環境省は、国民公園である皇居外苑、京都御苑及び新宿御苑を管理しており、このうち新宿御苑については、新宿御苑管理事務所(以下「事務所」という。)が、「国民公園管理事務所等の処理する事務に関する訓令」(平成13年環境省訓令第34号)等に基づき、入園しようとする者から入園料を収納している。
そして、入園料の収納に係る取扱事務(以下「収納金取扱事務」という。)は、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)、「新宿御苑の入園料に係る収入金取扱細目」(平成13年環境省訓令第25号。以下「取扱細目」という。)等(以下、これらを「会計法令等」という。)に基づいて行われており、取扱細目において、次のとおり処理することとなっている。
① 分任収入官吏は、入園券の払出枚数等を記録する入園券受払簿を備え付け、発売窓口に配置する出納員に対して、毎日、入園券を交付する。
② 出納員は、入園しようとする者から入園料を収納して入園券を発売する(以下、この行為を「発売業務」という。)。
③ 出納員は、毎日、入園券の発売締切後遅滞なく、分任収入官吏に対して、収納した現金を払い込むとともに、「入園券及び料金整理報告票」(以下「入園報告書」という。)に入園券の発売枚数、収納金額、残券数等を記載した上、入園報告書に未発売入園券を添付して提出する。
④ 分任収入官吏は、③の現金の払込みを受けたときは、入園券の発売枚数と現金との照合等を行った上、現金を日本銀行に払い込む。
このように、取扱細目は、収納金取扱事務の実施に当たり、分任収入官吏が入園報告書の記載内容と入園券受払簿の記載内容及び未発売入園券の枚数とを照合することなどを定めることにより、入園報告書の記載誤りや不正の防止を図るものとなっている。
一方、事務所は、平成26年3月以降、収納金取扱事務を効率化するために、集計管理サーバ、管理用端末機、発券用端末機、入退園ゲート等の機器等から構成される入園管理システムを導入している。このうち集計管理サーバには、発売窓口に設置されている発券用端末機から入園券を発券した記録(以下「発券記録」という。)、発券記録を発券用端末機で取り消した記録(以下「取消記録」という。)、入園券を入退園ゲートの入園券読取装置に読み取らせて入園した記録(以下「入園記録」という。)等が保存されている。そして、管理用端末機からは、これらの記録を集計するなどした入園報告書等の帳票を出力することができ、この入園報告書には、発券記録の取消しが行われていない入園券の枚数及び金額がそれぞれ集計されて、発売枚数及び収納金額として記載されることになっている。
本院は、出納員の業務を補助していた期間業務職員1名が、26年3月から28年12月までの間に、不特定多数の外国人に対して、入園料を受領しないまま入園券を交付して入園させていたとされる事態を、環境省が29年1月に公表したことを踏まえ、合規性等の観点から、当該期間業務職員が行っていた発売業務の実態がどのようなものであったか、収納金取扱事務の体制は適切なものとなっているかなどに着眼して、26年3月から28年12月までの間の入園料収入計8億0679万余円を対象として、環境本省及び事務所において、集計管理サーバに保存されている発券記録、取消記録及び入園記録をそれぞれ突合したり、収納金取扱事務の体制や上記の事態に対して環境省が行った調査の結果等について、関係職員から聴取したりするなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
環境省の調査によると、発売窓口に設置されている発券用端末機のうち、前記の期間に当該期間業務職員が担当していた発券用端末機において、他を大幅に上回る量の発券記録の取消しが行われていた。このため、環境省が、その理由を当該期間業務職員から聴取したところ、当該期間業務職員は、入園料を収納せずに交付するなどしていた入園券に係る発券記録を取り消していたとのことであった。
しかし、環境省は、集計管理サーバに保存されている記録から確認できる内容を十分把握しておらず、当該期間業務職員が入園料を収納せずに交付した入園券は特定できないとして、収納されていなかった入園料を明らかにしていなかった。
そこで、本院が、集計管理サーバに保存されていた記録から把握することができた入園記録等を確認したところ、前記の期間に当該期間業務職員が担当していた発券用端末機において、本来は行うことができないことになっている入園記録のある入園券(以下「入園済入園券」という。)に係る発券記録の取消しが多数行われていた。これを受けて、環境省が入園管理システムの保守業者に確認したところ、当該期間業務職員が独断で、入園済入園券に係る発券記録の取消しが行えるよう、同業者に入園管理システムの設定変更を行わせていたことが判明した。
上記の事態を踏まえて、本院において入園済入園券の枚数及び金額を集計したところ、入園済入園券の枚数及び金額が入園報告書に記載されていた入園券の発売枚数及び収納金額よりも大きいものとなっていた。すなわち、当該期間業務職員が担当していた発券用端末機により発券された入園済入園券に係る入園料を集計したところ計73,455,950円(376,900枚分)となったのに対して、入園報告書に記載されて分任収入官吏に払い込まれていた入園料は計47,706,600円(249,030枚分)であったことから、その差額25,749,350円(127,870枚分)が収納されていなかった。
そして、入園管理システムの導入に伴い入園券の発売方法等が変更されたことなどにより、入園報告書の記載内容と入園券受払簿の記載内容等とを照合することができなくなっていて、取扱細目において、入園報告書の記載内容と入園券受払簿の記載内容等を照合することなどにより、入園報告書の記載誤りや不正を防止することができるよう手続が定められているが、事務所における収納金取扱事務の実施体制は、入園管理システムの導入により収納金取扱事務の体制が変更されたことを踏まえたものとなっておらず、不正を防止するのに十分なものとなっていなかった。
このように、入園料の収納に当たり、入園管理システムの発券記録が不正に取り消されるなどしていて、入園料の一部が収納されていない事態は、国の会計経理として著しく適正を欠いており、収納されていなかった入園料計25,749,350円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事務所において、当該期間業務職員に国の会計経理は会計法令等に従って適正に行わなければならないとの認識が著しく欠けていたこと、出納員が当該期間業務職員に対して指導監督を十分に行っていなかったこと、分任収入官吏が入園報告書の確認を適切に行うための必要な措置を講じていなかったこと、責任者である所長に収納金取扱事務に係る不正を防止するための体制の整備の重要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められる。