政府は、平成25年1月に、長引く円高・デフレ不況から脱却して日本経済を大胆に再生させるために「日本経済再生に向けた緊急経済対策」を閣議決定した。同対策では、成長による富の創出、暮らしの安心・地域活性化等を重点分野として、民間投資を喚起し持続的成長を生み出す成長戦略の実現を図るための各種施策が盛り込まれた。
そして、国からの出資、貸付け又は補助金の交付(以下、これらを合わせて「政府出資等」という。)を受けた株式会社等の法人が、企業等に対する出資、貸付け、債務保証、債権の買取り等(以下、これらを合わせて「支援」という。)を行い、政府の成長戦略の実現等の政策的意義があるものに限定して、民業補完を原則とし、民間で取ることが難しいリスクを取ることによって民間投資を活発化させて、民間主導の経済成長を実現することを目的とするファンドが新たに創設されるなどした(以下、当該ファンドを「官民ファンド」といい、官民ファンドを運営する法人を「官民ファンド運営法人」という。)。
官民ファンドは、各官民ファンド運営法人の所管府省庁が監督等を行っていくことが原則であるが、官民ファンドの活用推進を図る観点から、政府は、25年9月に、「官民ファンドの活用推進に関する関係閣僚会議」(以下「関係閣僚会議」という。)を設けて、「官民ファンドの運営に係るガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)を関係閣僚会議決定とするとともに、関係閣僚会議の下に、内閣官房副長官を議長として、関係府省庁を構成員とする「官民ファンドの活用推進に関する関係閣僚会議幹事会」(以下「幹事会」という。)を置いて、ガイドラインに基づいた官民ファンドの運営状況の定期的な検証を関係府省庁が一体となって行うこととした。関係府省庁が幹事会で検証した事項は、「官民ファンドの運営に係るガイドラインによる検証報告」(以下「検証報告」という。)として取りまとめられ、公表されている。
官民ファンド運営法人を組織形態別に示すと、①株式会社が8法人(注1)(以下「政府出資株式会社8法人」という。)、②独立行政法人が2法人(注2)(以下「独立行政法人2法人」という。)、③国立大学法人が4法人(注3)(以下「国立大学法人4法人」という。)及び④一般社団法人が2法人(注4)(以下「基金設置法人2法人」という。)となる。
(以下、各法人の名称中、「株式会社」「独立行政法人」「国立研究開発法人」「国立大学法人」及び「一般社団法人」は記載を省略した。)
官民ファンド運営法人が実施する支援に係る業務(以下「支援業務」という。)の流れは、おおむね、①支援の候補となる企業等を探索する案件発掘、②事業の価値の評価及び当該企業等の財務、法務等に関するリスク、問題点等に関する詳細な調査(以下、これらの評価及び調査を「デューデリジェンス」という。)、③企業等に対する支援の決定(以下「支援決定」という。)、④支援の実行、⑤財務情報、経営方針等の企業情報の把握や経営成績の評価(以下、これらの把握及び評価を「モニタリング」という。)及び⑥支援の終了(EXITとも呼ばれる。)というプロセスで実施される。
官民ファンド運営法人は、支援決定に基づき、企業等との契約で支援の上限として約束額を設定して、契約で定めた条件を満たすなどした時点で出資金を払い込むことなどにより実際に支援を実行する(以下、出資金の払込みなどによる実際の支援を「実支援」といい、その額を「実支援額」という。)。
官民ファンド運営法人が行う支援に係るスキーム(以下「支援スキーム」という。)には、①官民ファンド運営法人が支援の対象となる事業を実施する者(以下「対象事業者」という。)に対して支援を行うもの(以下「直接支援」という。)と②官民ファンド運営法人が他の民間事業者等と共に出資して設立した投資事業有限責任組合(注5)(以下「サブファンド」という。)を通じて対象事業者に対して支援を行うもの(以下「間接支援」という。)とがある。
また、間接支援におけるサブファンドに対する出資の形態には、有限責任組合員(注6)(Limited Partner。以下「LP」という。)としての出資及び無限責任組合員(注7)(General Partner。以下「GP」という。)としての出資がある。
なお、国立大学法人4法人の官民イノベーションプログラムの場合は、国立大学法人がLPとなり、各国立大学法人が100%出資する子会社がGPとなっているサブファンド(以下「国大ファンド」という。)が対象事業者に対して支援を行っている。
官民ファンド運営法人は、支援を行うことによる政策目的の達成状況、民業補完の状況、支援における収益性の確保の状況等を評価するための重要な指標(Key Performance Indicator。以下「KPI」という。)を原則として自ら設定し、KPIを用いて政策目的の達成状況等を評価している。
官民ファンド運営法人は、財務等の状況について、組織形態に応じて適用される法令等に基づき、財務諸表又は計算書類(以下、これらを合わせて「財務諸表等」という。)を作成し、監査役等による監査等を経て開示している。
また、官民ファンド運営法人の情報開示について、ガイドラインにおいては、支援決定時における適切な情報開示に加えて、実支援後においても、適切な評価や情報開示を継続的に行い、国民に対しての説明責任を果たしているかといった検証項目が設けられている。
官民ファンド運営法人は、設立や支援の根拠となる法律(以下「設置根拠法」という。)、国庫補助金の交付要綱(以下「交付要綱」という。)等に定められた政策目的に沿った支援を行うこととなっており、官民ファンドの業務運営に関して官民ファンド運営法人16法人に対して行われた政府出資等の額は多額に上っている。そして、官民ファンド運営法人が行う支援に失敗が多数発生して損失が生じていないか、政策目的に沿った支援が行われているかなどについて国民の関心が高くなっている。
そこで、本院は、官民ファンドにおける業務運営の状況について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
ア 官民ファンド運営法人に対する官民ファンドの業務運営に関する国の財政支援の状況、官民ファンド運営法人による支援の実施状況はどのようになっているか。
イ 官民ファンド運営法人の案件発掘、支援決定、モニタリング等の支援業務の実施状況はどのようになっているか。
ウ 官民ファンド運営法人における官民ファンドの業務に係る財務等の状況はどのようになっているか。
関係閣僚会議及び幹事会による検証の対象となっている官民ファンド運営法人16法人が運営する14官民ファンドを検査の対象として、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき提出された財務諸表等のほか、官民ファンド運営法人に支援の実施状況等に係る調書等の提出を求めて、これらを分析するとともに、9関係府省(注8)、官民ファンド運営法人16法人、当該法人から出資を受けて支援業務を行うなどしている国立大学法人4法人の子会社等の6法人(注9)、4国大ファンド(注10)及び14サブファンド(注11)において会計実地検査を行った。
官民ファンド運営法人に対する官民ファンドの業務運営に関する28年度末の政府出資等の額は、合計7812億余円となっており、出資によるものは、一般会計の計1211億余円及び財政投融資特別会計(投資勘定)の計5365億余円、補助金の交付によるものは、一般会計の計300億円及びエネルギー対策特別会計(エネルギー需給勘定)の計144億余円、貸付けによるものは、財政投融資特別会計(投資勘定)の計790億円となっている。
国が法人に対して出資することにより取得した株式及び出資による権利は、国有財産とされており、国民共有の貴重な財産であり適切な方法により管理する必要がある。官民ファンドについては、一義的には官民ファンド運営法人及び所管府省庁において、政府出資金(注12)の価値が著しく低下したり、政府出資金が回収できなかったりする事態が生ずることを回避するよう政府出資金を適切に管理する必要がある。また、財政投融資特別会計(投資勘定)の出資は収益が上がるまで長期的に耐えることのできる資金であるが、投資先から回収したリターンを再投資する仕組みであり、官民ファンド運営法人において業務期間を通じて、対象事業者へ支援のために拠出した出資金等を確実に回収することに加え、官民ファンドの業務運営に要する経費を上回る収益を確保し、出資者である国に納付することが求められるものであることから、同勘定からの政府出資金に係る統制の状況についてみたところ、出資を行う前の段階での審査や出資後の出資者としての議決権の行使等により、政府出資金が回収できない事態等が生ずることを回避するための取組が行われている。
補助金の交付によるものは、交付要綱等に基づき基金事業を実施し、基金事業を完了したときなどには、基金の残余の額を国庫に返納しなければならないこととなっている。また、貸付けによるものは、借用証書に基づき、国が将来回収することとなっている。
官民ファンド運営法人は、それぞれの設置根拠法等において政策目的が定められている。また、官民ファンドの業務を主な業務としているファンド専業法人(注13)についてみると、ほとんどのファンド専業法人は、保有する全ての株式等の処分を行い支援を終了するよう努めなければならない時期(以下「支援の終了時期」という。)が定められており、全てのファンド専業法人においてそれぞれの設置根拠法の見直しの時期も定められている。一方、法人業務の一部として官民ファンドの業務を行っている兼業法人(注14)についてみると、一部の官民ファンドを除き、支援の終了時期は定められていないが設置根拠法等に基づき一定の期間ごとにそれぞれの法人の業務全般や事業の内容について検討を行うこととなっている。
官民ファンド運営法人が支援を行う際の支援スキームには、直接支援と間接支援があり、設置根拠法等において、官民ファンドごとに両方の支援スキームで行うか、いずれか一方の支援スキームで行うかが定められている。
政府出資等及び民間出資等(以下、両者を合わせて「資本金等」という。)が対象事業者等への支援に活用されているかについてみたところ、官民ファンド運営法人全体では、28年度末時点で資本金等1兆0013億余円、実支援額1兆9429億余円となっており、資本金等に対する実支援額の割合は171.4%となっている。法人別では、資本金等に対する実支援額の割合が100%を超えていたり100%に近い値となっていたりして資本金等が対象事業者等への支援に活用されている官民ファンドがある一方で、設置日等から28年度末までの期間が短いなどの理由により、同割合が50%以下となっている官民ファンドもある。そして、支援約束が進んでいない官民ファンド運営法人や、支援約束は進んでいるが実支援が進んでいない官民ファンド運営法人が見受けられた。間接支援についてみると、農林漁業成長産業化支援機構は、年数が経過したサブファンドに対する支援実行率は年数が経過していないサブファンドと同程度となっている。また、28年度末時点において支援決定から1年以上経過したサブファンドのうち、一部の官民ファンドにおいて出資等の実績がないサブファンドが見受けられた。さらに、農林漁業成長産業化支援機構では、出資等の実績がないまま解散して清算を結了していたサブファンドが見受けられた。
各官民ファンド運営法人の主務大臣等が定めた支援等において従うべき基準(以下「支援基準等」という。)における主な支援対象分野は、対象事業者が実施する事業の内容や特性、事業の基となる研究成果等により定められており、同一の対象事業者が複数の官民ファンドの支援対象分野に該当する場合には、当該対象事業者に対して複数の官民ファンドが重複して支援を行うことが可能な状況となっている。そして、官民ファンド運営法人が連携して支援を行うことが有効である場合もあることから、シーズ・ベンチャー支援及び地域活性化支援の二つの政策課題について官民ファンド連携チーム会合を設けて、関連する官民ファンド運営法人が連携して支援案件の情報交換等に取り組むこととされた。
官民ファンド運営法人の政府出資金から生ずる配当や見直し等に伴う政府出資等の国庫納付等の仕組みとその状況についてみたところ、国庫納付等の規定が定められている官民ファンド運営法人があり、実際に国庫納付等を行っている法人が見受けられた。
政策目的のKPIごとの内容等についてみたところ、KPIとする必要性に疑問がある指標を用いているもの、官民ファンド運営法人の解散時点まで評価を行わないとしているもの、28年度上期以前に達成済みの成果目標を継続して用いているものが見受けられた。また、官民ファンドごとに総合的にみた場合に、政策目的のKPIの設定、評価及び評価結果の公表がそれぞれの法人の政策目的の達成状況を検証するために十分なものとなっているかについて、設定している法人全体の政策目的のKPIが支援を終了した案件のみを評価の対象とする1項目のみとなっているため、支援中の案件の進捗状況や達成状況を含めた評価結果が公表されていないものが見受けられた。さらに、官民イノベーションプログラムに係るKPIの評価結果として国立大学法人4法人それぞれの評価を政府出資金の割合に応じて加重平均したものを評価結果として公表することにしており、国立大学法人4法人それぞれの評価は公表していなかった。
民業補完のKPIは、算出方法が法人によって異なっているものの、評価を行っている法人は全てA評価(目標の進捗率又は達成状況が水準以上)としている。
国立大学法人の研究成果の実用化等のための事業として、平成24年度一般会計補正予算(第1号)において計1200億円(政府出資金1000億円、運営費交付金200億円)が国立大学法人4法人に交付された。国立大学法人は、産業競争力強化法(平成25年法律第98号)に基づく特定研究成果活用支援事業に関する計画(以下「特定研究成果活用支援事業計画」という。)の認定を受けた特定研究成果活用支援事業を実施する者(以下「認定事業者」という。)に対して出資することができることとなっている。官民イノベーションプログラムを運営するに当たり、国立大学法人4法人は、実際に支援業務を行う組織として100%出資の子会社を設立することとし、これらの子会社を認定事業者とする特定研究成果活用支援事業計画を作成して、経済産業大臣及び文部科学大臣の認定を受けている(以下、特定研究成果活用支援事業計画の認定を受けた子会社を「認定子会社」という。)。また、認定子会社は、自らをGPとする国大ファンドを設立することとして、国大ファンドを認定事業者とする特定研究成果活用支援事業計画を作成して、経済産業大臣及び文部科学大臣の認定を受けている。そして、国立大学法人4法人は、政府出資金計1000億円のうち552億余円を認定子会社及び国大ファンドに対して出資又は出資約束しており、残りの447億余円については、28年度末現在利用していない。
28年度末現在における国大ファンドの実支援額は計46億余円となっている。
政府出資金計1000億円のうち、29年9月時点で特定研究成果活用支援事業計画の認定を受けていない政府出資金計447億余円の活用については、ファンド間の利益の相反を回避するなどの観点から、国立大学法人4法人は、別の国大ファンドを設立する場合には、想定する対象事業者の事業分野や、既存の国大ファンドの新たな対象事業者等に投資する期間(以下「新規投資期間」という。)の終了時期を考慮し、今後の使用見込等について十分に検討する必要がある。
そして、平成24年度一般会計補正予算(第1号)により出資された政府出資金の具体的な回収方法は法令に規定されていない。
国立大学法人4法人は、第2期中期目標期間における運営費交付金の残額を第3期中期目標期間内に全額執行する執行計画を立てた上で繰り越していたが、28年度末現在、前記の運営費交付金計200億円のうち、93.5%を占める計187億余円が使用されずに国立大学法人4法人が保有している状況となっている。
国立大学法人4法人は、研究成果の実用化に向けた官民共同の研究開発の推進に資するものとなるよう、その必要性や必要額について十分に検討する必要がある。
官民ファンド運営法人に対する国の監督、評価等についてみると、それぞれの設置根拠法等において、政府出資株式会社8法人は、主務大臣が監督して、監督上必要な命令をすることができるなどと規定されていたり、独立行政法人2法人及び国立大学法人4法人は、毎事業年度終了後の業務実績の評価結果に基づき必要がある場合等には、主務大臣が業務運営の改善等を命ずることができることなどとなっていたり、基金設置法人2法人の主務大臣等は、官民ファンドに関する業務の実施について、必要な措置を命じ、又は必要な勧告、助言若しくは援助を行うことができることとなっていたりしている。
官民ファンドの支援基準等は、官民ファンド運営法人が事業者等を決定するに当たって従うべき基準であり、政策目的、民業補完、収益性等に関する基準が定められている。これらのうち、政策目的に関する基準についてみると、成長による富の創出、地域活性化等のほか、中小企業対策、日本企業の海外展開支援等に係る基準となっており、官民ファンド運営法人は、これらの政策目的等に関する基準に沿った支援となるよう案件発掘、デューデリジェンス等の支援業務を実施して支援決定を行っている。
また、官民ファンド運営法人は、政府出資等の額を回収できないリスクの回避の取組等が求められており、デューデリジェンス等の支援業務における取組が重要となっている。そして、官民ファンド運営法人は、ポートフォリオマネジメント等の取組を行っている。
官民ファンド運営法人が行う対象事業者又はサブファンドに対する支援決定について主務大臣等の関与の状況をみると、支援決定を行う場合には主務大臣の認可を受けなければならないことなどとなっている。
官民ファンド運営法人は、おおむね投資部等の特定の担当部署を設置して支援業務を行っており、その担当者数等は、各法人の事業分野等により様々となっている。
官民ファンド運営法人の直接支援に係る案件発掘についてみると、金融機関からの相談、事業者からの依頼等を受けたり、事業者の訪問等の活動を行うことによって事業化の可能性のある案件を探索したりして案件の受付等を行い、このうち支援基準等に基づいた事業化される確度が高いと判断された案件を支援候補案件としている。また、間接支援に係る案件発掘については、一般的にはサブファンドのGPが行っている。
そして、官民ファンド運営法人の直接支援におけるデューデリジェンスについてみると、官民ファンド運営法人内部において実務経験者等の担当者が事業の実現可能性等についてデューデリジェンスを実施している。また、官民ファンド運営法人は、必要に応じて、監査法人等の外部専門家を利用したデューデリジェンスも実施している。間接支援における対象事業者の選定に係るデューデリジェンスについては、一般的にはサブファンドのGPが行うなどしている。
官民ファンド運営法人に設置されている最終的な支援決定を行う機関(以下「支援決定機関」という。)の人員構成等についてみると、12法人(注15)は、支援決定機関の委員に社外の実務経験者等を加えている。また、独立行政法人2法人は、理事長が支援決定を行うこととなっているが、支援決定に当たっては、提案内容及び出資先としての適格性について総合的に評価等を行う社外の実務経験者等により構成される助言機関の意見を踏まえることとなっている。このように、官民ファンド運営法人は、おおむね、独立した立場の社外の実務経験者等を委員に加えて審議するなどして、執行部を監視・牽(けん)制する仕組みを導入している。
各官民ファンド運営法人の支援決定に係る審議体制についてみると、支援決定機関の審議に至るまでに、支援業務の担当部署等が審議を行う投資部門会議等、役員等が審議を行う投資委員会等の審議を経ることなどにより、おおむね複数回の審議が行われることとなっている。
また、間接支援を行う場合のサブファンドの業務を執行するGPの選定についてみると、GPとしての業務執行の実績がなく運用担当者も過去に運用実績を有していないが、LPとの連携等により一定の案件組成力等が期待できるなどとしてGPを選定している官民ファンド運営法人が見受けられる。
官民ファンド運営法人は、支援を行った後、対象事業者の財務情報や経営方針等の企業情報を継続的に把握するモニタリングを適切に行うことが重要であるとされている。また、対象事業によっては、事業の開始に当たり、法令上の届出等を要する場合があり、その手続等を確認するために支援決定後から実支援までの間においてもモニタリングを行う場合がある。
直接支援に係るモニタリングを行っている13法人(注16)において、主要なモニタリング項目の一つである売上高を例として、24年度から28年度までの実績値と事業計画値の累計額を対比すると、約半数の対象事業者の実績値は事業計画値を下回っており、その多くは直近の決算期(28年4月から29年3月までに期末を迎える決算期)において営業損失を計上していた。
そして、営業損失の主な理由をみると、製品開発や用地確保等の遅延等によるものであったが、このうち、対象事業者が事業の開始に当たり必要となる法令上の手続を行わないまま工事に着手したことなどについて、官民ファンド運営法人のモニタリングが十分に行われていなかった事例が見受けられた。
官民ファンド運営法人には、ファンド専業法人と兼業法人とがあり、ファンド専業法人の財務諸表等はそのまま官民ファンドの業務の財務状況を示しているが、兼業法人の財務諸表等は官民ファンドの業務とそれ以外の業務との区分経理の有無や区分経理等の方法によって把握できる情報が異なっている。
官民ファンドの業務に係る収益及び費用が把握可能な14法人(全16法人から独立行政法人2法人を除く14法人)の24年度から28年度までの利益又は損失等の状況をみると、24年度以降に官民ファンドの業務を開始したほとんどの法人は、おおむね各年度に損失を計上している。これは、主として官民ファンドの業務は支援を行ってから回収までに相当の期間を要するため、事業を開始した当初は株式売却等に伴う収入がない一方で、法人の運営に係る事務費等が先行して必要となることによると考えられる。また、23年度以前から官民ファンドの業務を開始している法人については、利益を計上した年度と損失を計上した年度が混在している。
28年度の官民ファンドの業務に係る事務費の内訳は、上記の14法人から事務費の内訳を区分していない日本政策投資銀行を除く13法人のうちほとんどの法人において人件費が最も多額の費用項目となっているが、人件費を資産規模との対比でみれば、法人によりばらつきがある。人件費の次に多額の費用項目となっている租税公課のほとんどを占める法人事業税(資本割)の各法人の課税状況等は、法人の組織形態等によって非課税であったり、軽減措置が講ぜられたりしているため、法人によって計上額の差が大きくなっている。
また、官民ファンドの業務に係る資産、負債及び純資産が把握可能な13法人(全16法人から日本政策投資銀行及び独立行政法人2法人を除く13法人)の資産、負債及び純資産の状況をみると、28年度末時点で、過半の法人は、支援に伴い取得した資産に比べて、支援に充てていない現預金等が含まれるその他の資産の計上額が多くなっている。
そして、上記13法人のうち11法人(注17)は、24年度以降に官民ファンドの業務を開始しており、当初は株式売却等に伴う収入がない一方で事務費等の支出は先行して必要となることなどから、28年度末時点で純資産の計が資本金等を下回っている。28年度末時点では、繰越損失等を解消するまでの計画等を策定している法人は少数であったが、29年12月の第9回幹事会において、全ての官民ファンド運営法人16法人は、官民ファンドの業務終了時までの実投資額、回収額等、運営経費、同時期までに官民ファンドの業務の収支見通しがゼロ又はプラスとなる投資倍率等の見込みを報告しており、その内容が公表されている。
官民ファンドの業務開始から28年度末までの支援案件の損益(注18)は、回収額と保有有価証券評価額等の合計が支援に伴う支出額を1兆5943億余円上回っている(投資倍率は181.8%)が、9法人(注19)が運営する6官民ファンドにおいて、回収額と保有有価証券評価額等の合計が支援に伴う支出額を下回っており、損失となっている。そして、28年度末までの支援に伴う支出額に事務費及び特別損失、法人税等のその他の費用(以下、これらを合わせて「諸経費」という。)を加えた全ての支出額を回収するために必要な投資倍率(以下「必要投資倍率」という。)と28年度までの投資倍率の実績とを比較すると、6法人(注20)は、投資倍率の実績が必要投資倍率を下回っている。支援先の分類別では、ベンチャー企業等に対する支援で投資倍率が最も低くなっている。
また、28年度までに支援を終了した実績がある8法人(注21)において、出資(直接支援)では計3679億余円の利益(投資倍率は174.5%)、出資(間接支援)では計136億余円の損失(投資倍率は82.0%)となっている。このうち、出資(間接支援)では、中小企業基盤整備機構において137億余円の損失が生じている。
28年度末において直接支援継続中の出資案件のうち、28年度末の純資産持分相当額が出資額の50%以下の支援件数は、全官民ファンド合計で151件中69件(全体の45.6%)となっており、そのうち、対象事業者の経営状況が事業計画等から外れているなどとして、減損処理を行ったり、投資損失引当金を計上したりした件数は12件となっている。
また、28年度末においてサブファンドへの出資がある大半の法人で、間接支援継続中の全サブファンドの当期損益累計額の合計がマイナスとなっている。一方、サブファンドから出資を受けている対象事業者が株式公開を果たすなどにより、出資額を大幅に上回る回収ができた一部のサブファンドでは当期損益累計額がプラスとなっている状況が見受けられた。
各官民ファンド運営法人の法人全体のKPIのうち、収益性のKPIの設定についてみると、産業革新機構及び民間資金等活用事業推進機構の2法人は、出資等回収累計額が出資等累計額を上回るかどうかを基準とした成果目標を設定しており、諸経費の回収を考慮していない。
また、中小企業基盤整備機構は、運営する官民ファンドについて、直近の運用実績を適切に把握し、投資運用方針の妥当性を判断するためとして、当該年度の単年度の損益の実績のみを測定して評価していた。
さらに、11法人(注22)では、支援を終了した案件がないか又は少なく、評価が困難であるとして、官民ファンド設立以来28年度末まで、法人全体の収益性のKPIの評価を実施しておらず、そのうち、農林漁業成長産業化支援機構及び環境不動産普及促進機構の2法人を除く9法人では、個別案件のKPIにおいても、収益性の確保が図られているかどうか判断できる情報は公表されていない。
実支援後における情報開示の状況については、支援中の個別案件について評価額の情報開示を行っているのは中小企業基盤整備機構及び科学技術振興機構の2法人のみとなっており、また、支援を終了した案件がある官民ファンド運営法人で個別案件ごとの損益額についての情報開示を行っている法人はない。
官民ファンド運営法人に対する官民ファンドの業務運営に関する28年度末の政府出資等の額は、合計7812億余円となっている。
資本金等が対象事業者等への支援に活用されているかについてみたところ、資本金等に対する実支援額の割合が50%以下となっている官民ファンドが見受けられた。また、間接支援において、28年度末時点で一部の官民ファンドにおいて出資等の実績がないサブファンドがあったり、農林漁業成長産業化支援機構では出資等の実績がないまま解散して清算を結了していたサブファンドが見受けられたりなどしていた。
官民ファンドの支援基準等における主な支援対象分野は、対象事業者が実施する事業の内容や特性等により定められており、同一の対象事業者が複数の官民ファンドの支援対象分野に該当する場合には、当該対象事業者に対して複数の官民ファンドが重複して支援を行うことが可能な状況となっている。
官民ファンド運営法人が設定する政策目的のKPIの中には、KPIとする必要性に疑問がある指標を用いているものなどが見受けられた。
官民イノベーションプログラムにおいて、国立大学法人4法人は、政府出資金計1000億円のうち計447億余円について28年度末現在利用していない。また、政府出資金の具体的な回収方法は法令に規定されていない。
官民ファンド運営法人は、政策目的等に関する基準に沿った支援となるよう案件発掘、デューデリジェンス等の支援業務を実施して支援決定を行っている。支援決定については、独立した立場の社外の実務経験者等の委員を加えて審議するなどにより、執行部を監視・牽制する仕組みを導入して、おおむね複数回の審議を行っている。また、サブファンドの業務を執行するGPについて、GPとしての業務執行の実績がなく運用担当者も過去に運用実績を有していないが、LPとの連携等により一定の案件組成力等が期待できるなどとしてGPを選定している官民ファンド運営法人が見受けられる。
官民ファンド運営法人は、支援を行った後、対象事業者の財務情報や経営方針等の企業情報を継続的に把握するモニタリングを適切に行うことが重要であるとされている。また、対象事業によっては、事業の開始に当たり、法令上の届出等を要する場合があり、支援決定後から実支援までの間においてもモニタリングを行う場合がある。そして、対象事業者が事業の開始に当たり必要となる法令上の手続を行わないまま工事に着手したことなどについて、官民ファンド運営法人のモニタリングが十分に行われていなかった事例が見受けられた。
官民ファンド運営法人の損益及び純資産の状況をみると、24年度以降に官民ファンドの業務を開始したほとんどの法人は、24年度から28年度までのおおむね各年度に損失を計上しており、28年度末時点で、官民ファンドの業務に係る資産、負債及び純資産が把握可能な13法人のうち11法人は、純資産の計が資本金等を下回る状況となっている。また、28年度末までの支援案件の損益をみると、9法人において損失となっている。
28年度末において直接支援継続中の出資案件のうち、28年度末の純資産持分相当額が出資額の50%以下の支援件数は、全官民ファンド合計で151件中69件となっており、そのうち、減損処理等を行った件数は12件となっている。
収益性のKPIの設定についてみると、諸経費の回収を考慮していなかったり、単年度の損益の実績のみを測定して評価していたり、設立以来、法人全体の収益性のKPIの評価を実施しておらず個別案件のKPIにおいても収益性の確保が図られているかどうか判断できる情報は公表されていなかったりするものが見受けられた。
また、支援を終了した案件がある官民ファンド運営法人で個別案件ごとの損益額についての情報開示を行っている法人はない。
官民ファンド運営法人は、設置根拠法、交付要綱等に定められた政策目的に沿った支援を行うこととなっている。また、28年度末における政府から官民ファンド運営法人16法人に対する官民ファンドの業務運営に関する政府出資等の額は、計7812億余円と多額に上っている。そして、官民ファンド運営法人は、所管府省庁の監督等の下、ガイドラインに沿って官民ファンドを適切に運営していくことが重要である。
ついては、支援を政策目的に沿ったものにし、収益性を確保して政府出資等が回収できない事態等が生ずることを回避するために、官民ファンド運営法人及び所管府省庁は、ガイドラインに沿って官民ファンドの運営等を行っていくとともに次の点に留意することが必要である。また、幹事会の構成員である関係府省庁は、幹事会において、従来官民ファンドの運営状況の検証を行ってきたところであるが、統一的に対応すべき問題について、次の点に留意しながら引き続きガイドラインに基づいた検証等を行うことが望まれる。
本院としては、今後業務の進捗に伴い支援を終了して損益が確定する案件が増加していくことなどを踏まえて、官民ファンドにおける業務運営の状況について、今後とも多角的な観点から引き続き注視していくこととする。