独立行政法人勤労者退職金共済機構(以下「機構」という。)は、中小企業退職金共済法(昭和34年法律第160号)に基づき、中小企業の従業員について、中小企業者の相互扶助の精神に基づき、その拠出による退職金共済制度を確立し、もってこれらの従業員の福祉の増進と中小企業の振興に寄与することなどを目的として、中小企業退職金共済制度を運営している。
同制度は、中小企業者である事業主が、機構と中小企業退職金共済契約を締結して(以下、中小企業退職金共済契約を締結した事業主を「共済契約者」という。)、その雇用する従業員を被共済者として、被共済者ごとに掛金月額を定めて毎月分の掛金を翌月末日までに機構に納付し、被共済者が退職した場合には、当該被共済者等の請求に基づき、機構から掛金納付月数の区分に応じて政令で定められた退職金が支払われるものである。
中小企業退職金共済法施行規則(昭和34年労働省令第23号)等によれば、共済契約者は、毎月分の掛金の納付を、原則として、共済契約者の預金口座から機構の預金口座への振替により行うこととされている(以下、この方法による納付を「口座振替納付」という。)。
機構は、口座振替納付を行った全ての共済契約者(以下「全ての共済契約者」という。)に「掛金等の振替結果のお知らせ」(以下「口座振替結果通知書」という。)を年4回送付して、各回につき3か月分の振替日、振替済額等の掛金の振替結果の状況を通知することにしており、平成27年度から29年度までの3か年における送付件数は計4,331,997件となっている。そして、機構は、口座振替結果通知書の作成及び発送の業務を民間業者に委託して実施しており、これらの業務の実施に要する費用として、当該民間業者等に業務委託費及び郵便料金を支払っている。
中小企業退職金共済契約に係る掛金については、一部の地方公共団体において、当該地方公共団体の区域内に主たる事業所を有する中小企業者等を対象とした掛金補助の制度が設けられている。この制度は、おおむね共済契約者が補助対象期間中に支払った掛金に一定割合を乗じて得た額を補助するものとなっており、補助金の申請を行う共済契約者は、掛金の支払を証明する書類等を当該地方公共団体に提出することとなっている。
また、建設業法(昭和24年法律第100号)によれば、公共性のある施設等に係る建設工事で政令で定めるものを発注者から直接請け負おうとする建設業者は、その経営に関する客観的事項について、当該建設業者に建設業の許可をした国土交通大臣又は都道府県知事による審査等(以下「経営事項審査」という。)を受けなければならないとされており、退職一時金制度等の導入の有無についても、審査項目の一つとされている。そして、経営事項審査の申請を行う建設業者は、退職一時金制度等の導入の事実を確認できる資料として、中小企業退職金共済制度への加入を証明する書類等を国土交通大臣又は都道府県知事に提出することとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性、有効性等の観点から、全ての共済契約者に対して口座振替結果通知書を送付する必要があるかなどに着眼して、機構において、27年度から29年度までの間に民間業者に委託して実施した口座振替結果通知書の作成及び発送の業務に係る業務委託費及び郵便料金計2億4267万余円を対象として会計実地検査を行った。
検査に当たっては、業務委託に係る契約書、仕様書等の書類によるほか、機構の職員から口座振替結果通知書の送付の必要性等を聴取したり、機構を通じて地方公共団体における掛金補助の要件等を確認したりするなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
機構は、全ての共済契約者に口座振替結果通知書を送付している理由を次のとおりとしていた。
しかし、アについては、口座振替納付の場合、共済契約者は、掛金の振替先、振り替えられた金額、振替日等が記帳された預金通帳等により、確実に口座振替が行われ掛金が領収されたことを、容易に確認することができると認められた。
イ①については、法人税又は所得税の確定申告を行う際に口座振替結果通知書を証明書類として提出する必要があるか国税庁に確認したところ、その必要はないとのことであった。
イ②については、掛金補助制度を設けている全279地方公共団体(30年5月末現在)のうち協力が得られた278地方公共団体の掛金補助の要件等を機構を通じて確認したところ、掛金の支払の証明書類として口座振替結果通知書を必須としているのは8地方公共団体にすぎず、残りの270地方公共団体では、預金通帳等の写しなどを掛金の支払の証明書類とすることを認めているなどしていた。
また、イ③については、国土交通大臣及び47都道府県知事が経営事項審査を行うに当たり、退職一時金制度等の導入の事実を確認できる資料として提出を求めている証明書類を確認したところ、口座振替結果通知書を必須としているのは1県のみであった。
そして、機構は、これらの状況を十分に把握しないまま、全ての共済契約者に一律に口座振替結果通知書を送付していた。
このような状況からみて、掛金が領収されたことを証明する書類の交付が必要となる共済契約者は口座振替結果通知書の提出を必須としている一部の地方公共団体に掛金補助や経営事項審査の申請を行うなどする共済契約者であり、求めに応じて個別に口座振替結果通知書を送付すれば足りることから、毎年度、多額の費用をかけて、全ての共済契約者に一律に口座振替結果通知書を送付していた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた口座振替結果通知書の作成及び発送の業務に係る費用)
機構が保有する資料を基に、27年度から29年度までの3か年について、掛金が領収されたことを証明する書類の交付を求める共済契約者数を試算し、当該共済契約者のみに口座振替結果通知書を送付していたとすれば、その作成及び発送の業務に係る費用は2272万余円となり、前記口座振替結果通知書の作成及び発送の業務に係る費用2億4267万余円との差額2億1995万余円が節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、機構において、全ての共済契約者に一律に口座振替結果通知書を送付する必要性について、その利用の実態等を踏まえた検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、機構は、31年1月発送分から、全ての共済契約者に一律に口座振替結果通知書を送付する取扱いを廃止し、共済契約者から要望があった場合に個別に口座振替結果通知書を送付することとして、その旨を30年7月までに共済契約者等に通知するなどの処置を講じた。