独立行政法人情報処理推進機構(以下「機構」という。)は、情報処理の促進に関する法律(昭和45年法律第90号)に基づき、情報処理の高度化を推進することを目的として、プログラムの開発及び利用の促進、情報処理に関する安全性及び信頼性の確保、情報処理サービス業等を営む者に対する助成、情報処理に関して必要な知識及び技能の向上に関する業務等を行っている。そして、機構は、毎年度、派遣会社との間で労働者派遣契約(以下「派遣契約」という。)を締結し、書類のファイリング、データ入力等の一般的な事務系の業務(以下「事務系業務」という。)からプログラムの開発やコンピュータセキュリティ等のITに関する専門的な知識及び経験を必要とする業務(以下「技術系業務」という。)まで幅広く、業務の一部を派遣労働者に実施させている。
機構は、契約等に係る事務を独立行政法人情報処理推進機構会計規程(平成16年1月2003情総第9号。以下「会計規程」という。)等に基づいて行うこととしている。
会計規程等によれば、機構における契約手続については、予定価格が契約区分ごとに定められた額を超える場合には、次の手順で行うこととされている。
① 契約を請求する部(以下「契約請求部」という。)は、当該契約に係る契約方式等について、契約締結等に関する事務を行う財務部に事前相談を行う。
② 財務部が契約方式等について検討を行った上で、契約請求部が役員会審議を経て理事長の承認を受ける。
③ 財務部は、公告等を行い契約を締結する。
会計規程等によれば、売買、貸借、委託、請負その他の契約を締結しようとするときは、あらかじめ予定価格を定め、公告して競争に付さなければならないとされている。ただし、契約の性質又は目的により契約の相手方が特定されているため、その者と契約しなければその目的が達せられない場合や、役務の提供等の契約において予定価格が100万円を超えない場合等には、随意契約等によることができるとされている。
そして、合理的な理由なく契約を分割して発注することにより、随意契約によることはできないとされている。また、機構は、一定期間継続する役務の提供等の契約の場合には、単価により予定価格を定めることができるとしており、単価契約(単価についてのみ約定し、支払額については実績に基づき決定する契約)の場合、当該契約に基づく年間支払予定総額を考慮した上で、随意契約によることができるかを判断するとしている。
随意契約については、平成18年8月に財務大臣から各省各庁の長に対して「公共調達の適正化について」(平成18年8月財計第2017号)により競争性のない随意契約の見直しについての考え方が示されたことを受けて、経済産業省は、機構に随意契約の見直しを行うことを求めた。そして、機構は、19年12月に会計規程等を改正して、特殊な技術、設備等が不可欠であるとして随意契約としていた調達案件等について、ほかに当該技術、設備等を有している者がいないかを確認するために公募(以下「契約事前確認公募」という。)を実施し、応募者が複数であった場合は一般競争入札等を実施することとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、派遣契約の締結に当たり、会計規程等に従って契約手続が適切に行われているか、公正性及び透明性が確保されて競争の利益を十分に享受できているかなどに着眼して、機構が28年度に34派遣会社と締結した派遣契約計523件、支払額計10億9066万余円及び29年度に33派遣会社と締結した派遣契約計584件、支払額計12億2024万余円、合計1,107件、支払額23億1090万余円を対象として、機構において、契約書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
28年度の派遣契約523件のうち1件、支払額3429万余円、29年度の派遣契約584件のうち1件、支払額296万余円、合計2件、支払額3725万余円については、会計規程等に基づき、財務部が一般競争契約により派遣会社と派遣契約を締結していた。
一方、上記の派遣契約を除く28年度522件、支払額計10億5637万余円、29年度583件、支払額計12億1727万余円、合計1,105件、22億7364万余円については、財務部ではなく、人事、給与等に関する事務を行う総務部が契約を締結していた。
これらの派遣契約に係る契約手続についてみると、契約請求部は、嘱託職員等の雇用と同様であるとして、財務部に事前相談を行わずに、総務部に労働者派遣に係る業務内容、契約期間等の要求を行い、総務部は、契約方式を検討することなく、当該要求内容が記載された仕様書を複数の派遣会社に提示するなどして、仕様を満たしている派遣会社と随意契約により派遣契約を締結していた。
そこで、これらの派遣契約に係る1件当たりの支払額についてみると、100万円を超えていたものは、28年度計394件、支払額計9億9570万余円、29年度計397件、支払額計11億1579万余円となっていた。また、支払額が100万円以下で契約期間が半期ごとや四半期ごとなどになっていた契約の中には、同一の業務内容を年間を通じて同一の者が行っていることなどから年間契約をすることが可能であり、年間契約としていれば支払額が100万円を超えることとなったものが、28年度計31件、支払額計1373万余円、29年度計44件、支払額計2773万余円となっていた。
上記の支払額が100万円を超えている契約及び年間契約としていれば支払額が100万円を超えることとなる契約について、業務内容により区分すると表のとおり、事務系業務に係る契約は計647件、支払額計8億3683万余円となっており、技術系業務に係る契約は計219件、支払額計13億1614万余円となっていた。
表 派遣契約における業務区分(平成28、29両年度)
業務区分 | 平成28年度 | 29年度 | 計 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
契約件数(件) | 支払額(千円) | 契約件数(件) | 支払額(千円) | 契約件数(件) | 支払額(千円) | |
事務系業務 | 317 | 408,455 | 330 | 428,379 | 647 | 836,835 |
技術系業務 | 108 | 600,983 | 111 | 715,157 | 219 | 1,316,141 |
計 | 425 | 1,009,438 | 441 | 1,143,537 | 866 | 2,152,976 |
これらの契約を締結するに当たっては、会計規程等に従って、事務系業務に係る契約については、履行可能な者を有している派遣会社は特定の派遣会社に限定されるものではないことから競争に付する必要があり、技術系業務に係る契約については、業務内容を考慮して、履行可能な者を有する派遣会社が複数存在していることが確認できる場合には競争に付し、確認できない場合であっても契約事前確認公募を実施する必要があったと認められた。
このように、28、29両年度における派遣契約計866件、支払額計21億5297万余円について、会計規程等に従って財務部による契約方式の検討が行われておらず、随意契約により契約が締結されていた事態は、契約手続の公正性及び透明性が確保されておらず、競争による利益を十分に享受できないものとなっていて適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構において、派遣契約を締結するに当たり、会計規程等に従って財務部が契約方式について検討し競争に付するなどすることの必要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、30年8月に、契約請求部の担当職員に対して事務連絡を発して、派遣契約の締結に当たっては、会計規程等に従って財務部が契約方式について検討し競争に付するなどすることを周知徹底し、事務系業務に係る契約については、同年9月以降に契約を締結するものについて、同年8月から順次競争に付するとともに、技術系業務に係る契約については、31年4月以降に契約を締結するものについて、履行可能な者を有する派遣会社が複数存在していることが確認できる場合には競争に付することとし、確認できない場合には契約事前確認公募を実施することとする処置を講じた。