【是正改善の処置を求め及び改善の処置を要求したものの全文】
畜産振興事業に係る助成金の交付額の算定について
(平成30年10月17日付け 日本中央競馬会理事長宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、及び同法第36条の規定により改善の処置を要求する。
記
貴会は、日本中央競馬会法(昭和29年法律第205号)等に基づき、畜産の技術の研究開発に係る事業等(以下「畜産振興事業」という。)について助成することを業務とする法人(以下「特定法人」という。)に対して、当該助成に必要な資金の全部又は一部に充てるため、日本中央競馬会畜産振興交付金(以下「交付金」という。)を交付しており、平成24年度から28年度までの間の交付額は計79億3671万余円となっている。この交付金は、勝馬投票券収入から払戻金を支払ったり、国庫納付金を納付したりするなどした後の毎事業年度の利益剰余金を積み立てて造成した特別振興資金を財源としている。特定法人である公益財団法人全国競馬・畜産振興会(以下「振興会」という。)は、この交付金の交付を受けて、日本中央競馬会畜産振興交付金交付要綱、日本中央競馬会畜産振興事業公募要領(以下「公募要領」という。)等に基づき、畜産振興事業を行う者(以下「実施主体」という。)に対して、助成対象経費に所定の率(以下「助成率」という。)を乗ずるなどして助成金(交付金同額)を交付している。
貴会は、畜産振興事業に対する助成の実施に当たり、毎年度、公募要領を作成して、公募要領等に基づき、実施主体が実施しようとする事業の公募・選考・採択を行っている。公募要領によれば、助成対象経費の範囲は、畜産振興事業の実施に直接必要な資産の取得費、賃借料、委託費等の経費とされている。そして、それぞれの例として、「調査研究等に必要な機器等の整備費」「事業に必要な事務機器のリース料」「事業を実施する上でその一部分を他に委託する経費」等と規定されているものの、具体的な資産の取得費、賃借料及び委託費の範囲等は明示されておらず、賃借料として助成の対象となるリース料の算定方法も示されていない。
助成率については、少額案件等を除き、通常案件は10分の8以内に設定されているが、資産の取得費に適用する助成率については10分の5以内に設定されている。貴会によれば、実施主体が取得した資産を事業終了後も継続して自らの業務に使用することを想定して資産の取得費の助成率を通常案件より低く設定したとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、助成対象経費の範囲及び算定方法は適切なものとなっているかなどに着眼して、24年度から28年度までの間に、委託費等を助成対象とした13実施主体の36事業(事業費計37億7572万余円、交付金計30億0288万余円)、賃借料としてリース料を助成対象とした5実施主体の11事業(事業費計7億6529万余円、交付金計6億4194万余円)、資産の取得費としてソフトウェアの開発費を助成対象とした3実施主体の7事業(事業費計2億8519万余円、交付金計2億3315万余円)を対象として、貴会本部において、実績報告書等の関係書類を確認したり、貴会を通じて実施主体から契約書等の関係書類を提出させたりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
委託費等を助成対象とした13実施主体の36事業のうち3実施主体が24年度から27年度までの間に実施した4事業(事業費計2億2723万余円、交付金計1億8178万余円)について、貴会は、振興会が、事業の一部を委託するのに要した経費計9264万余円を助成対象として、これに対する助成金計7411万余円を交付するため同額の交付金を交付していた。
しかし、上記の委託に係る契約書等によれば、委託に要した経費計9264万余円のうち、本来、3実施主体が負担することとなる計1852万余円と同額を委託先が負担することとされており、実際に委託先が同額を負担していた。
したがって、前記の4事業に係る委託に要した経費について、3実施主体が実際に負担した額により交付金を算定すると計1億6696万余円となり、交付された交付金との差額1482万余円が過大に交付されていたと認められる。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
貴会は、振興会を通じて、公益社団法人日本動物用医薬品協会が平成24、25両年度に実施した防疫用ワクチン備蓄システム高度化推進事業に要した経費計3977万余円に対して助成率10分の8を乗じた助成金計3182万余円を交付するため、同額の交付金を振興会に交付していた。同協会は、当該事業の一部を両年度とも複数の会社等に委託して実施しており、委託に要した経費計3024万余円を上記の経費に計上していた。
しかし、同委託に係る契約書によれば、本来、同協会が負担することとなる委託に要する経費の10分の2に相当する計604万余円について、委託先が負担することとされていて、実際に委託先が同額を負担していた。
リース料を助成対象とした5実施主体の11事業のうち4実施主体が24、25、27、28各年度に実施した5事業(事業費計4億4700万余円、交付金計3億8918万余円)について、貴会は、振興会が、分析装置等のリース料計4118万余円を助成対象として、これに対する助成金計3142万余円を交付するため同額の交付金を交付していた。そして、4実施主体は、当該分析装置等のリース物件について、事業終了後もリース会社から低額で再リースしたり、低額で買い取ったりして、自らの業務で継続して使用するなどしていた。
4実施主体におけるリース料の算定についてみると、公募要領等に助成対象経費となるリース料の算定方法が明示されていないことなどから、分析装置等の物品の使用可能年数として一般的に認められている「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年大蔵省令第15号)に定められた期間(以下「法定耐用年数」という。)等の合理的な基準に基づく期間(48か月から96か月)よりも短い期間(23か月から60か月)をリース期間として設定して算定したリース料を助成対象経費に計上するなどしていた。
しかし、上記のように、実施主体が、事業終了後に、当該分析装置等を自らの業務で継続して使用する場合に、法定耐用年数等の合理的な基準に基づく期間より短い期間をリース期間として設定して算定したリース料を助成対象経費とすることは、実施主体が本来負担すべきリース料を貴会が負担していることになる。
したがって、前記の5事業に係るリース料について、それぞれのリース物件の使用可能年数として合理的な期間である法定耐用年数によるなどして交付金を算定すると計1524万余円となり、交付された交付金と比べて1617万余円の開差を生ずることとなる。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
貴会は、振興会を通じて、公益財団法人日本乳業技術協会が平成27、28両年度に実施した乳製品の安全性・品質向上事業に要した経費計3796万余円に対して助成金計3654万余円を交付するため、同額の交付金を振興会に交付していた。同協会は、上記の経費に助成事業実施期間中に支払った乳成分分析装置及び体細胞数測定装置に係るリース料計1285万余円を計上して、これに対して同額の助成金の交付を受けていた。そして、同協会は、当該助成事業の終了後も両装置を継続して使用するとしていた。
しかし、同協会は、両装置について、法定耐用年数等の合理的な基準に基づく期間(96か月)よりも短い期間(60か月)をリース期間と設定して算定したリース料を助成対象経費に計上するなどしていた。
ソフトウェアの開発費を助成対象とした3実施主体の7事業のうち2実施主体が24年度から28年度までの間に実施した4事業(事業費計1億8982万余円、交付金計1億5177万余円)について、貴会は、振興会が、ソフトウェアの開発費計5228万余円を助成対象として、助成率10分の8を乗じて算定した助成金計4182万余円を交付するため同額の交付金を交付していた。
そして、2実施主体は、開発したソフトウェアを資産としてそれぞれ貸借対照表に計上した上で、事業終了後も自らの業務で継続して使用していた。
しかし、貴会は、資産の取得費について通常案件より低い助成率を設定しているものの、公募要領等において、ソフトウェアの開発費が当該助成率を適用する資産の取得費に当たるかどうかを判断するための基準を明確にしていなかったため、2実施主体は、4事業におけるソフトウェアの開発費に、通常案件の助成率を適用していた。
したがって、上記の4事業に係るソフトウェアの開発費について、資産の取得費に適用する助成率10分の5を乗じて交付金を算定すると計2614万余円となり、交付された交付金と比べて1568万余円の開差を生ずることとなる。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例3>
貴会は、振興会を通じて、乳用牛群検定全国協議会が平成26年度から28年度までの間に実施した効率的な乳用牛飼養管理システム開発事業に要した経費計9035万余円に対して助成率10分の8を乗じた助成金計7228万余円を交付するため、同額の交付金を振興会に交付していた。そして、上記の経費には同システムのソフトウェアの開発費計2498万余円が含まれていた。
しかし、同協議会は、同システムを資産として貸借対照表に計上した上で、事業終了後も自らの業務に使用していることから、同システムの開発費は資産の取得費に当たると認められる。
(是正改善及び改善を必要とする事態)
実施主体が実質的に負担していない委託費を助成対象経費に計上している事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。また、事業終了後も実施主体が自らの業務で継続して使用する期間に係る分析装置等のリース料を助成対象経費に計上している事態、資産の取得に当たるソフトウェアの開発費について通常案件の助成率を適用している事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、実施主体において、公募要領等に基づく助成対象経費の範囲に対する理解が十分でないことにもよるが、貴会において次のようなことなどによると認められる。
貴会は、国の畜産振興諸施策を補完し、総合的な観点から畜産振興が図られるよう、今後とも畜産振興事業を実施する実施主体に対して特定法人を通じて助成金を適切に交付することが必要になる。
ついては、貴会において、交付金の交付に当たり、助成金の算定が適切に行われるよう、次のとおり是正改善の処置を求め、及び改善の処置を要求する。