【改善の処置を要求したものの全文】
水源林造成事業における保育(搬出)間伐に係る収益分収対象額の算定について
(平成30年10月30日付け 国立研究開発法人森林研究・整備機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴機構は、国立研究開発法人森林研究・整備機構法(平成11年法律第198号)等に基づき、水源をかん養するための森林の造成に関する業務(以下、当該業務を「水源林造成事業」という。)等を行っている。そして、貴機構は、水源林造成事業の実施に当たり、分収林特別措置法(昭和33年法律第57号)に基づき、分収造林契約を締結している。分収造林契約は、一定の土地の造林に関し、貴機構が、造林に要する費用の全部又は一部を負担する者(以下「造林費負担者」という。)として、当該土地の所有者(以下「造林地所有者」という。)及び造林地所有者以外の者でその土地について造林を行う者(以下「造林者」という。)と三者で締結する契約(造林地所有者と造林者が同一で二者で契約を締結する場合がある。以下同じ。)である。
分収林特別措置法等によれば、造林費負担者を当事者とする契約においては、造林費負担者は、造林者(造林者を契約当事者としない場合は造林地所有者)に対し、樹木の植栽並びにその植栽に係る樹木の保育及び管理に要する費用の全部又は一部を支払う義務を負うこととされている。また、各契約当事者は、一定の割合により、当該契約に係る造林による収益を分収する(以下「収益分収」といい、一定の割合を「収益分収割合」という。)こととされている。収益分収は、買受者に売り払った造林木の売払代金から売払いに要した費用を控除した額について行うこととされている。そして、収益分収の対象となる造林木は、おおむね80年以上が標準となっている分収造林契約の契約期間の満了時までに保育により成木となった造林木を立木の状態で販売(以下「立木販売」という。)する主伐木と間伐により生ずる間伐木等となっている。
貴機構は、「国立研究開発法人森林研究・整備機構森林整備センター分収造林事業の標準分収造林契約書及び施業の実行等に関する協定書について」(平成20年20森林整森第196号)において、造林者が行う施業に係る植栽費、補植費、保育費等の費用を負担することとされている。このうち、保育費は、植栽した造林木を育成するための費用であり、保育費として負担する施業は、下刈、つる切、除伐、間伐等とされている。
そして、上記の費用を含む水源林造成事業に係る経費は、その全額が国からの補助金及び出資金並びに財政融資資金からの借入金等で賄われており、その支出決定済額は、平成25年度から29年度までで計815億8777万余円となっている。
間伐は、主伐が実施されるまでの間、適正な立木密度に調整し、造林木の成長の促進を図るとともに、林内の光環境を改善するなど、健全な森林を形成するために行う造林木の伐採である。
間伐について、貴機構では、19年度までは、立木販売の方法による間伐(以下「利用間伐」という。)を実施し、買受者が伐倒、搬出等に係る費用を負担する一方、利用間伐ができない場合においては、貴機構が間伐の対象木を選ぶ選木や立木を伐採する伐倒(以下、選木と伐倒を合わせて「伐倒等」という。)に係る費用を保育費により負担する間伐(以下「保育間伐」という。)を実施しており、基本的に保育間伐により伐倒等された造林木は搬出されず現地に残置されたままとなっていた。
20年度以降は、森林の水土保全機能の発揮や林地保全の一層の推進のため、保育費により費用を負担する施業の対象範囲が拡大し、伐倒等に要する費用に加えて、伐倒等された造林木を一定の長さに切断するなどして丸太に加工する施業(以下「造材」という。)や伐倒した造林木を一定の箇所へ集積する施業及び丸太を林内からトラック等の車両が通行可能な作業道まで運び出し集積する施業(以下「集材」という。)に要する費用が保育費として認められることになった(以下、伐倒等に加えて造材及び集材を含めて行う間伐を「保育(搬出)間伐」という。)。そして、貴機構が搬出可能と判断した造林木については、利用間伐のほか、保育(搬出)間伐において伐倒等、造材、集材が実施され、これら施業により丸太となった造林木は搬出され、素材(丸太)販売の方式により販売が行われるようになった。
なお、26年度以降の間伐木の販売については、基本的に利用間伐は行われず、保育(搬出)間伐により丸太となった造林木について素材(丸太)販売が行われている。
造林木の収益分収は、前記のとおり、造林木の売払代金からその売払いに要した費用を控除した額について行うこととされている。利用間伐の場合には、丸太の市場価格から、立木の状態から丸太とするまでの伐倒、造材、集材の費用を控除するなどして販売評価額を算定し、販売評価額を基に作成した予定価格により入札等を行い、その落札額等が造林木の売払代金となる。一方、保育(搬出)間伐の場合には、伐倒等、造材、集材の費用は、保育費として貴機構が負担して丸太となった造林木を販売することから、販売評価額の算定の段階で造林木の売払代金からこれら費用は控除されず、売払いに要した費用にも含まれていない。
そして、貴機構は、「国立研究開発法人森林研究・整備機構森林整備センター造林木等販売に係る契約事務及び経理事務の取扱いについて」(平成20年20森林整管第39号)に基づき、売買代金等配分計算書を作成して、上記の造林木の売払代金及び売払いに要した費用を、同計算書においてそれぞれ「売買代金等」と「販売経費等」とし、売買代金等から販売経費等を控除して収益分収対象額を算出している。この収益分収対象額に、貴機構、造林地所有者及び造林者の収益分収割合を乗じたものが、それぞれの分収額となる。
(検査の観点及び着眼点)
貴機構が実施する水源林造成事業は、多額の国費を投じて実施されている一方、造林木の売払いにより得られる収益は、貴機構、造林地所有者及び造林者で分収されている。そして、収益分収の対象となる造林木には、主伐木と間伐木等があるが、間伐については、20年度以降、間伐に係る保育費の範囲が拡充されており、また、分収造林契約の契約期間はおおむね80年以上が標準となっていることから、当面その実施が多くなることが見込まれる。
そこで、本院は、経済性等の観点から、保育(搬出)間伐において貴機構が保育費として負担することとなっている施業の内容は適切か、保育(搬出)間伐に係る収益分収対象額の算定に当たり売払いに要した費用の範囲は適切かなどに着眼して検査を行った。
(検査の対象及び方法)
検査に当たっては、貴機構森林整備センター6整備局(注1)及び32水源林整備事務所(注2)(以下、6整備局と32水源林整備事務所を合わせて「38水源林整備事務所等」という。)が実施した25年度から29年度までの保育(搬出)間伐に係る造林木の売払代金43億5529万余円及びこれに対応する保育(搬出)間伐に係る保育費39億7362万余円を対象として、貴機構森林整備センター本部及び3水源林整備事務所(注3)において売買代金等配分計算書及び保育(搬出)間伐に係る実施計画書等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行うとともに、38水源林整備事務所等から売買代金等配分計算書及び保育(搬出)間伐に係る実施計画書等の関係書類を徴するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
貴機構が、保育費として負担する保育(搬出)間伐の作業工程は、①伐倒等を行った造林木を、林地保全等の観点から、伐倒地点から一定の箇所へ集積する、②伐倒等された造林木を一定の長さに切断するなどして丸太に加工する(造材)、③造材された丸太を林内からトラック等の車両が通行可能な作業道まで運び出し集積する(以下、この集積を「丸太の移動等」という。)となっていた。
しかし、上記の作業工程のうち、丸太の移動等については、販売を前提に丸太を搬出しやすいトラック等の車両が通行可能な作業道等に運び出して集積するものであることから、貴機構のみがその費用を負担する性質の施業ではなく、売払いに要した費用として造林地所有者及び造林者にも負担を求めるべき施業である。このため、収益分収対象額の算定に当たっては、売払いに要した費用として、造林木の売払代金からこれに係る費用を控除すべきと認められる。
25年度から29年度までの保育(搬出)間伐に係る収益分収の状況についてみたところ、貴機構の分収額は計13億9226万余円となっており、また、25年度から29年度までの丸太の移動等に係る費用(以下「丸太の移動費用」という。)について、貴機構が承認した実施計画書等に基づき試算したところ、丸太の移動費用は計11億7654万余円となっていた(表参照)。そして、丸太の移動費用のうち売払いに要した費用に計上すべき額(以下「売払費用計上額」という。)について、丸太の移動費用が収益分収対象額を下回る場合はその移動費用の額を、丸太の移動費用が収益分収対象額を上回る場合はその上回る部分に相当する額を除いた丸太の移動費用の額を38水源林整備事務所等ごとに算出するなどして試算したところ、計11億3891万余円となっていた。
収益分収対象額の算定に当たり、上記の売払費用計上額11億3891万余円を売払いに要した費用に含めて貴機構の分収額を試算すると、13億9226万余円から8億6542万余円となり5億2684万余円減少することになる。この5億2684万余円は、売払費用計上額11億3891万余円を収益分収割合に応じて三者で負担することにより、貴機構が新たに負担することになる額である。このため、保育費として負担しないこととなる11億3891万余円と、貴機構が売払いに要した費用として新たに負担することになる5億2684万余円との差額6億1206万余円について、造林地所有者及び造林者に対して負担を求めるべきものと認められる。
表 平成25年度から29年度までの保育(搬出)間伐に係る収益分収の状況と売払費用計上額等の試算額
平成25年度 | 26年度 | 27年度 | 28年度 | 29年度 | 計 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
売買代金等配分計算書 | 造林木の売払代金 (売買代金等) A |
614,297 | 1,122,341 | 848,088 | 633,305 | 1,137,263 | 4,355,296 |
売払いに要した費用 (販売経費等) B |
213,244 | 324,078 | 283,557 | 198,216 | 337,958 | 1,357,056 | |
収益分収対象額 C=A-B |
401,052 | 798,262 | 564,531 | 435,088 | 799,304 | 2,998,239 | |
貴機構の分収額 D=C×貴機構の収益分収割合 |
186,667 | 372,290 | 257,444 | 199,984 | 375,880 | 1,392,268 | |
試算額 | 丸太の移動費用 E 注(1)~注(3) |
113,968 | 295,773 | 232,358 | 185,656 | 348,788 | 1,176,545 |
売払いに要した費用として三者等で負担する額 (売払費用計上額) F |
109,689 | 287,880 | 227,416 | 177,501 | 336,426 | 1,138,913 | |
収益分収対象額 G=A-(B+F) 注(4) |
291,363 | 510,382 | 337,114 | 257,587 | 462,878 | 1,859,326 | |
貴機構の分収額 H=G×貴機構の収益分収割合 注(5) |
135,293 | 238,336 | 153,927 | 118,982 | 218,884 | 865,424 | |
売払費用計上額のうち、貴機構の負担額 I=D-H |
51,373 | 133,954 | 103,517 | 81,002 | 156,996 | 526,843 | |
貴機構が保育費として負担しないことなどにより、造林地所有者及び造林者に対して負担を求めるべき額 J=F-I |
58,315 | 153,925 | 123,899 | 96,499 | 179,430 | 612,069 |
(改善を必要とする事態)
保育(搬出)間伐に係る収益分収対象額の算定に当たっては、丸太の移動費用は売払いに要した費用と認められることから、丸太の移動費用を保育費として貴機構のみが負担し、造林木の売払代金から控除することとされている売払いに要した費用に含めていない事態は適切ではなく、貴機構、造林地所有者及び造林者の三者で当該費用を負担するよう改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、貴機構が保育(搬出)間伐に係る収益分収対象額の算定に当たり、売払いに要した費用の範囲を十分検討していないことによると認められる。
水源林造成事業は事業開始から29年度末で57年を経過しているが、分収造林契約の契約期間はおおむね80年以上が標準となっていることから今後も当該契約は継続し、また、新規の契約も締結されていることから、今後も、保育のための間伐が引き続き実施されることが見込まれている。
ついては、貴機構において、内規を改正するなどして、丸太の移動費用を保育費として負担するのではなく、収益分収対象額の算定に当たっては、貴機構のみが負担していた丸太の移動費用を売払いに要した費用に含めることとし、貴機構、造林地所有者及び造林者の三者で当該費用を負担するよう改善の処置を要求する。