【是正改善の処置を求めたものの全文】
循環型社会形成推進交付金事業により整備する汚泥再生処理センターにおける資源化設備の機器の処理能力の決定について
(平成30年10月17日付け 環境大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴省は、循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号)等に基づき、天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会を形成するなどのための施策を総合的かつ計画的に推進している。そして、有機性廃棄物リサイクル推進施設等の廃棄物処理施設の整備を実施する市町村、一部事務組合、広域連合等(以下「事業主体」という。)に対して、循環型社会形成推進交付金交付要綱(平成17年4月環境事務次官通知)等に基づき、循環型社会形成推進交付金(以下「交付金」という。)を交付している。
上記の有機性廃棄物リサイクル推進施設のうち、汚泥再生処理センター(以下「センター」という。)は、公共下水道等が整備されていない地域等において、くみ取りし尿等(以下「し尿等」という。)を処理し、し尿等に含まれる資源を回収する廃棄物処理施設である。そして、センターは、搬入されたし尿等を水と汚泥とに分離し、分離した水を処理するなどして河川等に放流する水処理設備と、水処理設備で分離された汚泥を乾燥するなどして堆肥、助燃剤等を製造するなどする資源化設備等から構成されている。
し尿等を処理する施設の中には資源化設備を備えていないものもあるが、事業主体が既存のし尿等を処理する施設の更新等を行おうとする場合、貴省は、前記の交付要綱等において、水処理設備だけでなく、上記のとおり、資源化設備も備えたセンターとする場合に限って交付金の交付対象とすることとしている。
センターの整備に当たり、事業主体は、「汚泥再生処理センター等施設整備の計画・設計要領」(公益社団法人全国都市清掃会議編。以下「計画・設計要領」という。)等に基づき水処理設備、資源化設備等の機器の処理能力を決定している。
計画・設計要領によれば、水処理設備の機器の処理能力の決定に当たっては、過去のし尿等の収集実績を基に、1人当たりのし尿等の排出量を算出し、これに予測される将来の収集人口を乗じた上で、収集量の季節等による変動に備えて15%程度の余裕を見込むこととされている。一方、資源化設備については、前記のとおり、水処理設備で分離される汚泥を乾燥するなどして資源化することから、その機器の処理能力の決定に当たっては、水処理設備で分離される汚泥量(以下「汚泥量」という。)を推計することとされている。そして、汚泥量については、し尿等に含まれる汚泥成分の濃度が簡易水洗便所の普及状況等により地域によって差異があることから、原則として、センターで処理するし尿等に含まれる汚泥成分の濃度を示す浮遊物質量等の値(注1)(以下「汚泥性状値」という。)の実態調査を行い、その調査結果に基づいて推計することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、水処理設備及び資源化設備の機器の処理能力は、それぞれの設備で処理するし尿等の量又は汚泥量に基づく適切なものとなっているかなどに着眼して、14都道県(注2)管内の28事業主体(注3)において会計実地検査を行った。
検査に当たっては、上記の28事業主体が交付金の交付を受けて平成17年度から28年度までの間に整備した28センター(事業費計437億4517万余円、交付対象事業費計323億6103万余円、交付金交付額計117億3477万余円)の28水処理設備及び29資源化設備を対象として、機器の処理能力の設計計算書、設計書等の関係書類の提出を受けてその内容を分析するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記28センターの28水処理設備と29資源化設備について、設備の機器の処理能力に対する28年度に実際に処理したし尿等の量の割合及び汚泥量の割合(以下、それぞれ「処理実績」という。)をみたところ、水処理設備の処理実績については、表1のとおり、28全ての水処理設備が70%以上となっていた。そして、水処理設備の機器の処理能力の決定に当たって、前記のとおり季節等による変動に備えて15%程度の余裕を見込むこととされていることや、センターの稼働後に人口減少によりし尿等の収集量が少なくなっていることなどを考慮すると、28水処理設備の処理能力は、おおむね適切なものとなっていると考えられる。一方、資源化設備の処理実績については、水処理設備と同様に70%以上となっているものは12設備にとどまっており、残りの16設備は70%未満となっていた。
表1 各設備の処理実績(平成28年度)
区分 | 50%未満 | 50%以上 60%未満 |
60%以上 70%未満 |
70%以上 80%未満 |
80%以上 90%未満 |
90%以上 | 計 | 処理実績の平均値 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
水処理設備 | 0 | 0 | 0 | 8 | 11 | 9 | 28 | 86.4% |
資源化設備 | 8 | 4 | 4 | 2 | 5 | 5 | (注)28 | 67.5% |
資源化設備は、前記のとおり、水処理設備でし尿等と分離された汚泥を資源化するものであり、水処理設備で処理するし尿等の減少に伴って処理する汚泥量も減少することから、資源化設備の処理能力が適切に決定されていれば、資源化設備の処理実績は、水処理設備の処理実績と近似したものになると考えられる。しかし、処理実績が70%未満となっていた資源化設備を有する16施設について、施設ごとの処理実績をみると、表2のとおり、資源化設備の処理実績は、水処理設備の処理実績の22.2%から81.2%までにとどまっており、水処理設備の処理実績と比べて低くなっていた。このように、資源化設備の処理実績のみが低調となっているのは、実際の汚泥量が資源化設備の機器の処理能力を決定する際に推計した量よりも少なくなっていることによると考えられる。
表2 処理実績が70%未満となっていた資源化設備を有する施設の処理実績等
都道県名 | 事業主体名 | 施設名 | 処理実績 (%) |
資源化設備に係る事業費等 (千円) |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
資源化設備 (a) |
水処理設備 (b) |
水処理設備に対する資源化設備の割合 (a)/(b) |
事業費 | 交付対象事業費 | 交付金相当額 | |||
宮城県 | 登米市 | 衛生センター | 55.1 | 94.8 | 58.1 | 472,186 | 395,395 | 131,798 |
宮城県 | 大崎地域広域行政事務組合 | 大崎広域東部汚泥再生処理センター | 48.2 | 77.6 | 62.1 | 393,124 | 393,124 | 131,041 |
東京都 | 大島町 | 千波環境美化センター | 43.8 | 80.8 | 54.2 | 151,152 | 151,152 | 75,576 |
東京都 | 三宅村 | 三宅村汚泥再生処理センター | 22.1 | 99.2 | 22.2 | 173,686 | 165,299 | 82,649 |
東京都 | 八丈町 | 八丈町汚泥再生処理センター | 23.3 | 70.9 | 32.8 | 301,552 | 301,552 | 150,776 |
福井県 | 坂井地区広域連合 | さかいクリーンセンター | 36.4 | 88.3 | 41.2 | 232,830 | 232,830 | 77,610 |
岐阜県 | 岐阜市 | 寺田プラント | 64.4 | 92.8 | 69.3 | 291,269 | 291,269 | 97,089 |
静岡県 | 磐田市 | 磐田市衛生プラント | 57.7 | 81.2 | 71.0 | 275,626 | 275,626 | 91,875 |
奈良県 | 五條市 | 五條市クリーンオアシス | 62.3 | 85.6 | 72.7 | 254,166 | 254,166 | 84,722 |
広島県 | 三原市 | 三原市汚泥再生処理センター | 65.6 | 80.7 | 81.2 | 512,229 | 512,229 | 170,743 |
広島県 | 三次市 | 三次市汚泥再生処理センター | 51.0 | 78.9 | 64.6 | 895,999 | 760,489 | 253,496 |
広島県 | 安芸高田市 | 汚泥再生処理センター安芸高田清流園 | 40.8 | 76.3 | 53.4 | 728,539 | 728,539 | 242,846 |
長崎県 | 島原市 | 前浜クリーン館 | 57.5 | 82.1 | 70.0 | 727,343 | 727,343 | 242,447 |
長崎県 | 対馬市 | 対馬中部クリーンセンター | 68.1 | 93.1 | 73.1 | 195,311 | 183,354 | 91,677 |
長崎県 | 壱岐市 | 壱岐市汚泥再生処理センター | 46.3 | 74.6 | 62.0 | 361,651 | 342,815 | 171,407 |
長崎県 | 雲仙市 | 雲仙市環境センター | 47.4 | 81.9 | 57.8 | 1,163,370 | 1,163,370 | 387,790 |
計 | 7,130,039 | 6,878,558 | 2,483,542 |
そこで、これら16資源化設備の機器の処理能力の決定に当たり、汚泥量をどのように推計しているかみたところ、16事業主体は、いずれも、汚泥性状値について、実態調査によることなく計画・設計要領に参考として記載されている全国調査の結果(以下「参考値」という。)等を用いていて、地域による汚泥性状値の差異を考慮しないまま汚泥量を推計していた。
しかし、前記のとおり、計画・設計要領によれば、汚泥量は、原則として、汚泥性状値の実態調査の結果に基づいて推計することとされている。そして、16資源化設備のうち、28年度の汚泥性状値を確認できた11設備についてみると、資源化設備の機器の処理能力の算定に用いた参考値等が7,812mg/Lから13,336mg/Lまでとなっているのに対して、実績値は2,419mg/Lから7,992mg/Lまでとなっていて、11設備のいずれにおいても参考値等よりも低くなっていた。
また、上記16資源化設備の主要な機器である汚泥脱水機、発酵機等(以下、これらを合わせて「主要機器」という。)71機器(機器費計40億4962万余円、交付金相当額計14億5136万余円)について、実際に整備された機器よりも小さい処理能力で28年度の汚泥量の処理が可能であったか確認したところ、13事業主体(注4)の13資源化設備(機器費計29億6995万余円、交付金相当額計10億6992万余円)については、処理能力が小さい機器とすることや機器の数量を減らすことが可能であったと認められた。
これらのことから、13事業主体の13資源化設備の主要機器に係る費用を修正計算すると計24億8398万円(交付金相当額計8億8354万余円)となり、計約4億8590万円(交付金相当額計1億8637万余円)が低減できたと認められる。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
東京都八丈町は、平成21年度から23年度までの間に、八丈町汚泥再生処理センターを新設するための事業を、事業費16億9497万余円(交付対象事業費11億7611万余円、交付金交付額5億8805万余円)で実施している。そして、同町は、同センターの資源化設備の機器の処理能力については、汚泥性状値について、参考値を基に平均11,600mg/Lとして、汚泥量を1日当たり17.2tと推計していた。
しかし、28年度における実際の汚泥性状値は平均2,419mg/Lとなっていて、参考値よりも大幅に低いものとなっていた。そして、同センターの処理実績を確認したところ、水処理設備については70.9%(処理能力14,965kLに対して実際の処理量は10,618.4kL)となっている一方、資源化設備については23.3%(処理能力6,278t(17.2t×365日)に対して実際の処理量は1,463t)となっており、水処理設備と比較して資源化設備の処理実績は著しく低調となっていた。
そして、資源化設備の主要機器である汚泥脱水機及び発酵装置に係る機器費計1億4350万円について、28年度の汚泥量に見合ったものとした場合の金額を確認したところ計4900万円となり、9450万円(交付金相当額4725万円)の費用を低減できる状況となっていた。
(是正改善を必要とする事態)
資源化設備の機器の処理能力の決定に当たり、実態調査によることなく参考値等を用いていて、地域による汚泥性状値の差異を考慮しないまま汚泥量を推計し、過大な処理能力の資源化設備の機器を整備している事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、事業主体が資源化設備の整備を経済的に実施することについて十分検討していなかったことなどにもよるが、貴省において、資源化設備の機器の処理能力の決定に当たり、汚泥性状値の実態調査結果に基づいて適切に汚泥量を推計することなどにより、実態に見合った処理能力の資源化設備の機器を整備することについての周知等を十分に行っていないことなどによると認められる。
貴省は、引き続き、水処理設備のみの既存の施設について、これらを改良したり、集約化したりなどする場合には、水処理設備だけでなく資源化設備も備えたセンターとする場合に限って交付金を交付することとしている。
ついては、貴省において、循環型社会形成推進交付金事業により整備するセンターの資源化設備について、汚泥量の実態に見合った処理能力の機器が整備されるようにするために、し尿等の汚泥性状値の実態調査を適切に行うなどして処理する汚泥量を適切に推計することなどを事業主体に対して周知するよう是正改善の処置を求める。