植物防疫法(昭和25年法律第151号)等によれば、有用な植物に重大な損害を与えるおそれがある病害虫(以下「重要病害虫」という。)が国内において発生した場合に、これを駆除し、及びそのまん延を防止するために必要があるときは、国は、重要病害虫の防除(以下「緊急防除」という。)を行うこととされている。そして、国は、緊急防除を行うために必要があるときは、対象となる地方公共団体等に対して協力を指示することができるとされている。農林水産省は、上記の協力に基づき、消費・安全対策交付金事業を実施した地方公共団体(以下「事業主体」という。)に対して、事業の実施に要した費用と同額の食料安全保障確立対策推進交付金(平成27年度以前は食の安全・消費者の信頼確保対策推進交付金。以下「交付金」という。)を交付している。
農林水産省は、21年4月に、東京都青梅市において、ウメ、モモ等の農作物に甚大な被害を与える重要病害虫であるプラムポックスウイルス(以下「PPV」という。)の発生を国内で初めて確認したことから、PPVの緊急防除を図るため、植物防疫法に基づく「プラムポックスウイルスの緊急防除に関する省令」(平成22年農林水産省令第4号)を制定するなどするとともに、防除期間を22年2月20日から27年3月31日までとして、PPVの緊急防除を開始した。そして、緊急防除を開始した後も、PPVによる我が国の農業へのリスクが生じ続けていることなどから、農林水産省は、防除区域の追加を行うとともに、防除期間を33年3月31日まで延長している。
事業主体は、調査の結果によりPPVの発生を確認した場合には、PPVに感染した当該樹木等やその周囲の樹木等について、所有者又は管理者との間において必要な手続を経るなどして、枝の打払、幹の伐採、伐根又は薬液塗布、運搬、焼却による処分等(以下「伐採処分」という。)を実施するなどしている。そして、事業主体は、実施箇所が広範囲で作業量が膨大であるなどのため、伐採処分に係る業務(以下「伐採処分業務」という。)を民間業者等に委託するなどして実施している。
消費・安全対策交付金実施要領(平成17年16消安第10272号農林水産省消費・安全局長通知)によれば、交付金の対象となる伐採処分に要する経費等は、都道府県において使用されている単価及び歩掛かりを基準として、地域の実情に即した適正な現地実行価格により算定することとされている。一方、農林水産省は、伐採処分業務に係る委託費の積算における適正な現地実行価格の算定方法については、明確な指針等を定めていない。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、伐採処分業務に係る委託費の積算は適切なものとなっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、27、28両年度において、PPVの緊急防除として6事業主体(注1)が21市町(注2)の区域内で実施した伐採処分業務に係る積算額が100万円以上の委託契約計42件(契約金額計1億3075万余円、交付金交付額同額)を対象として、農林水産本省及び6事業主体において、設計書、見積書等の書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
伐採処分業務に係る委託費の積算に当たり、①2事業主体の6契約においては、伐採処分費は樹木の幹の周囲の長さ(以下「幹周」という。)の影響を大きく受けるにもかかわらず、幹周の区分を過年度において処分本数の実績が一番多かった1区分のみとして伐採処分費を算定するなどしていた。また、②3事業主体の7契約においては、伐採処分業務とは作業内容が異なる土地改良工事に適用する諸経費率を適用して伐採処分費を算定するなどしていた。さらに、③1事業主体の2契約においては、事業に必要な土地等の取得等に伴う損失の適正な補償の確保を目的に定められた「公共用地の取得に伴う損失補償基準」(昭和37年用地対策連絡会決定。以下「損失補償基準」という。)に、庭木等の伐採除却や、植換えなどの移植等を行った場合に通常要する費用相当額の算定方法等が定められていることから、損失補償基準を基に算定していたものの、伐採処分業務とは作業内容が異なる庭木等の移植を行った場合の費用相当額を基に伐採処分費を算定していた(表参照)。
表 伐採処分費の算定が適切でなかったもの
態様 | 事業主体名 | 契約数 |
---|---|---|
①幹周の区分を過年度において処分本数の実績が一番多かった1区分のみとして伐採処分費を算定するなどしていたもの | 愛知県 | 5契約 |
兵庫県 | 1契約 | |
計 | 2事業主体 | 6契約 |
②伐採処分業務とは作業内容が異なる土地改良工事に適用する諸経費率を適用して伐採処分費を算定するなどしていたもの | 大阪府 | 5契約 |
三重県 | 1契約 | |
和歌山県 | 1契約 | |
計 | 3事業主体 | 7契約 |
③伐採処分業務とは作業内容が異なる庭木等の移植を行った場合の費用相当額を基に伐採処分費を算定していたもの | 兵庫県 | 2契約 |
計 | 1事業主体 | 2契約 |
合計 | 5事業主体 | 14契約 |
そして、これらの5事業主体の14契約の委託費の積算額は、計1億2165万余円と算定されていた。
前記のとおり、損失補償基準には、庭木等の伐採除却を行った場合の費用相当額の算定方法等が定められており、これによれば、庭木等の伐採除却に通常要する費用相当額は、伐採対象となる樹木の幹周に応じておおむね15区分程度に区分された1本当たりの伐採処分の単価に、伐採した樹木の本数を乗ずるなどして算定することとされている。そして、損失補償基準は、補償費の算定に広く適用されているものであり、損失補償基準における樹木の伐採処分に通常要する費用相当額を基に過去の実績、業者の見積価格等も考慮するなどすれば、伐採処分業務の実態に即した適正な現地実行価格により伐採処分費を算定することができたと認められた。
このように、伐採処分業務に係る委託費の積算に当たり、業務の実態に即した適正な現地実行価格によらずに伐採処分費を算定していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた委託費の積算額)
前記5事業主体の14契約における委託費の積算額計1億2165万余円について、各地域における損失補償基準に基づいて、各事業主体が保有していた既存の資料等を基に把握するなどした損失補償基準の幹周区分に対応した伐採樹木の本数を用いるなどして修正計算すると計6923万余円となり、計約5240万円(交付金相当額同額)低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、30年8月に、伐採処分業務に係る委託費の積算について指針を定め、伐採処分業務の実態に即した適正な現地実行価格について、損失補償基準を基に過去の実績、業者の見積価格等も考慮するなどして算定することとするとともに、全国の都道府県に対して事務連絡を発し、当該指針に基づき伐採処分業務に係る委託費の積算を適正に行うよう周知徹底する処置を講じた。