林野庁は、国有林野の管理経営に関する法律(昭和26年法律第246号)等に基づき、国土の保全その他国有林野の有する公益的機能の維持増進を図るとともに、林産物を持続的かつ計画的に供給することなどを目標として、国有林野の適切かつ効率的な管理経営を行うこととしている。そして、林野庁は、需要の拡大が必要な一般材及び低質材の計画的、安定的な供給を通じて、地域における安定供給体制の整備や木材の新たな需要の拡大、原木の加工・流通の合理化等に資することを目的として、製材工場、素材生産業者等の買受けを希望する者(以下「買受希望者」という。)と国有林材の販売に関する相互協定(以下「販売協定」という。)を締結して、木材市場等を介さずに買受希望者に直送することにより、計画的な販売を実施している(以下、販売協定を締結して行う国有林材の販売を「システム販売」という。)。
森林管理局は、システム販売の実施に当たっては、「国有林材の安定供給システムによる販売について」(平成14年14林国業第25号林野庁長官通知。以下「要領」という。)等に基づき、次のとおり、企画競争方式により協定者の選定を行い、販売協定を締結することとされている。
① 森林管理局は、協定期間、材種、販売予定量等を示して公告を行う。
② 買受希望者は、申請書とともに、買受けを希望する林産物の加工・流通等に係る取組提案及び買受希望価格を記載した企画提案書を森林管理局へ提出する。
③ 森林管理局は、局内に設置した販売推進委員会において、同局が定める審査基準に基づき、企画提案書の内容等の審査・評価を行って点数を付与し、その点数の合計により販売協定を締結することが適当と認められる者(以下「協定予定者」という。)を選定する。
④ 森林管理局は、選定された協定予定者と販売協定を締結する。
要領等によれば、企画提案書に記載する取組提案は、その内容が生産・流通に係るコストの縮減を図るものなどの事項に該当し、かつ、その事項について具体の取組内容を可能な限り定量的な数値指標を用いて記載しなければならないとされていて、これらが記載されていない取組提案には点数を付与しないこととされている。
森林管理署等は、販売協定が締結された国有林材を、国有林野の産物売払規程(昭和25年農林省告示第132号)に基づき、協定者に随意契約により販売している。
また、森林管理局は、要領等に基づき、協定期間終了後に、協定者に対して企画提案書に記載された取組提案等の実施状況に関する報告書(以下「実施報告書」という。)を提出させ、販売推進委員会を開催して、実施報告書に基づきシステム販売の実行結果の検証を行い、協定者の責に帰すべき事由により取組提案の内容を踏まえた取組が実施されておらず、意図した結果が得られていないと判断した場合には、当該協定者の次回の企画提案書の審査・評価の際に一定点数を減点することとされている。
(検査の観点及び着眼点)
本院は、合規性、有効性等の観点から、協定予定者の選定に当たり、企画提案書に記載された取組提案は要領等に基づき適切に審査・評価が行われているか、取組提案は提案されたとおりに実施されているかなどに着眼して検査した。
(検査の対象及び方法)
検査に当たっては、平成28、29両年度の7森林管理局(注1)の51森林管理署等(注2)に係るシステム販売による販売契約等(販売契約件数3,834件、販売金額計125億4959万余円、公告物件数596件)を対象として、林野庁、7森林管理局及び51森林管理署等において、システム販売の実施状況等に関する調書を徴するなどして検査するとともに、協定書、企画提案書、審査結果に関する資料、実施報告書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
森林管理局は、前記のとおり、局内に設置した販売推進委員会において、国有林材の買受希望者から提出された企画提案書の内容等の審査・評価を行い、協定予定者を選定している。そして、前記の販売協定を締結した公告物件596件については、審査・評価の結果、延べ829件の協定予定者が選定されていた。
そこで、上記829件の審査・評価について、販売推進委員会が作成した審査結果に関する資料を確認したところ、表1のとおり、①公告された樹種と異なる樹種に関する取組提案を記載しているなど買受けを希望する林産物と関係のない取組提案に点数を付与し、これに基づき協定予定者を選定し、販売協定を締結していたものが4森林管理局に係る150件で見受けられた。また、②具体的な内容や定量的な数値指標が記載されていない取組提案に点数を付与していたものが見受けられ、全ての取組提案について具体的な内容や定量的な数値指標が記載されておらず、全く点数を付与することができないのに点数を付与し、これに基づき協定予定者を選定し、販売協定を締結していたものが7森林管理局に係る221件で見受けられた。
そして、①の150件及び②の221件の合計から重複を除いた325件に係る国有林材は、販売協定に基づき販売金額計37億8359万余円(数量計52万9742.8m3)で販売されていた。
表1 協定予定者の選定における取組提案の審査・評価状況等
森林管理局名 | 協定者に係る審査・評価を行った件数 | 買受けを希望する林産物と関係のない取組提案に点数が付与されていた件数 | 全ての取組提案について具体的な内容や定量的な数値指標が記載されていないものの件数 | (A)と(B)の重複を除いた件数 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
左に係る国有林材の販売 | ||||||
(A) | (B) | 数量 | 販売金額 | |||
北海道 | 90 | 0 | 14 | 14 | 38,077.3 | 237,251 |
東北 | 120 | 4 | 8 | 12 | 24,971.4 | 152,832 |
関東 | 81 | 0 | 15 | 15 | 60,006.7 | 289,579 |
中部 | 56 | 0 | 15 | 15 | 47,414.8 | 289,929 |
近畿中国 | 57 | 28 | 34 | 56 | 91,797.7 | 579,680 |
四国 | 66 | 64 | 17 | 64 | 136,663.3 | 1,168,088 |
九州 | 359 | 54 | 118 | 149 | 130,811.2 | 1,066,237 |
合計 | 829 | 150 | 221 | 325 | 529,742.8 | 3,783,598 |
前記829件の審査・評価に係る取組提案の実施状況について、実施報告書を確認したところ、表2のとおり、①実施報告書に提案どおりに実施できなかった取組提案があると記載されていたものが7森林管理局に係る330件で見受けられた。しかし、このような取組提案について、協定期間中に森林管理局において実施状況を確認したり、協定期間終了後に販売推進委員会において実施報告書に基づいて実行結果を検証したりしていた実績は確認できなかった。また、上記の330件に係る協定者について、次回の企画提案書の審査・評価において減点の措置を行うこととされたものは全くなかった。
また、②実施報告書に結果の記載がない取組提案を含むものが5森林管理局に係る194件あり、森林管理局を通じて協定者に実施状況を確認したところ、提案どおりに実施できていなかったものが4森林管理局に係る56件で見受けられた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
東北森林管理局は、平成28年4月に、下北森林管理署管内で28年度に生産を予定している低質材3,300m3について公告を行い、買受けを希望したA組合から企画提案書の提出を受けた。そして、同局が示した「原木や製品の付加価値の向上を図るもの」の項目には、「低質材について木材の一般的利用から一変した用途の開発、水質浄化等の新分野への利用拡大を図る」という取組提案(以下「新分野への利用拡大の取組提案」という。)が記載されており、同局は、これを評価して点数を付与するなどにより、A組合を協定予定者に選定し、同年6月に、A組合と販売協定を締結していた。そして、同局は、販売協定に基づき、協定期間終了後に実施報告書を提出させ、販売推進委員会において実行結果の検証を行うこととしていた。
しかし、同局は、協定期間中や協定期間終了後に、A組合に対して取組提案の実施状況を確認していなかった。そして、新分野への利用拡大の取組提案の結果が実施報告書に記載されていないのに、販売推進委員会は、この新分野への利用拡大の取組提案の実施状況をA組合に確認するなどして実行結果の検証を行っていなかった。また、A組合について、次回の企画提案書の審査・評価において減点の措置を行わないとしていた。
そこで、同局を通じてA組合に、新分野への利用拡大の取組提案の実施状況を確認したところ、実施できていなかった。
そして、①の330件及び②の56件の合計から重複を除いた358件に係る国有林材は、販売協定に基づき販売金額計42億4485万余円(数量計61万0142.4m3)で販売されていた。
表2 取組提案の実施状況等
森林管理局名 | 協定者に係る審査・評価を行った件数 | 実施報告書に提案どおりに実施できなかった取組提案があると記載されていたものの件数 | 実施報告書に結果の記載がない取組提案を含むものの件数 | (A)と(C)の重複を除いた件数 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
左のうち、確認した結果、提案どおりに実施できていなかったものの件数 | 左に係る国有林材の販売 | ||||||
(A) | (B) | (C) | 数量 | 販売金額 | |||
北海道 | 90 | 9 | 9 | 9 | 17 | 41,458.2 | 319,427 |
東北 | 120 | 46 | 6 | 6 | 48 | 130,099.8 | 762,402 |
関東 | 81 | 19 | 0 | 0 | 19 | 85,652.9 | 381,286 |
中部 | 56 | 4 | 15 | 11 | 14 | 55,031.1 | 372,099 |
近畿中国 | 57 | 15 | 0 | 0 | 15 | 32,746.2 | 166,890 |
四国 | 66 | 19 | 34 | 30 | 44 | 83,932.2 | 693,195 |
九州 | 359 | 218 | 130 | 0 | 201 | 181,221.7 | 1,549,554 |
合計 | 829 | 330 | 194 | 56 | 358 | 610,142.4 | 4,244,856 |
このように、協定予定者の選定における取組提案の審査・評価に当たり、買受けを希望する林産物と関係のない取組提案に点数が付与されていたり、全ての取組提案について具体的な内容や定量的な数値指標が記載されておらず、全く点数を付与することができないのに点数が付与されていたりしていた事態、また、取組提案が実施できていないのに、森林管理局において取組提案の実施状況を確認していなかったり、販売推進委員会において実行結果の検証をしていなかったりしていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、森林管理局において、協定予定者の選定における取組提案の審査・評価並びに取組提案の実施状況の確認及び実行結果の検証の必要性についての理解が十分でなかったことにもよるが、林野庁において、要領等において示している企画提案書の様式を、取組提案の具体的な内容や定量的な数値指標が確実に記載されるものにしていなかったこと、森林管理局に対して、取組提案の実施状況の確認及び実行結果の検証について明確に指示していなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、林野庁は、30年8月に森林管理局に対して通知を発して、取組提案の審査・評価を適切に行うよう、次のような処置を講じた。
ア 取組提案の具体的な内容や定量的な数値指標が記載されるよう企画提案書の様式を改めて、これに基づき審査・評価を行うよう指示した。
イ 審査において評価された取組提案を協定書に添付することにより明確にし、協定期間中に取組提案の実施状況を確認して、必要に応じて協定者に指導を行うなどして取組提案の実施を促すよう指示するとともに、実施できなかった取組提案については取組提案の実施報告書に理由を記載させて把握し、販売推進委員会において適切に実行結果の検証をした上で、意図した結果が得られていないと判断した場合は、審査基準に基づき、当該協定者の次回の企画提案書の審査・評価において減点を行うよう指示した。