国土交通省は、離島振興法(昭和28年法律第72号)に基づき、離島の振興を図ることを目的として、離島活性化交付金事業実施要綱(平成25年国国離第23―1号)等(以下「要綱等」という。)により、都道県又は市町村に対して、平成25年度から離島活性化交付金を交付している。
そして、都道県、市町村又は間接補助事業者として当該交付金の交付を都道県若しくは市町村から受ける民間団体は、離島活性化交付金事業として、定住促進事業、交流促進事業及び安全安心向上事業(表1参照)を毎年度多数実施している。
表1 離島活性化交付金の交付対象となる主な事業
事業の種類 | 主な対象事業 | |
---|---|---|
定住促進事業 | 産業活性化事業 | 戦略産品の移出等に係る海上輸送費支援、戦略産品のテスト販売、広報等 |
定住誘引事業 | 空家情報の提供等、空家改修等の施設整備 | |
流通効率化関連施設整備等事業 | 普通倉庫、冷蔵倉庫、荷さばき施設、コンテナ、荷役機材等の整備又は導入 | |
交流促進事業 | 地域情報の発信 | パンフレット作成、WEBの作成運用、PR活動等 |
交流拡大のための仕掛けづくり | 世話人等の育成のための研修等 | |
交流の実施 | 体験学習事業、伝統芸能体験事業、シンポジウム、離島体験ツアー等 | |
安全安心向上事業 | 防災機能強化事業 | 避難施設の整備、防災活動拠点の改修、災害応急対策施設の整備等 |
計画策定等事業 | 防災力向上のための調査、防災講習の実施等 |
要綱等によれば、事業の実施期間は原則3年以内とされており、事業の実施に当たって、都道県又は市町村は、離島活性化事業計画(以下「活性化計画」という。)を作成し、国土交通本省(以下「本省」という。)に提出して、その承認を受けなければならないこととされている。活性化計画には、事業の概要等を記載するほか、定量的なアウトカム指標を設定した上で、アウトカム指標上の目標値として成果目標を記載し、その達成目標年度を記載することなどとされている。そして、本省は、活性化計画の内容について、事業が当該地域の活性化に関して、有効かつ効果的であることなどを審査し、活性化計画の承認を行うこととされており、事業の実施について、総合的な推進体制を整備し、助言、指導その他の必要な援助を行うものとするとされている。
また、事業実施後、都道県又は市町村は、達成目標年度の翌年度において、活性化計画に定められた成果目標に対する実績値の比率(以下「達成率」という。)を算定して成果目標の達成状況について自ら評価(以下「事後評価」という。)を行うこととされており、事後評価の結果を記載した離島活性化計画目標評価報告書(以下「目標評価報告書」という。)を本省に提出することとされている。そして、事後評価の結果、達成率が70%未満である場合、都道県又は市町村は、成果目標の達成に向けた方策を内容とする改善計画を作成することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、離島活性化交付金事業において、アウトカム指標及び成果目標は適切に設定されているか、事後評価は適切に実施されているかなどに着眼して、達成目標年度が28年度以前である活性化計画に係る事業として、25年度から28年度までの間に26市町村(注1)で実施された438事業(事業費計81億9378万余円、交付金交付額計32億1598万余円)を対象として、本省及び26市町村において、活性化計画の事業内容、アウトカム指標及び成果目標の設定状況、目標評価報告書の提出状況や成果目標の達成状況等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
検査の対象とした438事業について、アウトカム指標及び成果目標の設定状況についてみたところ、9市町(注2)の43事業(事業費計2億8122万余円、交付金交付額計1億1875万余円)は、定住者の受入れに向けた空き家の改修を行う事業における事業内容そのものである「空き家の改修」がアウトカム指標とされているなどしていてアウトカム指標が適切に設定されていなかったり、定量的なアウトカム指標が設定されていたものの具体的な目標値が設定されていないなどしていて成果目標が適切に設定されていなかったりしていた(表2参照)。
表2 アウトカム指標及び成果目標が適切に設定されていなかったもの
区分 | 市町数 | 事業数 | |
---|---|---|---|
アウトカム指標が適切に設定されていないもの | 7市町 | 27 | |
定性的な記述内容がアウトカム指標として設定されていたもの | 4市町 | 13 | |
事業の実施内容がアウトカム指標として設定されていたもの | 4市 | 11 | |
アウトカム指標が設定されていないもの | 1町 | 3 | |
成果目標が適切に設定されていないもの | 6市町 | 16 | |
計 | 9市町 | 43 |
前記のとおり、市町村は、達成目標年度の翌年度において、目標評価報告書を提出することとされている。そこで、検査の対象とした438事業のうち、前記9市町の43事業を除く26市町村の395事業について、目標評価報告書の提出状況等をみたところ、26市町村の283事業については、達成目標年度の翌年度までに提出されていた。
しかし、これらの事業について、事後評価の実施状況をみたところ、12市町村(注3)の29事業(事業費計4億5131万余円、交付金交付額計1億8595万余円)は、達成率が70%以上であるとして本省へ報告されていたが、当該市町村は、事後評価において、成果目標の設定時に含めていなかった項目を実績値に含めて実績値を過大に算定していたり、設定したアウトカム指標とは異なる指標を用いたりするなどしていて、達成率を適切に算定していなかった。そして、改めて達成率を適切に算定すると、70%未満となっていたことから、改善計画を作成する必要があったのに、これを作成していなかった(表3参照)。
表3 達成率を適切に算定していなかったもの
区分 | 市町村数 | 事業数 |
---|---|---|
実績値を過大に算定又は目標値を過小に設定して達成率を算定していたもの | 5市町 | 13 |
設定したアウトカム指標とは異なる指標を用いて達成率を算定していたもの | 5市町村 | 9 |
成果目標を複数設定していたのに一部の達成率しか算定していないもの | 2市町 | 4 |
実績値の把握を誤るなどして達成率を算定していたもの | 2町 | 3 |
計 | 12市町村 | 29 |
実績値を過大に算定して達成率を算定していた事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
新潟県佐渡市は、平成25年度から27年度までの間に、トキ関連施設の充実を図ることなどにより交流人口を拡大させることを目的としたトキ政策推進事業を事業費計4558万余円(交付金交付額計1869万余円)で実施していた。
そして、同市は、トキの森公園入込数及びトキ交流会館宿泊者数の2項目の合計を27年度において260,000人とすることを成果目標として設定した上で、事後評価において、実績値を194,702人として、達成率を74.8%と報告していた。
しかし、同市は、27年度におけるトキの森公園入込数及びトキ交流会館宿泊者数の2項目の実績計173,033人に、成果目標の設定時には含めていなかった同会館利用者数、トキ環境学習参加者数及びトキファンクラブ会員数の3項目を加算して実績値を算定していたため、同市が達成率の算定に用いた実績値194,702人は、当初設定した2項目による実績値173,033人より過大となっていて、改めて達成率を適切に算定すると66.5%となり、達成率が70%未満となっていた。
また、前記の395事業のうち、17市町村(注4)の112事業(事業費計13億1624万余円、交付金交付額計5億0766万余円)について、当該市町村は、目標評価報告書の提出を失念するなどしていて、要綱等で定められた時期である達成目標年度の翌年度までに本省に提出していなかった。
本省における活性化計画の審査状況をみたところ、本省は、アウトカム指標及び成果目標が適切に設定されていない活性化計画を承認しており、十分な審査を行っていなかった。
また、目標評価報告書の確認状況をみたところ、本省は、事業ごとの提出時期を管理していなかったため、所定の時期までに提出されていない事業について督促等を行っていなかったり、提出された目標評価報告書において、達成率が適切に算定されているかなどについて十分な確認を行っていなかったりしていた。
このため、本省は、市町村に対して、達成率を適切に算定させるなどの事後評価等を適切に実施させるための指導、助言等を十分に行っていない状況となっていた。
このように、市町村において、活性化計画においてアウトカム指標及び成果目標が適切に設定されていないことにより事後評価を適切に実施できない状況となっていたり、事後評価において達成率を適切に算定していないことにより、事後評価が適切に実施されていなかったり、目標評価報告書が所定の時期までに提出されていなかったりしていた事態、及び本省において市町村に対して事後評価等を適切に実施させるための指導、助言等が十分に行われていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、市町村において、定量的なアウトカム指標を設定した上で、成果目標を適切に設定すること及び事後評価において達成率を適切に算定することについての理解が十分でなかったこと、また、目標評価報告書を所定の時期に提出することについての認識が欠けていたことにもよるが、本省において、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、本省は、事後評価等が適切に実施されるよう、次のような処置を講じた。
ア 30年8月に都道県に対して事務連絡を発し、活性化計画の作成において、定量的なアウトカム指標上に成果目標が設定され、達成率を適切に算定できるものとなっているかについて、市町村において十分検討すること、事後評価の実施において、達成率を適切に算定すること及び目標評価報告書を所定の時期までに提出することについて、都道県を通じ、市町村に対して周知した。
イ 30年8月に活性化計画の審査についてのマニュアルを作成するなどして、審査体制を整備した。また、管理表を作成することにより目標評価報告書の提出時期の管理を徹底し、目標評価報告書の確認についてのマニュアルを作成するなどして、事後評価が適切に実施されているか確認できる体制を整備した。