国土交通省は、下水道法(昭和33年法律第79号)等に基づき、下水道の整備を図ることにより都市の健全な発達及び公衆衛生の向上に寄与し、併せて公共用水域の水質の保全に資することなどを目的として、下水道事業を行う地方公共団体(以下「事業主体」という。)に対して、毎年度多額の社会資本整備総合交付金等を交付している。
下水道は、家庭、工場等から下水管に排出される下水を、ポンプ場等を経由して下水処理場に集めて下水の浄化を行うものである。そして、ポンプ場には、集水した下水を下水処理場に送水するため、また、下水処理場には、下水を処理する汚水処理施設等へ下水を送水するためのポンプが設置されている。
そして、事業主体は、下水処理場及びポンプ場(以下「下水処理場等」という。)の整備及び維持管理として、ポンプを新設又は交換する工事(以下「ポンプ工事」という。)を実施している。
下水処理場等に設置されるポンプは、大型のものが多く、用途に合わせて、形式、揚程高、吐出量、口径等の仕様が異なることなどから汎用品ではなく注文製造品となっている。
都道府県及び政令指定都市(以下「都道府県等」という。)は、自らが行う下水道工事等の土木工事の工事費を積算するために、国土交通省制定の土木工事標準積算基準書を基に土木積算基準等を定め、下水道工事の積算に際して、土木積算基準等に基づくなどして積算を行っている。そして、都道府県内の市区町村は下水道工事の積算に際して、各都道府県が定めた土木積算基準等に基づくなどして積算を行っている。
土木積算基準等によれば、工事費の積算に当たり設計書に計上する材料等の単価(以下「積算単価」という。)については、原則として入札時における市場での実際の取引価格(以下「市場価格」という。)によることとされている。そして、積算を行うに当たり、物価資料(刊行物である積算参考資料をいう。以下同じ。)に掲載されている材料等については掲載価格により、使用頻度の高い材料等のうち物価資料に掲載されていない材料等については、都道府県等が物価調査機関に委託して実施させた市場価格の定期調査等を基に制定した単価表により、また、物価資料及び単価表(以下「物価資料等」という。)に掲載されていない一定価格(100万円等)以上の材料等については、物価調査機関に特定の品目を指定して市場価格を調査させる特別調査により、さらに、物価資料等に掲載されておらず特別調査により難いものについては、見積りを徴するなどして材料等の積算単価を決定することとされている。
また、事業主体は、下水道工事のうち、土木積算基準等に記載のないポンプ工事等の工事費の積算を行う場合は、国土交通省が制定した「下水道用設計標準歩掛表第2巻ポンプ場・処理場」(以下「下水道標準歩掛」という。)に基づくなどして積算を行っている。
下水道標準歩掛によれば、ポンプ等の機器の積算単価は、取引実績等を勘案して適切な積算単価を算定することなどとされている。そして、積算単価は、物価資料や見積価格等を基に算定することとされ、また、物価資料に掲載されていない機器の単価については見積りにより決定することとされている(以下、見積りにより決定した単価を「見積単価」という。)。
前記の特別調査は、積算時点での材料等の適正な市場価格を把握するために、物価調査機関と委託契約を締結して実施する調査である。そして、特別調査による価格は、物価調査機関が、物価資料に掲載されている材料等の市場価格調査と同様に当該材料等の過去の取引実績等を基に、当該材料等の製造会社、販売代理店、当該材料等の同等品を購入している工事業者等に対しての聞き取り調査等を行い決定している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
下水処理場等には、下水を送水するために欠かせない機器としてポンプが多数設置されており、ポンプ工事の工事費に占める割合は大きなものとなっている。
そこで、本院は、経済性等の観点から、ポンプの積算単価が適切なものとなっているかなどに着眼して、13道府県の63事業主体(注1)が、平成27、28両年度に実施した当初契約金額5000万円以上のポンプ工事で、ポンプの積算額の合計が500万円以上である142件(工事費計463億3890万余円、交付金相当額計241億6629万余円、351台のポンプの積算額計81億3563万余円、交付金相当額計42億2724万余円)を対象として、13道府県において、設計図書、見積書等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、ポンプ工事のポンプの積算単価について、次のような事態が見受けられた。
前記351台のポンプは、いずれも注文製造品となっていて、その市場価格が物価資料等に掲載されていないことから、ポンプの積算単価は、次の(1)又は(2)の方法により決定していた。
前記142件のうち、12道府県の42事業主体(注2)が実施した105件に係る264台のポンプ(ポンプの積算額計60億1226万余円、交付金相当額計31億2454万余円)については、事業主体が適正な市場価格を把握するために注文製造品のポンプであっても複数の製造会社により製造でき市場性があるとして、特別調査による単価(以下「特別調査単価」という。)を積算単価としたり、事業主体が見積価格をそのまま採用すると市場価格と異なるなどとして、過去の工事における取引実績等により定めた査定率を見積単価に乗じて積算単価としたりしていた。
前記142件のうち、8道府県の21事業主体(注3)が実施した37件に係る87台のポンプ(ポンプの積算額計21億2336万余円、交付金相当額計11億0270万円)については、事業主体が、複数の製造会社等から徴した見積りのうち最低価格を採用するなどして、その見積単価と同額を積算単価としていた。
そして、21事業主体が上記の方法により積算単価を決定していたのは、土木積算基準等では、材料等の積算単価は市場価格によることとされているのに、下水道標準歩掛では、特別仕様の機器の積算単価は見積りにより決定することとされていることをもって、ポンプの市場価格は見積りにより把握できるものと判断したり、土木積算基準等では、物価資料等に掲載されていない材料等は特別調査を行うこととされているが、ポンプが注文製造品であることから特別調査により難い場合に該当するものと判断したりしていたことなどによるものであった。
しかし、本院が、物価調査機関に注文製造品のポンプについて特別調査が可能であるか確認したところ、ポンプ本体の全てを製造する場合は、ポンプの一部品を交換する場合と異なり、ポンプを製造する会社が複数存在し市場性があることから、特別調査を行うことができるとのことであった。
また、(1)のポンプのうち、20件に係る33台のポンプについては、事業主体が積算時点でのポンプの特別調査単価と見積単価を比較等するために見積りを徴しており、これらを比較したところ、特別調査単価の見積単価に対する割合の平均は89.4%となっていた。特別調査単価が見積単価より安価となるのは、見積単価が、製造会社等の販売希望価格となる場合もあるのに対して、特別調査単価は、過去の取引実績等を基に、製造会社等に対する聞き取り調査等により得られた積算時点での市場価格であることによるものと思料された。
以上のとおり、(2)の見積単価と同額を積算単価としていた37件に係る87台のポンプについては、複数の製造会社等から見積りを徴していたことなどから、特別調査を活用することにより積算時点での適正な市場価格を把握するなどして経済的な積算を行うことが可能であったと認められた。
このように、事業主体において、ポンプの積算単価の決定について、適正な市場価格を把握するための特別調査の活用が可能であったにもかかわらず、見積単価と同額を積算単価としていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できたポンプの積算額)
前記37件に係る87台のポンプの積算額について、前記の特別調査単価の見積単価に対する割合の平均(89.4%)を見積単価に乗じて推定した市場価格により修正計算すると、計18億9829万余円(交付金相当額計9億8581万余円)となり、前記の積算額を約2億2500万円(交付金相当額1億1688万余円)低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、国土交通省において下水道標準歩掛に、特別調査を活用することについて明記しておらず、特別調査を活用することなどについての周知が十分でなかったこと、事業主体において特別調査を活用することなどにより経済的な積算を行うことについての理解が十分でなかったことなどによるものと認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、国土交通省は、30年9月に都道府県等及び市区町村に対して事務連絡を発して、ポンプ等の機器の積算単価の決定について、特別調査を活用するなどして適正な市場価格を把握して経済的な積算を行うこととし、31年3月の下水道標準歩掛の改定時には、下水道標準歩掛に、機器の積算単価の決定について、特別調査を活用する旨を記載することを周知する処置を講じた。