独立行政法人日本原子力研究開発機構(平成27年4月1日以降は国立研究開発法人日本原子力研究開発機構。以下「機構」という。)は、高速増殖炉(注1)の発電技術を確立するために建設されている高速増殖原型炉もんじゅ(以下「もんじゅ」という。)でナトリウムが漏えいした際の漏えい場所の状況の把握等を目的として、ナトリウムを内包する機器・配管が設置されているエリアにナトリウム漏えい監視用カメラ(以下「ITVカメラ」という。)を180台設置し、19年3月から運用を開始している(図参照)。
図 ITVカメラの概念図
機構は、もんじゅの安全確保に必要な措置を定めた保安規定に基づいてもんじゅの具体的な保守管理の実施に関する計画(以下「保全計画」という。)を策定して、機器が所定の機能を発揮し得る状態にあることを確認するための点検の具体的な方法等を定めている。そして、機構は、ITVカメラの点検として、保全計画に基づき、目視により外観の異常の有無を確認する外観点検及びカメラの映像や作動状況を確認する機能・性能試験(以下、これらを合わせて「外観点検等」という。)を実施することとしており、外観点検等によりITVカメラの故障を確認した場合は、必要に応じて交換を実施することとしている。
また、機構は、保全の有効性評価(注2)の際に、「点検手入れ前データ」(使用中の機器の劣化状態を把握するために取得するデータ)を活用するとしている。そして、保全計画の策定手順を定めた保全計画検討要領において、機器を分解・開放して部品の手入れ等を行う分解点検又は開放点検を実施する場合に同データを取得することとしているが、外観点検等を実施する場合には同データを取得することとはしていない。
機構は、26年8月に、もんじゅの電気設備の点検等を請け負わせる契約(以下「点検契約」という。)を、一般競争契約により契約額131,760,000円で高速炉技術サービス株式会社と締結して、その業務の一環として、既設のITVカメラ全180台の外観点検等を実施するとともに、上記180台の一部に対する交換用のITVカメラ30台の購入、交換等を実施することとしている。
その後、機構は、26年9月に、ITVカメラの故障を放置していたとして保安規定に違反しているとの指摘を原子力規制委員会から受けたことなどの状況を踏まえて、同年10月に、既設のITVカメラ180台全ての交換を至急実施するために、上記30台の購入とは別途に交換用のITVカメラ150台等を購入する契約(以下「追加購入契約」という。)を、随意契約により契約額29,700,000円で株式会社日立国際八木ソリューションズと締結している。そして、同年11月及び27年3月に点検契約の契約変更を行い、交換を実施するITVカメラの台数を30台から180台全てに変更するなどして契約額を168,804,000円に変更している。
本院は、合規性、経済性等の観点から、ITVカメラの点検及び交換が適切に実施されているかなどに着眼して、点検契約及び追加購入契約を対象として、機構本部、敦賀事業本部及び高速増殖原型炉もんじゅにおいて、契約書、仕様書等の関係書類を確認するとともに、担当者から説明を聴取するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
点検契約の仕様書等によれば、ITVカメラの点検及び交換は、①既設のITVカメラ180台全ての外観点検等を実施すること、②外観点検等の実施後に既設のITVカメラ180台全ての交換を実施することなどとされていた(以下、交換前に実施する外観点検等を「交換前点検」という。)。そして、仕様書等に基づき、既設のITVカメラ180台全てについて、交換前点検が実施された上で、交換が実施されていた。
しかし、既設のITVカメラは180台全てが交換の実施により撤去されることから、所定の機能を発揮し得る状態にあることを確認するための交換前点検を実施する必要はなく、交換前点検を点検契約の業務内容に含める必要はなかった。これについて機構は、交換前点検を点検契約の業務内容に含めていた理由について、点検手入れ前データを取得するためであるとしていたが、保全計画や仕様書等では同データを取得することとはなっておらず、また、保全計画検討要領においても、外観点検等を実施する場合には同データを取得することとはなっていなかった。さらに、前記の保全の有効性評価において、機構が取得したとしている同データが活用された状況は見受けられなかった。
機構は、点検契約及び追加購入契約により、交換用のITVカメラ180台等を購入して、故障の有無にかかわらず既設のITVカメラ全ての交換を実施していた。この理由について、機構は、運用開始から7年半以上が経過していて経年劣化による機能低下が見込まれる一方、ITVカメラの更新目安が7年程度であることを踏まえたためとしている。
しかし、既設のITVカメラの中には、点検契約による交換の実施以前に、既に交換済であったものが8台含まれていた。これら8台のITVカメラは、26年11月の時点で、使用期間が33か月から45か月までの期間となっていて、上記の更新目安は経過しておらず、故障実績もなかった。そして、機構は27年2月に保全計画を改訂して、ITVカメラは故障の有無にかかわらず76か月ごとに交換を実施することとしているが、上記の使用期間はこの交換期間も経過していなかった。
また、機構は、点検契約による交換の実施時点において、新品のITVカメラ1台を保管していたにもかかわらず、これを交換に使用していなかった。
したがって、既に交換済であったITVカメラ8台分の交換と、この8台と保管されていた新品の1台を合わせた9台分の購入については、点検契約及び追加購入契約の業務内容に含める必要はなかった。
以上のとおり、点検契約及び追加購入契約において、ITVカメラ180台のうち交換不要な8台分を除く172台分の交換前点検、8台分の交換及び9台分の購入を業務内容に含める必要はなく、これらを除いて契約額を修正計算すると、点検契約は163,340,143円、追加購入契約は27,360,881円となり、本件契約額168,804,000円、29,700,000円はこれらに比べてそれぞれ約540万円、約230万円割高となっていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、機構において、点検契約及び追加購入契約で行う業務について必要性の検討が十分でなかったことなどによると認められる。