ページトップ
  • 平成29年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 農林水産省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(6) 沿岸漁業改善資金が適切な規模で有効に運営されるよう、水産庁において余剰金の自主納付制度が十分に活用されているかについて十分に確認できる体制を整備し、必要に応じて都道府県と余剰金の額の再算定や自主納付の再検討について協議等を行うことができるよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)水産庁 (項)水産業振興費
部局等
水産庁
助成の根拠
沿岸漁業改善資金助成法(昭和54年法律第25号)
補助事業者
事業主体
36都道府県
補助事業
沿岸漁業改善資金貸付
補助事業の概要
沿岸漁業経営の改善等のために沿岸漁業従事者等が必要とする資金の貸付事業を行う都道府県に対して、資金の造成に要する経費の一部を補助するもの
36都道府県における資金保有額
159億9494万余円(平成28年度末)
上記の資金に対する国庫補助金相当額
106億6281万余円
平成27年度又は28年度に自主納付制度が十分に活用されているかについて確認できていなかった余剰金の額
14県 14億0573万余円
上記に対する国庫補助金相当額
9億3715万円

1 沿岸漁業改善資金等の概要

(1) 沿岸漁業改善資金の概要

水産庁は、沿岸漁業改善資金助成法(昭和54年法律第25号)に基づき、沿岸漁業の経営の健全な発展、漁業生産力の増大及び沿岸漁業の従事者の福祉の向上に資することを目的として、沿岸漁業従事者等が沿岸漁業経営の改善等のために必要とする資金の貸付事業を行う都道府県に対して、当該貸付事業に必要な資金の3分の2に相当する額以内の額を沿岸漁業改善資金造成費補助金として交付している。

そして、都道府県は、上記の国庫補助金に自己資金等を合わせて沿岸漁業改善資金を造成して、近代的な漁業技術の導入等を行う沿岸漁業従事者等に対して必要な資金を無利子で貸し付ける沿岸漁業改善資金貸付事業を実施しており、平成28年度末時点で、39都道府県(注1)において沿岸漁業改善資金が造成されている。

(注1)
39都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、千葉、神奈川、新潟、富山、石川、福井、静岡、愛知、三重、滋賀、兵庫、和歌山、鳥取、島根、岡山、山口、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県

(2) 余剰金の自主納付制度の概要

水産庁は、23年度以降、「沿岸漁業改善資金に係る資金規模の適正化について」(平成23年22水推第937号水産庁増殖推進部研究指導課長通知)等に基づき、都道府県に沿岸漁業改善資金に係る余剰金の算定を行わせ、23年度から26年度までに12府県において余剰金の自主納付が行われてきた。そして、同庁は、27年4月に改正した「沿岸漁業改善資金計画の取扱いについて」(昭和54年54水研第612号水産庁長官通知。以下「長官通知」という。)に基づき、実績報告書において、都道府県に、おおむね次の手順により、余剰金の額の算定を行わせ、余剰金の自主納付についての検討結果を農林水産大臣に報告させることとしている。

① 実績報告書を提出する年度(以下「提出年度」という。)の前年度以前の5か年度における年間貸付額の最大額(以下「過去最大実績額」という。)を基に、提出年度以降の5か年度における各年度の貸付計画額を算定する。

② ①の貸付計画額を基に余剰金の額を算定し、提出年度又はその翌年度に余剰金の自主納付を行うことについて検討する。

また、都道府県は、上記の貸付計画額の算定や余剰金の自主納付の検討において、資金需要の増加要因等の事情を勘案することができることとなっており、過去最大実績額に基づくことなく貸付計画額を算定したり、余剰金の自主納付を行わないこととしたりする場合、実績報告書にそれらの事情を具体的に記載することとなっている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、水産庁が、都道府県における沿岸漁業改善資金に係る余剰金の額の算定状況及び自主納付の検討状況について十分に確認するなどして、都道府県において自主納付制度が十分に活用されていることを確認しているか、同資金が適切な規模で有効に運営されているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、東日本大震災の影響が特に大きく、余剰金の額の算定を適切に行うことが困難な岩手、宮城、福島各県を除く36都道府県に係る沿岸漁業改善資金(28年度末資金保有額計159億9494万余円、国庫補助金相当額計106億6281万余円)を対象として、水産庁及び13都道府県(注2)において、26年度事業に係る実績報告書(以下「26年度実績報告書」という。)等の書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、残りの23府県については、同庁から26年度実績報告書等の書類の提出を受けるなどして検査した。

(注2)
13都道府県  東京都、北海道、大阪府、青森、千葉、神奈川、新潟、福井、静岡、愛知、兵庫、福岡、沖縄各県

(検査の結果)

26年度実績報告書における余剰金の額の算定状況及び自主納付の検討状況について検査したところ、次のような事態が見受けられた。

前記36都道府県のうち、6府県は27年度又は28年度に余剰金の自主納付を行っていたが、30都道府県は余剰金の自主納付を行っていなかった。そこで、当該30都道府県について、余剰金の額の算定状況についてみたところ、13府県は貸付計画額を過去最大実績額以下に設定するなどして余剰金の額を算定していたが、残りの17都道県は貸付計画額を過去最大実績額よりも高額に設定して余剰金の額を算定していた。そして、当該17都道県について、過去最大実績額を貸付計画額として余剰金の額を算定すると、11県は、26年度実績報告書において算定されていた余剰金の額が増加することとなり、残りの6都道県のうち3県は、26年度実績報告書において発生しないとしていた余剰金が発生することとなった。

そこで、余剰金の額が増加することとなった11県(注3)と余剰金が発生することとなった3県(注4)の計14県(以下「14県」という。)について、貸付計画額を過去最大実績額よりも高額に設定した事情を26年度実績報告書により確認したところ、その事情が記載されていなかったり、記載されていた事情の妥当性が確認できない状況となっていたりしていた。そして、14県のうち会計実地検査を実施した3県(注5)について、貸付計画額の具体的な設定状況を確認したところ、沿岸漁業従事者等の要望調査による貸付需要額を貸付計画額としていたが、貸付実績額の状況をみたところ、26年度以前の5か年度の間、毎年度、貸付実績額が貸付需要額を大幅に下回っていて、貸付計画額を過去最大実績額よりも高額に設定したことの妥当性の根拠が十分でないと考えられる状況となっていた。

(注3)
11県  秋田、千葉、福井、滋賀、兵庫、和歌山、山口、愛媛、高知、大分、鹿児島各県
(注4)
3県  石川、鳥取、徳島各県
(注5)
3県  千葉、福井、兵庫各県

また、14県のうち、26年度実績報告書において余剰金が算定されていた11県について、余剰金の自主納付を行わないこととした事情を確認したところ、その事情が記載されていなかったり、記載されていた事情の妥当性が確認できない状況となっていたりしていた。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

兵庫県は、26年度実績報告書において、過去最大実績額を基準に、過去5か年度以前の貸付実績及び追加機器等の貸付見込みにより貸付計画額を算定したなどとして、貸付計画額を過去最大実績額1億0124万余円よりも高額の1億5000万円に設定し、余剰金を3128万余円と算定していた。また、同県は当該余剰金について、今後の資金需要の動向を注視しながら取扱いを検討していく予定であるとして、自主納付を行っていなかった。

そして、14県について、26年度から28年度までの間の各年度末の資金保有額のうち、貸し付けられずに翌年度へ繰り越された額の割合(以下「繰越率」という。)をみたところ、表1のとおり、いずれの県も繰越率が50%を超えており、最大で96.6%となっているなど繰越率が高い状態となっていた。また、14県の平均繰越率は、26年度末の78.4%から28年度末の84.8%に6.4ポイント上昇している傾向も見受けられた。

表1 14県の繰越率等の状況

(単位:千円、%)
繰越率等
県名
平成26年度末 27年度末 28年度末
資金保有額
(a)
翌年度へ繰り越された額
(b)
繰越率
(b)/(a)
資金保有額
(a)
翌年度へ繰り越された額
(b)
繰越率
(b)/(a)
資金保有額
(a)
翌年度へ繰り越された額
(b)
繰越率
(b)/(a)
秋田県 185,775 162,601 87.5 185,775 163,964 88.2 185,775 164,418 88.5
千葉県 622,174 428,812 68.9 622,264 423,698 68.0 622,354 470,264 75.5
石川県 252,375 156,349 61.9 252,375 183,197 72.5 252,375 203,878 80.7
福井県 309,510 299,130 96.6 309,748 295,322 95.3 309,812 298,510 96.3
滋賀県 115,946 74,031 63.8 116,006 75,801 65.3 116,186 79,921 68.7
兵庫県 808,134 571,724 70.7 808,134 625,220 77.3 808,314 651,604 80.6
和歌山県 545,215 489,923 89.8 545,315 496,251 91.0 545,415 502,909 92.2
鳥取県 373,647 339,033 90.7 373,837 350,792 93.8 374,057 360,415 96.3
山口県 273,829 232,169 84.7 273,829 238,814 87.2 273,829 243,729 89.0
徳島県 313,267 223,095 71.2 313,337 227,088 72.4 313,417 240,145 76.6
愛媛県 252,819 212,087 83.8 252,949 216,230 85.4 253,029 225,959 89.3
高知県 659,842 469,989 71.2 659,842 495,094 75.0 659,842 526,327 79.7
大分県 611,588 495,381 80.9 611,898 521,349 85.2 612,178 549,417 89.7
鹿児島県 844,512 650,048 76.9 844,882 682,902 80.8 845,202 714,058 84.4
14県平均 440,616 343,169 78.4 440,727 356,837 81.2 440,841 373,682 84.8

しかし、同庁は、14県が貸付計画額を過去最大実績額よりも高額に設定したり、余剰金の自主納付を行わないこととしたりした事情の妥当性を十分に確認しておらず、14県が適切な事情に基づいて余剰金の額の算定や自主納付の検討を行っているか十分に確認できていない状況となっていた。

そして、14県について、過去最大実績額を貸付計画額として余剰金の額を算定したところ、表2のとおり、各県が算定していた余剰金の額計5億5484万余円は、計14億0573万余円(国庫補助金相当額計9億3715万余円)となった。

表2 過去最大実績額を貸付計画額として算定した余剰金の額

(単位:千円)
余剰金の額等
県名
各県が設定していた貸付計画額
注(1)
過去最大実績額 各県が算定していた余剰金の額 過去最大実績額を貸付計画額として算定した余剰金の額(平成27年度又は28年度に自主納付制度が十分に活用されているかについて確認できていなかった余剰金の額)
  国庫補助金相当額
注(2)
秋田県 40,000 21,431 8,203 37,156 24,770
千葉県 120,000 81,220 50,117 115,374 76,916
石川県 80,000 40,670 29,572 19,714
福井県 100,000 4,000 11,211 145,256 96,837
滋賀県 20,000 3,700 17,646 32,165 21,443
兵庫県 150,000 101,249 31,282 152,440 101,626
和歌山県 100,000 31,579 27,982 186,654 124,436
鳥取県 100,000 73,220 19,534 13,022
山口県 50,000 16,210 9,311 87,514 58,342
徳島県 80,000 53,810 31,789 21,192
愛媛県 50,000 25,800 45,052 64,270 42,846
高知県 100,000 75,200 88,773 120,266 80,177
大分県 70,801 51,081 156,754 194,667 129,778
鹿児島県 119,749 76,703 108,515 189,079 126,052
554,846 1,405,736 937,151
注(1)
「各県が設定していた貸付計画額」は、各県が設定していた平成27年度の貸付計画額を記載している。
注(2)
「国庫補助金相当額」は、「過去最大実績額を貸付計画額として算定した余剰金の額」に補助率(2/3)を乗じた額としている。

このように、同庁において、14県に係る余剰金の額計14億0573万余円について、適切な事情に基づいて余剰金の額の算定や自主納付の検討が行われているか十分に確認できておらず、自主納付制度が都道府県において十分に活用されているかについて確認できていなかったなどの事態は適切とは認められず、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、水産庁において、都道府県が貸付計画額を過去最大実績額よりも高額に設定して余剰金の額を算定した場合や余剰金の自主納付を行わないこととした場合、それらの事情の妥当性を十分に確認できる体制を整備していなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、水産庁は、沿岸漁業改善資金が適切な規模で有効に運営されるよう、30年5月に、長官通知を改正するとともに、事務連絡を発して、都道府県が貸付計画額を過去最大実績額よりも高額に設定して余剰金の額を算定した場合や余剰金の自主納付を行わないこととした場合、関係資料を提出させるなどして、それらの事情の妥当性を十分に確認することができる体制を整備し、それらの妥当性が認められないなどの場合、余剰金の額の再算定や自主納付の再検討について、都道府県と協議等を行うことができるようにするなどの処置を講じた。