独立行政法人国立青少年教育振興機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人国立青少年教育振興機構法(平成11年法律第167号)等に基づき、青少年教育指導者その他の青少年教育関係者に対する研修、青少年の団体宿泊訓練その他の青少年に対する研修等を行うことにより、青少年教育の振興及び健全な青少年の育成を図ることを目的として、全国に28教育施設(注)を設置しており、それらの老朽化に伴い、毎事業年度、施設・設備の改修、更新、交換、維持保全等に係る工事(以下「改良又は修繕」という。)を多数実施している(表参照)。
表 改良又は修繕に係る契約の件数及び金額(平成25~28事業年度)
事業年度 | 契約件数 | 契約金額 |
---|---|---|
平成25 | 108 | 393,011 |
26 | 132 | 470,022 |
27 | 159 | 1,208,800 |
28 | 165 | 939,835 |
計 | 564 | 3,011,669 |
(注) 契約金額が100万円以上の契約について集計している。
そして、平成28事業年度末において、機構が保有している有形固定資産の貸借対照表価額は、土地369億1420万円、建物419億2326万余円(取得原価704億6603万余円、減価償却累計額285億4277万余円)、構築物39億6082万余円(取得原価186億0387万余円、減価償却累計額146億4305万余円)、工具器具備品4億6640万余円(取得原価14億6946万余円、減価償却累計額10億0305万余円)等計836億3582万余円となっている。
独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)によれば、独立行政法人は、毎事業年度、貸借対照表等の財務諸表を作成しなければならないなどとされている。また、独立行政法人国立青少年教育振興機構に関する省令(平成13年文部科学省令第30号)によれば、機構の会計について、同省令に定めがないものについては、「「独立行政法人会計基準」及び「独立行政法人会計基準注解」」(平成12年2月独立行政法人会計基準研究会策定。以下「会計基準」という。)を適用するものとされ、会計基準に定められていない事項については、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従うものとされている。
独立行政法人国立青少年教育振興機構資産管理事務取扱規則(平成18年独立行政法人国立青少年教育振興機構規程第3―6号。以下「資産規則」という。)によれば、各教育施設等の資産管理責任者(固定資産の取得、処分等の管理に関する業務を行う機構の職員)は、改良又は修繕が、固定資産の価値若しくは能力を高め、又は耐用年数を延長するために行われる場合は、その要した支出については資本的支出として当該固定資産の帳簿価額に算入する(以下、この会計処理を「資産計上」という。)こととされている。また、固定資産の維持管理又は原状回復のために行われる場合は、その要した支出については修繕費とする(以下、この会計処理を「費用処理」という。)こととされている。
会計基準等によれば、これらの会計処理は、実務上の取扱いにおいては両者が混在して明確に区分できない場合があるとされている。このため、これらの会計処理を行うに当たっては、改良又は修繕の内容が分かる書類等を基に慎重に検討を行った上で判断する必要がある。
また、資産規則によれば、資産管理責任者は、廃棄、売却等の固定資産の処分を行うに当たっては、固定資産台帳等から当該固定資産等の記録の抹消を行う(以下、この会計処理を「除却処理」という。)こととされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、正確性、合規性等の観点から、改良又は修繕に伴う有形固定資産に係る会計処理が適切に行われ、機構の財務諸表に適正に表示されているかなどに着眼して、25事業年度から28事業年度までの間に機構が実施した改良又は修繕に係る契約564件、契約金額計30億1166万余円を対象として、機構本部において、工事請負契約書、固定資産台帳等の書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、調書の作成及び提出を求めるなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
前記のとおり、改良又は修繕が固定資産の価値を高めるなどのために行われる場合は、資産計上を行うこととなっている。
しかし、82契約に係る有形固定資産144件について、これらの有形固定資産に係る改良又は修繕が固定資産の価値を高めるなどのために行われていたのに、資産管理責任者は、資産計上を行わずに費用処理を行っていた。この結果、上記の有形固定資産144件について、28事業年度の貸借対照表に、取得原価6億7085万余円から減価償却累計額5987万余円を控除した価額6億1097万余円が有形固定資産として適正に計上されていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
機構は、平成27年度に、国立那須甲子青少年自然の家における受水槽の更新工事を契約金額1億0827万余円で実施していた。そして、当該受水槽に係る資産管理責任者は、設計業務を含めた更新工事に係る支出額計1億0993万余円の全額について費用処理を行っていた。
しかし、工事請負契約書等によれば、更新工事は、既設のコンクリート製受水槽の内側に新たにステンレス鋼板を貼り付けるなどして機能強化を図るものとされており、これにより受水槽としての価値が高まったことから、上記1億0993万余円のうち費用処理を行うべき撤去費6万余円を除いた1億0987万余円については、資産計上を行う必要があった。
この結果、28事業年度の貸借対照表に、上記の取得原価1億0987万余円から減価償却累計額1428万余円を控除した価額9559万余円が有形固定資産として計上されていなかった。
前記のとおり、廃棄、売却等の固定資産の処分を行うに当たっては、除却処理を行うこととなっている。
しかし、39契約において、(1)のとおり新たに取得した有形固定資産について資産計上ではなく費用処理を行っていたことなどから、既存の有形固定資産187件について、廃棄等の処分を行っていたのに、資産管理責任者は、除却処理を行っていなかった。この結果、上記の有形固定資産187件について、28事業年度の貸借対照表に、取得原価7197万余円から減価償却累計額4650万余円を控除した価額2546万余円が有形固定資産として計上されたままとなっていた。
このように、機構において、改良又は修繕に係る会計処理に当たり、固定資産の価値を高めるなどのために行われていたものであるのに費用処理を行っていたり、既存の有形固定資産の処分を行っていたのに除却処理を行っていなかったりしたため、貸借対照表の有形固定資産の価額等が適正に表示されていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、前記のとおり、実務上の取扱いにおいては資産計上と費用処理が混在して明確に区分できない場合があるとされているにもかかわらず、機構において、資産規則等に即して資産計上及び費用処理並びに除却処理を適切に行うために、資産管理責任者等に対して、改良又は修繕に係る会計処理の判断基準を具体的に示しておくことの必要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、次のような処置を講じた。
ア 資産計上を行っていなかったり、除却処理を行っていなかったりしていた有形固定資産について、会計基準等に準拠した適切な会計処理を行った上で、29事業年度財務諸表に反映させた。
イ 30年6月に、改良又は修繕に係る会計処理の判断基準を作成し、資産管理責任者等に周知するなどして、資産計上及び費用処理並びに除却処理が適切に行われるよう体制を整えた。