防衛省は、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(昭和49年法律第101号)等に基づき、自衛隊等の航空機の離陸、着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しいと認めて防衛大臣が指定する防衛施設周辺の区域(以下「防衛施設周辺地域」という。)を第一種区域と、第一種区域のうち特に著しいと認めて指定する区域を第二種区域と、第二種区域のうち騒音障害が新たに発生することを防止し、併せてその周辺における生活環境の改善に資する必要があると認めて指定する区域を第三種区域(以下、第一種区域、第二種区域又は第三種区域を「指定区域」という。)とそれぞれ定めて、生活環境等の整備に必要な措置を講ずるなどしている。
そして、防衛省は、騒音障害の防止等のために、毎年度の予算の範囲内で、第三種区域に所在する土地の買入れ及び第二種区域内に所在する建物等の移転補償を行うとともに、第二種区域(第三種区域を含む。以下同じ。)において建物等が撤去され更地となった土地についても買入れを行い、これらの買い入れた土地(以下「周辺財産」という。)を緑地帯その他の緩衝地帯(以下「緩衝緑地帯」という。)として整備することとしている。また、飛行場に配備される航空機の機種変更等により、指定区域の変更が必要と想定されるなどの場合には、騒音測定を実施して、指定区域の見直しを実施している。
国有財産法(昭和23年法律第73号)によれば、国有財産は、国の行政目的に直接供される行政財産とそれ以外の普通財産に分類され、各省各庁の長は、その所管に属する行政財産を管理することとされている。そして、行政財産の用途を廃止した場合(以下「用途廃止」という。)等においては、各省各庁の長は、財務大臣に引き継ぐこととされている。
周辺財産は行政財産として管理されており、防衛省は、周辺財産について、適切な管理を行うため、内部部局が地方防衛局及び地方防衛支局(以下「地方防衛局等」という。)に対して指示をすることとしている。そして、地方防衛局等は、周辺財産の適切な管理を行うため、毎年度、除草等の緑地管理、定期的な巡回、関係者以外の立入りを禁止するための柵、看板等の設置の費用(以下、これらの費用を「維持管理費」という。)を支出しており、11防衛局等(注1)における外注による維持管理費に係る支出額は、平成24年度から28年度までの5か年度で計37億7741万余円となっている。
国有財産法によれば、行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる(以下、この許可を「使用許可」という。)こととされており、「行政財産を使用又は収益させる場合の取扱いの基準について」(昭和33年蔵管第1号。以下「通達」という。)によれば、駐車場として使用させる場合等が示されている。また、使用許可を与える相手方は、公募になじまないと判断される場合を除き、公募により選定するものとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、周辺財産は、適切に管理されているか、国有財産法等に基づき有効活用及び維持管理費の縮減が図られているかなどに着眼して、29年度末において地方防衛局等が管理する周辺財産面積計45,645,614m2(国有財産台帳価格計1680億3202万余円。表参照)を対象として、内部部局、11防衛局等において、国有財産台帳等の関係書類を検査するとともに、周辺財産の現況を確認するなどして会計実地検査を行った。
表 地方防衛局等が管理する周辺財産の面積等(平成29年度末現在)
地方防衛局等 | 筆数 | 面積(m2) | 国有財産台帳価格 |
---|---|---|---|
北海道防衛局 | 1,912 | 1,265,314.9 | 99億6811万余円 |
帯広防衛支局 | 1,128 | 23,897,542.9 | 3億5591万余円 |
東北防衛局 | 5,396 | 10,211,364.1 | 377億9647万余円 |
北関東防衛局 | 2,227 | 1,883,917.6 | 411億8071万余円 |
南関東防衛局 | 1,871 | 1,069,063.9 | 281億1251万余円 |
近畿中部防衛局 | 2,485 | 957,301.2 | 147億5891万余円 |
東海防衛支局 | 328 | 171,328.1 | 46億0906万余円 |
中国四国防衛局 | 2,473 | 706,159.2 | 88億7711万余円 |
九州防衛局 | 3,430 | 2,777,936.0 | 125億4731万余円 |
熊本防衛支局 | 2,720 | 2,612,106.5 | 59億4683万余円 |
沖縄防衛局 | 296 | 93,579.7 | 38億7903万余円 |
計 | 24,266 | 45,645,614.5 | 1680億3202万余円 |
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
29年度末において2防衛局(注2)が管理する周辺財産計218筆、面積計48,256m2(国有財産台帳価格計15億7648万余円)が、地方防衛局長の使用許可を受けることなく近隣住民等により無断で駐車場、家庭菜園等として使用されていた(以下「無断使用」という。)。これに対して、2防衛局は、無断使用している者(以下「無断使用者」という。)が特定されている一部の周辺財産については、無断使用の解消の交渉等の取組を行っていたが、無断使用者が特定されていないなどの周辺財産について、無断使用の解消に向けた有効な取組を行っていなかった。そして、内部部局は、周辺財産について、地方防衛局等に対して適切な管理を行うための指示をする立場にあり、上記の事態について、適切に把握する必要があるのに、無断使用及び地方防衛局等によるその解消に向けた取組の状況について、定期的に把握する仕組みを設けていなかったため、上記の事態を十分に把握しておらず、2防衛局に対して周辺財産の無断使用の解消に向けた指示をしていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
北関東防衛局が横田基地の周辺地域において管理している周辺財産計824筆、面積計646,336m2(国有財産台帳価格計298億4370万余円)のうち計138筆、面積計28,853m2(同計14億7393万余円)が昭和45年頃から順次近隣住民等に駐車場、家庭菜園等として無断使用されている状況となっていた。
こうした状況に対して、同局は、無断使用されている周辺財産の区画内に、当該土地が国有地であり許可なく使用することを禁止する旨の看板を設置するなどしたり、無断使用者が特定されている場合は、戸別訪問をしたりするなどして無断使用の解消に努めてきたが、無断使用者が特定されていない場合は、無断使用の解消に向けた有効な取組を行っておらず、十分な解消には至っていなかった。
しかし、内部部局は上記の事態を十分に把握しておらず、解消に向けた指示をしていなかった。
なお、同局に対する会計実地検査の結果を踏まえるなどして、無断で駐車場として使用され、その使用者が特定されていなかった周辺財産について、同局が駐車されている車両のナンバープレート等の情報を基に関係機関に登録情報の提供を依頼することにより、無断使用者を特定して協議した結果、平成30年3月末までに計7筆、面積計3,083m2(同計1億4711万余円)の無断使用が解消された。
地方防衛局等は、「周辺財産を無償で使用させる場合等の取扱いについて」(平成25年防地施第11593号)に基づき、防衛施設の運用に支障が生ずるおそれがないことなどを確認した上で、地方公共団体等に対して周辺財産の使用許可を与えており、これらの周辺財産を除いた29年度末において11防衛局等が直接管理する周辺財産の面積は、計41,250,585m2(国有財産台帳価格計1338億8264万余円。(1)の無断使用されている周辺財産を含む。)となっていた。これらの周辺財産の中には、市街地又は幹線道路沿いに所在していて、その立地等を考慮すれば、民間等において駐車場等としての需要があると思料されるものなども見受けられた。そして、これらについては、公募の上で有償による使用許可を与えることにより、維持管理費の縮減が図れるとともに、防衛施設周辺地域の活性化にも寄与することができると思料される。
しかし、内部部局は、当該周辺財産について、駐車場等として使用しても緩衝緑地帯としての目的を妨げず、通達に基づき、公募の上で有償による使用許可を与えることが可能であるものがあると思料されるのに、11防衛局等に対してこれを周知して、検討するよう指示していなかったため、11防衛局等は、その検討をしていなかった。
防衛省は、前記のとおり、防衛施設周辺地域における騒音障害の測定結果に基づいて指定区域の見直しを行っており、見直し後に第二種区域に該当せず、第一種区域等に該当することとなった周辺財産が、(2)の周辺財産41,250,585m2のうち、7防衛局等(注3)の計1,263筆、面積計1,039,737m2(国有財産台帳価格計47億4760万余円)見受けられた。
周辺財産は、前記のように、騒音障害の防止等のために、第二種区域に所在する土地を防衛省が買い入れて、緩衝緑地帯として整備している土地であり、第二種区域に該当しないこととなった周辺財産については、必ずしも地方防衛局等において、行政財産として管理し続ける必要性はないと認められる。
しかし、内部部局は、当該周辺財産について、その立地条件等を考慮して、国有財産法に基づき、財務省との協議を経た上で、必要に応じて行政財産の用途廃止の手続を行って普通財産として同省に引き継ぐことなどについて検討するよう、7防衛局等に対して指示していなかったことから、7防衛局等は、その検討をしていなかった。
このように、内部部局において、周辺財産が近隣住民等により無断使用されていたのに、状況を把握しておらず、2防衛局に対して無断使用の解消に向けた指示をしていなかったり、公募の上で有償による使用許可を与えることにより有効活用及び維持管理費の縮減を図ることについて、11防衛局等に対して検討するよう指示していなかったり、指定区域の見直しにより第二種区域に該当しないこととなった周辺財産について、財務省と協議の上で、必要に応じて行政財産の用途廃止の手続を行って普通財産として同省に引き継ぐことなどについて、7防衛局等に対して検討するよう指示していなかったりしていて、行政財産が適切に管理されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、内部部局において、次のようなことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、防衛省では、30年8月に、内部部局から地方防衛局等に対して通知を発し、周辺財産を適切に管理するよう、次のような処置を講じた。
ア 周辺財産の無断使用及び地方防衛局等によるその解消に向けた取組の状況について把握を行うための報告書の様式を定めて地方防衛局等から定期的に報告を受けるなどして、地方防衛局等に対して無断使用の改善に向けた指示を行う仕組みを整備した。また、無断で駐車場として使用され、その使用者が特定されていなかった周辺財産について、駐車されている車両のナンバープレート等の情報を基に関係機関に登録情報の提供を依頼することにより、無断使用者を特定して協議した結果、無断使用が解消された事例等、他の地方防衛局等においても参考となる実効性のある具体的な取組の例を周知した。
イ 通達に基づき、周辺財産を公募の上で有償による使用許可を与えることにより有効活用及び維持管理費の縮減を図ることが可能であることについて周知するとともに、所要の手続を進めるよう指示した。
ウ 指定区域の見直しにより、第二種区域に該当しないこととなった周辺財産について、その立地条件等を考慮の上、国有財産法に基づき、財務省との協議を経た上で、必要に応じて行政財産の用途廃止の手続を行って普通財産として同省に引き継ぐことなどについて検討するよう指示した。