、補助対象となる米穀の保管期間に応じた販売数量1t当たり1,960円から6,440円までの金額が設定されている。そして、事業実施主体は、事業を実施して実績報告書を作成する際に、金利倉敷料の基本単価に長期販売の取組を行った各月の販売数量を乗ずるなどして金利倉敷料を算定し、これと同額の国庫補助金の交付を受けることとされている。
業務用向けの取組は、主食用米の外食・中食等への販売を拡大するための商品開発や販売促進等を実施するものであり、貴省は、周年事業において、事業実施主体が販売促進等のために実施した広告宣伝、委託等に要した経費について支援を行うこととしている。支援に当たっては、家庭用向けの消費拡大のみを目的としている取組は補助の対象に含めないこととなっている。
実施要綱等によれば、事業実施主体は、周年事業を実施しようとするときは、事業の目的、取組方針、取組内容等を記載した事業実施計画等を地方農政局長等に提出して、その承認を受けることとされている。また、事業実施後は、事業実施計画に基づく取組の実施状況及び評価について、実施要領に定める事業実施状況等報告を作成して、地方農政局長等へ報告することとされている。そして、事業実施状況等報告には、事業実施計画に基づく取組の評価として、取組によって生じた米穀の契約進捗、集荷状況等の成果を記載するよう例示されている。その一方で、事業実施計画には、事業を実施するに当たっての取組の目標について設定することとはされていない。
貴省は、上記のとおり、事業実施計画には取組の目標を設定することとはしていないものの、補助対象事業の選定過程において、外部有識者から業務用向けの取組については定量的な目標を設定することが必要との意見があったことから、28年度以降、業務用向けの取組を実施する事業実施主体に対して、定量的に把握可能な目標を設定し評価するよう各地方農政局等を通じて口頭での指導を行っている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、有効性等の観点から、長期販売の取組に係る金利相当額は実態に即した適切なものとなっているか、業務用向けの取組の目標は適切に設定され評価は適切に行われているかなどに着眼して、31事業実施主体が27年度から29年度までの間に実施した90事業(事業費計60億3571万余円、国庫補助金交付額計28億8677万余円)を対象として、貴省本省、8農政局等(注1)及び31事業実施主体において、交付申請書、実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴省は、前記のとおり、米穀の保管期間に応じた販売数量1t当たりの金利倉敷料の基本単価を定めている。また、貴省は、金利倉敷料の基本単価のうち金利相当額については、実施要領を制定した27年度に、22年から26年までの各年産の主食用米である銘柄ごとの相対取引価格(注2)の平均単価14,089円/60kg(以下「制定時平均単価」という。)に、実施要領を制定した時点での短期プライムレートの利率1.475%を乗ずるなどして算出した144円/t・月を採用していた。そして、これに保管経費を加えた単価(以下「基礎単価」という。)を560円/t・月と設定し、これに月数を乗じて金利倉敷料の基本単価を算定していた。なお、貴省は、基礎単価について、これまで相対取引価格の平均単価や短期プライムレートの確認は行っていたものの、それらの値には大きな変動がないことから、実施要領制定以降一度も改定していない。
また、貴省は、実施要領において、事業実施主体が米穀の販売契約に早期に取り組んだ場合の金利倉敷料に対する加算を複数定めていて、これらの加算額はいずれも基礎単価を基に算定されている。
そして、31事業実施主体が27年度から29年度までの間に実施した90事業のうち、長期販売の取組を実施していた14事業実施主体の26事業(事業費計17億5894万余円、国庫補助金交付額計9億0879万余円)についてみたところ、長期販売の取組を行った販売数量計143,002tに実施要領に定められた金利倉敷料の基本単価を乗ずるなどして金利倉敷料を計6億8377万余円と算定し、同額の国庫補助金の交付を受けていた。
しかし、14事業実施主体が実施した長期販売の取組に係る借入れの実態を確認したところ、各事業実施主体は、貴省が制定時平均単価の算定に用いた相対取引価格ではなく、各事業実施主体が生産者から集荷する際に支払う金額として銘柄ごとに定めている概算金の単価を基に借入金の額を算定して借入れを行っていた。そして、14事業実施主体が27年度から29年度までの間に実施した長期販売の取組で対象となった銘柄ごとの概算金の単価を確認したところ、14事業実施主体の延べ83銘柄の概算金の単価は8,700円/60kgから17,200円/60kgまでとなっていて、制定時平均単価14,089円/60kgを上回る銘柄も一部でみられたものの、14事業実施主体の延べ62銘柄においては、概算金の単価が制定時平均単価を下回っていた。
また、14事業実施主体の26事業に係る借入れにおいては、金融機関等との契約によって定められた0.23%から1.55%までの借入利率(年度別の平均をみると27年度1.475%、28年度1.037%、29年度0.867%)が適用されており、短期プライムレートの利率1.475%よりも高い借入利率も一部でみられたものの、14事業実施主体の22事業においては、短期プライムレートの利率よりも低い借入利率で資金を借り入れていた。
そこで、14事業実施主体が借入金の算定に用いた概算金の単価及び実際の借入利率に基づいて金利倉敷料を試算したところ、計6億2017万余円となり、前記の国庫補助金計6億8377万余円はこれと比べて6360万余円割高になっていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
A協議会は、平成28、29両年度に実施した周年事業において、長期販売の取組を行った販売数量計18,990.55tに実施要領に定められた金利倉敷料の基本単価を乗ずるなどして金利倉敷料を算定し、国庫補助金計93,647,534円の交付を受けていた。
しかし、同協議会の資金の借入れの実態を確認したところ、借入金の算定に用いていた単価は銘柄ごとに設定された概算金の単価10,000円/60kgから13,500円/60kgまでとなっていて、いずれも貴省が基礎単価の算定根拠とした制定時平均単価14,089円/60kgを下回っていた。
また、同協議会の構成員で資金調達を担当しているB組合が金融機関との間で締結した約定書によると、実際の借入利率は28年度1.0%及び29年度0.8%となっていて、貴省が基礎単価の算出根拠に適用した短期プライムレートの利率1.475%と比べて低い借入利率で資金を借り入れていた。
そこで、上記概算金の単価及び実際の借入利率に基づいて金利倉敷料を試算すると計81,051,220円となり、前記の国庫補助金計93,647,534円はこれと比べて12,596,314円割高になっていた。
事業実施主体が事業実施後に作成する事業実施状況等報告において、周年事業の取組を自ら評価するためには、目標をあらかじめ適切に設定しておくことが重要である。また、適切な目標に対する取組の達成状況を貴省において的確に把握し、評価することにより、今後行う周年事業について改善が図られて、事業効果の発現に寄与することが期待できる。
そして、前記のとおり、貴省は、28年度以降、業務用向けの取組を実施する事業実施主体に対して、定量的に把握可能な目標を設定し評価するよう各地方農政局等を通じて口頭での指導を行っている。
そこで、31事業実施主体が27年度から29年度までの間に実施した90事業のうち、貴省が28年度中に3回の公募を行い、その都度、事業実施主体に口頭での指導を行っていたことに鑑み、29年度に業務用向けの取組を実施していた25事業実施主体の28事業(事業費計16億9191万余円、国庫補助金交付額計7億5143万余円)について、目標の設定及び評価の報告状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。
上記の業務用向けの取組28事業においては、米穀の販売数量、集荷数量に対する契約取得率、新規取引件数等を目標として設定していた。
しかし、このうち10事業実施主体が実施した11事業(事業費計8億8723万余円、国庫補助金交付額計3億7560万余円)については、目標に掲げた米穀の販売数量等の数値が、業務用向けの販売数量等ではなく家庭用向けの販売数量等を含む集荷数量全体に対する販売数量等となっていて、実施した業務用向けの取組の事業効果を的確に把握できる目標とはなっていなかった。
業務用向けの取組について事業実施後に適切な評価を行うためには、事業実施計画等において、業務用向けの販売数量等を目標に設定するなど、実施した業務用向けの取組の事業効果を的確に把握できる目標を設定することとする必要がある。
そして、事業実施主体は、米穀の流通システムが複雑であることなどから業務用向けの販売数量等を把握することが困難な場合であっても、業務用米穀の販売先件数等を目標に設定している事業実施主体の例を参考にするなどして、業務用向けの取組を評価するための適切な目標を設定する必要がある。
事業実施計画等において設定した目標及び事業実施状況等報告等において貴省に報告した取組の評価についてみたところ、前記の業務用向けの取組28事業のうち5事業実施主体が実施した5事業(事業費計1億9106万余円、国庫補助金交付額計9401万余円)において、新規取引の商談件数の対前年比を目標として設定しているのに、商談件数ではなく販売実績数量で評価を行っていたり、集荷数量に占める複数年契約等の割合の対前年比を目標として設定しているのに、複数年契約等の割合ではなく集荷数量で評価を行っていたりするなど、目標で設定した指標と異なる指標等に基づいて取組の評価が行われていた。そして、地方農政局等は、目標との整合が取れていない評価が記載された事業実施状況等報告を受領していたのに、その内容について指導等を行っていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
全国農業協同組合連合会山口県本部は、平成29年度に、周年事業における業務用向けの取組として、テレビCM等の広告宣伝(事業費481万余円、国庫補助金交付額222万余円)を実施していた。同本部は、事業実施計画等において、集荷数量に占める収穫前契約及び複数年契約の割合を前年よりも増加させることを目標として設定していた。
しかし、取組の評価についてみたところ、同本部は、事業実施状況等報告では、同本部全体の集荷数量、テレビCM視聴率等の評価は行っていたが、当該目標に掲げた集荷数量に占める収穫前契約及び複数年契約の割合に対する評価は行っていなかった。そして、中国四国農政局は、同本部が提出した目標との整合が取れていない評価が記載された事業実施状況等報告を受領していたのに、その内容について指導等を行っていなかった。なお、集荷数量に占める収穫前契約及び複数年契約の割合は前年に比べて1.6%減少しており、目標値を達成していなかった。
このように、事業実施状況等報告等において、事業実施計画等で設定した目標とは異なる指標等に基づいて取組の評価が行われていたり、地方農政局等における事業実施状況等報告等の確認や指導が十分に行われていなかったりなどしていて、目標に対する取組の達成状況が適切に把握されていない状況となっていた。
(改善を必要とする事態)
周年事業の実施に当たり、事業実施主体の借入金の基となる実際の単価及び借入利率を適用することとしていないため、借入れの実態を反映しないまま国庫補助金を交付している事態、取組の効果を的確に把握できるように目標を設定していなかったり、評価が目標と整合したものとなっていなかったりしている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
貴省は、国が策定する需給見通しなどを踏まえつつ生産者や集荷業者・団体が中心となって円滑に需要に応じた生産が行える状況になるよう、今後も引き続き周年事業を実施していくこととしている。
ついては、貴省において、周年事業が経済的かつ効果的に実施されるよう、次のとおり改善の処置を要求する。