国立大学法人等は、国立大学法人法(平成15年法律第112号。以下「国大法」という。)に基づき、教育研究等の事業を行っており、国大法第35条の規定により準用される独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第46条の規定に基づき、業務運営の財源に充てる資金として、毎事業年度、国から運営費交付金が交付されている。
国立大学法人等の中期目標期間終了時の積立金の処分については、国大法第32条の規定に基づき、国立大学法人等は、中期目標期間の最後の事業年度において、積立金の額から次の中期目標期間の業務の財源に充てるために文部科学大臣の承認を受けた額を繰り越すことができる(以下、この文部科学大臣の承認を「繰越承認」という。)とともに、繰り越す額を控除してなお残余があるときは、その残余の額を国庫に納付しなければならないこととなっている。
また、研究費の不正使用に伴う返還金については、「平成22年度決算における留意事項について」(平成23年文部科学省高等教育局事務連絡)及び「国立大学法人の会計処理上の留意点について」(平成26年文部科学省高等教育局事務連絡)によれば、国立大学法人等は、返還金を自己収入として受け入れるとともに、中期目標期間終了時には、繰越承認の対象外となる決算剰余金(積立金)として国庫納付することとされている。
そして、国立大学法人等は、研究費の不正使用に伴う返還金については、毎事業年度、文部科学省に提出する財務諸表等の補足資料に記入して報告することとなっている。
合規性等の観点から、第2期中期目標期間(平成22事業年度から27事業年度まで)終了時に研究費の不正使用に伴う返還金に係る積立金の経理が適切に行われているかなどに着眼して、同期間における研究費の不正使用に伴う返還金を対象に、国立大学法人東京大学(以下「東京大学」という。)において国庫納付金計算書や中期目標期間終了時の会計経理に関する書類等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適切とは認められない事態が見受けられた。
東京大学は、第2期中期目標期間の最後の事業年度(27事業年度)における会計処理として、積立金の額621億8867万余円から、繰越承認を受けた額620億3886万余円を控除した残余の額1億4981万余円を28年7月に国庫納付していた。
また、東京大学は、27年3月に、大学院工学系研究科の事務補佐員が給与を過大に請求するなどして不正に受給した研究費4,867,575円の返還を受けていた。
しかし、東京大学は、上記研究費の不正使用に伴う返還金について、26事業年度の財務諸表等の補足資料において繰越承認の対象外となる額として文部科学省に報告していなかった。そして、返還金額4,867,575円は第2期中期目標期間終了時に繰越承認の対象外となる決算剰余金(積立金)とされていなかった。
したがって、東京大学は、第2期中期目標期間終了時に上記の返還金額4,867,575円を国庫納付しておらず、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、東京大学において、研究費の不正使用に伴う返還金に係る積立金の経理に対する理解が十分でなかったことによると認められる。