陸上、海上、航空各自衛隊(以下「各自衛隊」という。)は、任務に対応して各種の航空機、艦船等(以下「航空機等」という。)を運用しており、不具合発生時に交換するための予備品等として、航空機等に搭載する物品(以下「搭載用物品」という。)を多数保有している。搭載用物品は、航空機等に搭載されるまでの間及び取り外して保管等されている間は、単独の物品として航空機等とは別に管理されている。
物品管理法(昭和31年法律第113号)等によれば、国の物品については、各省各庁の長がその所管に属する物品の取得、保管、供用及び処分(以下、これらを合わせて「管理」という。)を行い、各省各庁の長からその管理に関する事務の委任を受けた職員が物品管理官として当該事務を行うこととされている。
また、物品管理官又は物品管理官の事務の一部を分掌する分任物品管理官は、物品管理簿を備えて、物品の増減等の異動数量、現在高等を記録することとされており、財務大臣が指定する機械、器具等(注1)(以下「重要物品」という。)については、その取得価格も物品管理簿に記録しなければならないこととされている。
そして、各省各庁の長は、重要物品について、毎会計年度末の物品管理簿の記録内容に基づいて、物品増減及び現在額報告書(以下、各省各庁の長が作成する物品増減及び現在額報告書を「物品報告書」という。)を作成し、財務大臣に送付しなければならないこととされており、物品報告書に基づいて財務大臣が作成した物品増減及び現在額総計算書により、物品の現在額等は、内閣から国会に報告されている。
防衛省における物品報告書の作成等については、陸上自衛隊補給統制本部及び海上自衛隊、航空自衛隊両補給本部(以下、これらを合わせて「補給本部等」という。)の長が、分任物品管理官である各自衛隊の航空隊司令等にあらかじめ重要物品として計上すべき物品について示した上で、航空隊司令等から重要物品に関する資料の送付を受け、物品増減及び現在額報告書の案(以下「報告書案」という。)を作成し、物品管理官である陸上、海上、航空各幕僚長(以下「各幕僚長」という。)に報告している。上記の報告を受けた各幕僚長は、物品増減及び現在額報告書(以下、各幕僚長が作成する物品増減及び現在額報告書を「管理官報告書」という。)を作成し、防衛大臣に報告している。そして、防衛大臣からの委任に基づき、防衛装備庁長官(平成27年9月30日以前は防衛省経理装備局長)が物品報告書の財務大臣への提出に関する事務を行っている。
重要物品の管理官報告書への計上については、昭和54年度決算検査報告において、航空自衛隊における管理官報告書の記載内容が適切でなかった事態について、「本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項」として掲記している。そして、上記改善の処置として、防衛庁(19年1月9日以降は防衛省)内部部局は、昭和55年8月に各幕僚長に対して「物品増減及び現在額報告について(通知)」(以下「55年通知」という。)を発して、管理官報告書に計上すべき物品についての判断基準を示している。
55年通知によれば、組込用、予備用又は修理用として別途管理する物品で、単体として機械又は器具と社会通念上認識できるものは計上することとされており、計上する搭載用物品の具体例として、エンジン、プロペラ等が示されている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、正確性、合規性等の観点から、各自衛隊が管理する取得価格が300万円以上の搭載用物品が重要物品として物品報告書に計上されているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、平成28年度末において各自衛隊が保有する取得価格が300万円以上の搭載用物品135品目計40,682個(物品管理簿価格計1兆3571億6244万余円)を対象として、防衛装備庁、陸上、海上、航空各幕僚監部、補給本部等、海上自衛隊航空補給処及び7航空基地等(注2)において、物品報告書、管理官報告書、物品管理簿等の関係書類等を確認するとともに、補給本部等に対して、搭載用物品の報告書案の作成に係る調書の作成を依頼し、提出を受けた調書の内容を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
各自衛隊においては、55年通知の発出以降、新たな航空機等の導入に伴い搭載用物品が多種多様なものとなったり、搭載用物品がそれぞれ連接されるなどしてシステム化されたりなどしている。
このような状況の中で、航空自衛隊においては55年通知を受けた後、航空自衛隊補給本部の長が管理官報告書に計上すべき物品についての判断基準として、物品を機能及び用途等により分類した分類区分表の中から計上すべき物品の分類番号を分任物品管理官に示していて、分類番号により管理官報告書に計上すべき物品であるか否かの判断を行っていたため、搭載用物品の取扱いは統一されていた。
一方、陸上、海上両自衛隊においては、55年通知に管理官報告書に計上することとして例示されていない搭載用物品について、陸上自衛隊補給統制本部は単に例示されている搭載用物品と類似であると思われるものを、海上自衛隊補給本部はその搭載用物品の取扱説明書等で主たる物品とされているものを、それぞれその都度個別に判断するなどして管理官報告書に計上していて、搭載用物品の取扱いについて必ずしも統一的な判断を行っていなかった。
このため、陸上自衛隊補給統制本部の火器管制システム等32品目計1,653個(物品管理簿価格計233億6333万余円)及び海上自衛隊補給本部のソーナー等21品目計1,811個(物品管理簿価格計379億8861万余円)について、物品管理簿には単独の物品として記録されており、航空機等や他の物品とは分けて整備されるなど単体として機械又は器具であると認められるにもかかわらず、55年通知の趣旨に沿った適切な判断が行われず、陸上、海上両幕僚長が報告した28年度の管理官報告書に当該搭載用物品の数量及び価格が計上されていなかった。
また、55年通知において、プロペラは管理官報告書に計上することが具体例として明確に示されているにもかかわらず、陸上自衛隊補給統制本部が新たな航空機の導入に伴い予備用等として別途管理している一部の機種の航空機用プロペラ36個(物品管理簿価格計2億2559万余円)及び海上自衛隊補給本部の一部の艦種の艦船用プロペラ5個(物品管理簿価格計3620万円)について、物品管理簿には単独の物品として記録されており、取得価格が300万円以上であるのに従来の機種と同様に300万円未満であると誤認していたり、プロペラとして組み立てられた状態となっているのに計上すべきプロペラではないと誤認していたりしていて、陸上、海上両幕僚長が報告した28年度の管理官報告書に当該搭載用物品に係る数量及び価格が計上されていなかった。
これらのことから、防衛装備庁が提出した28年度の物品報告書に、陸上、海上両自衛隊計43品目計3,505個(物品管理簿価格計616億1374万余円)が計上されていなかった(表参照)。
表 物品報告書に計上されていなかった搭載用物品
搭載用物品(品目名) | 陸上自衛隊 | 海上自衛隊 | ||
---|---|---|---|---|
数量 | 価格 | 数量 | 価格 | |
単体として機械又は器具であると認められるにもかかわらず、55年通知の趣旨に沿った適切な判断が行われず管理官報告書に計上されていなかったもの | ||||
補助動力装置 | 55 | 2,024,691 | 204 | 19,165,778 |
姿勢方位基準・指示装置 | 324 | 3,468,041 | 69 | 1,541,442 |
ソーナー | ― | ― | 23 | 4,199,685 |
発電機 | 399 | 3,069,542 | 215 | 859,150 |
自動操縦システム | 149 | 2,255,469 | 124 | 1,118,848 |
火器管制システム | 2 | 3,357,209 | ― | ― |
飛行諸元記録装置 | 28 | 163,034 | 194 | 2,841,658 |
油圧ポンプ | 68 | 337,543 | 361 | 1,841,449 |
マルチファンクションディスプレイ | 118 | 1,111,073 | 76 | 661,468 |
搭載用燃料タンク | 160 | 1,542,047 | ― | ― |
搭載用機関銃 | ― | ― | 251 | 1,085,718 |
ミサイル警報装置 | 11 | 146,716 | 70 | 812,577 |
電波探知妨害装置 | ― | ― | 1 | 959,294 |
電源装置 | 33 | 928,034 | ― | ― |
磁気探知機 | ― | ― | 21 | 920,577 |
艦船用プロペラ軸 | ― | ― | 37 | 914,954 |
航空機搭載用銃架 | 38 | 724,613 | 49 | 147,000 |
対気諸元計算装置 | 75 | 829,763 | 10 | 38,083 |
ヘッドアップディスプレイ | 33 | 852,105 | ― | ― |
補助動力装置用スタータ | 44 | 720,029 | 3 | 24,936 |
セントラルコンピュータ | ― | ― | 36 | 425,250 |
慣性航法装置 | 13 | 386,666 | 1 | 11,275 |
TACAN装置 | ― | ― | 50 | 304,910 |
衛星航法装置 | 10 | 284,249 | ― | ― |
ミサイルランチャー | 9 | 215,754 | ― | ― |
ミサイル制御装置 | 5 | 185,642 | ― | ― |
味方識別機 | 6 | 127,740 | ― | ― |
レーダー警戒装置 | 2 | 122,200 | ― | ― |
データリンク装置 | 10 | 109,095 | ― | ― |
気象レーダー構成品 | ― | ― | 15 | 107,258 |
ボンブ・ラック | 8 | 78,670 | ― | ― |
衛星通信装置 | 19 | 72,760 | ― | ― |
飛行管理入出力装置 | 9 | 57,023 | ― | ― |
UHF・VHF送受信機 | 7 | 45,535 | ― | ― |
チャフフレア発出装置 | 6 | 42,203 | ― | ― |
機内通話装置 | 4 | 31,844 | ― | ― |
飛行管理装置 | 4 | 31,627 | ― | ― |
IFF空中線 | 2 | 21,240 | ― | ― |
機上通信統合装置 | 1 | 18,060 | ― | ― |
航空機用味方識別装置 | ― | ― | 1 | 7,300 |
ATCトランスポンダ | 1 | 3,112 | ― | ― |
小計 | 1,653 | 23,363,338 | 1,811 | 37,988,614 |
55年通知において、管理官報告書に計上することが具体例として明確に示されているにもかかわらず計上されていなかったもの | ||||
航空機用プロペラ | 36 | 225,594 | ― | ― |
艦船用プロペラ | ― | ― | 5 | 36,200 |
小計 | 36 | 225,594 | 5 | 36,200 |
計 | 品目数:43品目(陸上自衛隊33品目、海上自衛隊22品目) 数量:3,505 価格:61,613,747 |
このように、搭載用物品について、55年通知において管理官報告書に計上することとして例示されてはいないものの55年通知の趣旨に沿った適切な判断が行われず計上されていなかったり、計上することが具体例として明確に示されているにもかかわらず計上されていなかったりしていて、物品報告書が適正なものとなっていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、55年通知の発出以降、新たな航空機等が導入され搭載用物品が多種多様なものとなったり、搭載用物品がそれぞれ連接されるなどしてシステム化されたりなどしていて、55年通知のような搭載用物品の名称の例示だけでは管理官報告書への計上について判断することが難しい場合も生じているのに、防衛装備庁において55年通知の内容を適時適切に見直す必要性についての認識が欠けていたこと、また、陸上、海上両自衛隊において搭載用物品を管理官報告書へ適切に計上することについての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、防衛装備庁は、作成する物品報告書が重要物品の現況を反映した適正なものとなるよう、陸上、海上両自衛隊に対して、物品報告書に計上されていなかった重要物品である搭載用物品を29年度の管理官報告書に計上させて、物品報告書を作成した。そして、30年8月に、重要物品である搭載用物品が適切かつ確実に管理官報告書に計上されるよう品目の特性によって細分化された分類区分による明確な計上基準を制定し、今後は当該計上基準を適時適切に見直すこととした上で、陸上、海上両自衛隊を含めた関係機関に対して通知を発して、その内容を周知徹底するなどの処置を講じた。