本院は、高速道路会社が実施する道路構造物の点検等について、平成30年10月15日に、東日本高速道路株式会社(以下「東会社」という。)、中日本高速道路株式会社(以下「中会社」という。)及び西日本高速道路株式会社(以下「西会社」という。以下、これらの会社を総称して「3会社」という。)のそれぞれの代表取締役社長に対して、「道路構造物の点検等について」として、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに同法第36条の規定により意見を表示した。
これらの処置要求及び意見表示の内容は、3会社の検査結果に応じたものとなっているが、これを総括的に示すと以下のとおりである。
3会社は、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構と締結した協定において、同機構から借り受けた道路を常時良好な状態に保つように適正かつ効率的に維持、修繕その他の管理を行うこととされている。そして、3会社は、管理する橋りょう、トンネル等の道路構造物(以下「構造物」という。)の状況を的確に把握して評価し、補修等を計画的に実施するために、各社制定の保全点検要領(以下「点検要領」という。)等に基づき、構造物の点検等を実施している。点検等の業務のうち、現場における点検、点検等に係る情報の記録、構造物の維持管理計画等の検討案の作成については、保全点検業務を実施している株式会社ネクスコ・エンジニアリング北海道等12社(注1)(以下「エンジニアリング会社」という。)に委託しており、点検結果等に基づく維持管理計画等の策定は3会社が行っている。
3会社が管理する構造物のうち、建設後50年を超える橋りょう及びトンネルの割合は今後高くなり、構造物の老朽化が進んでいくことが見込まれる。また、大型車交通の増加や凍結防止剤の影響等を受ける使用環境下で、構造物にコンクリートの剥離、鉄筋の腐食等の損傷が発生している。
3会社は、このような状況を踏まえて、それぞれインフラ長寿命化計画を策定し、同計画において、点検・診断結果に基づいた必要な対策を適切な時期に、着実かつ効率的・効果的に実施することにより、トータルコストの縮減と確実な高速道路機能の維持を図るとともに、これらの取組を通じて得られた高速道路資産の状態や対策履歴の情報を記録し、次の点検・診断等に活用するメンテナンスサイクルの継続的な発展につなげるとしている。
道路の老朽化対策の本格実施に関する提言(平成26年4月社会資本整備審議会道路分科会)等を受けて、道路法施行規則(昭和27年建設省令第25号)が26年に改正され、構造物を管理する者は、「点検→診断→措置→記録」というメンテナンスサイクルを確立するために、①構造物について近接目視により5年に1回の頻度で点検を行うこと、②点検を実施した場合や点検に基づき必要な補修等の措置を講じた場合にはその内容を記録することなどが義務付けられた。3会社は、道路法施行規則の改正を踏まえ、26年7月及び27年4月に点検要領等の改訂を行い、構造物の健全性の把握や安全な道路交通の確保等を目的に5年に1回の頻度で実施する点検(以下「詳細点検」という。)における近接目視について、双眼鏡で目視を行う方法でも可としていたものを、構造物の変状の状態を肉眼により把握し、評価が行える距離まで接近して目視を行う方法に改め、接近、肉眼による目視、触診や打音が物理的に困難な箇所(以下「点検困難箇所」という。)の点検の手法について、近接目視等と同等の成果が得られるようにファイバースコープ等により対応することを示した。
点検要領によれば、点検で発見された構造物の変状箇所は、表1のとおり、変状の状況に応じて区分され、このうち「AA」は、変状が著しく、構造物等の安全性、使用性、耐久性等の機能面への影響が非常に高いと判断され、速やかな対策が必要な場合の判定区分とされており、補修等の対策を最も優先すべきものとなっている。
表1 個別の変状箇所に対する判定区分
判定区分 | 変状の状況 | |
---|---|---|
AA | 変状が著しく、機能面への影響が非常に高いと判断され、速やかな対策が必要な場合 | |
A | 変状があり、機能低下に影響していると判断され、対策の検討が必要な場合 | |
A1 | 変状があり、機能低下への影響が高いと判断される場合 | |
A2 | 変状があり、機能低下への影響が低いと判断される場合 | |
B | 変状はあるが、機能低下への影響はなく、変状の進行状態を継続的に監視する必要がある場合 | |
(注) C |
変状の状態(機能面への影響度合いなど)に関する判定を行うために、詳細調査を実施する必要がある場合 | |
OK | 変状がないか、又は軽微な場合 |
点検要領等によれば、詳細点検で確認された構造物の変状箇所の状況等の点検結果及び当該変状箇所の補修結果(以下、これらを合わせて「点検・補修結果」という。)の情報(文字情報、位置図、写真)は、点検管理システム等(以下「システム」という。)に記録され、一元化して管理、蓄積されることとされている。そして、これらのデータは構造物等に係る変状原因の分析、維持管理計画等の立案等に活用されることとなっており、メンテナンスサイクルの確実な運用等に不可欠な情報であるとともに、構造物の健全性を客観的に説明するための重要な情報となっている。
本院は、3会社の点検・補修結果等が点検要領等に基づき適切にシステムに登録されていないなどの事態について、21年10月に、会計検査院法第36条の規定により、3会社において構造物が計画的かつ効率的に管理されるよう、支社等に対して点検結果の登録は点検要領等に基づき確実に実施されなければならないことを周知するとともに、システムに登録すべき事項等を契約関係書類に具体的に記載するよう指示するなどの改善の処置を講ずるよう要求した。そして、3会社は、本院の指摘の趣旨に沿い、支社等に対して、システムに登録すべき点検・補修結果に係る事項等を契約関係書類に明確に定めさせるなどの処置を講じた。
点検要領等によれば、3会社の各支社管内の各管理事務所等は、構造物の点検結果に基づく要補修箇所の把握及び補修等の対策の優先順位付けを行い、エンジニアリング会社が作成した維持管理計画等の検討案を踏まえて維持管理計画等を立案し、対策判定検討会等を年1回以上開催して、維持管理計画等を策定することとされている。そして、支社は、各管理事務所等から対策判定検討会等の結果の報告を受けた上で、各管理事務所等が策定した維持管理計画等の内容を確認して、それらを本社に報告するなどし、本社は、維持管理計画等に係る方針を企画及び調整するために、支社からの報告等を通じて、変状箇所の未補修件数やその推移等を把握することになっている(参考図1参照)。
(参考図1)
維持管理計画等の策定及び本社への報告までの流れの概念図
(検査の観点及び着眼点)
3会社が管理する主要な構造物である橋りょう及びトンネルは、前記のとおり、老朽化が進み、コンクリートの剥離、鉄筋の腐食等の損傷が発生している。そして、3会社は、構造物を維持管理していくために、点検要領等に基づく点検により構造物の状態を確実に把握するとともに、点検結果に基づき補修等の対策を計画的に実施することなどが求められている。
そこで、本院は、合規性、効率性、有効性等の観点から、3会社において、構造物の点検は点検要領等に基づき適切な方法により実施されているか、点検・補修結果の情報は適切に記録されているか、点検結果に基づき維持管理計画等が適切に策定され、補修等が適切に実施されているかなどに着眼して検査した。
(検査の対象及び方法)
本院は、3会社の12支社(注2)が、28、29両年度に構造物の詳細点検(橋りょう9,554橋、トンネル794トンネル)、維持管理計画等についてエンジニアリング会社との間で締結した契約、東会社計10件(契約金額計549億9812万余円)、中会社計8件(同計278億9064万余円)、西会社計10件(同計306億8117万余円)及び30年3月末時点において速やかな対策が必要な場合の判定区分である「AA」としてシステムに記録されている変状箇所計6,669か所(27年度以前の点検において「AA」と判定された変状箇所を含む。)を有する橋りょう及びトンネルの維持管理等を対象として、3会社の本社及び12支社において、システムに記録されている橋りょう及びトンネルに係る点検・補修結果や現地における変状状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行うとともに、調書の作成及び提出を求めて、その内容を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
点検要領によれば、点検困難箇所の点検の手法については、前記のとおり、近接目視等と同等の成果が得られるようにファイバースコープ等を用いることが示されているが、点検箇所の状況に応じたファイバースコープ等の具体的な使用方法等は示されていない。そこで、28、29両年度に詳細点検を実施したトンネルのうち、トンネル側壁部に浮かし張り内装板(以下「内装板」という。参考図2参照)が設置されている110トンネルについて、内装板を裏側から支えており表面からは見えない取付金具等(以下「取付金具等」という。)の点検困難箇所の点検方法を確認したところ、表2のとおり、110トンネル全てについて、外側から内装板の表面等を目視したり、内装板を揺すったりするなどの従来どおりの確認にとどまり、ファイバースコープ等を用いた確認を行っていなかった。このうち44トンネルについては、内装板付近から漏水等が発生している箇所があり、取付金具等に悪影響を及ぼしている可能性があると思料された。
(参考図2)
内装板の概念図
表2 平成28、29両年度における取付金具等に係る点検の状況
会社名 | 内装板が設置されているトンネル数 | ファイバースコープ等による確認を行っていないトンネル数 | |
---|---|---|---|
うち、内装板付近から漏水等が発生しているトンネル数 | |||
東会社 | 31 | 31 | 4 |
中会社 | 31 | 31 | 21 |
西会社 | 48 | 48 | 19 |
3会社計 | 110 | 110 | 44 |
点検・補修結果の情報については、前記のとおり、点検要領等によりシステムに記録されることとなっており、前記21年10月の本院の処置要求を踏まえ、3会社とエンジニアリング会社との間で締結した契約においてもこれらの情報をシステムに記録することとなっていた。しかし、28、29両年度に詳細点検を実施した橋りょう及びトンネルについてエンジニアリング会社が行った点検・補修結果のシステムへの記録の状況を確認したところ、変状箇所計951,756か所(橋りょう712,234か所、トンネル239,522か所)及び補修箇所計75,561か所(橋りょう54,272か所、トンネル21,289か所)のうち、詳細点検時の変状状況写真及び補修写真の全部又は一部がシステムに記録されていなかった箇所が、表3のとおり、それぞれ計121,060か所(橋りょう92,414か所、トンネル28,646か所)及び計31,678か所(橋りょう21,563か所、トンネル10,115か所)見受けられた。これらのデータは、変状原因の分析、維持管理計画等の立案等に活用される重要な情報であるが、システムに記録されていなかったため、当該変状箇所の詳細点検時の変状状況や補修の状況を確認できず、変状原因の分析、維持管理計画等の立案等に活用できない状況となっていた。
表3 平成28、29両年度における点検・補修結果のシステムへの記録の状況
会社名 | 構造物の種類 | 変状状況写真 | 補修写真 | ||
---|---|---|---|---|---|
システムに記録されていない構造物数 (橋・トンネル) |
システムに記録されていない変状箇所数 (か所) |
システムに記録されていない構造物数 (橋・トンネル) |
システムに記録されていない補修箇所数 (か所) |
||
東会社 | 橋りょう | 187 | 819 | 1,435 | 16,007 |
トンネル | 12 | 1,776 | 92 | 4,785 | |
中会社 | 橋りょう | 1,025 | 49,821 | 21 | 58 |
トンネル | 60 | 5,658 | 4 | 15 | |
西会社 | 橋りょう | 608 | 41,774 | 748 | 5,498 |
トンネル | 166 | 21,212 | 169 | 5,315 | |
3会社計 | 橋りょう | 1,820 | 92,414 | 2,204 | 21,563 |
トンネル | 238 | 28,646 | 265 | 10,115 | |
計 | 2,058 | 121,060 | 2,469 | 31,678 |
上記について事例を示すと次のとおりである。
<事例>
中会社東京支社が、平成28年度に中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社に実施させた詳細点検において、前回の点検の結果、経過観察により変状の進行状況を把握するなどとしていた計207橋の変状箇所28,976か所について、当該詳細点検時までに変化がみられないなどとして、前回点検時に撮影した変状状況写真がそのまま28年度の詳細点検の変状状況写真としてシステムに記録されるなどしていた。このため、28年度点検時の当該変状箇所の実際の状況がシステムで確認できない状況となっていた。
前記のとおり、判定区分のうち「AA」は速やかな対策が必要であり、優先して補修等の対策を実施することとされているが、3会社が管理する橋りょう及びトンネルにおいて、30年3月末時点で判定区分が「AA」としてシステムに記録されている変状箇所計6,669か所についてみると、表4のとおり、補修等の工事契約が同時点で未締結となっている変状箇所が計4,579か所あり、このうち268か所は29年度末に策定された30年3月末時点の維持管理計画等に反映されていなかった。
表4 「AA」と判定された変状箇所の状況(平成30年3月末時点)
会社名 | 補修等の工事契約が締結済みの変状箇所数
① |
補修等の工事契約が未締結となっている変状箇所数 | 計 ①+② |
||
---|---|---|---|---|---|
維持管理計画等への反映の有無 | 計 ② |
||||
有 | 無 | ||||
東会社 | 1,002 | 773 | 144 | 917 | 1,919 |
中会社 | 336 | 843 | 0 | 843 | 1,179 |
西会社 | 752 | 2,695 | 124 | 2,819 | 3,571 |
3会社計 | 2,090 | 4,311 | 268 | 4,579 | 6,669 |
上記の補修等の工事契約が未締結となっている「AA」判定の変状箇所4,579か所の点検実施年度についてみると、表5のとおり、「AA」と判定されてから2年以上経過していて長期間補修等が実施されていない箇所が計1,474か所見受けられた。
表5 補修等の工事契約が未締結となっている「AA」判定の変状箇所に係る点検実施年度別の箇所数
点検実施
\
年度 会社名 |
平成25年度 以前 (4年以上経過) ① |
26年度 (3~4年経過) ② |
27年度 (2~3年経過) ③ |
28年度 (1~2年経過) |
29年度 (1年未満) |
計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
うち①+②+③ (2年以上経過) 計 |
|||||||
東会社 | 3 | 5 | 28 | 204 | 677 | 917 | 36 |
中会社 | 17 | 137 | 66 | 166 | 457 | 843 | 220 |
西会社 | 68 | 198 | 952 | 596 | 1,005 | 2,819 | 1,218 |
3会社計 | 88 | 340 | 1,046 | 966 | 2,139 | 4,579 | 1,474 |
また、補修等の工事契約が未締結となっている「AA」判定の変状箇所4,579か所のうち維持管理計画等に反映されている4,311か所の補修等の予定年度についてみると、表6のとおり、30年3月末から更に2年経過した32年度以降となっていて、補修等が実施されるまでに長期を要する見込みとなっている箇所が計1,850か所見受けられた。
表6 補修等の工事契約が未締結となっている「AA」判定の変状箇所のうち維持管理計画等に反映されている箇所の補修等の予定年度別の箇所数
補修等
\
予定 年度 会社名 |
平成30年度 | 31年度 | 32年度 ① |
33年度 ② |
34年度以降 ③ |
計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
うち①+②+③ (32年度以降) 計 |
|||||||
東会社 | 52 | 571 | 84 | 32 | 34 | 773 | 150 |
中会社 | 159 | 308 | 230 | 142 | 4 | 843 | 376 |
西会社 | 698 | 673 | 393 | 1 | 930 | 2,695 | 1,324 |
3会社計 | 909 | 1,552 | 707 | 175 | 968 | 4,311 | 1,850 |
そして、補修等の予定年度が32年度以降となっている「AA」判定の変状箇所1,850か所について、変状が発生している部材や変状の内容を確認したところ、橋りょうの伸縮装置内部の止水材の損傷等により漏水が発生し、橋桁の端部等の他の部材に悪影響を及ぼすなどしている変状箇所が東会社37か所、中会社321か所、西会社109か所、計467か所見受けられた。
維持管理計画等の立案・見直しや補修等の対策の実施について、3会社の本社は、前記のとおり、支社からの報告等を通じて、「AA」と判定された変状箇所の未補修件数やその推移等を把握することになっており、これらを把握していた。しかし、変状箇所ごとの変状の内容、補修等が遅れている理由、構造物に与える影響等については把握しておらず、支社及び管理事務所等に対して、維持管理計画等を見直して早期に補修等するための具体的な方策を講ずるよう、指示するなどしていなかった。
(是正及び是正改善並びに改善を必要とする事態)
点検困難箇所における点検が十分に行われていなかったり、点検・補修結果が適切に記録されておらず、変状原因の分析、維持管理計画等の立案等に十分活用できるものとなっていなかったりしている事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。また、点検の結果、速やかな対策が必要と判定されているのに、補修等が実施されておらず、補修等が実施されるまでに長期を要する見込みとなっているなど点検結果が維持管理計画等に適切に反映されていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
3会社は、前記のとおり、機構から借り受けた道路を常時良好な状態に保つように適正かつ効率的に維持、修繕その他の管理を行うこととされており、維持管理のために今後も引き続き多額の費用を投じて構造物の点検等を実施していくことが見込まれる。
ついては、3会社において、点検要領等に基づく点検により構造物の状態を確実に把握するとともに、点検結果を維持管理計画等に適切に反映して補修等の対策を的確に実施し、メンテナンスサイクルの確実な運用等が図られるよう、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに意見を表示する。