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  • 平成29年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第12 防衛省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(1) まとめ買いにより長期間保管する器材について、保管期間中の維持管理の在り方について経済性を考慮した検討を十分に行ったり、仕様書等と適合した適切な調達要求を行ったり、予定価格の算定における見積資料の内容を十分に確認したりして、調達が適切に行われるよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)防衛本省 (項)武器車両等整備費
平成27年度国庫債務負担行為
(組織)防衛本省 (事項)武器購入
部局等
陸上幕僚監部(調達要求部局)、防衛装備庁(契約部局)
契約名
生物剤検知・識別装置売買契約2件
契約の概要
NBC偵察車の搭載品として大気中の生物剤の有無を検知等するための器材である生物剤検知・識別装置を調達するもの
契約の相手方
丸紅エアロスペース株式会社
契約
平成27年10月 一般競争契約
上記の契約に係る調達数及び契約額
8式 16億9662万余円(平成27年度)
上記のうち仕様書等に記載されていない維持管理に係る費用が含まれていた調達数及び契約額
7式 4億1987万円

1 まとめ買いによる防衛装備品の調達等の概要

(1) まとめ買いによる防衛装備品の調達の概要

防衛省は、「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)」(平成25年国家安全保障会議及び閣議決定)の方針に沿い、複数年度分の防衛装備品や部品を特定の年度にまとめて予算化して契約すること(以下「まとめ買い」という。)により、防衛装備品の調達における効率化を図っている。

防衛省は、自衛隊の任務遂行に必要な防衛装備品で主要なものの調達を防衛装備庁(以下「装備庁」という。)によって一元的に実施することとしており、調達に当たっては、陸上、海上、航空各自衛隊等の調達要求元は、装備庁に調達要求を行い、装備庁はこれを受けて防衛装備品の調達を行っている。そして、「装備品等及び役務の調達実施に関する訓令の制定に伴う方針等及び同訓令の運用について(通達)」(昭和49年防装調第907号)によれば、調達要求元が装備庁に調達要求を行う場合には、調達要求に係る装備品の仕様、予算等に関して、事前に装備庁と十分な調整を行った上で調達要求するよう努めるものとされており、特に仕様書等については、その作成段階から相互に意見交換を行うよう努めるものとされている。

(2) 生検装置の調達の概要

陸上自衛隊は、放射性物質、生物剤、有毒化学剤等によって汚染された地域での原因物質の検知・識別を目的としたNBC偵察車を運用している。NBC偵察車には大気中の生物剤の有無を検知等するための器材である生物剤検知・識別装置(以下「生検装置」という。)が搭載されており、装備庁が、陸上自衛隊からの調達要求に基づき外国製造会社から商社等を通じた輸入により調達(以下、このような調達を「一般輸入調達」という。)している。そして、生検装置は、調達された後にNBC偵察車の製造会社に官給されて、NBC偵察車1両に1式ずつ搭載されている。

陸上自衛隊は、平成28年度以降の生検装置の調達に当たり、他国における生検装置の調達の終了に伴い、価格の上昇が見込まれるという情報を得たとして、調達費用の低減を図るために11式をまとめ買いにより調達することとし、27年8月及び同年10月に装備庁に調達要求を行った。これを受けて装備庁は、同年10月に2か年度から5か年度までの国庫債務負担行為により生検装置11式に係る売買契約4件(契約金額計21億1515万余円。以下「売買契約4件」という。)を丸紅エアロスペース株式会社(以下「会社」という。)と締結した。

(3) 生検装置の整備の概要

生検装置を含む陸上自衛隊の器材は、「陸上自衛隊整備規則」(昭和52年陸上自衛隊達第71―4号)等によれば、常に良好な状態に維持し、故障を未然に防止するために、部隊等において定期的に又は使用の都度、点検等を行うこととされており、器材が故障した場合に、その内容に応じて補給処等において修理を実施することとされている(以下、これらの点検、修理等を「整備」という。)。そして、補給処の整備能力を超える整備が必要である場合には、当該整備の実施を外注すること(以下「外注整備」という。)ができることとなっている。

(4) 一般輸入調達における予定価格の算定

一般輸入調達における予定価格は、「調達物品等の予定価格の算定基準に関する訓令」(昭和37年防衛庁訓令第35号)によれば、調達要求元から送付された調達要求書、仕様書等に基づいて計算した計算価格を基準として算定することとされている。そして、計算価格の計算項目は、品代、輸入手数料、販売直接費等とされており、計算価格は、商社等を通じて提出された外国製造会社等が発行した品代に係る見積資料等を基に算定することとされている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性、経済性等の観点から、まとめ買いにより調達することとした長期間保管する器材の保管期間中の維持管理についての検討は適切に行われているか、調達における仕様書等に基づく予定価格の算定は適切に行われているかなどに着眼して、売買契約4件を対象として、陸上幕僚監部、陸上自衛隊補給統制本部、装備庁及び会社において契約関係書類、外国製造会社等の見積資料等を確認するとともに、陸上幕僚監部において生検装置の維持管理の検討状況について聴取するなどして会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 陸上自衛隊による調達要求について

ア NBC偵察車の調達数量は年1両が予定されており、まとめ買いした生検装置11式のうち最後の1式が搭載される11両目のNBC偵察車の製造は38年度頃となる。その一方で、生検装置の納期は最も遅いもので31年10月となっている。このため、陸上自衛隊は、NBC偵察車の製造に合わせて生検装置を官給するように、生検装置11式のうち7式については、納入からNBC偵察車の製造会社へ官給するまでの間、陸上自衛隊関東補給処において保管することとしていた。

陸上自衛隊は、上記生検装置7式の調達に当たって、保管期間中においてもこれらの品質を確保するための維持管理を売買契約に含めることができないか会社と協議していた。会社は、陸上自衛隊との協議を踏まえて、生検装置7式について、売買契約の契約条項に付されることとなる瑕疵(かし)担保期間(納入日から2年間)の終了からNBC偵察車の製造会社へ官給するまでの保管期間(最長で33年度から38年度までの6年間)において、外国製造会社等が年2回の点検を行い、不具合があった場合は修理する(以下、これらを「点検修理」という。)こととする提案を26年7月に陸上自衛隊に対して行っていた。

陸上自衛隊は、この提案を基にのとおり調達計画を定めて平成27年度予算に係る予算要求を行い、27年7月に点検修理に係る費用等(以下「点検修理費」という。)を含む金額で予算の示達を受けて、同年8月及び10月に装備庁に対して調達要求を行っていた。

しかし、上記の点検修理には、従来、陸上自衛隊が自ら実施している整備と同じ内容のものが含まれており、これについては外注整備とする必要はなかった。そして、陸上自衛隊が自ら実施できない整備についても、将来の保管期間中の故障発生の可能性を合理的に予見できないこと、また、点検修理の実施予定時期は国庫債務負担行為の原則的な年限である5か年度を超えてしまうことから、不具合の発生の都度、個別に修理契約を締結して外注整備を実施すべきものであった。

図 生検装置の調達計画の概要

図 生検装置の調達計画の概要 画像

イ 陸上自衛隊は、調達要求に当たり、点検修理を売買契約における瑕疵担保期間の延長として捉えて、従来の生検装置の契約においては2年間となっていた瑕疵担保期間を延長することができないか事前に装備庁に確認したところ、瑕疵が発生した場合の責任の所在を特定することが困難になるとの理由により断られていた。

しかし、陸上自衛隊は、仕様書等には特段の記載をしないまま、製品本体の保証として点検修理費を生検装置の品代に実質的に含める形での対応を会社に依頼しており、事前の調整における装備庁の見解を踏まえることなく、点検修理について記載されていない仕様書等による調達要求を行っていた。

ア及びイのように、陸上自衛隊は、生検装置の保管期間中の維持管理についての検討を十分に行わず、また、事前の調整における装備庁の見解を踏まえることなく、売買契約4件のうち納期が30年10月及び31年10月である2件(以下「売買契約2件」という。)の調達要求において、仕様書等には記載されていない点検修理に係る費用を実質的に含んだ調達要求を行っていた。

(2) 装備庁による予定価格の算定について

装備庁は、売買契約4件の予定価格の算定に当たり、会社から見積資料及びその根拠となる外国製造会社の見積資料の提出を受けており、見積資料における生検装置の品代を含む製品単価は、納期の早いものから順にそれぞれ1億3932万余円、1億4969万余円、1億7045万余円及び2億4091万余円となっていた。

そして、装備庁は、陸上自衛隊からの調達要求において送付された仕様書等には点検修理について記載されておらず、また、外国製造会社の見積資料にも点検修理の記載がなかったことなどから、売買契約4件の内容は点検修理を含まない生検装置本体の売買のみであるとの認識の下、見積資料に基づき売買契約2件(8式)の予定価格を計16億9921万余円と算定して契約を締結して、28年3月に前払金6億2129万余円を会社に支払っていた。

しかし、売買契約2件の見積資料における製品単価には生検装置7式の点検修理費が実質的に含まれており、同一仕様の製品であるにもかかわらず最大約1億円の単価差が生じていたのに、装備庁は、その内容について会社や陸上自衛隊に対して確認を十分に行っておらず、見積資料における製品単価には点検修理費が実質的に含まれていることを認識していなかった。

これらの結果、売買契約2件には、契約額に含めることが適切ではない点検修理費4億1987万円が実質的に含まれていた。

このように、陸上自衛隊において、生検装置のまとめ買いによる調達に当たり、納入後の保管期間中の維持管理について十分に検討することなく、自ら実施できる整備や将来必ずしも発生することが確実でない整備を外注整備により実施することとしていたり、事前の調整における装備庁の見解を踏まえることなく、仕様書等に記載されていない点検修理に係る費用を実質的に含んだ適切とは認められない調達要求を行っていたり、装備庁において、予定価格の算定において見積資料における製品単価には実質的に点検修理費が含まれており、大幅な開差が生じているのにその内容の確認を十分に行っていなかったりしていて、契約額が割高となっており、調達が適切に行われていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。

  • ア 陸上自衛隊において、調達要求に当たり、まとめ買いにより必要となる器材の保管期間中の維持管理について経済性を考慮した検討が十分でなかったこと
  • イ 陸上自衛隊において、事前の調整における装備庁の見解も踏まえて仕様書等と適合した適切な調達要求を行うことの必要性に対する認識が欠けていたこと
  • ウ 装備庁において、同一仕様の製品の単価差が大きいなど見積資料に疑義がある状況において、その内容についての確認が十分でなかったこと

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、装備庁は、30年1月に割高となっていた契約額を減額する変更契約を会社と締結して、割高となっていた契約額に係る前払金を返還させていた。

そして、まとめ買いにより長期間保管する器材について、適切な調達が行われるよう、陸上自衛隊及び装備庁は次の処置を講じた。

ア 陸上自衛隊は、同年8月に関係部署に対して通知を発して、まとめ買いにより調達する器材を長期間保管する際には、真に必要な場合のみ外注整備とするなど保管期間中の維持管理の在り方について経済性を考慮した検討を十分に行った上で、当該検討を踏まえた調達要求を行うよう周知徹底した。

イ 装備庁は、同月に各自衛隊等の調達要求元に対して通知を発して、一般輸入調達における調達要求に当たっては、装備庁に対して事前に十分な調整を行うとともに、調達要求元が作成する仕様書等が要求事項を的確に反映したものとなるよう周知徹底し、陸上自衛隊は、同通知を踏まえて、仕様書等と適合した適切な調達要求を行うよう関係部署に対して周知徹底した。

ウ 装備庁は、同月に積算担当者に対して事務連絡を発して、一般輸入調達における予定価格の算定に当たっては、見積資料の価格等に疑義がある場合は商社等や調達要求元に対して説明を求めるなど、見積資料の内容について十分確認することとした。