水産庁は、平成23年度から28年度までの間に、水産業の発展及び水産物の安定供給を図るため、漁業協同組合等の漁業者団体、市町村等により構成される産地協議会(以下「協議会」という。)が作成する産地水産業強化計画(以下「強化計画」という。)に基づいて、強化計画の達成に向けた新たなマーケット開発や共同利用施設等の整備等の取組に対して交付金を交付する産地水産業強化支援事業(以下「産地支援事業」という。)を実施している。
産地水産業強化支援事業実施要綱(平成23年22水港第2422号農林水産事務次官依命通知)等によれば、協議会は、強化計画を策定するに当たり、現状からの所得の増加額等の具体的な数値による成果目標を設定することとされており、水産庁は、事業費当たりの成果目標値等を用いて順位付けを行った上で、強化計画を承認することとされている。
また、協議会は、強化計画の承認を受けた年度から起算して5年目の年度に成果目標の目標年度を設定して、目標年度の翌年度に成果目標の達成状況の評価を行い、7月末日までに水産庁に事後評価報告書を提出することとされている。そして、水産庁は、事後評価報告書の内容を検証した上で、事業の成果目標に対する達成率(注)(以下「達成率」という。)が70%未満である場合は、当該協議会に対し、目標年度の翌年度に改善計画を策定させるとともに、成果目標を達成すべき旨の指導を行うこととされている。水産庁によれば、目標年度の翌年度に改善計画を策定させることとしているのは、事業効果の発現に資するためには速やかに改善を図る必要があるためとしている。
産地支援事業は28年度で終了したが、水産庁では、29年度から産地支援事業の共同利用施設等の整備を行う事業と同様の水産業強化支援事業(以下「後継事業」という。)を創設して、漁業協同組合等に対して都道府県を通じて交付金を交付している。
水産関係地方公共団体交付金等実施要領(平成22年21水港第2631号農林水産事務次官依命通知)等によれば、都道府県は、漁業協同組合等が作成した個別地区計画を踏まえた水産業強化支援事業計画(以下「事業計画」という。)を作成して、水産庁に提出することとされている。そして、事業計画の作成に当たっては、産地支援事業と同様に現状からの所得の増加額等の成果目標を定めることなどとされており、水産庁は、都道府県から提出を受けた事業計画について審査して、適切であると認める場合には、交付金の配分の対象とすることとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、協議会が策定した強化計画の内容は適切か、改善計画は適時適切に策定されているかなどに着眼して、23、24両年度に強化計画が承認され、29年7月末日までに事後評価報告書を水産庁に提出する必要がある66協議会が実施した72事業(事業費計138億6636万余円、交付金交付額計66億5697万余円)を対象として検査した。
検査に当たっては、水産庁及び上記の66協議会において、強化計画、事後評価報告書、改善計画の策定状況等を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、協議会から資料の提出を受けてその内容を分析するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記の66協議会が実施した72事業の成果目標の達成状況をみたところ、31協議会が実施した32事業(72事業の44.4%)で成果目標が達成されておらず、このうち22協議会が実施した23事業(同31.9%)については、達成率が70%未満となっていた。
そこで、上記の31協議会が実施した32事業について、成果目標が達成できなかった原因等を事後評価報告書等により確認したところ、災害等の自然現象による影響等を受けたことによるもののほか、協議会が強化計画を策定するに当たり、地域における漁獲量等を十分考慮していなかったり、整備する施設を活用して生産する製品の需要等について事前の調査・検討を十分に行わなかったりしていて、策定した強化計画の内容が適切なものとなっておらず、成果目標が達成されていない事態が、3協議会が実施した3事業(事業費計5億3386万余円、交付金交付額計2億6713万余円)で見受けられた。なお、上記の3事業については、いずれも達成率が70%未満となっていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
鹿児島県枕崎市水産物有効利用促進産地協議会は、平成24年度から26年度までの間に、かつおの腹皮を有効活用するための加工施設を整備することなどにより、かつお節製造事業所の所得を向上させることを目的として、事業費計8900万余円(交付金交付額計3103万余円)で産地支援事業を実施している。
同協議会は、強化計画を策定するに当たり、新商品開発等を行い、腹皮を加工して販売することで、加工施設における腹皮の年間計画利用量を360tとして、かつお節製造事業所の事業所得を合計で事業実施前から1476万円向上させるとする成果目標を設定していた。
しかし、同協議会は、強化計画を策定する前に市場調査等を行わず、強化計画の初年度である24年度に施設の整備を実施することとしていた。このため、施設の整備後も販売先の確保ができておらず、上記の年間計画利用量360tに対して利用実績が27年度1.8t(計画利用量の0.5%)及び28年度1.6t(同0.4%)と著しく低調となっており、事業所得は、目標年度である28年度において事業実施前よりも491万余円減少して、達成率が70%未満(△33.3%)となっていた。
達成率が70%未満の前記の22協議会が実施した23事業における改善計画の策定状況をみたところ、9協議会が実施した10事業については、協議会が事後評価報告書の提出期日を失念していたことなどにより、期限である目標年度の翌年度の7月末日までに事後評価報告書が水産庁に提出されていなかったり、3協議会が実施した3事業については、協議会は上記の期限までに事後評価報告書を水産庁に提出していたものの、水産庁において指導の方策を検討していなかったりしていた。そのため、これらの12協議会が実施した13事業(事業費計43億3059万余円、交付金交付額計20億5408万余円)において、期限である目標年度の翌年度末までに改善計画が策定されておらず、速やかに改善を図るための指導が行われていなかった。
このように、協議会が策定した強化計画の内容が適切なものとなっておらず、成果目標が達成されていなかった事態、また、達成率が70%未満の事業について、目標年度の翌年度に改善計画が策定されておらず、速やかに改善を図るための指導が行われていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、協議会において、強化計画を策定するに当たり、地域の現状を十分考慮したり、整備する施設が有効に活用され、強化計画の達成に資するものとなるよう事前の調査・検討を十分行ったりすることの重要性についての理解が十分でなかったこと、また、事後評価報告書を期日までに提出することについての認識が欠けていたことなどにもよるが、水産庁において、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、水産庁は、事業効果の発現に資するため、産地支援事業及び後継事業において、30年8月に事務連絡を発するなどして、次のような処置を講じた。
ア 協議会等に対して目標年度の翌年度の7月末日までに事後評価報告書の提出を確実に行うよう周知し、達成率が70%未満の事業について、目標年度の翌年度に改善計画を策定して成果目標を達成すべき旨の指導を適時適切に行うための体制を整備するなどした。
イ 後継事業において、事業計画の内容を適切なものとするために、事前ヒアリングを実施することとしたり、都道府県等が活用するための事業計画審査チェックリストの様式を作成したりした。また、都道府県等に対して、都道府県等が事業計画等を作成するに当たり、整備する施設が有効に活用され、事業計画の達成に資するものとなるよう事前の調査・検討を十分に行わせることを周知した。