【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求したものの全文】
再生可能エネルギー熱利用加速化支援対策事業の実施状況等について
(平成30年10月30日付け 資源エネルギー庁長官宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに同法第36条の規定により改善の処置を要求する。
記
貴庁は、安定的かつ適切なエネルギー需給構造の構築を図ることなどを目的として、平成23年度から27年度までの間に、民間事業者等が事業主体となって、太陽熱、地中熱、バイオマス熱等の再生可能エネルギー熱を利用する設備及びバイオマス燃料を製造する設備(以下「再エネ熱利用等設備」という。)を導入する再生可能エネルギー熱利用加速化支援対策事業(以下「再エネ熱加速化事業」という。)に要する経費の一部を補助するため、毎年度公募により補助事業者を選定して、当該補助事業者に対して補助金を交付している。そして、貴庁は、再エネ熱加速化事業の補助事業者として選定した一般社団法人新エネルギー導入促進協議会(以下「協議会」という。)に対して、23年度から27年度までの間に、再生可能エネルギー熱利用加速化支援対策費補助金計127億7916万余円を交付している。
協議会は、上記補助金の交付を受けて、事業主体が実施する再エネ熱加速化事業に要する経費の一部に補助金(以下、この補助金を「再エネ熱加速化補助金」という。)を交付している。再エネ熱加速化補助金の交付に当たり、協議会は、交付申請に当たって民間事業者等が提出すべき書類、導入した再エネ熱利用等設備の利用状況について報告すべき事項等を定めた公募要領等を作成するなどしており、これらに基づき再エネ熱加速化事業の事業主体を公募して、応募した民間事業者等を審査して事業主体を決定している。
表1 補助の対象となる再エネ熱利用等設備の概要
再エネ熱利用等設備の種類 | 概要 |
---|---|
太陽熱利用設備 | 太陽の光エネルギーが集熱器に照射されることによって発生する熱エネルギーを熱源として、給湯、暖房等に利用する設備 |
温度差エネルギー利用設備 | 海水、河川水等の水を熱源として、給湯、冷暖房等に利用する設備 |
雪氷熱利用設備 | 雪又は氷(冷凍機を用いて生産したものを除く。)を熱源として、冷蔵、冷房等に利用する設備 |
地中熱利用設備 | 昼夜間又は季節間の温度変化の小さい地中に存する熱を熱源として、冷暖房、給湯、融雪等に利用する設備 |
バイオマス熱利用設備 | 動植物に由来する有機物であってエネルギー源として利用することができる木質チップ等の燃料を燃焼することにより、暖房、給湯等に利用する設備 |
バイオマス燃料製造設備 | 動植物に由来する有機物を原料として、木質チップ、メタンガス等のバイオマス燃料を製造する設備 |
再エネ熱利用等設備を導入しようとする民間事業者等は、再エネ熱加速化補助金の交付申請に当たり、交付申請書、実施計画書等の交付申請書類を協議会に提出することとなっており、実施計画書には、再エネ熱加速化事業により導入する再エネ熱利用等設備から供給される熱量又はバイオマス燃料の製造量(以下、これらを「再エネ熱量等」という。)の計画値等を記載することとなっている。
また、バイオマス熱利用設備を導入する場合には、実施計画書に燃料の種類及びバイオマス依存率(注)を記載するとともに、燃料の調達先、調達量等の燃料調達に関する書類及びバイオマス依存率の計算根拠を添付することとなっており、当該設備で使用する燃料のバイオマス依存率が60%以上であることが補助の要件となっている。
事業主体は、再エネ熱加速化事業により取得した財産について、事業完了後においても善良な管理者の注意をもって管理し、故障等による設備利用率の低下を最小限にするなど、再エネ熱加速化補助金の交付の目的に従って、その効率的、効果的運用を図る必要があるとされている。
そして、事業主体は、事業実施年度の次年度から4年間、毎月の再エネ熱利用等設備の稼働時間、再エネ熱量等の実績値、当該設備で使用した燃料のバイオマス依存率等を記載した1年間の利用状況報告書を提出することとなっており、再エネ熱量等の計画値と実績値のかい離が大きい場合には、協議会からその原因について調査・報告を求められる場合があるとされている。
貴庁は、28年度以降も、民間事業者が事業主体となって再エネ熱利用等設備(自家消費向け再生可能エネルギー発電設備を含む。)を導入する再生可能エネルギー事業者支援事業及び再生可能エネルギー熱事業者支援事業(以下、これらを「事業者支援事業」という。)に要する経費の一部を補助するため、毎年度公募により補助事業者を選定して、当該補助事業者に対して補助金を交付している。そして、28、29両年度の事業者支援事業の補助事業者として選定された一般社団法人環境共創イニシアチブ(以下「SII」という。)は、貴庁から再生可能エネルギー事業者支援事業費補助金等計60億8555万余円の交付を受けて、公募要領等を定めるなどして、協議会と同様の手続により、事業主体が実施する事業者支援事業に要する経費の一部に補助金(以下、この補助金を「事業者支援補助金」という。)を交付している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、再エネ熱加速化事業等により導入した再エネ熱利用等設備は、補助の要件を満たして適切に利用されているか、事業の効果が十分に発現しているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、23年度から27年度までの間に再エネ熱利用等設備を導入した127事業(106事業主体、再エネ熱加速化補助金交付額計37億2411万余円)及び28年度又は29年度に再エネ熱利用等設備を導入した13事業(12事業主体、事業者支援補助金交付額計7億0743万余円)の計140事業を対象として、117事業主体(27、28各年度の各1事業について1事業主体が重複している。)において、交付申請書類、利用状況報告書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどするとともに、貴庁、協議会及びSIIにおいて、利用状況の確認等の状況について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、バイオマス熱利用設備を導入する場合には、当該設備で使用する燃料のバイオマス依存率が60%以上であることが補助の要件とされている。そこで、前記140事業のうち、バイオマス熱利用設備を導入した46事業についてみたところ、4事業において、事業主体が協議会に提出した実施計画書及び各年度の利用状況報告書には、いずれも当該設備の使用燃料が木質チップであり、バイオマス依存率は100%であると記載されていたのに、実際には、木質チップよりも発熱量が高いことなどから、非バイオマスである廃プラスチック類とバイオマスである紙くず等とを混合した固形燃料(以下「RPF」という。)が使用されており、実際のバイオマス依存率が不明な状況となっていた。
そこで、上記の4事業で使用したRPFの製造業者に対して、当該製造業者が製造しているRPFの原料の構成割合を調査したところ、24年度から26年度までの間にバイオマス熱利用設備を導入した3事業(3事業主体、再エネ熱加速化補助金交付額計5743万余円)において、いずれもRPFの原料に占める廃プラスチック類の割合が60%となっており、これを発熱量に換算してバイオマス依存率を算出すると最大でも46.8%となり、補助の要件とされている60%を下回る状況となっていた。
そして、これら3事業について、協議会は、再エネ熱加速化事業の公募要領等において、利用状況報告書の提出時に実際に使用した燃料の種類等が記載された納品書等のバイオマス依存率の計算根拠を裏付ける資料を提出させることとしていなかったことなどから、利用状況報告書に記載されたバイオマス依存率が適切かどうかについて十分に確認することができない状況となっていた。
また、28、29両年度に実施された事業者支援事業の公募要領等も、再エネ熱加速化事業の公募要領等と同様の内容であることから、上記と同様の事態が発生するおそれがある。
前記のとおり、公募要領等によれば、事業主体は、再エネ熱利用等設備の効率的、効果的な運用を図る必要があるとされている。そこで、前記の140事業における再エネ熱利用等設備の利用状況についてみたところ、次のとおり、23年度から27年度までの間に再エネ熱利用等設備を導入した34事業(28事業主体、再エネ熱加速化補助金交付額計9億5956万余円)において、1年以上の長期にわたり稼働を停止していたり、再エネ熱量等の計画値に対する実績値の割合(以下「達成率」という。)が50%未満と低調になっていたりしている事態が見受けられた。
23年度から26年度までの間にバイオマス熱利用設備を導入した7事業(6事業主体、再エネ熱加速化補助金交付額計7005万余円)において、事業主体が、設備が故障したのに修理を行っていなかったり、設備の稼働について地元住民の理解を得られなかったり、異物が混入した木質チップにより設備の故障が頻発したため良質な木質チップの調達先を検討したが確保できなかったりしていたことなどから、30年3月末時点で1年4か月から3年7か月までの長期にわたり稼働を停止していた。
そして、上記7事業のうち5事業に係る4事業主体においては、26年度から28年度までの間の協議会に対する利用状況報告書の提出に当たり、実際には設備の稼働を停止していた期間についても稼働していたとする内容を記載して報告していたため、協議会はその実態を把握していなかった。
上記の長期にわたり稼働を停止している事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
兵庫県姫路市に所在する弁当の製造販売会社は、平成24年度に、弁当用の食器洗浄に使用する温水の熱源に利用するため、ボイラー1基、燃料を貯蔵するサイロ1基等で構成されるバイオマス熱利用設備を導入して、再エネ熱加速化補助金1093万余円の交付を受けていた。
同社は、当該設備導入後の25年度から28年度までの利用状況について、計4回、協議会に利用状況報告書を提出しており、各年度の達成率を25年度63.6%、26年度79.6%、27年度85.9%、28年度86.2%と記載していた。
しかし、当該設備の利用状況について検査したところ、同社は、燃料が詰まったり、部材が破損したりするなどの不具合や故障が頻繁に発生したことなどから、30年3月末時点で、27年6月から2年10か月にわたり稼働を停止し、その間、バックアップ用に設置していた既存のLPガスを燃料とするボイラー2基を使用するとともに、29年5月からは、新たに既存のボイラーと同種のボイラーを1基購入して使用していた。
そして、同社が協議会に提出した27、28両年度の利用状況報告書には、実際には稼働を停止していた期間についても稼働していたとする内容が記載されていたため、協議会はその実態を把握していなかった。
なお、同社は、会計実地検査を実施する旨の連絡を受けた後、30年4月にバイオマス熱利用設備の修理を行い、同年5月には稼働を再開していた。
23年度から27年度までの間に地中熱利用設備、バイオマス熱利用設備等の再エネ熱利用等設備を導入した27事業(23事業主体、再エネ熱加速化補助金交付額計8億8950万余円)において、事業主体が、再エネ熱加速化事業により導入した再エネ熱利用等設備よりも灯油、電気等をエネルギー源とする設備を優先的に使用したり、良質な木質チップや自社製造のバイオマス燃料等について十分な量を確保できなかったりしていたことなどから、28年度の達成率が1.8%から49.1%と低調になっていた。これら27事業における27年度以前の達成率の状況は、表2のとおりとなっていて、23年度から25年度までの間に設備を導入した13事業のうち12事業が3年連続で50%未満となっていた。
表2 27事業における達成率の状況
設備導入年度 | 達成率 | 達成率が50%未満の事業数 | ||
---|---|---|---|---|
平成28年度 | 27年度 | 26年度 | ||
平成 23~25年度 |
10%未満 | 3 | 3 | 3 |
10%以上 30%未満 | 5 | 3 | 4 | |
30%以上 50%未満 | 5 | 7 | 5 | |
計 | 13 | 13 | 12 | |
26年度 | 10%未満 | 2 | 2 | / |
10%以上 30%未満 | 1 | 1 | ||
30%以上 50%未満 | 2 | 1 | ||
計 | 5 | 4 | ||
27年度 | 10%未満 | 2 | / | / |
10%以上 30%未満 | 5 | |||
30%以上 50%未満 | 2 | |||
計 | 9 | |||
合計 | 27 | 17 | 12 |
そして、上記27事業のうちバイオマス熱利用設備を導入した1事業において、事業主体は、協議会への27、28両年度の利用状況報告書の提出に当たり、実際の達成率がそれぞれ2.0%、1.8%であったと認められるにもかかわらず、92.4%、117.4%と記載して報告していたため、協議会はその実態を把握していなかった。
前記の達成率が低調となっている事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
青森県青森市に所在する社会福祉法人は、平成26年度に、特別養護老人ホームの給湯及び暖房の熱源として、灯油を燃料とする既存のボイラー(以下「灯油ボイラー」という。)に代えて再生可能エネルギー熱を利用するために、地下水を利用するヒートポンプ2基、貯湯槽9基等から構成される地中熱利用設備を導入して、再エネ熱加速化補助金750万円の交付を受けていた。そして、当該地中熱利用設備から供給される熱量のみでは給湯及び暖房の利用に支障を来す12月から翌年3月までの期間は、補助熱源として灯油ボイラーを併用することとしていた。
同法人は、再エネ熱加速化補助金の交付申請時の実施計画書等において、当該設備から1年間に供給される熱量の計画値を1,036.0GJとし、また、補助熱源である灯油ボイラーから同期間に供給される熱量の計画値を111.4GJとしていた。
しかし、28年度の利用状況について検査したところ、灯油の価格が計画時に比べて安価であったことなどから、再エネ熱利用等設備ではない灯油ボイラーを優先的に使用しており、その結果、灯油ボイラーから供給された熱量の実績値は1,237.5GJとなり、計画値の111.4GJを大幅に上回っていた。
このため、本件事業により導入した地中熱利用設備から供給された熱量の実績値は、前記の計画値1,036.0GJに対して384.7GJにとどまり、達成率が37.1%と低調になっていた。
また、29年度にバイオマス熱利用設備を導入した1事業(事業者支援補助金交付額1億0999万余円)において、29年12月にバイオマス熱利用設備の設置を完了したものの、燃料の燃焼後の灰が半溶融状態の塊となって排出できない不具合が生じて本格的な稼働ができない状況となっていたことから、実績値が確認できた30年1月から7月までの間の達成率を計算したところ、10.6%となっていた。
前記のとおり、長期にわたり稼働を停止していた7事業のうち5事業及び達成率が低調となっていた27事業のうち1事業の計6事業は、事業主体が、利用状況報告書の提出に当たり、稼働状況や達成率について事実と異なる内容を記載して報告していた。しかし、協議会は、再エネ熱加速化事業の公募要領等において、利用状況報告書の提出時に稼働状況等に関する記載内容を裏付ける資料を提出させることとしていなかったことなどから、その記載内容が適切かどうかについて十分に確認することができない状況となっていた。
また、協議会は、前記のとおり、再エネ熱量等の計画値と実績値のかい離が大きい場合には、その原因について調査・報告を事業主体に対して求める場合があるとしていたものの、その後の改善に向けた措置等については、公募要領等に明記していなかった。
そこで、長期にわたり稼働を停止していたり、達成率が低調となっていたりしていた前記の34事業に対する協議会による原因把握や改善指導等の状況をみたところ、協議会は、29事業について、事業主体から調査及び報告をさせるなどして、その原因を把握していた。しかし、原因の把握にとどまらず、事態の改善に向けた具体的な取組の内容を把握していたのは2事業のみとなっており、当該2事業についても、協議会は、その後の状況を把握しておらず、改善指導等が十分に行われているとは認められない状況となっていた。
そして、28、29両年度に実施された事業者支援事業の公募要領等も、再エネ熱加速化事業の公募要領等と同様の内容であることから、上記と同様の事態が発生するおそれがある。
なお、(1)及び(2)の事態について、重複分を除くと、36事業(30事業主体、再エネ熱加速化補助金交付額計10億0486万余円)となる。
(是正及び是正改善並びに改善を必要とする事態)
再エネ熱加速化事業の実施に当たり、バイオマス熱利用設備で使用した燃料が実施計画書及び利用状況報告書に記載された燃料と異なっていて、実際に使用した燃料のバイオマス依存率が60%未満となっている事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。また、利用状況報告書により再エネ熱利用等設備の稼働状況や達成率を適切に把握することができない事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。さらに、再エネ熱利用等設備が長期にわたり稼働を停止していたり、達成率が低調となっていたりしているのに、改善指導等が十分に行われていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、事業主体において、再エネ熱利用等設備導入後に補助の要件を満たした適切な燃料を使用したり、その効率的、効果的な運用を図ったりすることに対する理解が十分でないことなどにもよるが、貴庁において、次のことなどによると認められる。
再エネ熱加速化事業は27年度で終了したものの、再エネ熱利用等設備を導入した事業主体は、事業完了後においても再エネ熱加速化補助金の交付の目的に従って、その効率的、効果的な運用を図る必要がある。そして、28年度以降の事業者支援事業においても、再エネ熱加速化事業で見受けられた事態を防止するための措置を講じて、事業者支援事業により導入する再エネ熱利用等設備の効率的、効果的な運用を図る必要がある。
ついては、貴庁において、再エネ熱加速化事業及び事業者支援事業で導入した再エネ熱利用等設備が適切に利用されるとともに、事業の効果が十分に発現するよう、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに改善の処置を要求する。