独立行政法人福祉医療機構(以下「機構」という。)は、独立行政法人福祉医療機構法(平成14年法律第166号)等に基づき、福祉の増進並びに医療の普及及び向上を図ることを目的として、社会福祉事業の振興上必要と認められる事業を行う者に対して助成を行う事業(以下「社会福祉振興助成事業」という。)を、国から交付される社会福祉振興助成費補助金を財源として実施している(以下、社会福祉振興助成事業において交付する資金を「助成金」という。)。
独立行政法人福祉医療機構業務方法書(平成15年厚生労働大臣認可)等によれば、社会福祉振興助成事業の助成の対象となる者(以下「助成対象者」という。)は、複数の団体が連携やネットワーク化を図り、社会福祉諸制度の対象外のニーズ、その他地域の様々な福祉ニーズに対応した地域に密着した事業等(以下「助成対象事業」という。)を行う者とされている。
独立行政法人福祉医療機構助成要綱(平成22年規程第1号)等によれば、助成金の額は、助成の対象となる経費(以下「助成対象経費」という。)の額から助成対象事業に係る寄附金その他の収入額を控除した額の範囲内とすることとされている。そして、助成対象経費については、借料損料、家賃、備品購入費、賃金、委託費等の助成対象事業を行うための経費とされている。ただし、購入単価が30万円以上の備品の購入費は、原則として助成対象経費とならないこととされている。
助成対象者は、助成対象事業完了後に助成事業完了報告書(以下「完了報告書」という。)を機構に提出することとされており、機構は、助成対象事業の実施内容及びその収支決算が適正であるか審査し、必要に応じて調査を行い、助成金の額を確定することとされている。
社会福祉法人北野同朋会(平成26年10月16日以前は社会福祉法人寺子屋工房。福岡県久留米市所在。以下「北野同朋会」という。)は、24年度から26年度まで、助成対象事業を実施するとして助成金の交付を受け、アルバイト延べ9名を雇用するために要した賃金、車両計4台を賃借するために要した借料損料等の助成対象経費の額から本件助成対象事業に係る収入額を控除して、計16,787,000円を助成金の額として、完了報告書を機構に提出して、同額により助成金の額の確定を受けていた。
本院は、合規性等の観点から、助成対象経費の算定は適正に行われているかなどに着眼して、機構及び北野同朋会において、完了報告書、契約書、領収証書その他の関係書類を精査するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
北野同朋会は、前記の雇用したとしていたアルバイト延べ9名のうち、役員の親族である延べ5名については、実際には雇用していなかったのに、虚偽の賃金台帳、労働条件通知書等を作成し、賃金計3,411,100円を支払ったこととして、これを助成対象経費としていた。
また、前記の車両計4台については、実際には購入したものであったり(購入単価は30万円以上であり助成対象経費と認められないもの)、役員が所有していたものであったりしていて借料損料を支払っていなかったのに、虚偽の賃貸借契約書、領収証書等を作成し、借料損料計2,360,000円を支払ったこととして、これを助成対象経費としていた。
さらに、北野同朋会は、虚偽の賃貸借契約書等を作成して、実際には本件助成対象事業において支払っていなかった事務所の家賃計1,530,000円を支払ったこととしたり、虚偽の領収証書等を作成して、実際には委託していなかったテレビ電話設備の保守業務に係る委託費計770,000円を支払ったこととしたりして、これらを助成対象経費としていた。
したがって、上記架空のアルバイトの賃金、車両の借料損料等計8,071,100円を助成対象経費から控除して適正な助成金の交付額を算定すると計8,731,000円となり、前記の交付額計16,787,000円との差額8,056,000円が過大に交付されていて不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、北野同朋会において虚偽の賃金台帳等を作成して、これを基に助成金の交付を受けるなど著しく誠実でなかったこと、機構において完了報告書の内容の審査等が十分でなかったことなどによると認められる。