ページトップ
  • 平成29年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

<参考:報告書はこちら>

第4 在日米軍関係経費の執行状況等について


検査対象
防衛省内部部局、8防衛局、独立行政法人駐留軍等労働者労務管理機構
在日米軍関係経費の概要
在日米軍の駐留に関連する経費、沖縄に関する特別行動委員会最終報告に盛り込まれた措置の実施に必要な経費及び在日米軍の兵力構成見直し等に関する政府の取組の実施に必要な経費のうち地元の負担軽減に資する措置に係る経費
在日米軍関係経費の支出済歳出額
2兆7462億円(平成23年度~28年度)
提供施設等の土地の面積
2億6434万m2(平成28年度末)
上記のうち国有財産の土地の面積
1億1460万m2
上記に係る国有財産台帳価格
2兆0240億円

1 検査の背景

(1) 在日米軍の駐留に関する概要

ア 在日米軍の駐留に関する枠組み

(ア) 在日米軍が使用する施設等の提供

日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊(以下「在日米軍」という。)は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(昭和35年条約第6号。以下「日米安全保障条約」という。)に基づき、日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するために、日本国における施設及び区域(以下、これらを合わせて「施設等」という。)を使用することを許されることとなっている。

個々の施設等の提供及び返還に関する協定については、日本国政府及びアメリカ合衆国政府(以下「合衆国政府」といい、日本国政府と合衆国政府とを合わせて「日米両政府」という。)が、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(昭和35年条約第7号。以下「日米地位協定」という。)第2条第1項(a)の規定に基づき、日米両政府の相互間の協議を行う機関である合同委員会(以下「日米合同委員会」という。)における合意を経て締結することとなっている(以下、合衆国政府に提供された施設等を「提供施設等」という。)。

(イ) 在日米軍等が必要とする労務の提供

日米地位協定第12条第4項の規定によれば、在日米軍及び諸機関(提供施設等に設置される売店、食堂等をいう。以下同じ。)の労務の需要は、日本国政府の援助を得て充足されることとされており、日本国政府(防衛省)と合衆国政府(在日米軍)との間で、職種の別に基本労務契約、船員契約及び諸機関労務協約が締結され、これらに基づき、日本国政府は、在日米軍及び諸機関で勤務する従業員(以下「駐留軍等労働者」という。)を雇用している。

駐留軍等労働者の勤務条件については、国家公務員及び民間企業の従業員の給与等を考慮して防衛大臣が定めることとなっている。そして、基本労務契約等により駐留軍等労働者に係る勤務時間、休暇、給与等の勤務条件が定められている。

イ 在日米軍関係経費の概要

(ア) 在日米軍関係経費の負担に係る経緯

日米地位協定第24条第1項の規定によれば、日本国において在日米軍を維持することに伴う全ての経費は、同条第2項の規定に基づき日本国が負担すべきものを除くほか、日本国に負担をかけないでアメリカ合衆国(以下「合衆国」という。)が負担することとされている。

また、昭和62年度以降、日米両政府は、駐留軍等労働者に対して支払う給与等(以下「労務費」という。)や在日米軍の駐留に要する光熱水料等の一部を日本国政府が負担することとする協定(以下、累次締結された各協定を「特別協定」という。)を締結している。

(イ) 在日米軍関係経費に係る予算の概要

在日米軍の駐留等に関する経費については、毎年度、防衛省所管一般会計予算の(組織)防衛本省に、(項)在日米軍等駐留関連諸費、(項)独立行政法人駐留軍等労働者労務管理機構運営費及び(項)防衛力基盤整備費(平成26年度予算以前は(項)防衛施設安定運用関連諸費)の3項が計上されている。

そして、防衛省は、平成21年度以降毎年度、在日米軍の駐留等に関する経費に対する日本国政府の負担を国民に分かりやすく示すことを目的として、のとおり、経費の構成を公表している。この経費の構成においては、上記の3項から(項)防衛力基盤整備費に計上されている自衛隊施設の設置、運用に伴って生ずる経費を除いた経費が示されている(以下、で示されている経費のうち、防衛省所管の毎年度の経費を「在日米軍関係経費」という。)。

図 在日米軍関係経費(防衛省資料を基に作成。平成29年度当初予算の例)

図 在日米軍関係経費(防衛省資料を基に作成。平成29年度当初予算の例) 画像

(2) SACO最終報告等及び在日米軍再編の概要

沖縄に駐留する在日米軍(以下「在沖縄駐留米軍」という。)に関する沖縄県民の負担の軽減及び在日米軍の再編の取組に関する日米両政府における主な合意の内容は、次のとおりである。

ア SACO最終報告による合意内容

 「沖縄に関する特別行動委員会」(Special Action Committee on Okinawa。以下「SACO」という。)は、8年12月に、日米両政府の合意に基づく報告書(以下、同時に公表された普天間飛行場に関する附属文書を含めて「SACO最終報告」という。)を公表した。

SACO最終報告には、①普天間飛行場に代わる提供施設等(以下「普天間飛行場代替施設」という。)の検討を行い、十分な代替施設が完成し運用可能になった後に同飛行場を返還すること、②北部訓練場等10提供施設等について条件が満たされた後に全部又は一部を返還すること、③在沖縄駐留米軍が実施する沖縄県道104号線越え実弾射撃訓練を沖縄県外へ移転すること、④パラシュート降下訓練を伊江島補助飛行場へ移転することなどの事項が盛り込まれた。

そして、これらの措置に必要となる経費については、「SACO関係経費」として平成8年度補正予算以降の予算に計上されている。

イ ロードマップによる合意内容

18年5月に、日米両政府は、在日米軍の再編に関して在日米軍との連携が期待される自衛隊を含めた具体的な計画について合意した上、「再編実施のための日米ロードマップ」(以下「ロードマップ」という。)を公表した。

ロードマップには、①普天間飛行場代替施設をキャンプ・シュワブ区域に設置すること(SACO最終報告の事項①)、②普天間飛行場代替施設を設置するために、キャンプ・シュワブの施設及び隣接する水域の再編成等の必要な調整が行われること(以下「キャンプ・シュワブ再編成」という。)、③キャンプ桑江等6提供施設等について、条件が満たされた後に全部又は一部を返還すること(SACO最終報告の事項①及び②の一部)、④空母艦載機部隊であるアメリカ合衆国海軍(以下「合衆国海軍」という。)の第5空母航空団を厚木飛行場から岩国飛行場に移駐することなどが盛り込まれた。

そして、これらの措置に必要となる経費については、「米軍再編関係経費」として平成18年度補正予算以降の予算に計上されている。

この経費には、上記の措置を円滑に実施するため、駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法(平成19年法律第67号)に基づき、市町村に交付するための交付金(以下「再編交付金」という。)に係る経費も含まれている。

ウ グアム協定等による合意内容

21年2月に日米両政府が署名した「第三海兵機動展開部隊の要員及びその家族の沖縄からグアムへの移転の実施に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(以下「グアム協定」という。)及び24年4月の日米安全保障協議委員会(注1)の共同発表により、約9,000人の在沖縄米海兵隊の要員がその家族とともに沖縄から日本国外に移転することなどが確認されるとともに、25年10月に日米両政府が署名したグアム協定を改正する議定書により、グアム移転の施設及び基盤の整備に係る費用の暫定的な見積額を合衆国の2012会計年度米ドル(注2)で86億米ドルとし、このうち日本国政府が分担するグアム移転資金の上限額を合衆国の2008会計年度米ドルで28億米ドルとすること(以下、米海兵隊の第3海兵機動展開部隊等のグアム移転に係る一連の事業を「グアム移転事業」という。)などが取り決められた。

(注1)
日米安全保障協議委員会  日米安全保障条約に基づき、日米両政府間の理解の促進に役立ち、及び安全保障の分野における協力関係の強化に貢献するような問題で安全保障の基盤をなし、かつ、これに関連するものについて検討することを目的として、昭和35年1月に設置された会議。現在の構成員は、日本国政府が外務大臣及び防衛大臣であり、合衆国政府が国務長官及び国防長官となっている。「日米2+2会合」と呼ばれることもある。
(注2)
会計年度米ドル  合衆国の当該会計年度における米貨額

エ 統合計画による合意内容

ロードマップにおける在沖縄駐留米軍の提供施設等の統合を具体的に実施するために、日米両政府は、25年4月に、その詳細な計画について合意した上で、「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」(以下「統合計画」という。)を公表した。統合計画には、在沖縄駐留米軍のうち、移設の対象とする在日米軍の提供施設等名、移設先、移設手順、移設後に不要となる土地等の返還条件、返還目標年度等が記載されている。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

本院は、在日米軍関係経費の執行状況等について、正確性、合規性、経済性、有効性等の観点から、次の点に着眼するなどして検査した。

ア 在日米軍関係経費の決算の状況はどのように推移しているか。

イ 在日米軍に対する提供施設等の受渡しや返還に対応して、国有財産の提供や関係経費の支出が法令に基づき適切に行われているか。

ウ 「在日米軍駐留経費負担」の大半を占める労務費等の支払等は適切に行われているか。

エ 「SACO関係経費」及び「米軍再編関係経費」の予算は適切に執行され、SACO事業及び在日米軍再編事業の実施に伴い取得した土地等の国有財産は関係法令に従って適切に管理されているか。

オ 「SACO関係経費」及び「米軍再編関係経費」に関して、関連する市町村に交付される交付金により整備された施設や実施された事業等はそれぞれの目的を達成するものとなっているか。

(2) 検査の対象及び方法

検査に当たっては、23年度から28年度までの間の在日米軍関係経費の決算、28年度末の全国の78提供施設等に係る国有財産等を対象として、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)等に基づき防衛省から提出を受けた証拠書類等のほか、提供施設等の返還状況等に係る調書等の提出を求め、これらを分析するとともに、防衛省内部部局、8防衛局(注3)及び独立行政法人駐留軍等労働者労務管理機構において、関係資料の提出を受けた上で説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。

(注3)
8防衛局  北海道、東北、北関東、南関東、近畿中部、中国四国、九州、沖縄各防衛局

3 検査の状況

(1) 在日米軍関係経費の決算の状況

在日米軍関係経費について、のとおり、防衛省は、国民に分かりやすく示すことを目的として、当初予算額に基づく経費の構成を公表しているものの、支出済歳出額に基づく決算は示していない。そこで、本院において、在日米軍関係経費について、防衛省から提出を受けた資料に基づき、23年度から28年度までの経費別の決算(支出済歳出額計2兆7462億余円)の内訳及び予算(歳出予算現額)との比較を示すと次のとおりとなっている。

ア 在日米軍の駐留に関連する経費

(ア) 在日米軍駐留経費負担の決算

 「在日米軍駐留経費負担」に係る23年度から28年度までの支出済歳出額は、計1兆0913億6184万余円となっている。そして、各年度の支出済歳出額についてみると、28年度が1910億4299万余円で最大となっている。これは、「提供施設整備(FIP)」について、28年度に、前年度繰越額128億0099万余円に係る執行により支出済歳出額が214億5285万余円と増加したことや、「特別協定による負担」のうち第8次協定第1条等の規定に基づく日本国政府が負担する駐留軍等労働者数の増加により「労務費(基本給等)」の支出済歳出額が増加したことなどによるものである。

また、日本国政府が負担する「光熱水料等」の28年度の支出済歳出額は248億0932万余円となっており、20年度に日本国政府の負担の上限額が設定されて以降初めてこれを下回った。この下回った額9258万余円は、「光熱水料等」と同じ(目)合衆国軍隊特別協定光熱水料等支出金で執行される「訓練移転費(NLP)」に振替(注4)が行われた。

さらに、23年度から28年度までの各年度の歳出予算現額に対する支出済歳出額の割合(以下「執行率」という。)をみると、「提供施設整備(FIP)」については、各年度の提供施設等の整備に係る工期を翌年度に延長したことによる予算の繰越し、契約価格が予定を下回ったことによる不用等が生じたことなどにより、50%から77%までの間で推移している。一方、その他の項目の執行率については、100%近くのものが多いため、「在日米軍駐留経費負担」全体では90%を超えている。

(注4)
振替  予算科目のうち同一の(目)において、他の経費(目の細分)に予算額の一部を移すこと。異なる(目)の間の流用と異なり、財政法(昭和22年法律第31号)等に基づく手続は不要である。
(イ) 周辺対策、施設の借料等の決算

 「周辺対策」に係る支出済歳出額については、23年度は545億3959万余円であったが、28年度には688億5775万余円となっており、143億1815万余円増加している。このうち、市町村等が提供施設等の周辺に所在する教育施設や住宅の防音対策事業を実施するための経費を補助するための予算科目である(目)教育施設等騒音防止対策事業費補助金は、24年度から27年度までの間、100億円以上の翌年度繰越額が発生している一方で、28年度における同(目)の翌年度繰越額は28億2936万余円に減少している。

 「施設の借料」の支出済歳出額については、931億0909万余円(23年度)から984億2414万余円(26年度)までの間で推移しており、ほぼ一定規模の支出状況となっている。これは、所有者等から借り上げている提供施設等の民有地及び公有地(以下、これらを合わせて「民公有地」という。)の面積がその返還により若干減少している一方で、継続して借り上げている提供施設等の民公有地の賃借料の単価が上昇していることによると認められる。

また、23年度から28年度までの各年度の執行率についてみると、「施設の借料」は、年度中の所要経費を高い精度で見込めるため、96%から99%までと高い執行率になっている。このほか、「周辺対策」は、防音工事における補助事業者との工事日程の調整に時間を要することなどにより、67%から90%までの間で、「その他(漁業補償等)」は、補償事案による年間の所要経費を見込むのが困難であることなどにより、64%から84%までの間でそれぞれ推移している。その結果、「周辺対策、施設の借料等」の全体では83%から93%までの間で推移している。

イ SACO関係経費の決算

 「SACO関係経費」に係る支出済歳出額の23年度から28年度までの推移をみると、23年度以降、減少傾向となっている。23年度から28年度までの6か年度分の支出済歳出額の合計は大きい順に、「土地返還のための事業」185億6803万余円、「SACO事業の円滑化を図るための事業」138億4190万余円、「騒音軽減のための事業」126億4050万余円となっている。

 「土地返還のための事業」の(目)提供施設移設整備費は、28年度に「米軍再編関係経費」の「沖縄における再編のための事業」の(目)提供施設移設整備費から100億余円の振替を受けたため、歳出予算現額が大きく伸びている。一方、同年度中に北部訓練場の過半の土地が返還されたものの、当該提供施設等の附帯工事及び警備業務が同年度内に完了しなかったことなどにより、歳出予算現額の64%を29年度に繰り越している。

また、23年度から28年度までの各年度の執行率についてみると、「土地返還のための事業」は、上記のように提供施設等の移設等の工期が翌年度に延長されたことなどにより、28年度が29%になるなど年度ごとの違いが大きく、その結果、「SACO関係経費」全体では40%から87%までの間で推移している。

ウ 米軍再編関係経費の決算

 「米軍再編関係経費」に係る支出済歳出額の23年度から28年度までの推移をみると、23年度の548億9120万余円から毎年度増加し、28年度には1550億8189万余円と、約2.8倍になっている。23年度から28年度までの6か年度分の支出済歳出額の合計は、大きい順に、「空母艦載機の移駐等のための事業」3783億4053万余円、「沖縄における再編のための事業」613億8876万余円、「再編関連措置の円滑化を図るための事業」607億8221万余円、「在沖米海兵隊のグアムへの移転」438億5558万余円等となっている。

これらの経費のうち「空母艦載機の移駐等のための事業」についてみると、23年度に岩国飛行場愛宕山地区に係る土地の取得のために(目)不動産購入費が168億9000万円と大きくなっているが、24年度以降、(目)不動産購入費の支出はない。また、(目)提供施設等整備費は、岩国飛行場における施設整備の進捗に伴い、23年度の190億6386万余円から28年度の1026億7498万余円へと5倍以上伸びている。

 「沖縄における再編のための事業」についてみると、普天間飛行場代替施設の建設に係る工事及びキャンプ・シュワブ再編成に基づく施設の建設に係る工事が本格化した26年度以降に(目)提供施設移設整備費が大きく増加し、いずれも100億円を超えている。同(目)について、26年度においては、予備費使用額及び補正予算額が計上されたため、歳出予算現額が314億3624万余円に増加し、これに対して、支出済歳出額は194億2480万余円、翌年度繰越額は112億8002万余円となっている。また、28年度においては、前記のとおり、(目)提供施設移設整備費100億余円を「SACO関係経費」の「土地返還のための事業」の(目)提供施設移設整備費に振替を行っている。

 「在沖米海兵隊のグアムへの移転」のうち(目)在沖縄米海兵隊グアム移転事業費支出金については、各年度に日米両政府により締結された交換公文に基づき支出しており、24年度に92億5830万円、26年度に187億3070万円、27年度に12億4300万円、28年度に135億7920万円と毎年度大きく増減している。

また、23年度から28年度までの各年度の執行率についてみると、「在沖米海兵隊のグアムへの移転」は、23、24両年度の予算に計上したグアム移転資金及びグアム移転事業に係る出融資のための経費の大部分を支出することなく、多額の繰越額及び不用額として計上したことや、27、28両年度においてグアム移転資金を予算と同額支出したことなどにより、0.5%から99%までと各年度で大きな差が生じている。「沖縄における再編のための事業」は、キャンプ・シュワブ等における提供施設等の整備事業の工期を翌年度に延長したことなどにより、25%から63%までの間で推移している。支出済歳出額が最も大きい「空母艦載機の移駐等のための事業」は、岩国飛行場における提供施設等の整備事業の工期を翌年度に延長したことなどにより、49%から87%までの間で推移している。これらの結果、「米軍再編関係経費」全体では38%から78%までの間で推移している。

(2) 提供施設等に係る土地等の状況並びに受渡し及び返還に伴う国有財産の提供や関係経費の支出の状況

ア 提供施設等に係る土地及び賃借料の状況

28年度末における全国の78提供施設等に係る土地面積は、計2億6434万余m2となっており、これらのうち、国有財産は1億1460万余m2(国有財産台帳価格計2兆0240億余円)となっている。所管別内訳については、のとおり、財務省所管の土地が7110万余m2(同計1兆9990億余円)、防衛省所管の土地が129万余m2(同計214億7538万余円)等となっている。

表 提供施設等に係る国有財産である土地の所管別の内訳

(単位:m2、千円)
所管名 面積 国有財産台帳価格
財務省 71,100,840(62) 1,999,088,687(98)
厚生労働省 7,761(0) 9,065(0)
農林水産省 38,075,613(33) 3,375,520(0)
国土交通省 4,126,341(3) 54,238(0)
防衛省 1,292,735(1) 21,475,385(1)
114,603,292(100) 2,024,002,896(100)
注(1)
本表は、防衛省から提出を受けた資料を基に作成したものである。
注(2)
括弧書きは、計に占める割合(%)である。

また、民公有地(土地面積計1億4973万余m2)のうち賃借料の対象となっている分は、1億4900万余m2となっている。そして、これらに賃借料の対象となっている建物、工作物や提供施設外の一部の土地を含めて、28年度に支払われた賃借料は、計966億4716万余円となっている。

提供施設等に係る土地面積に関して、SACO最終報告が公表された8年度末から28年度末までの20年間における増減を示すと、8年度末には3億1399万余m2であったが、28年度末には2億6434万余m2となっていて、北部訓練場、キャンプ・ハンセン等の返還等により差引計4965万余m2が減少している。

このうち、沖縄県内に所在する提供施設等に係る土地面積は、SACO最終報告の合意内容に基づき「北部訓練場の過半」が28年12月に合衆国政府から返還(これに係る土地面積計4009万余m2)されたことなどにより、8年度末の37提供施設等に係る2億3498万余m2から、28年度末の31提供施設等に係る1億8609万余m2(対8年度比79%)となっている。

イ 提供施設等に係る土地等の受渡し及び返還に伴う国有財産の提供や関係経費の支出の状況

提供施設等の中に国有財産が所在する市町村に対しては、国有提供施設等所在市町村助成交付金が交付されている。そして、合衆国政府に提供している土地、建物及び工作物については、同交付金の交付額の算定に当たり、新たに提供されてから算定の対象になるとされており、新築した建物等であっても、当該年度の3月31日現在において提供されていない国有財産については、同交付金の算定の対象にならないこととされている。

これらの施設等の提供について検査したところ、28年度末時点で提供の合意に至っていない施設等で、工事完了後3年以上を経過しているものが、5防衛局(注5)で工事件数183件(当該工事に係る施設等の28年度末の国有財産台帳価格計92億3005万余円)見受けられた。これは、施設等の提供のための合意に係る手続について一定規模の施設等をまとめて行うことになっていることにもよるが、これらの中には、長期間を要しているものも見受けられた。このため、上記施設等の整備が完了して国有財産台帳の価格が増加しているのに、当該市町村に対する同交付金が算定されないこととなっている。

(注5)
5防衛局  東北、北関東、南関東、中国四国、沖縄各防衛局

一方、日米両政府において返還の合意があった提供施設等について検査したところ、関係市町村等から返還時期の延長等の要望を受けているものが見受けられた。また、このほかに、地上部分について提供施設等として本来の使用目的が失われているものなどが見受けられた。

これらを合わせると、2防衛局(注6)管内で計4提供施設等に係る6区域(これらに係る土地面積計34万余m2、28年度末の国有財産台帳価格計3億1617万余円、28年度の賃借料計9182万余円)となっている。

(注6)
2防衛局  東北、沖縄両防衛局
(ア) 関係市町村等から返還時期の延長等の要望を受けているもの

8年3月に、日米合同委員会において、嘉手納弾薬庫地区(沖縄県うるま市等に所在)に係る土地(これに係る土地面積2658万余m2)の一部返還が合意された。その後、同合意で実施することが決まっていた事項の弾薬庫の敷地内の移設が15年8月に、泡瀬ゴルフ場の同弾薬庫地区への移設が22年2月にそれぞれ完了した。

これに対してうるま市は、返還が合意された山城進入路、陸上自衛隊訓練場西側及び新ゴルフ場北側斜面の3区域(これらに係る土地面積計30万余m2。以下「山城進入路等3区域」という。)のうち山城進入路を除く2区域(これらに係る土地面積計27万余m2)については、周辺道路が未整備であったり、谷間や急傾斜地であるため跡地利用計画の策定が困難であったり、賃借料収入が得られなくなるという所有者等からの要望があったりしたため、継続して合衆国政府に提供していきたいとの要請を沖縄防衛局に提出した。

このため、22年2月以降も日本国政府(防衛省)は、所有者等に賃借料(山城進入路等3区域に係る28年度賃借料9138万余円)を支払っていた。

一方、関係市町村等の要望に基づき返還期限の延長を行った後に返還されたものも見受けられた。

(イ) 提供施設等として本来の使用目的が失われているもの

提供施設等のうち線路敷、進入路、飛び地等の各区域において、当初は、在日米軍による使用の必要性があったとして提供していたものの、現在は、市町村道や民間住宅の敷地になっているなどしていて、本来の使用目的が失われていると認められる区域が、3提供施設等に係る3区域(これらに係る土地面積計4万余m2(うち、2提供施設等に係る2区域の28年度末の国有財産台帳価格計2億7560万余円、1提供施設等に係る1区域の28年度の賃借料44万余円))において見受けられた。

(3) 在日米軍駐留経費負担の支払

駐留軍等労働者数の14年度以降の推移をみると、14年度の24,974人に対して22年度の25,859人をピークに増加傾向にあったが、その後は25,200人(26年度)から25,545人(23年度)までの間で推移している。

駐留軍等労働者に対する28年度の労務費の支払額は、「在日米軍駐留経費負担」のうち日米地位協定に基づく「労務費(福利費等)」及び特別協定に基づく「労務費(基本給等)」を合わせて計1220億0961万余円となっている。

 「労務費(基本給等)」のうち夏季手当及び年末手当における在籍期間の計算(以下「期間計算」という。)についてみたところ、基本労務契約等に無届による欠勤等の無給休暇期間を除算する規定は定められていたものの、制裁措置として科される出勤停止期間を除算する規定は定められていなかった。

しかし、駐留軍等労働者の勤務条件は、国家公務員及び民間企業の従業員における給与等を考慮して定めることとなっており、国家公務員の期末手当及び勤勉手当の算定については、人事院規則9―40(期末手当及び勤勉手当)(昭和38年人事院規則9―40)に基づき停職期間を除算することとなっていることから、期間計算に当たっては出勤停止期間を除算する必要があったと認められる。

そして、23年度から28年度までの6年間に、制裁措置として出勤停止処分が科された駐留軍等労働者延べ79人分に支給された夏季手当及び年末手当の支給額について、在籍期間から出勤停止期間を除算して期間計算すると、計941万余円が過大になっていた。

これについて、日本国政府(防衛省)は、本院の検査を踏まえて、29年12月に、合衆国政府(在日米軍)との間で、出勤停止期間を除算するよう基本労務契約等を改正する処置を講じた。

(4) SACO関係経費及び米軍再編関係経費に関する事業の実施

ア SACO関係経費に関する事業の実施

平成8年度補正予算以降に措置された「SACO関係経費」に係る主な事業の実績をみると、「土地返還のための事業」では、瀬名波通信施設等4提供施設等の返還のための施設の移設事業、北部訓練場の過半の返還のためのヘリコプター着陸帯の移設事業及びキャンプ瑞慶覧等の住宅統合事業がそれぞれ実施されてきた。また、「訓練改善のための事業」では、沖縄県道104号線越え実弾射撃訓練の沖縄県外への移転等が、「騒音軽減のための事業」では、嘉手納飛行場内の在日米軍(海軍)が使用する航空機に係る駐機場の移設事業がそれぞれ進められてきた。

また、SACO交付金は、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(昭和49年法律第101号)第9条の規定に基づく特定防衛施設周辺整備調整交付金のうち特別交付分として交付されているものであり、SACO最終報告に盛り込まれた「沖縄県道104号線越え実弾射撃訓練を沖縄県外へ移転すること」などの措置を的確かつ迅速に実施するために、9年度から28年度までの間に、当該訓練の実施を受け入れた市町村に対して交付されている。

SACO交付金は、その交付が開始された9年度から28年度までに、SACO事業に関連する23市町村に対して、計506億3779万余円が支出されている。

本件事業に関して、本院は、補助事業の目的を達していなかった事態について、平成28年度決算検査報告に「特定防衛施設周辺整備調整交付金で整備したIP告知システムによる一斉放送が実施できておらず、補助の目的を達していなかったもの」を掲記している。

イ 米軍再編関係経費に関する事業の実施

(ア) 空母艦載機の移駐等のための事業

 「空母艦載機の移駐等のための事業」に伴う合衆国海軍第5空母航空団の厚木飛行場から岩国飛行場への移駐は、18年5月にロードマップによる合意を経て公表された。ロードマップには、移駐に必要な施設を整備すること、訓練空域の調整等を実施することなどが計画されている。これまでに、空母艦載機のための駐機場、第5空母航空団等の庁舎等をそれぞれ整備するとともに、移駐に伴う軍人、軍属及びそれらの家族の住宅、学校施設等をそれぞれ整備してきている。そして、29年8月に空母艦載機の移駐が開始され、30年3月に移駐が完了した。

この事業に要した経費の18年度から28年度までの間の支出済歳出額は、計3981億9298万余円となっている。

このうち、国(防衛省)が在日米軍の使用に供することを見込んで23年度に購入した土地について検査したところ、国有財産台帳への記録等について、次のような事態が見受けられた。

中国四国防衛局は、合衆国海軍第5空母航空団に所属する空母艦載機部隊の厚木飛行場から岩国飛行場への移駐に伴う軍人等の住宅、運動施設等の建設のために、24年3月に山口県住宅供給公社から岩国飛行場愛宕山地区の土地計11筆(これに係る土地面積計75万余m2。以下「愛宕山用地」という。)を168億9000万円で購入し、26年3月から27年5月までの間、当該敷地を造成していた。しかし、この敷地造成のための整地工事及び盛土工事に係る工事費計6億1956万余円について、国有財産台帳等取扱要領(平成13年財理第1859号)等(以下「国有財産関係要領等」という。)に基づき、工事完了後に国有財産台帳価格に加算すべきであったのに、同防衛局では加算しておらず、平成27年度国有財産増減及び現在額報告書の価格にも反映していなかった。

これについて、同防衛局は、本院の検査を踏まえて、28年度末までに、報告漏れとなっていた上記の工事費を当該土地の価格に加算するなどして国有財産台帳価格の修正を行った。

(イ) 沖縄における再編のための事業

 「沖縄における再編のための事業」における普天間飛行場代替施設の建設に係る工事、キャンプ・シュワブ再編成に基づく施設の建設に係る工事及び各種の業務等に関連する事業に要した18年度から28年度までの間の支出済歳出額は、計763億2290万余円となっている。

沖縄防衛局は、キャンプ・シュワブ区域の埋立工事を含む普天間飛行場代替施設の建設に係る工事、キャンプ・シュワブ再編成に基づく施設の建設に係る工事及び各種の業務等に関連する契約を業者との間で締結しているが、これらの中には、沖縄県との協議のため工事等の契約締結後に一時中止した建設工事が27件(29年12月末現在の契約額計735億1406万余円)見受けられた。

このうちキャンプ・シュワブ再編成に基づく施設の建設に係る工事6件は、27年8月に開始された約1か月間の沖縄県との集中協議等の際に工事を一時中止したものであり、その後、準備ができたものから再開され、29年3月に完了していた。そして、工事の一時中止に伴い、上記の工事契約に基づき「受注者の責めに帰すことができない事象により工事の施工を中止させた場合の増加費用」として、受注者が設置した仮設の現場事務所等の賃借料等に対する支払が同年12月末までに計2137万余円(契約に基づく支払総額に占める割合0.6%)発生していた。

また、残りの普天間飛行場代替施設の建設に係る工事21件は、現在においても再開されていないものや完成に至っていないものなどがあることから、今後、同様の費用が発生し、これに係る支払が必要となることが見込まれる。

本件事業に関して、本院は、平成28年度決算検査報告に「海上警備業務契約の予定価格の積算に当たり、業務内容を十分精査した上で、同種の業務に係る他の機関を含めた取引の実例価格又は官公庁の定める労務単価によることができるものについてはこれらを採用するなどして、労務費の算定を適切なものとするよう改善させたもの」を掲記している。

(ウ) 再編関連措置の円滑化を図るための事業

 「再編関連措置の円滑化を図るための事業」のうち支出済歳出額の大部分を占める再編交付金は、その交付が開始された19年度から28年度までに、44市町村に対して、計837億4535万余円が支出されている。

本件事業に関して、本院は、平成28年度決算検査報告に「魚礁の設計及び施工が適切でなかったもの」を設計及び施工が適切でなかったため工事の目的を達していなかった事態として掲記している。

(エ) 在沖米海兵隊のグアムへの移転
a グアム移転事業の実施

 「在沖米海兵隊のグアムへの移転」は、グアム移転事業に必要な経費として、平成21年度予算に(目)在沖縄米海兵隊グアム移転事業費支出金346億0800万円を計上するなど、21年度から29年度までの間に計1559億3390万円を予算に計上した。その執行状況をみると、21年度から29年度(29年12月末まで)までの間の支出済歳出額は計1501億5040万円となっている。

また、グアム協定により、21年度以降、合衆国政府から提出を受けているグアム移転資金取引報告をみると、21年度から29年度(同)までの間に、各年度に日米両政府が締結した交換公文に基づき日本国政府から合衆国政府へ支払われたグアム移転資金の移転済額は、計15億0146万米ドル(合衆国の2008会計年度米ドルで13億4495万米ドル)であり、同期間におけるグアム移転資金を使用した合衆国政府によるグアム島内での米軍施設等の建設に係る契約済額は、計4億0162万米ドルとなっている。

b 駐留軍再編促進金融業務の実施

グアム移転事業の実施に当たり、防衛省は、民間活力を導入して出資、融資等により措置することとした駐留軍再編促進金融業務を実施するための予算を、平成23年度当初予算に369億7950万円、平成24年度当初予算に67億1490万円計上した(以下、これらの予算を合わせて「グアム移転出資金」という。)。

その後、24年4月の日米安全保障協議委員会において、グアムに移転する米海兵隊員の人数及び構成の見直しが行われた結果、インフラ及び家族住宅の所要減少が見込まれ、事業規模からみて出融資の必要がないと結論付けられた。そして、24年9月30日に、駐留軍再編促進金融業務を実施していた株式会社国際協力銀行も同業務を終了した。

その結果、防衛省は、23、24両年度の当初予算に計上した計436億9440万円を使用することなく、平成24年度決算において不用額として計上(369億7950万円)したり、平成24年度補正予算(25年2月成立)において減額(67億1490万円)したりしていた。

4 所見

(1) 検査の状況の概要

ア 在日米軍関係経費の決算の状況

 「在日米軍の駐留に関連する経費」のうち、「在日米軍駐留経費負担」に係る23年度から28年度までの支出済歳出額は、計1兆0913億6184万余円となっている。この期間における各年度の執行率についてみると、「提供施設整備(FIP)」については、各年度の提供施設等の整備に係る工期を翌年度に延長したことによる予算の繰越し、契約価格が予定を下回ったことによる不用等が生じたことなどにより、50%から77%までの間で推移しているが、「在日米軍駐留経費負担」全体では90%を超えている。また、「周辺対策、施設の借料等」の23年度から28年度までの各年度の執行率についてみると、「施設の借料」は、年度中の所要経費を高い精度で見込めるため、96%から99%までと高い執行率になっている一方、「周辺対策」は、工事日程の調整に時間を要することなどにより、67%から90%までの間で推移しており、「周辺対策、施設の借料等」の全体では83%から93%までの間で推移している。 

 「SACO関係経費」に係る支出済歳出額は、23年度以降、減少傾向となっており、「土地返還のための事業」は、28年度に「米軍再編関係経費」の「沖縄における再編のための事業」から100億余円の振替を受けている一方で、歳出予算現額の64%を29年度に繰り越している。また、23年度から28年度までの各年度の執行率についてみると、「土地返還のための事業」は、提供施設等の移設等の工期が翌年度に延長されたことなどにより、28年度が29%になるなど年度ごとに違いが大きく、その結果、「SACO関係経費」全体では40%から87%までの間で推移している。

 「米軍再編関係経費」に係る支出済歳出額は、23年度の548億9120万余円から毎年度増加し、28年度には1550億8189万余円と、約2.8倍になっている。また、23年度から28年度までの各年度の執行率についてみると、「在沖米海兵隊のグアムへの移転」は、23、24両年度に多額の繰越額及び不用額を計上したことや、27、28両年度においてグアム移転資金を予算と同額支出したことなどにより、0.5%から99%までと各年度で大きな差が生じている。「沖縄における再編のための事業」は、提供施設等の整備事業の工期を翌年度に延長したことなどにより、25%から63%までの間で推移しており、「米軍再編関係経費」全体では38%から78%までの間で推移している。

イ 提供施設等に係る土地等の状況並びに受渡し及び返還に伴う国有財産の提供や関係経費の支出の状況

提供施設等に係る土地面積は、8年度末には3億1399万余m2であったが、28年度末には2億6434万余m2となっている。このうち、沖縄県内の提供施設等については、SACO最終報告が公表された8年度末には2億3498万余m2であったが、28年度末には1億8609万余m2となっている。

施設整備が完了した施設等の受渡しの状況についてみたところ、28年度末時点で提供の合意に係る手続をとっていない施設等で、工事完了後3年以上を経過しているものが、5防衛局で工事件数183件見受けられた。これは、施設等の提供のための合意に係る手続について一定規模の施設等をまとめて行うことになっていることにもよるが、これらの中には、長期間を要しているものも見受けられた。このため、上記施設等の整備が完了して国有財産台帳の価格が増加しているのに、提供施設等の中に国有財産が所在する市町村に対して交付される国有提供施設等所在市町村助成交付金が算定されないこととなっている。

一方、日米両政府において返還の合意があった提供施設等について検査したところ、関係市町村等から返還時期の延長等の要望を受けているものが見受けられた。また、このほかに、地上部分について提供施設等として本来の使用目的が失われているものなどが見受けられた。これらを合わせると、2防衛局管内で計4提供施設等に係る6区域(これらに係る土地面積計34万余m2、28年度末の国有財産台帳価格計3億1617万余円、28年度の賃借料計9182万余円)となっている。

ウ 在日米軍駐留経費負担の支払

駐留軍等労働者数の14年度以降の推移をみると、14年度の24,974人に対して22年度の25,859人をピークに増加傾向にあったが、その後は25,200人(26年度)から25,545人(23年度)までの間で推移している。また、28年度の労務費の支払額は、日米地位協定分及び特別協定分を合わせて計1220億0961万余円となっている。

労務費の支払について検査したところ、夏季手当及び年末手当の期間計算に当たり、基本労務契約等に、制裁措置として科される出勤停止期間を除算する規定が定められておらず、出勤停止期間を除算せずに期間計算を行うなどしていた。しかし、駐留軍等労働者の勤務条件は、国家公務員及び民間企業の従業員における給与等を考慮して定めることとなっており、国家公務員の期末手当及び勤勉手当の算定については停職期間を除算することとなっていることから、期間計算に当たっては出勤停止期間を除算する必要があったと認められる。

これについて、日本国政府(防衛省)は、本院の検査を踏まえて、合衆国政府(在日米軍)との間で、出勤停止期間を除算するよう基本労務契約等を改正する処置を講じた。

エ SACO関係経費及び米軍再編関係経費に関する事業の実施

(ア) SACO関係経費に関する事業の実施

SACO交付金は、その交付が開始された9年度から28年度までに、SACO事業に関連する23市町村に対して、計506億3779万余円が支出されている。

SACO交付金により実施した事業について、本院は、平成28年度決算検査報告に「特定防衛施設周辺整備調整交付金で整備したIP告知システムによる一斉放送が実施できておらず、補助の目的を達していなかったもの」を掲記している。

(イ) 米軍再編関係経費に関する事業の実施
a 空母艦載機の移駐等のための事業

空母艦載機の厚木飛行場から岩国飛行場への移駐等に係る事業に要した経費の18年度から28年度までの間の支出済歳出額は、計3981億9298万余円となっている。

このうち、中国四国防衛局では、空母艦載機部隊の移駐に伴う軍人等の住宅等の建設のために、24年3月に愛宕山用地を168億9000万円で購入し、土地の価格について国有財産台帳に記録していた。しかし、27年5月に完了していた敷地造成のための整地工事及び盛土工事に係る工事費計6億1956万余円について、国有財産関係要領等に基づき、工事完了後に国有財産台帳価格に加算すべきであったのに、同防衛局では加算しておらず、平成27年度国有財産増減及び現在額報告書の価格にも反映していなかった。

これについて、同防衛局は、本院の検査を踏まえて、28年度末までに、報告漏れとなっていた工事費を当該土地の価格に加算するなどして、国有財産台帳価格の修正を行った。

b 沖縄における再編のための事業

沖縄防衛局は、普天間飛行場代替施設の建設に係る工事、キャンプ・シュワブ再編成に基づく施設の建設に係る工事及び各種の業務等を実施しており、これらの事業に要した18年度から28年度までの間の支出済歳出額は、計763億2290万余円となっている。そして、これらの事業を実施するために締結した契約のうち、沖縄県との協議のため工事等の契約締結後に一時中止した建設工事が27件見受けられた。このうち、キャンプ・シュワブ再編成に基づく施設の建設に係る工事6件は、工事の一時中止に伴い、工事契約に基づき、受注者が設置した仮設の現場事務所等の賃借料等に対する支払が計2137万余円発生していた。また、残りの工事21件は、現在においても再開されていないものや完成に至っていないものなどがあることから、今後、同様の費用が発生し、これに係る支払が必要となることが見込まれる。

本件事業に関して、本院は、平成28年度決算検査報告に「海上警備業務契約の予定価格の積算に当たり、業務内容を十分精査した上で、同種の業務に係る他の機関を含めた取引の実例価格又は官公庁の定める労務単価によることができるものについてはこれらを採用するなどして、労務費の算定を適切なものとするよう改善させたもの」を掲記している。

c 再編関連措置の円滑化を図るための事業

再編交付金は、その交付が開始された19年度から28年度までに、44市町村に対して、計837億4535万余円が支出されている。

本件事業に関して、本院は、平成28年度決算検査報告に「魚礁の設計及び施工が適切でなかったもの」を掲記している。

d 在沖米海兵隊のグアムへの移転

グアム移転事業に必要な経費として、21年度から29年度(29年12月末まで)までの間に、各年度の交換公文に基づき日本国政府から合衆国政府へ支払われたグアム移転資金の移転済額は、計15億0146万米ドル(合衆国の2008会計年度米ドルで13億4495万米ドル)であり、同期間におけるグアム移転資金を使用した合衆国政府によるグアム島内での米軍施設等の建設に係る契約済額は、計4億0162万米ドルとなっている。

また、防衛省は、駐留軍再編促進金融業務を実施するための費用として、23、24両年度に株式会社日本政策金融公庫等に対するグアム移転出資金計436億9440万円を計上したが、24年4月の日米安全保障協議委員会においてグアムに移転する米海兵隊員の人数等の見直しが行われた結果として、出融資の必要がないと結論付けられたことなどから、グアム移転出資金を使用しなかった。

(2) 所見

防衛省において、今回の検査により明らかになった状況を踏まえて、在日米軍関係経費の執行等が適切に行われるよう、次の点に留意することが必要である。

ア 提供施設等に係る土地等の状況並びに受渡し及び返還に伴う国有財産の提供や関係経費の支出について

  • (ア) 提供施設等の受渡しについて、施設等の整備の工事完了後、在日米軍において既に使用を開始するなどしている施設等について、引き続き施設等の提供のための手続を適切に行うこと
  • (イ) 提供施設等に係る返還の合意を行っている土地等について、賃借料の節減が図られるよう、関係市町村、所有者、合衆国政府等との間で協議を一層進めること。また、提供施設等として使用目的が失われていると認められる土地等について、必要な手続を進めること

イ 在日米軍駐留経費負担の支払について

 「在日米軍駐留経費負担」のうち労務費については、多額の予算が計上されていることを踏まえて、日米地位協定、特別協定等に基づき引き続き適正に執行するとともに、その計算方法が国家公務員及び民間企業の従業員における給与等を考慮した適切なものとなるよう留意すること

ウ SACO関係経費及び米軍再編関係経費に関する事業の実施について

  • (ア) 在日米軍再編事業等により購入した土地について、庁舎、宿舎等を新営するための造成工事を実施した場合は、国有財産関係要領等に基づき国有財産台帳の当該土地の価格に当該工事費を加算するなど適正に記録するようにすること
  • (イ) SACO交付金及び再編交付金の交付を受けて地方自治体が実施する事業について、平成28年度決算検査報告に掲記した事態のように、事業の目的を達していないと認められた場合は、その原因を分析するなどして、今後の事業の実施に当たって同種事態の発生防止のために活用すること

本院としては、今後とも在日米軍関係経費の執行状況等について引き続き検査していくこととする。