陸上自衛隊は、「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」(平成25年国家安全保障会議及び閣議決定)において戦車及び火砲の配備規模を減勢することとされており、「戦車等の用途廃止(区分換又は不用決定)の要領について(通達)」(平成27年陸幕武化第17号電。以下「用途廃止要領」という。)に基づき、74式戦車や155mmりゅう弾砲FH70(以下、これらを合わせて「戦車等」という。)等の装備品の用途廃止を進めている。
戦車等の用途廃止は、用途廃止要領に基づき、陸上幕僚監部(以下「陸幕」という。)が年度ごとに示す特別技術検査(注1)の対象となる戦車等に故障が発生した際に、5補給処(注2)が実施する特別技術検査の結果に基づき陸幕が決定している。
特別技術検査において、5補給処は、「特別技術検査の実施要領について(通達)」(平成19年補統火車第317号。以下「検査実施要領」という。)等に基づき、性能検査をするなどして部品等ごとに交換や修理の要否を判定(以下「交換等の要否判定」という。)するなどして戦車等1両等ごとの修理費を算定している。そして、5補給処は、用途廃止要領に基づき、特別技術検査の終了後、速やかに特別技術検査の結果として上記の修理費を方面総監部等を通じて陸幕に報告するとともに、陸上自衛隊補給統制本部(以下「補給統制本部」という。)に通知している。補給統制本部は、特別技術検査の結果を取りまとめ、用途廃止の優先順位を付して、陸幕に報告している。
陸上自衛隊は、用途廃止の決定後、「区分換又は不用決定された装備品(火器・車両)からの部品等採取の指示について(通達)」(平成29年補統火車第52号電)等に基づき、部隊等からの請求に即応する補給支援を実施することなどを目的として、補給統制本部、補給処及び野整備部隊等(注3)において、用途廃止された戦車等から使用可能な部品等を採取して補給部品等とするまでの一連の作業(以下「部品採取」という。)を次のとおり実施している。
① 補給統制本部は、用途廃止された戦車等から採取する部品等の種類及び数量を指定し、補給処を通じてこれを野整備部隊等に通知する。
② 野整備部隊等は、補給統制本部が指定した部品等であって、野整備部隊等が使用可能と判断した部品等を採取し(以下「部品取り」という。)、補給処に送付する。
③ 補給処は、送付を受けた部品等を検査して速やかに使用可否の別に分類(以下「検査分類」という。)を行い、部品採取の実績を補給統制本部に報告する。
④ 検査分類により、使用可能と判定された部品等は、補給部品等とされた後、部隊等からの請求に基づき、必要に応じて当該部隊等に払い出されたり、将来の部隊等への払出しのために、補給処で保管されたりなどする。また、検査分類により、使用不能と判定された部品等は補給処が処分するなどする。
特別技術検査及び部品採取について、手続の流れを示すと図のとおりである。
図 特別技術検査及び部品採取の手続の流れ
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
用途廃止を決定するために行う特別技術検査における部品等ごとの交換等の要否判定には、実質的な部品等の使用可否の判定も含まれていることから、用途廃止後の部品採取の実施に際しても、有用な情報を含んでいると考えられる。
そこで、本院は、効率性、有効性等の観点から、特別技術検査における交換等の要否判定は適切に行われ、使用可能な部品等の採取に資するものとなっているか、部品採取は交換等の要否判定の結果を活用するなどして効率的に実施されているかなどに着眼して、平成27、28両年度に用途廃止された戦車等計126両等について、補給統制本部が28、29両年度に部品採取の対象として指定した部品等のうち、標準価格(注4)が20,000円以上である部品等119品目、計6,117個(標準価格計119億8215万余円)を対象として、陸幕、補給統制本部及び4補給処(注5)や野整備部隊等が所在する7駐屯地(注6)において、特別技術検査結果表、部品採取実績の報告書等を確認するなどして会計実地検査を行った。また、補給統制本部及び4補給処や野整備部隊等が所在する16駐屯地(注7)における30年3月31日時点での部品採取の実施状況、部隊等からの請求に対する払出状況等について、陸幕に調書の作成及び提出を求めるなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
30年3月31日時点で野整備部隊等による部品取りが終了していて、かつ、補給処による特別技術検査における交換等の要否判定の結果を確認することができた3補給処(注8)の117品目、計4,052個(標準価格計99億1912万余円)について、交換等の要否判定の結果と部品採取の実施状況を対照したところ、次のような状況となっていた。
3補給処が特別技術検査において、交換又は修理を要するとして使用不能と判定していた98品目、計2,133個(標準価格計48億9902万余円)のうち、59品目、計410個(同計11億6459万余円)について、野整備部隊等は、これらを使用可能と判断して部品取りを行い、3補給処に送付していた。そして、これらの部品等について、3補給処が検査分類を実施した44品目、計106個(同計3億7084万余円)のうち、2補給処(注9)における31品目、計68個(同計3億2697万余円)については、当該補給処も使用可能と判定していた(表参照)。このように、特別技術検査における交換等の要否判定の結果と、野整備部隊等による部品取りが行われ、補給処が行った検査分類の判定の結果が異なっていた。そして、これらの部品等は、部隊等からの請求に対して払い出され、実際に支障なく使用されるなどしていた。
そこで、上記の31品目、計68個について行われた特別技術検査における交換等の要否判定及び検査分類の方法をみたところ、2補給処は、交換等の要否判定に当たり、検査実施要領に具体的な留意点が明示されていなかったため、部品等に付着した錆(さび)等を十分に除去するなどしないまま、使用不能と判定していた。しかし、2補給処は、検査分類に当たっては適切な方法により錆等を除去するなどしていて、いずれの部品等も使用可能と判定していた。したがって、31品目、計68個(標準価格計3億2697万余円)については、特別技術検査における交換等の要否判定が適切に行われておらず、使用可能な部品等の採取に資するものとなっていなかったと認められた。
一方で、3補給処が特別技術検査において、交換又は修理を要しないとして使用可能と判定していた104品目、計1,919個(標準価格計50億2010万余円)のうち93品目、計1,500個(同計35億7192万余円)について、野整備部隊等は、これらを使用不能と判断して、3補給処に送付することなく処分するなどしていた(表参照)。このように、補給処による特別技術検査における交換等の要否判定の結果と、野整備部隊等による部品取りにおける判断の結果が異なっていたが、検査時点において、既に部品等は処分するなどされており、交換等の要否判定と部品取りの判断のいずれが妥当であったかなどについて検証できない状況となっていた。
表 特別技術検査における交換等の要否判定の結果と部品採取の実施状況
補給処による特別技術検査における交換等の要否判定の結果
\
部品採取の実施状況 |
交換又は修理を要するとして使用不能と判定していたもの | 交換又は修理を要しないとして使用可能と判定していたもの | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
A 野整備部隊等が部品取りを終了していたもの |
品目数 | 98 | ― | 104 | ― | |||||
個数計 | 2,133 | 52.6% | 注(2) | 1,919 | 47.3% | 注(2) | ||||
標準価格計 | 4,899,025 | 49.3% | 5,020,102 | 50.6% | ||||||
B 使用不能と判断して、補給処に送付することなく処分するなどしていたもの |
品目数 | 93 | ― | 93 | ― | |||||
個数計 | 1,723 | 80.7% | (B/A) | 1,500 | 78.1% | (B/A) | ||||
標準価格計 | 3,734,433 | 76.2% | 3,571,929 | 71.1% | ||||||
C 使用可能と判断して部品取りを行い、補給処に送付していたもの |
品目数 | 59 | ― | 81 | ― | |||||
個数計 | 410 | 19.2% | (C/A) | 419 | 21.8% | (C/A) | ||||
標準価格計 | 1,164,592 | 23.7% | 1,448,173 | 28.8% | ||||||
D 補給処が検査分類を行っていなかったもの |
品目数 | 49 | ― | 71 | ― | |||||
個数計 | 304 | 74.1% | (D/C) | 288 | 68.7% | (D/C) | ||||
標準価格計 | 793,747 | 68.1% | 1,016,311 | 70.1% | ||||||
E 補給処が検査分類を行っていたもの |
品目数 | 44 | ― | 59 | ― | |||||
個数計 | 106 | 25.8% | (E/C) | 131 | 31.2% | (E/C) | ||||
標準価格計 | 370,844 | 31.8% | 431,862 | 29.8% | ||||||
F 使用可能と判定していたもの |
品目数 | 31 | ― | 36 | ― | |||||
個数計 | 68 | 64.1% | (F/E) | 85 | 64.8% | (F/E) | ||||
標準価格計 | 326,970 | 88.1% | 318,643 | 73.7% | ||||||
G 使用不能と判定していたもの |
品目数 | 26 | ― | 31 | ― | |||||
個数計 | 38 | 35.8% | (G/E) | 46 | 35.1% | (G/E) | ||||
標準価格計 | 43,873 | 11.8% | 113,218 | 26.2% |
4補給処管内の野整備部隊等は、用途廃止された戦車等計13両等について、装備品の整備等の業務がある中で、部品取りの業務も行うのは作業負担が大きいなどとして、用途廃止の決定から1年以上経過した30年3月31日時点においても部品取りを行っていなかった。また、部品取りを行っていた戦車等計113両等について、その時期が判明している計75両等のうち計18両等は、用途廃止の決定から1年以上経過して部品取りを行っていた。
そして、野整備部隊等による部品取りが行われ、その時期が判明している部品等のうち、補給処による検査分類が行われた部品等93品目、計454個(標準価格計12億7427万余円)について、用途廃止の決定から部品取りまでの期間と検査分類の結果との関連性をみたところ、当該期間が1年未満となっている80品目、計316個(同計9億4458万余円)は、その81.9%(75品目、計259個(同計6億0470万余円))が使用可能と判定されていた。一方、当該期間が1年以上となっている77品目、計138個(同計3億2968万余円)は、その42.0%(47品目、計58個(同計1億3714万余円))のみが使用可能と判定されていた。このように、用途廃止の決定から部品取りを行うまでの期間が1年以上経過すると、1年未満に部品取りを行う場合に比べて、検査分類において使用可能と判定される割合が約半分に減少している状況となっていた。したがって、より多くの使用可能な部品等を採取するためには、用途廃止後、速やかに部品取りを行う必要があると思料された。
4補給処は、30年3月31日までに野整備部隊等から送付された106品目、計1,192個(標準価格計33億8023万余円)のうち、93品目、計723個(同計20億9668万余円)について、装備品の整備等の業務がある中で、検査分類の業務も行うのは作業負担が大きいなどとして、検査分類を行わないまま倉庫に保管していた。そして、このうち54品目、計221個(同計6億2554万余円)については、野整備部隊等から送付を受けた日から半年以上(最大10か月)経過していて、30年3月31日時点で、補給処が部隊等からの請求に対して払出しができていない品目と同じものが11品目、計41個(同計3907万余円)含まれており、部隊等からの請求に対して速やかに対応できていない状況となっていた。
(1)のとおり、補給処による特別技術検査における交換等の要否判定が適切に行われておらず、使用可能な部品等の採取に資するものとなっていなかったり、野整備部隊等による部品取り及び補給処による検査分類が速やかに行われていなかったりしていた。
そこで、陸幕及び補給統制本部において、部品採取の対象として指定された部品等119品目、計6,117個(標準価格計119億8215万余円)に係る特別技術検査における交換等の要否判定の実施及びその結果の確認状況、交換等の要否判定の結果の部品採取への活用状況等をみたところ、次のようになっていた。
陸幕は、前記のとおり、各補給処から特別技術検査の結果として戦車等1両等ごとの修理費の報告を受けるとともに、補給統制本部から戦車等の用途廃止の優先順位を付した結果の報告を受けているが、これらの報告の基礎となる交換等の要否判定の結果及びその根拠資料を各補給処から補給統制本部に報告させることとしていなかった。その結果、補給統制本部は、交換等の要否判定が適切に行われているか確認することとしていなかった。また、補給統制本部は、交換等の要否判定の結果を用途廃止後の部品採取に活用することとしていなかった。
このため、4補給処は、交換等の要否判定の結果を野整備部隊等に伝えておらず、野整備部隊等は、交換等の要否判定に関係なく、部品採取の対象として指定された全ての部品等について、自ら使用の可否を判断した上で部品取りを行っていて、部品取りが効率的に行われていなかった。さらに、補給処内においても、特別技術検査の担当部署と検査分類の担当部署との間で交換等の要否判定の結果を共有しておらず、検査分類が効率的に行われていなかった。
しかし、陸上自衛隊は、毎年度、補給処による特別技術検査を実施し、部品等ごとの交換等の要否判定を行うこととしていることから、当該判定を適切に行った上で、用途廃止後の部品採取に当たり、当該判定の結果を部品取り及び検査分類に活用することとすれば、野整備部隊等及び補給処の作業負担を軽減できるとともに、部品採取を効率的に実施することができると認められた。
このように、特別技術検査における交換等の要否判定が適切に行われておらず、使用可能な部品等の採取に資するものとなっていなかった事態、交換等の要否判定の結果が用途廃止後の部品採取に活用されず、部品取り及び検査分類が効率的に実施されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、陸上自衛隊において、次のようなことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、陸幕及び補給統制本部は、30年8月に用途廃止要領及び検査実施要領を改正するなどして、装備品の用途廃止後の部品採取が適切に実施されるよう、次のような処置を講じた。
ア 特別技術検査における交換等の要否判定が適切に行われ、使用可能な部品等の採取に資するものとなるよう、その実施に当たっての留意点を検査実施要領に明確に示すとともに、補給処から、補給統制本部に交換等の要否判定の結果及びその根拠資料を報告させるなど交換等の要否判定が適切に行われているか確認して、必要に応じて指導を行う態勢を整備した。
イ 部品取り及び検査分類が効率的に行われるよう、補給統制本部が特別技術検査における交換等の要否判定の結果を踏まえて部品採取の対象となる部品等を指定するなど交換等の要否判定の結果を装備品の用途廃止後の部品採取に活用する態勢を整備するとともに、野整備部隊等及び補給処に対して、交換等の要否判定の結果を活用して部品取り及び検査分類を効率的に行うよう周知徹底した。