沖縄振興開発金融公庫(以下「公庫」という。)は、沖縄振興開発金融公庫法(昭和47年法律第31号)等に基づき、沖縄県内における経済の振興及び社会の開発に資することを目的として設立された金融機関である。国は、公庫の資本金を全額出資しており、また、公庫の収支状況等を勘案して、公庫に対して沖縄振興開発金融公庫補給金を交付している。
そして、公庫は、住宅を建設して賃貸する事業を行う者に対して、住宅の建設、住宅の用に供する土地の取得等に充てるために必要な長期資金の貸付け(以下「賃貸住宅融資」という。)を行っている。
公庫は、経営の健全性の維持と更なる向上を図るために、統合リスク管理規程(平成18年規程(総)第25号)等において、信用リスク(借受者の信用力の悪化等に伴い、資産の価値が減少又は消失することにより、貸付者が損失を被るリスク)等の各種リスクを適切に管理するための基本的な事項を定めるなどしている。
賃貸住宅融資に係る融資金利については、主務大臣の承認を受けて、公庫において定めることとなっており、基本的に、独立行政法人住宅金融支援機構(以下「機構」という。)の定める融資金利(以下「機構金利」という。)を準用した上で、機構金利から0.3%を控除した利率となっている。
機構によれば、機構金利は、調達金利に、各種リスクへの対応に必要なコストを加えるなどして定められるものであるとしている。各種リスクのうち信用リスクについては、①連帯保証人を徴求する、②信用コスト(信用リスクに対応するために必要なコスト)相当分を融資金利に上乗せするなどの方法により適切に対応する必要があるとしており、機構では、原則として、機構が承認した保証機関が借受者の委託を受けて、機構に対して借受者が有する債務を連帯して保証すること(以下、このような形態の保証を「機関保証」という。)を徴求することなどにより対応している。ただし、サービス付き高齢者向け住宅(注1)のうち、共同して利用するための台所、収納又は浴室を共用部分に備えるなどしている施設共用型の住宅に係る賃貸住宅融資については、信用コスト相当分を融資金利に上乗せすることにより信用リスクに対応している。
公庫は、平成9年8月に、住宅資金貸付細則(昭和50年細則(業)第7号。以下「細則」という。)等において定めていた「1名以上の保証人を徴求する」の中に機関保証を徴求することを含めることとして、債務の保証については、原則として機関保証を徴求する取扱いとした。その後、公庫は、26年1月に細則を改正して、「1名以上の保証人を徴求する」としていた当該規定を「必要に応じて保証人を徴求する」と変更している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性、有効性等の観点から、賃貸住宅融資について、連帯保証人の徴求等による信用リスクへの対応が適切なものとなっているかなどに着眼して、公庫が機関保証を開始した後に借入申込みを受け付けて、30年3月までに行った賃貸住宅融資のうち、30年3月末時点で貸付残高があるもの438件、貸付残高計365億9813万余円を対象として、公庫本店及び東京本部において、賃貸住宅融資の実績、連帯保証人の徴求状況及び融資金利の設定に関する書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
賃貸住宅融資に係る融資金利は、前記のとおり、機構金利を準用するなどした利率となっており、そのため、施設共用型のサービス付き高齢者向け住宅に係る賃貸住宅融資については、信用コスト相当分が融資金利に上乗せされていた。
一方、信用コスト相当分が融資金利に含まれていないため、保証人の徴求等により信用リスクに対応する必要があると認められる賃貸住宅融資(以下「保証人徴求型の賃貸住宅融資」という。)について、公庫がどのように信用リスクに対応しているか、貸付けの手続やその経緯等を確認したところ、次のようになっていた。
公庫は、前記のとおり、賃貸住宅融資を行うに当たり、9年8月以降は、原則として、貸付けを行う際に機関保証を徴求していたが、20年以降に、公庫と保証機関との間における担保物件の審査基準の相違による評価等の不一致が増加して、機関保証を徴求する代わりに信用力のある個人の連帯保証人を徴求することにより対応することが増加した。そして、公庫は、22年7月に、原則として機関保証を徴求するとしていた取扱いについても、実態に合わせて機関保証又は信用力のある個人若しくは法人の保証とすることに変更したことから、第三者の個人の連帯保証人を徴求することが多数を占めるようになっていた。
その後、公庫は、前記のとおり、26年1月に細則を改正して、「1名以上の保証人を徴求する」としていた規定を「必要に応じて保証人を徴求する」と変更して、同年2月から実施することとした。この細則改正の趣旨について、公庫は、25年12月に「経営者保証に関するガイドライン(注2)」が公表されたことなどを受けて、個人の連帯保証人を徴求しなくても賃貸住宅融資を行えるようにするためのものであったとしている。
しかし、公庫は、上記細則改正の際に、改めて機関保証を徴求することなどの信用リスクに適切に対応するための方法を執ることとしていなかった。このため、公庫は、26年2月以降に借入申込みを受け付けた保証人徴求型の賃貸住宅融資について、原則として連帯保証人の徴求を行っておらず、当該賃貸住宅融資(30年3月末時点で貸付残高があるもの110件、貸付残高計127億4698万余円)について信用リスクへの対応が適切に執られていない状況となっていた。
このように、保証人徴求型の賃貸住宅融資について、貸付けを行う際に信用リスクへの対応が適切に執られていない状況となっている事態は、経営の健全性の維持と更なる向上等の点から適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、公庫において、保証人徴求型の賃貸住宅融資について、信用リスクへの対応を適切に執る必要性があることについての認識が欠けていたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、公庫は、保証人徴求型の賃貸住宅融資に係る信用リスクへの対応方法について検討を行うなどして、関係規程等の所要の改正を30年5月に行い、同年6月以降に借入申込みを受け付けたものについて、機関保証を徴求することなどにより信用リスクに対応することとして、当該改正を関係部署に対して周知する処置を講じた。