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扶養親族等申告書の点検業務等に係る委託契約において、適正な契約手続をとることなく、契約に含まれていない業務を行わせていたもの[日本年金機構本部](284)


科目
業務経費
部局等
日本年金機構本部
契約名
(1) 扶養親族等申告書の点検業務
(2) 扶養親族等申告書の控除対象配偶者等の点検業務
(3) 年金給付にかかる届書等の点検・審査及び入力等に関する業務
契約の概要
(1)、(2) 扶養親族等申告書について、記載内容の点検、記載誤りの補正等を行うもの
(3) 年金給付に係る各種請求書や届書等について、記載内容の点検、審査、社会保険オンラインシステム等への入力等を行うもの
契約の相手方
(1) 株式会社システムシンク
(2) 株式会社セールスアウトソーシング
(3) 株式会社SBC
契約
(1) 平成28年8月 随意契約(単価契約)
(2) 平成28年9月 一般競争契約(単価契約)
(3) 平成27年6月、29年2月 一般競争契約(単価契約)
支払額
(1) 70,438,657円(平成28年度)
(2) 37,431,826円(平成28年度)
(3) 873,472,968円(平成27年度~29年度)
計 981,343,451円
適正な契約手続をとることなく実施させていた業務に係る支払額
(1) 10,118,488円(平成28年度)
(2) 682,077円(平成28年度)
(3) 37,014,483円(平成28、29両年度)
計 47,815,048円

1 委託契約の概要等

(1) 扶養親族等申告書の点検業務等に係る委託契約

日本年金機構(以下「機構」という。)は、「日本年金機構の当面の業務運営に関する基本計画」(平成20年7月閣議決定)に基づき、機構全体としての業務の効率化、コスト削減等に資する業務について、積極的に外部委託を行うこととしている。例えば、対面を必要としない各種届書、申請書等の処理業務のうち、郵送受付、入力、通知書等の印刷・交付、編てつ及び保管といった業務や、届書、申請書等の点検業務等について外部委託することとしている。

その一環として、機構は、平成28年度において、扶養親族等申告書の処理業務について、そのうち受付、点検、入力の各業務をそれぞれ外部委託している。このうち点検業務については、28年8月に、「扶養親族等申告書の点検業務」を随意契約(単価契約)により株式会社システムシンク(以下「システムシンク」という。)に、また、同年9月に、「扶養親族等申告書の控除対象配偶者等の点検業務」を一般競争契約(単価契約)により株式会社セールスアウトソーシング(以下「セールスアウトソーシング」という。)にそれぞれ委託するなどしている。

上記の両契約は、機構が定めた提出期限内に老齢基礎年金及び老齢厚生年金の受給者から提出を受けた扶養親族等申告書(以下「申告書」という。)の記載内容を点検して、明白な記載誤りの補正等を行うものである。そして、両契約の仕様書によると、システムシンクが点検を行う申告書ははがきの形態で、前年の申告内容から記載内容に変更があり、扶養親族等が配偶者のみのものなどとなっており、セールスアウトソーシングが点検を行う申告書ははがきの形態で、前年の申告内容から記載内容に変更がなく、扶養親族等が配偶者のみのものとなっている。

また、機構は、所定の期限より遅れて提出されるなどした各種届書、申請書等の処理業務は原則として機構本部に集約して、事業担当部署が自ら行うことにしているが、業務量によっては当該処理業務の一部を外部委託している。そして、機構は、「年金給付にかかる届書等の点検・審査及び入力等に関する業務」を、27年6月に一般競争契約(単価契約)により、29年2月に一般競争契約(同)により、いずれも株式会社SBC(以下「SBC」という。また、システムシンク及びセールスアウトソーシングと合わせて「3社」という。)に委託している。そして、これらの契約内容は、いずれも、公的年金等の扶養親族等申告書に係る業務(以下「公的年金等業務」という。)、厚生年金保険障害給付年金請求書に係る業務等の計47業務を行うものである。このうち、公的年金等業務について、機構は、所定の期限より遅れて提出される申告書等の記載内容を点検して社会保険オンラインシステム等に入力する業務であるとしている。

(2) 委託契約に係る会計経理

日本年金機構会計規程(平成22年規程第50号。以下「会計規程」という。)によれば、契約を締結する場合には、公告して申込みさせることによる一般競争入札の方法により、これを締結することとされている。また、工事又は製造の請負、財産の売買及び物件の貸借以外の契約について、予定価格が100万円を超えない場合等に随意契約の方法により契約を締結することができるとされており、随意契約を締結しようとするときは、なるべく2者以上から見積書を徴さなければならないこととされている。さらに、調達担当部署の長は、契約を締結しようとするときは、当該契約に係る予定価格を定めなければならないこととされ、契約責任者は、契約を締結しようとするときは、契約書を作成して、契約書に契約の目的、契約金額等に関する事項を記載しなければならず、契約金額が150万円を超えない契約をするなどのときは、請書等契約の事実を明らかにする書類をもってこれに代えることができることとされている。

また、日本年金機構契約事務取扱細則(平成22年細則第20号)によれば、調達担当部署の長は、予定価格調書を作成することとされている。

(3) 委託契約における契約違反行為の事態等

機構は、29年8月に株式会社SAY企画(以下「SAY企画」という。)に委託した「扶養親族等申告書・個人番号申出書データ入力及び画像化業務」において、SAY企画が契約条項等に違反して入力作業を行ったり、機構が検収を適切に行わなかったりしたことなどにより、データの入力漏れや入力誤りがあったため、30年2月の年金支給時に正しい源泉徴収税額を反映させることができず、約10万人の受給者の年金約20億円が過小支給となったことを公表している。この事態を踏まえて、機構は、同年4月に「日本年金機構における業務委託のあり方等に関する調査委員会」を設置し、同年6月に、同調査委員会は、「日本年金機構における業務委託のあり方等に関する調査委員会報告書」を公表し、上記の事態について、「審査業者を含む一貫した件数管理の仕組みが十分に構築されていなかった」こと、「新たな調達には時間がかかるという認識があったため、何とかこの業者で遅れを取り戻そうと注力した」こと、「事業の管理体制が事業担当部署中心で行われ事業遂行が優先された」ことなどを指摘し、「業務の包括的な委託(例えば、一つの届書の処理や入力を切り離して委託するのではなく、複数の届書の処理や入力を通年で委託する)などを積極的に活用する」こと、「委託する業務量に応じた適切な処理期間及び処理体制を見積もる」こと、「複数段階の処理工程を外部委託する場合における全体の工程管理を十分に検討する」こと、「事業担当部署からの申請に基づく調達部による仕様書案の承認プロセスを設け、調達部の関与を強化する」ことなどを提言している。

2 検査の結果

本院は、上記のとおり、機構の委託契約において、受託者による契約違反行為に係る事態が発生し、機構の管理体制にも問題が見受けられたことを踏まえて、合規性等の観点から、委託業務に係る契約手続が会計規程等に基づき適正に行われているかなどに着眼して、前記の4契約を対象として、機構及び3社において、契約書、仕様書、委託要領等の内容を確認するなどして会計実地検査を行った。

検査したところ、次のとおり、それぞれの契約内容に含まれていない業務を、会計規程等に基づく適正な契約手続をとることなく、当該契約の受託者に行わせている事態が見受けられた。

(1) 「扶養親族等申告書の点検業務」の受託者に当該業務に含まれない業務を実施させていた事態

1件 10,118,488円

機構の事業担当部署は、本来、自ら点検を行うことを予定していたA4版の形態の申告書388,754件の点検業務について、システムシンクに委託した「扶養親族等申告書の点検業務」の点検項目と共通性があるとして、調達担当部署に対して予定価格の作成や一般競争入札等の手続をとることを求めるなどせずに、会計規程等に基づく適正な契約手続をとることなく、29年1月から3月までの間に「扶養親族等申告書の点検業務」の一部としてシステムシンクに行わせていた。そして、当該業務と同一の単価(24.10円)に基づき10,118,488円が支払われていた。

(2) 「扶養親族等申告書の控除対象配偶者等の点検業務」の受託者に当該業務に含まれない業務を実施させていた事態

1件 682,077円

事業担当部署は、「扶養親族等申告書の点検業務」に係る契約の仕様書において対象とされている、前年の申告内容から記載内容に変更があり扶養親族等が配偶者のみの申告書60,902件の点検業務について、同契約の受託者であるシステムシンクの業務量が予定数量を大幅に上回るのを避けるためなどとして、適正な契約手続をとることなく、28年12月に「扶養親族等申告書の控除対象配偶者等の点検業務」の一部としてセールスアウトソーシングに行わせていた。そして、当該業務と同一の単価(10.37円)に基づき682,077円が支払われていた。

(3) 「年金給付にかかる届書等の点検・審査及び入力等に関する業務」の受託者に当該業務に含まれない業務を実施させていた事態

3件 37,014,483円

事業担当部署は、SBCが行う公的年金等業務に含まれていない所定の期限内に提出された申告書等194,970件の点検業務について、公的年金等業務と類似しているとして、適正な契約手続をとることなく、28年11月から12月までの間に「年金給付にかかる届書等の点検・審査及び入力等に関する業務」の一部としてSBCに行わせていた。そして、当該業務と同一の単価(51円)に基づき10,738,947円が支払われていた。

また、上記と同様に、30年1月に、所定の期限内に提出された申告書等47,998件の点検業務について、「年金給付にかかる届書等の点検・審査及び入力等に関する業務」の一部としてSBCに行わせていた。そして、当該業務と同一の単価(100円)に基づき5,183,784円が支払われていた。

さらに、事業担当部署は、前記の「扶養親族等申告書・個人番号申出書データ入力及び画像化業務」において、同業務を受託したSAY企画が契約条項等に違反して入力作業を行ったり、機構が検収を適切に行わなかったりしたことなどによりデータの入力漏れや入力誤りがあった申告書に係る入力及び訂正入力業務計195,294件について、30年1月から3月までの間に、公的年金等業務と類似しているとして、適正な契約手続をとることなく、「年金給付にかかる届書等の点検・審査及び入力等に関する業務」の一部としてSBCに行わせていた。そして、当該業務と同一の単価(100円)に基づき21,091,752円が支払われていた。

したがって、これら計5件の業務(支払額計47,815,048円)は、会計規程等に定められた適正な契約手続をとることなく行われたものであり、不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、機構において、事業担当部署が事業遂行を優先して、会計規程等を遵守して適正な会計経理を行うことについての認識が欠けていたことなどによると認められる。