日本放送協会(以下「協会」という。)は、放送法(昭和25年法律第132号)により、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行うことなどを目的として設立された法人であり、協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約(以下「受信契約」という。)をしなければならないこととなっている。協会が受信契約についての条項として定めた日本放送協会放送受信規約において、受信契約の契約種別は、地上契約(地上放送のみの受信についての契約)、衛星契約(衛星放送及び地上放送の受信についての契約)等となっており、受信契約を締結した放送受信契約者は、契約種別ごとに定められた放送受信料(以下「受信料」という。)を協会に支払わなければならないこととなっている。そして、衛星契約の受信料は、地上契約の受信料より高額となっている。
協会は、地上契約を締結している放送受信契約者(以下「地上契約者」という。)に対して、衛星契約への契約種別変更の勧奨を目的として、衛星契約の申込書と協会が放送する衛星放送の内容を紹介した冊子であるBSガイドを同封した郵便物を年に複数回郵送している。
日本郵便株式会社は、郵便料金について、同社の定めた内国郵便約款(以下「郵便約款」という。)により区分郵便物及び広告郵便物の割引制度並びに郵便区内特別郵便物の特別料金制度を次のように設けており、差出人は、郵便物等が郵便約款に定められている一定の条件を満たす場合にその適用を受けることができることとなっている。
区分郵便物の割引制度は、郵便物の形状、重量等が同一で、差出人が、受取人の住所又は居所の郵便区番号(注1)ごとに区分して、これらを同時に2,000通以上差し出すなどした場合に適用を受けることができるものである。その割引率は、基本割引率に特別割引率を加算した率となっている。基本割引率は、差出通数が2,000通以上10,000通未満の場合は3%で、差出通数が増加するに従って高くなり、100,000通以上の場合が6%で最大となっている。また、特別割引率は、差出人が、郵便約款に定められている送達日数(注2)に加えて送達に3日程度の余裕を承諾(以下、この承諾を「3日余裕の承諾」という。)するなど一定の条件を満たす場合にその条件に応じて1%から11%となっている。
郵便区内特別郵便物の特別料金制度は、郵便物の形状、重量等が同一で、同一の郵便区内のみにおいて配達が行われる郵便物を当該郵便区内の配達を行う郵便局に同時に100通以上差し出すなどした場合に適用を受けることができるものである。郵便区内特別郵便物の特別料金の割引率は区分郵便物における割引率よりも高くなっており、重量25g以内の基本料金1通82円の定形郵便物では、割引率の一番低い場合で72円(割引率12.2%)、差出通数が1,000通以上であって3日余裕の承諾をするなどした割引率の一番高い場合では56円(同31.7%)などとなっている。
広告郵便物の割引制度は、郵便物の形状及び重量が同一で、郵便物の内容が専ら差出人の商品の広告、役務の広告その他営業活動に関する広告を目的として同一内容で大量に作成された印刷物であると、事前に取り扱う郵便局(以下「料金割引承認局」という。)の承認(以下「広告郵便物の承認」という。)を受けたものについて、差出人が、受取人の住所又は居所の郵便区番号ごとに区分して、これらを同時に2,000通以上差し出し、3日余裕の承諾をするなどした場合に適用を受けることができるものである。その割引率は、基本割引率に特別割引率を加算した率となっている。基本割引率は、定形郵便物及び定形外郵便物の差出通数が2,000通以上3,000通未満の場合は12%で、差出通数が増加するに従って高くなり、300,000通以上500,000通未満の場合は31%、また、1,000,000通以上の場合が37%で最大となっている。また、特別割引率は、差出通数が50,000通以上の郵便物について、差出人が、郵便約款に定められている郵便局に差し出すなど一定の条件を満たす場合にその条件に応じて1%から7%となっている。
このように、広告郵便物の割引制度は、区分郵便物の割引制度よりも割引率が高く、また、差出通数が多いなどの場合には郵便区内特別郵便物の特別料金制度に比べても割引率が高くなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
協会は、前記の衛星契約への契約種別変更の勧奨を目的とする郵便物を毎年度大量に郵送しており、これに要する郵便料金も多額に上っていることから、本院は、経済性等の観点から、衛星契約への契約種別変更の勧奨を目的とする郵便物の郵送に当たり、郵便料金の割引制度等を適切に活用することにより郵便料金の節減が図られているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、協会本部が平成29年度に郵送した衛星契約への契約種別変更の勧奨を目的とする郵便物659万余通(以下「本件郵便物」という。)に係る郵便料金3億8398万余円を対象として、協会本部において、本件郵便物の郵送業務に関する関係書類、後納郵便物等差出票の控え等により、差出時期、郵便料金の割引制度等の適用状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
協会本部は、本件郵便物の郵送に当たり、大量の差出通数になることが見込まれたことから、郵便区番号ごとの差出通数が同時に100通以上になるものについては、郵便区内特別郵便物の特別料金制度の適用を受けていた。また、郵便区番号ごとの差出通数が100通より少ないものについては、それらをまとめて2,000通以上とした上で区分郵便物の割引制度の適用を受けていた。一方、協会本部は、本件郵便物について、料金割引承認局に対して広告郵便物の承認を求めておらず、広告郵便物の割引制度の適用は受けていなかった。
これについて協会は、22年7月に協会本部が料金割引承認局に対して、当時郵送を予定していた衛星契約への契約種別変更の勧奨を目的とする郵便物について広告郵便物の承認を受けられるか事前に相談したところ、承認することは難しい旨の返答を得たとしている。そして、協会は、本件郵便物と上記のとおり判断された郵便物とは発送目的や仕様が大きく異ならないとしており、これらのことから、料金割引承認局に対して広告郵便物の承認を同月以降一度も求めていなかったとしている。
しかし、広告郵便物の割引制度については、日本郵便株式会社のホームページにおいて、会員加入の案内等は広告郵便物に該当する旨示されていること、本件郵便物は、衛星放送の受信設備を持たない地上契約者に対して衛星放送番組のPRを行い衛星放送の受信設備の購入・設置及びそれに伴う地上契約に比べて高額な衛星契約への契約種別変更を勧奨することをその主たる目的としていること、また、同一内容で大量に作成された印刷物に該当することなどから、本件郵便物は、広告郵便物の割引制度を活用するに当たって求められている条件を満たしており、料金割引承認局に広告郵便物の承認を受けて割引制度の適用を受けることができる蓋然性が高いと思料された。そして、本件郵便物は、同時期の差出通数が19万余通から100万余通と大量であることから、郵便区内特別郵便物及び区分郵便物の割引率よりも、広告郵便物の割引率が高くなると認められた。
そこで、30年7月の本院の会計実地検査を踏まえて、協会本部において料金割引承認局に照会を行ったところ、料金割引承認局から本件郵便物について広告郵便物の承認を受けられる旨の返答が得られたことから、本件郵便物について事前に広告郵便物の承認を求めれば、より割引率の高い広告郵便物の割引制度の適用を受けることが可能であったと認められた。
このように、本件郵便物の郵送に当たり、より割引率の高い広告郵便物の割引制度の適用を受けることが可能であったのに適用を受けていなかったことにより、郵便料金の節減が図られていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた郵便料金)
協会本部において、本件郵便物について広告郵便物の割引制度の適用を受けていたとすれば、郵便料金3億8398万余円は3億3739万余円となり、4658万余円節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、協会本部において、本件郵便物に係る郵便料金の割引制度の活用について検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、協会は、30年9月に、関係部署に対して事務連絡を発して、今後、衛星契約への契約種別変更の勧奨を目的とする郵便物を郵送する際には、より割引率の高い広告郵便物の割引制度の適用を適切に受けるよう周知するなどの処置を講じた。