会計検査院は、平成29年6月5日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月6日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、独立行政法人日本スポーツ振興センター等
東京オリンピック・パラリンピック競技大会に関する次の各事項
国際オリンピック委員会(以下「IOC」という。)は、25年9月に、ブエノスアイレスで開かれたIOC総会において、32年夏に開催予定の第32回オリンピック競技大会及び第16回パラリンピック競技大会の開催都市を東京とすることを決定した。東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「大会」という。)は、「すべての人が自己ベストを目指し(全員が自己ベスト)」「一人ひとりが互いを認め合い(多様性と調和)」「そして、未来につなげよう(未来への継承)」の三つを基本コンセプトとして開催されるものであり、大会のうち第32回オリンピック競技大会については32年7月24日から8月9日までの間に33競技を実施し、第16回パラリンピック競技大会については同年8月25日から9月6日までの間に22競技を実施する予定となっている。
25年9月に、IOC、東京都及び公益財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)の3者により開催都市契約が締結されて、IOCから東京都及びJOCに大会の計画、組織、資金調達及び運営が委任された。そして、開催都市契約に基づき、26年1月に一般財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(27年1月1日以降は公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会。以下「大会組織委員会」という。)が東京都及びJOCの拠出により設立され、26年8月に開催都市契約の当事者に追加された。
大会組織委員会はIOCが定めた条件等に基づき大会の準備及び運営を行う主体であり、東京都及びJOCは、開催都市契約の国内当事者の一員としての立場から、大会組織委員会が行う大会の準備及び運営を支援している。
国においては、大会が大規模かつ国家的に特に重要なスポーツの競技会であることに鑑み、大会の円滑な準備及び運営を支援するために、25年9月に東京オリンピック・パラリンピック担当大臣(27年6月以降は東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣。以下「オリパラ担当大臣」という。)が任命されるとともに、25年10月に内閣官房2020年オリンピック・パラリンピック東京大会推進室が設置された。そして、27年6月には、平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法(平成27年法律第33号。以下「オリパラ特措法」という。)が成立して施行され、オリパラ特措法に基づき、内閣に、東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部(以下「オリパラ推進本部」という。)が設置された。また、オリパラ特措法に基づき、27年11月に「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」(以下「オリパラ基本方針」という。)が閣議決定された。オリパラ基本方針は、大会の円滑な準備及び運営の推進の意義に関する事項、大会の円滑な準備及び運営の推進のために政府が実施すべき施策に関する基本的な方針等を定めたものである。オリパラ推進本部に係る事務については「内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局」(以下「オリパラ事務局」という。)が処理することとされている。
各府省等は、大会に関連して講ずべき施策(以下「大会の関連施策」という。)について、オリパラ基本方針に基づき、立案と実行に取り組むこととなっている。
なお、大会の開催に向けた取組はセキュリティや輸送等の幅広い分野に関わるため、大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会を中心として、各分野に関係する機関の間で情報共有を図るなどして相互に連携し、実施すべき内容等について調整を図りながら、各機関が取組内容を決定して実施することとなっている。
東京都は、23年7月に大会の招致を表明し、同年9月に特定非営利活動法人東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会(以下「招致委員会」という。26年3月解散)を設立した。国においては、大会の招致について、「平成32年(2020年)第32回オリンピック競技大会・第16回パラリンピック競技大会の東京招致について」(平成23年12月閣議了解)により、国際親善、スポーツの振興等に大きな意義を有するものであり、また、東日本大震災からの復興を示すものともなるとして東京都が招請することを了解するとともに、内閣総理大臣、衆議院議長及び参議院議長が最高顧問として、各国務大臣が特別顧問として、それぞれ招致委員会の評議会に参画するなど、国の機関を挙げて支援する体制を構築した。
24年5月には、立候補都市としてIOCから東京、イスタンブール及びマドリードの3都市が選定されて、東京都及び招致委員会は、25年1月に、詳細な大会計画である立候補ファイルをIOCへ提出した。立候補ファイルは、ビジョン、財政等の14のテーマについて、IOCからの質問状に回答する形で作成されるものであり、東京都及び招致委員会が各府省等の関係機関と調整し、提出したものである。立候補ファイルの提出に当たっては、IOCの要請として財政、政府関連業務等に係る政府保証書の提出を求められ、各府省等はこれらについて内閣総理大臣名又は各国務大臣名で招致委員会を経由してIOCへ提出した。
立候補ファイルによれば、財政及び政府関連業務に関して政府が保証した主な内容は、①万が一、大会組織委員会が資金不足に陥った場合は、東京都が補填し、東京都が補填しきれなかった場合には、最終的に、政府が国内の関係法令に従い補填すること、②政府及び東京都は、パラリンピック競技大会の運営費用の50%を支援すること、③政府及び東京都は、大会組織委員会の費用負担なしに、大会に関係するセキュリティ、医療、通関、出入国管理その他の政府関連業務を提供することとされている。そして、25年9月のIOC総会による最終プレゼンテーションを経て、東京が開催都市に決定した。
大会の開催に要する経費(以下「大会経費」という。)の29年度末時点での最新の試算は、29年12月に大会組織委員会が公表した大会経費V2(バージョン2。以下「V2予算」という。)であり、大会経費の総額は1兆3500億円となっている。そして、大会組織委員会がIOCからの負担金やスポンサーからの協賛金、チケットの売上金等を原資として6000億円を負担し、東京都及び国がそれぞれの役割に応じて計7500億円を負担すると試算している。この1兆3500億円の内訳をみると、恒久施設等の大会に必要な施設(以下「大会施設」という。)に係る経費として計8100億円、大会開催時の輸送対策、セキュリティ対策等に係る経費として計5400億円となっている。このうち、国の負担となっているのは、新国立競技場の整備に係る経費のうち1200億円と、パラリンピック競技大会の施設及び運営に必要な経費(以下「パラリンピック経費」という。)1200億円のうち300億円の計1500億円である。
大会経費の試算は、まず、立候補ファイルの提出時に東京都及び招致委員会により行われた。この試算は、IOCが示した基準に基づき、東京都及び招致委員会がIOCや専門家等にヒアリングをした上で行われたものであり、対象とする経費が他の立候補都市と比較可能となるように設定されているなど、V2予算における試算対象とは異なっている。その後、大会組織委員会は、一定の仮定を置き、大会開催に必要な支出項目を分野ごとに分けて、立候補ファイルに計上していない経費も含めた全体像を明らかにするために、IOC等の助言の下、28年12月に大会経費V1(バージョン1。以下「V1予算」という。)を公表した。ただし、公表時点では当該経費の分担が決定していなかったため、その後、東京都を中心として、国、東京都外の競技会場が所在する地方自治体(以下「都外自治体」という。)等の関係者が協議を進めていくこととなった。そして、29年5月に「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の役割(経費)分担に関する基本的な方向について」(以下「大枠の合意」という。)により、東京都、大会組織委員会、国及び都外自治体の役割分担及び経費分担に関して、基本的な方向性を定めた。国は、オリパラ基本方針等に基づき大会の関連施策を実施することを基本的な役割として、新国立競技場の整備の実施及びパラリンピック経費の4分の1相当額の負担のほか、国として担うべきセキュリティ対策やドーピング対策等を実施することとなっている。
大枠の合意に基づき国が資金の一部を負担することとなっているパラリンピック経費は、大会組織委員会が大会の準備のために東京都、国等と分担して経費を負担して実施する事業(以下「共同実施事業」という。)に要する経費の一部である。国は、大枠の合意に基づくパラリンピック経費の4分の1相当額の負担のために、平成29年度一般会計補正予算において障害者スポーツ行政を所掌する文部科学省所管の予算として「東京パラリンピック競技大会開催準備交付金」(以下「パラリンピック交付金」という。)を300億円計上して、30年3月に東京都へ同額を交付している。東京都は、文部科学省からパラリンピック交付金300億円の交付を受けて、既に設置造成している東京オリンピック・パラリンピック開催準備基金に積み立てて自らの資金と区分して経理している。そして、東京都は、同月に大会組織委員会から交付申請書等の提出を受けるとともに、文部科学省、オリパラ事務局、東京都及び大会組織委員会の関係者で構成する共同実施事業管理委員会による確認を受けて、同年5月に、パラリンピック交付金相当額1億8253万余円を含む29年度の全ての共同実施事業に係る負担金として49億3412万余円(うちパラリンピック経費に係る国と東京都の負担金3億6506万余円)を大会組織委員会へ交付している。
IOCから設置を求められている大会施設は、立候補ファイル、開催都市契約等によると、競技会場のほか、選手村、国際放送センター等となっている。競技会場等として予定している主な大会施設は、29年度末時点で45か所であり、所在する地方自治体は9都道県の24市区町と広域にわたっている。
大会施設の整備には、主に、新規の恒久施設の建設(以下「新規整備」という。)、既存の恒久施設の改修(以下「改修整備」という。)、IOCが求める施設水準に必要な建物、外構、セキュリティフェンス、電源等の設備を仮設施設として使用して大会終了後は撤去するものの整備(以下「仮設整備」という。)及び運営上必要となるプレハブ、テント、放送用の照明等(以下「オーバーレイ」という。)で大会終了後は撤去するものの整備があり、これらを組み合わせて行うこととなっている。
主な大会施設45か所のうち、29年度末時点で国又は国が出資した法人が所有し、かつ整備を行う大会施設は、独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「JSC」という。)が所有する新国立競技場及び国立代々木競技場並びに日本中央競馬会(以下「JRA」という。)が所有する馬事公苑(えん)の3か所である。東京都等の施設の所有者は、各機関が単独で負担する費用や、国からの交付金等を財源として大会施設の新規整備又は改修整備を実施している。大会組織委員会は、自らの収入及び東京都から交付された負担金を財源として大会施設の仮設整備を実施し、また、自らの収入を財源としてオーバーレイの整備を実施している。そして、大会開催時は、大会組織委員会が各施設の所有者と利用条件等を協議の上、会場使用協定を締結するなどして利用することとなっている。また、オリパラ特措法等によれば、国は、大会組織委員会又は当該施設を設置する者に対して、大会組織委員会が大会の準備又は運営のために使用する競技施設等の用に供される国有財産を無償で使用させることができることとされており、大会組織委員会又は当該施設の設置者からの申請に基づき、国有財産を無償で使用させることとしている。
各府省等が実施する大会の関連施策は、オリパラ基本方針に基づき実施する大会の円滑な準備及び運営に関する施策であり、オリパラ基本方針によれば、主に「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策と「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策の2種類に区分されている。「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策は、セキュリティの万全と安全安心の確保等の8分野に係るものとなっており、大会の円滑な準備及び運営に資するセキュリティ対策、輸送対策等の国が担うべき施策を実施することで、大会組織委員会が主体となって行う大会の準備及び運営を支援するものである。また、「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策は、被災地の復興・地域活性化等の7分野に係るものとなっており、直接大会の準備及び運営に資するものではないが、大会の開催を契機として、大会終了後に残すべきレガシー(注)の創出を意識して国として取り組むものである。
オリパラ推進本部は、オリパラ特措法に基づき、大会の関連施策の取組状況について、29年5月及び30年5月に「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営の推進に関する政府の取組の状況に関する報告」(以下「政府の取組状況報告」という。)として取りまとめて、国会へ報告し、公表している。政府の取組状況報告は、大会が終了するまでの間、おおむね1年に1回、国会へ報告するとともに公表することとなっており、オリパラ推進本部が上記の15分野を更に大会の関連施策の実施内容により整理した区分ごとに、前年度までの主な取組内容、当該年度の主な取組内容、今後の主な取組内容等が記載されている。
29年5月に公表された政府の取組状況報告によれば、各府省等が実施する大会の関連施策は、その取組内容により15分野の70施策に整理されており、「大会の円滑な準備及び運営」に資するものとして8分野の45施策と、「大会を通じた新しい日本の創造」に資するものとして7分野の25施策とされている。また、29年度までに14府省等が70施策に係る事業(14府省等が大会の関連施策として整理した事業を運営費交付金、政府出資金及び自己収入を財源として10独立行政法人が実施する事業を含む。)を実施している。
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会関係予算(以下「オリパラ関係予算」という。)は、各府省等が実施する大会の関連施策のうち、特に大会の運営及び準備に関係する内容について、オリパラ基本方針が作成された後の平成28年度当初予算から、事業の効果や費用の管理等について他の施策と区分することで各府省等においてオリパラ基本方針に基づく施策の実効性を担保して、その進行管理に資するよう、オリパラ事務局が取りまとめているものである。オリパラ関係予算として整理する際の要件は①大会の運営又は大会の開催機運の醸成や成功に直接資すること及び②大会招致を前提に、新たに又は追加的に講ずる施策であること(実質的な施策の変更・追加を伴うものであり、単なる看板の掛け替えは認めない。)の二点であり、各府省等はいずれの要件も満たしている大会の関連施策をオリパラ関係予算として整理している。
28年度から30年度までのオリパラ関係予算は、8府省等が計41事業に係る計1127億4100万円と整理しており、28年度の予算額は329億3700万円、29年度の予算額は517億5100万円、30年度の当初予算額は280億5300万円となっている。
開催都市である東京都(大会施設が所在する11市区を含む。)、都外自治体である8道県及び13市町の中には、29年度までに各地方自治体の総合計画等に基づき、大会施設の整備等の大会の運営及び準備に資する施策や、観光振興等の大会の開催を契機とした施策について、自らが取り組むべき大会の関連施策として設定して実施している地方自治体もある。そして、東京都(同11市区を含む。)及び都外自治体が実施する大会の関連施策の財源は、各地方自治体の自己財源、国庫補助金、当せん金付証票法(昭和23年法律第144号)に基づき発売する大会協賛宝くじの収益金の一部等となっている。
本院は、大会に向けた取組状況等に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査を行った。
(ア) 国は、大会の開催に向けて、大会の準備及び運営を行う主体である大会組織委員会、開催都市である東京都等とどのように情報共有を図るなどして相互に連携して、取組内容等の調整を図っているか。
(イ) 国が既にその一部を負担している経費や今後負担することとなる経費が含まれている大会経費の試算の内容はどのようになっているか。
(ウ) 新国立競技場等の大会施設の整備状況等はどのようになっているか。特に、新国立競技場の整備に係る財源の確保、大会終了後の活用方法の検討等は適切に行われているか。
(ア) 各府省等が実施する大会の関連施策の実施体制及び実施状況はどのようになっているか。また、実施内容は大会の円滑な準備及び運営並びに大会終了後に残すべきレガシーの創出に資するものとなっているか。
(イ) 各府省等が実施する大会の関連施策以外に、東京都等が実施する大会の関連施策等に対する各府省等の支援状況はどのようになっているか。
本院は、大会の開催に向けた取組等の状況として、25年度から29年度までに各府省等、JSC及びJRAが実施した大会施設の整備状況等について検査するとともに、東京都、大会組織委員会及び都外自治体が国庫補助金等を活用するなどして実施した大会施設の整備状況等について検査した。また、各府省等が実施する大会の関連施策等の状況として、25年度から29年度までに14府省等が実施した大会の関連施策等に係る事業の実施状況等について検査した。
検査に当たっては、14府省等の本省、外局及び地方支分部局、9独立行政法人、JRA、18都道府県、同都道府県の92市区町村、大会組織委員会及び14府省等の国庫補助金等交付先又は委託先である23法人において会計実地検査を行い、調書及び関係資料を徴したり、担当者等から説明を聴取したりなどした。また、公表されている資料等を基に調査分析を行った。なお、国庫補助金等の交付を受けずに実施されているなどの本院の検査権限が及ばない都道府県等が行う取組等については、協力が得られた範囲で説明を受けるなどして調査を行った。
大会組織委員会、東京都、国、JOC及び公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会(以下「JPC」という。)は、26年1月に「東京オリンピック・パラリンピック調整会議」を設置して大会組織委員会会長、東京都知事、文部科学大臣、オリパラ担当大臣、JOC会長及びJPC会長の6者により、大会の準備及び運営における特に重要な事項について調整を図ることとしており、25年度から29年度までに計14回開催されている。そして、IOCは、オリンピック憲章等に基づき、大会組織委員会による開催準備の進展について、関係機関との協力関係を含めて、監視して指導するために、IOCの代表等で構成する調整委員会を設置して、定期的に大会の計画、組織、資金調達及び運営に関する決定、活動及び進捗状況の確認を行うこととしており、同委員会は、26年度から29年度までに、26年6月、27年6月、28年12月、29年6月、同年12月の計5回確認を行っている。
大会開催時の大会関係者及び観客の輸送については、輸送計画案の内容を調整する「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議」等により検討及び調整が行われている。輸送関係者による具体的な輸送計画案の策定に当たっての意見調整が行われているのは同会議においてであり、29年度末までに計4回開催されている。東京圏(東京都、埼玉、千葉両県及び横浜市)の輸送計画案については、大会組織委員会及び東京都により29年6月に「輸送運営計画V1」が策定されて継続して検討が進められており、同年12月から30年1月までにかけて競技会場が所在する北海道、宮城、福島、茨城、神奈川、静岡各県でも検討が開始されている。
大会の開催に向けて、東京都、都外自治体、大会組織委員会及び国が相互に緊密に連携しながら準備を進めていくために、27年11月にオリパラ担当大臣、東京都知事、都外自治体のうち道県の知事、政令指定都市の市長及び大会組織委員会会長を構成員とする「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた関係自治体等連絡協議会」が設置され、各関係機関の実務担当者等の間での協議を通じて、大枠の合意に基づき各関係機関が担う業務内容の具体化について検討が行われている。
立候補ファイル、V1予算及びV2予算のそれぞれにおける大会経費の試算額の変遷を示すと、25年1月提出の立候補ファイルにおける試算額は8299億円、28年12月のV1予算における試算額は1兆5000億円、29年12月のV2予算における試算額は1兆3500億円となっている。立候補ファイルにおける試算は、東京都及び招致委員会がIOCから示された基準に基づき、IOCや専門家等にヒアリングを行った上で行われたもので、他の立候補都市と比較可能なようにIOCにより計上対象とする経費が設定されているため、施設整備については施設本体の工事費のみを計上して設計費用が計上されていなかったり、仮設施設及びオーバーレイに係る原状復旧費用が計上されていなかったり、輸送やセキュリティ等の大会の運営に要する経費が一部しか計上されていなかったりなどしており、大会経費の全体を試算したものとはなっていない。
V2予算における試算の主体である大会組織委員会は、対象とする経費の基準について公表していない。大枠の合意の当事者である東京都によると、その基本的な考え方として、①専ら大会のために行われる大会に直接必要となる業務に係る経費と②大会にも資するが大会終了後も活用されてレガシーとして残る新規整備に係る経費との両方を大会経費として整理しているとしている。また、本来の行政業務に延長し、上乗せして行う業務及び大会開催の有無にかかわらず行う本来の行政業務に要する経費(以下「行政経費」という。)は試算の対象とはしていないとしている。
本院が会計実地検査により把握した大会施設の整備等の大会の開催に関連して行われることが想定される主要な業務について、V2予算における試算の対象業務と対象外業務の別に示すと、V2予算における試算対象は、大会組織委員会が負担して実施する全ての業務、東京都及び国(JSCを含む。)が負担する所有施設の新規整備及びパラリンピック経費等の共同実施事業となっている。一方、国及び都外自治体が行う所有施設の改修整備や、大枠の合意に基づき国及び都外自治体が担うこととなっている業務の経費は、行政経費であるとして試算の対象となっていない。また、民間団体が所有する施設の改修整備等の民間団体に係る業務は全て試算の対象外となっている。これらのとおり、V2予算は、大会の開催に関連して行われる全ての業務に係る経費を示すものではない。
試算の対象外となっている業務のうち、大枠の合意において国が担うこととなっているセキュリティ対策及びドーピング対策について29年度までに各府省等が実施した内容をみると、大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会を対象とするものとして、大会の適切な運営に向けて、総務省が大会組織委員会職員及び大会組織委員会のシステムに関連する事業者を対象に大会開催時を想定した模擬環境で行うサイバーセキュリティに係る攻撃・防御双方の実践的な演習(サイバーコロッセオ。本事業に係る29年度の支出額5743万余円)がある。本事業は、大会の関連施策として整理されているものの、オリパラ関係予算としては整理されていない。
国が29年度末時点で大会に関連して行う業務に要する経費の規模を公表しているのは、所定の要件を満たすとして各府省等が整理し、オリパラ事務局へ回答したオリパラ関係予算のみであり、オリパラ関係予算として整理されていないが、大会組織委員会を対象とするなどの大会との関連性が強いと思料される業務に要する経費の規模は公表していない。また、大会の開催に向けて準備が必要な各分野に係る国等が担うべき具体的な業務の内容については、大会組織委員会を中心とした関係機関の間で検討が進められているところであるが、分野ごとに国がどのような内容の業務を担い、その経費の規模がどの程度かについては、オリパラ関係予算として整理されている業務を含めて、29年度末時点では整理されていない。
国立霞ヶ丘競技場陸上競技場は、政府において建替えの検討が進められ、新国立競技場の新規整備を行うこととなった。そして、当初の整備計画(以下「旧整備計画」という。)については27年7月に内閣総理大臣から白紙化とゼロベースでの見直しが指示されるとともに、同月にオリパラ担当大臣を議長とする新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議が設置されて、同年8月に新国立競技場の整備計画(以下「新整備計画」という。)が決定された。その後、JSCは、新整備計画に基づき、新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体(以下「JV」という。)との間で、設計業務(基本設計及び実施設計)及び工事施工等業務(施工技術検討)の各業務については28年1月に契約金額24億9127万余円で、また、設計業務(設計意図伝達)、工事施工等業務(工事施工)及び工事監理業務の各業務(以下「第II期業務」という。)については、28年10月に契約金額1504億9449万円でそれぞれ契約を締結している。
第II期業務の29年度までの整備の進捗状況は、JSCによれば、31年11月末の完成に向けて、工期に支障なく進捗しているとされており、29年度中に地上躯体工事を完了し、屋根工事、内装仕上工事等を開始している。
JSCが行う新国立競技場の整備に係る経費には、新整備計画において対象となっているスタジアム本体及び周辺整備費と設計・監理等費用に加えて、旧競技場の解体工事費、埋蔵文化財調査費、計画用地内に所在する日本青年館・JSC本部棟移転経費、通信・セキュリティ関連機器や什(じゅう)器等の費用、旧整備計画関係費等があり、25年度から29年度までの支払額は計738億余円となっている。
第II期業務における事業費の確認体制についてみると、JVは施工時の検討等に伴い設計内容に変更が生ずる場合には、事業費を遵守するために、変更による金額の増減に合わせて他の変更可能な内容を検討し、JSCはJVから変更理由、変更概算額等について説明を受けて、要求水準等に影響がないこと及び適切に事業費が遵守されていることの確認を日々事業者と行う定例会議において行うとともに、必要に応じて外部有識者で構成するアドバイザリー会議に報告して確認を受けることとなっている。また、変更内容を契約に適切に反映するために、定期的に変更契約を締結しており、29年度までは契約金額の増はない。
JSCは、新国立競技場の整備のうち、Wi―Fi設備、監視カメラ、入場ゲート等の通信・セキュリティ関連機器や什器等の整備を行うこととしている。通信・セキュリティ関連機器に係る29年度までの契約金額は計27億2715万余円となっている(29年度までの支払はない。)。また、什器・備品の調達については、30年度以降に手続を開始することとなっている。
27年7月に、内閣総理大臣から旧整備計画の白紙化とゼロベースでの見直しが指示されたことから、JSCは、25年以降締結した旧整備計画の設計、工事、監理等に係る21契約のうち、白紙化以前に履行を完了していた13契約を除く8契約について、白紙化後すぐに契約相手方に業務の中止を伝達するとともに、通告を行って契約を解除した。そして、契約に向けて交渉を行っていた相手方から、契約不成立により契約準備段階において発生した見積費用等の損害等に係る請求が3件行われている。
旧整備計画に係る25年度から28年度までの支払の内容についてみると、白紙化以前に履行が完了していた13契約に係る支払額が29億3988万余円、契約を解除した8契約に係る精算に伴う支払額が34億9416万余円、契約不成立による契約準備段階の損害に係る請求3件の支払額が4億2526万余円の計68億5930万余円となっている。また、これらのうち運営費交付金を財源とするものが13億8735万余円、政府出資金を財源とするものが17億0248万円となっている。
27年12月に新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議において決定した整備に係る財源、分担対象経費、分担割合等の内容(以下「財源スキーム」という。)に基づく国、東京都等の分担内容についてみると、スタジアム本体・周辺整備に係る工事及び設計・監理等に要する見込額計1590億円と旧競技場の解体工事に係る支出額又は支出見込みの額計55億円の合計1645億円から、JSCが実施して負担する上下水道工事に要する見込額27億円及びJSCが実施し東京都へ引き渡して東京都が負担する道路上空連結デッキ整備に要する見込額37億円を除く1581億円を分担対象経費として、国はその2分の1相当額である791億円を負担し、東京都は4分の1相当額である395億円を負担して、残りの395億円については、JSCが実施するスポーツ振興投票において発売するスポーツ振興投票券(以下「スポーツ振興くじ」という。)の売上金額の一部を財源として充てることとなっている。
新国立競技場の整備費用にスポーツ振興くじの売上金額の一部を財源として充てる制度は、独立行政法人日本スポーツ振興センター法(平成14年法律第162号。以下「JSC法」という。)等の改正により25年度に設けられており、スポーツ振興くじの売上金額の5%(28年度から35年度までは10%)を超えない範囲内で文部科学大臣が財務大臣と協議して定める金額(以下「特定金額」という。)を国際的な規模のスポーツの競技会の我が国への招致又はその開催が円滑になされるようにするために行うスポーツ施設の整備等であって緊急に行う必要があるものとして文部科学大臣が財務大臣と協議して定める業務(以下「特定業務」という。)に必要な費用に充てることとなっている。そして特定金額は、スポーツ振興くじの売上金額の5%(28年度から35年度までは10%)となっており、特定業務は、新国立競技場の整備等に必要な業務等となっている。また、特定業務に係る経理については、特別の勘定(以下「特定業務勘定」という。)を設けて整理することとなっている。
財源スキームに基づく国の負担額791億円のうち、文部科学省からJSCへ交付されて、特定業務勘定で受け入れた運営費交付金及び政府出資金の計359億円を除く432億円は、特定金額としてスポーツ振興くじの売上金額の一部を特定業務の財源に充てることに伴い、スポーツ振興投票の収益が減少し、毎事業年度の国庫納付金の額が減少することから、国庫納付金の額の減少額の見合いとして国の負担額に含めて整理して、実際には特定金額を財源として充てることとなっている。このため、JSCの特定金額による負担は827億円(分担対象経費1581億円の52.3%)と財源スキーム上の分担対象経費の半分以上は特定金額による負担に依存する形となっている。
財源スキームに基づき、29年度までの契約金額、支払額及び負担者別の負担状況を示すと、全体の1645億円に対して契約金額は計1632億余円、支払額は計473億余円となっている。全体の支払額に対する運営費交付金及び政府出資金の負担額は29年度末時点で331億余円(473億余円の69.9%)となっている。分担対象経費に係る東京都の負担見込額395億円については、29年度末時点で協定書等は締結されておらず、東京都からの支払も行われていない。JSC法によれば、費用の額及び負担の方法はJSCと東京都が協議して定めることとされており、また、支払等の期限は定められていない。JSC及び東京都によると、今後JSC法に基づいて協議を進めて支払うこととしているが、29年度末時点でJSCへの入金時期や入金方法等は未定となっている。
25年度から29年度までのJSCの特定業務勘定の決算の状況を示すと、収入は計1174億余円となっていて、このうち運営費交付金及び政府出資金の計517億余円が文部科学省から交付されたものとなっている。特定金額は、28年度は111億余円、29年度は108億余円となっている。支出をみると、新国立競技場の整備等に係る25年度から29年度までの支出額は計1174億余円(うち運営費交付金205億余円、政府出資金295億余円)となっている。また、29年度に特定業務勘定から国立代々木競技場の耐震改修等工事に必要な費用として7296万余円、ナショナルトレーニングセンター(以下「NTC」という。)の拡充整備のための用地取得等に係る費用として46億余円が支出されている。JSCは、29年度中に支払のための資金が不足したことから、JSCに設けられている投票勘定から特定業務勘定へ短期貸付けとして50億1000万円の資金を融通しており、29年度の決算に当たり投票勘定へ返済するために民間金融機関から同額の融資を受けている。なお、当該民間金融機関からの融資については30年4月に返済して、再度、同月に投票勘定から資金を融通している。JSCによると、今後も継続して投票勘定から資金の融通を受ける予定であるとしている。
JSCによると、特定業務勘定の30年度以降の収支の見通しは、32年度までの毎年度、特定金額として110億円程度の収入があり、かつ、新国立競技場がしゅん工する31年度に東京都から分担対象経費の負担額と道路上空連結デッキの整備費用の残額の計431億余円が支払われると仮定した場合でも、第Ⅱ期業務、通信・セキュリティ関連機器整備、国立代々木競技場の耐震改修等工事等に係る契約相手方への支払のために、30、31両年度で資金が794億円程度不足することが見込まれている。JSCは、更なる他の勘定からの資金の融通は難しいことから、文部科学大臣の認可を得て30年4月に311億円を民間金融機関から長期借入金として借り入れており、また、480億円程度を30、31両年度で借り入れる予定としている。既に借り入れていた311億円については35年度までに返済することとしているが、今後借り入れる予定の借入額については、特定金額が36年度以降はスポーツ振興くじの売上金額の5%に戻ることもあり、その返済期間は長期にわたることが見込まれる。この収支の見通しは29年度末現在のものであり、財源について想定どおり特定金額として収入があるかは不明である。また、東京都からの支払が想定どおり31年度中に行われるかは29年度末時点では決定していない。支出についても、30年度以降の収支見通しに含まれていない経費として、少なくとも31年度にしゅん工する予定のNTCの拡充整備について、特定業務とされている外構整備等に係る支出が見込まれている。
文部科学省に設置されたワーキングチームが策定した「大会後の運営管理に関する基本的考え方」(以下「基本的考え方」という。)によれば、大会終了後に国際サッカー連盟ワールドカップ規定(8万席)並びにワールドラグビー競技規則に対応し得る臨場感ある球技専用スタジアムに改修すること、民間事業者のノウハウと創意工夫を活用してボックス席の設置等のホスピタリティ機能を充実する改修を行うことを運営管理の方向性として、31年年央を目途に民間事業化の事業スキームを構築して、公募を経て32年秋頃を目途に優先交渉権者を選定すること、大会終了後に改修を行い、34年後半以降の供用開始を目指すことなどとなっている。JSCは、基本的考え方に基づき、29年度中に民間事業化の価値向上を図るための改修計画案の検討等を開始しており、今後、JSCの調査結果を基に、文部科学省が上記のワーキングチームにおいて事業スキームを検討し、構築することとなっているが、29年度末時点では改修に係る財源や期間及び必要となる業務の規模の方向性については定まっていない。また、JSCの29年度末時点の調査結果によると、基本的考え方において取りまとめられたスケジュールを基本とした上で、優先交渉権者の公募に際しては、新国立競技場の図面等を示した募集要項等を公表して民間事業者を募る必要があるが、セキュリティ面の問題から公表は大会終了後の32年10月頃とし、募集要項等の公表前には民間事業者との複数回の意見交換の機会を設けるスケジュールとして、募集要項等の公表から事業者の選定までの期間も精査することが必要であるとされている。そして、新国立競技場の完成後は、施設の規模に相応の維持管理費(点検・清掃費用等の保全コスト及びエネルギー費用の運用コスト)が毎年度必要とされ、民間事業化までの期間は所有者であるJSCの負担が生ずることが想定される。
政府の取組状況報告には、各府省等が実施する大会の関連施策に係る予算額等は記載されておらず、事業名についてもごく一部のものを除き記載されていない。このため、29年5月に公表された政府の取組状況報告に記載された取組内容に該当する事業及び25年度から29年度までの支出額について、本院が各府省等に調書の提出を求めて、その内容をオリパラ基本方針等に基づく15分野の70施策の別に区分して集計したところ、14府省等において「大会の円滑な準備及び運営」に資する8分野の45施策に係る148事業、「大会を通じた新しい日本の創造」に資する7分野の25施策に係る136事業及び両方にまたがる取組内容であり区分が困難な2事業の計286事業が実施されている。そして、それらに係る支出額は計8011億余円(事業ごとの支出額を算出することが困難な事業又は公表できない事業に係る支出額を除く。以下同じ。)となっている。
オリパラ関係予算の決算額については各府省等において取りまとめられていないことから、本院が各府省等に対して28、29両年度のオリパラ関係予算の執行状況について調書の提出を求めて、その内容を集計した結果、32事業に係るオリパラ事務局への登録額846億余円に対して、支出額は788億余円となっている。
経済産業省の燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金を活用して運用されている商用の水素ステーションの設備のうち、事業主体が策定する事業計画において年間水素充填量を計画値として設定している設備(28年度は67設備、29年度は70設備)について、当該計画充填量と充填量の実績を比較すると、計画充填量を達成しているのは28年度において2設備、29年度において3設備のみであり、両年度共に6割を超える設備において計画充填量に対する充填量の実績の割合が25%未満となっている。
29年度末現在、環境省の二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金を活用するなどして稼働している再生可能エネルギー由来の水素ステーションは22か所であり、32年度までの目標設置箇所数100か所に対する達成率は22.0%となっている。本補助事業で導入された水素ステーションによる二酸化炭素排出量の削減状況をみると、28、29両年度において二酸化炭素排出削減量の目標値を達成しているのは、それぞれ1設備、2設備となっており、目標値に対する実績の割合が50%未満にとどまっている設備が大半を占めていた。
国土交通省は、大会組織委員会による競技コースの決定後に路面温度上昇抑制機能を有する舗装の具体的な整備箇所を検討するとしているが、29年度末現在、大会組織委員会において競技コースが決定されていないため、整備を実施していないとしている。
文部科学省が委託契約により実施する25年度から29年度までの競技用具の機能を向上させる技術等の研究開発の実施状況についてみると、開発途中で中止となっていたものは、25年度2件(中止までの累積開発費計2602万余円)、26年度2件(同計1632万余円)、27年度4件(同計4422万余円)、28年度4件(同計6124万余円)、29年度1件(同1379万余円)であり、同省等は、中止の理由について、研究開発対象競技等の見直しにより開発途中で研究開発の対象外となったこと、市販品が販売されて開発の必要がなくなったことなどによるとしている。
リオデジャネイロで開催された第31回オリンピック競技大会及び第15回パラリンピック競技大会(以下「リオ大会」という。)に向けた夏季競技用の研究開発課題81件のうち、リオ大会前に活用されなかったものは、オリンピック競技で計15件(累積開発費計6億2288万余円)、パラリンピック競技で計2件(同計2037万余円)となっていた。
同省及び受託者における評価の状況をみると、25年度から28年度までに終了した研究開発課題の終了時の外部評価等については、リオ大会等に向けた各種のアスリートサポートの効果等を総括した報告書の中で、研究開発についての概括的な評価が行われているものの、個々の研究開発課題についての評価は行われていなかった。
文部科学省は、ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設活用事業を委託して実施しており、同事業の受託者が所要の手続を行った場合には、同事業の実施により設備備品費で取得した機器等は、事業完了後の年度においても国から無償で借り受けて、競技団体が行う強化活動に活用することができることとなっている。そこで、10施設の事業完了後の年度における活用状況についてみたところ、1施設において、委託事業完了後に国から無償貸付を受けた機器が活用されていない事態が見受けられた。
文部科学省は、ドーピング防止活動推進事業として毎年度公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構等と委託契約を締結して、競技者等への研修、ドーピング検査員の人材育成、ドーピング検査技術の研究開発等を実施している。このうち、ドーピング検査員の人材育成について、25年度から29年度までのドーピング検査員の認定を受けている者の人数の推移をみると、29年度は269名となっており、毎年度減少している。大会に向けて、29年度末時点では大幅に不足している状況である。
オリンピック・パラリンピックに関する歴史、競技種目、精神、意義等の知識等を学ぶオリンピック・パラリンピック教育(以下「オリパラ教育」という。)の実施形態としては、文部科学省が実施するオリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開事業及び大会組織委員会が実施する東京2020教育プログラム以外に、各地方自治体が独自にオリパラ教育を推進する事業を実施している場合がある。東京都を除く46道府県及び20政令指定都市(計66自治体)の公立学校における29年度のオリパラ教育の実施状況をみると、47自治体(66自治体の71.2%。うち都外自治体は12自治体)が実施しており、このうち22自治体は文部科学省の事業によりオリパラ教育を実施している。一方、19自治体(同28.7%。都外自治体はなし)はオリパラ教育を全く実施していない。このように、都外自治体では29年度までにオリパラ教育が実施されているものの、全国でみると実施していない地方自治体が一定程度ある状況となっている。
事前合宿の誘致等を通じて大会参加国・地域との人的・経済的・文化的な相互交流を図る地方自治体であるホストタウン等として、オリパラ事務局によって第1次から第5次までに登録されている団体のうち、28年度分の年度事業調に記載されている111団体の386事業、29年度分の年度事業調に記載されている220団体の692事業について、事業の実施状況をみると、28年度については43団体の80事業(事業費4503万余円)、29年度については56団体の88事業(事業費8289万余円)が全く実施されていない状況となっていた。
国土交通省が28年度から交付している訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業費補助金、訪日外国人旅行者受入基盤整備事業費補助金及び訪日外国人旅行者受入加速化事業費補助金による補助事業は、宿泊施設インバウンド対応支援事業を除き、いずれも交付要綱等において、事業実施後に事業評価を実施することとなっている。しかし、28年度の3補助金による補助事業に係る事業評価についてみたところ、29年度末時点で、東北運輸局において、二次評価案の作成以降の事業評価プロセスが実施されていなかったり、6地方運輸局において、事業評価の結果が期限までに本省等に提出されていなかったりしていて、事業評価の結果を踏まえた事業内容等の改善策の検討や、交付翌年度の事業実施計画の見直しなどを行うことができず、PDCAサイクルを適切に機能させることができていない状況となっていた。
また、独立行政法人国際観光振興機構は、訪日プロモーション事業の成果の管理に当たり、観光庁の「Visit Japan成果確認システム」に接続して評価を実施することとしているが、事業の評価を実施していなかったり、事業実施前に目標値を設定したのか確認できなかったりしたものが見受けられた。
農林水産省は、大会を契機として日本ならではの伝統的な生活体験と農山漁村地域の人々との交流を楽しむ農山漁村滞在型旅行(以下「農泊」という。)をビジネスとして実施できる体制を持った地域(以下「農泊地域」という。)を32年までに500地域創出する政策目標を達成するために、29年度から農山漁村振興交付金の交付対象事業として「農泊推進対策」及び「農泊推進関連対策」を創設している。同省によると、農泊地域の創出に当たっては、地域ぐるみで農泊をビジネスとして実施できる体制を整備する必要があるとしており、両事業において、これに資するよう、それぞれの事業目標を設定させているが、各取組の事業目標値の達成が農泊地域の創出に結び付くものなのか明らかでないため、この確認だけでは政策目標の達成見込みを把握できるようなものにはなっていないと認められる。また、同省によると、両事業は、29年度末時点では、目標年度に到達していないため、事業目標の達成状況を踏まえるなどした上で農泊地域の創出見込みを把握することができないとしている。しかし、農泊の推進に当たっては、地域ぐるみの取組が必要であるとされているのに、農泊推進関連対策については、農泊を地域ぐるみで推進することを事業採択の要件としていなかったため、地域ぐるみの推進組織である地域協議会等が存在していない事態も見受けられた。
国の職員の大会組織委員会への派遣等の実績は、25年度から29年度までに、10府省等から55名となっている。派遣等された職員に係る給与の国の負担状況をみると、オリパラ特措法成立後、55名のうち24名に係る俸給等はその大部分を各府省等が負担しており、27年度から29年度までの負担額は計2億4179万余円となっている。また、JSCによる大会組織委員会への財政支援の状況をみると、JSCは26年度から29年度までに計20億3168万余円(うち派遣等された国の職員の俸給等に係る助成額は計3億8205万余円)を助成し、国の職員を含む専門的知見等を有する人材の配置、専門的な分野に係る外部からの業務支援、国外での大会のPR活動等に要する経費に対して大会組織委員会を支援している。
東京都が実施した大会の関連施策について、各府省等が実施した大会の関連施策以外の国庫補助金等又は独立行政法人の助成金により、29年度までに財政支援をしたものとして判明しているのは、大会施設であるオリンピックアクアティクスセンターの新規整備に対する国庫補助のみとなっている。
東京都内に大会施設が所在する11市区のうち、29年度までに東京都とは別に自ら取り組むべき大会の関連施策を設定して、実施している市区が28、29両年度に実施した大会の関連施策について、各府省等が実施した大会の関連施策以外の国庫補助金等又は独立行政法人の助成金による財政支援の状況をみると、財政支援を受けているのは4市区であり、その支援額は28、29両年度で4億6118万余円となっている。
都外自治体である8道県及び13市町のうち、29年度までに自ら取り組むべき大会の関連施策を設定して実施している都外自治体が28、29両年度に実施した大会の関連施策の主な分野について、各府省等が実施した大会の関連施策以外の国庫補助金等又は独立行政法人の助成金による財政支援の状況をみると、財政支援を受けているのは8道県及び6市であり、その支援額は28、29両年度で64億4949万余円となっている。
国は、大会の招致について、国際親善、スポーツの振興等に大きな意義を有するものであり、また、東日本大震災からの復興を示すものともなるとして東京都が招請することを了解して、万が一、大会組織委員会が資金不足に陥った場合は、東京都が補填し、東京都が補填しきれなかった場合には、最終的に、国が国内の関係法令に従い補填すること、大会組織委員会の費用負担なしに、大会に関係する政府関連業務を提供することなどを内容とした政府保証書をIOCへ提出している。そして、大会の開催決定後は、大会が大規模かつ国家的に特に重要なスポーツの競技会であることに鑑み、オリパラ推進本部が行う総合調整の下、各府省等による大会の関連施策の立案及び実行により大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会、開催都市である東京都等が実施する取組の支援に取り組んできたところである。
本院が検査したところ、各府省等が実施した大会の関連施策に係る25年度から29年度までの支出額は計8011億余円となっており、各府省等が実施する大会の関連施策については、30年度以降も大会の開催に向けて多額の支出が見込まれる。
今後、大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会を中心として大会の開催に向けた準備が加速化していくことから、オリパラ事務局、各府省等及びJSCは、引き続き次の点に留意するなどして、大会組織委員会、東京都、都外自治体等の関係機関と連携して、32年7月からの開催に向けて、大会の円滑な準備、運営等に資する取組を適時適切に実施していく必要がある。
本院としては、大会が大規模かつ国家的に特に重要なスポーツの競技会であることなどに鑑み、要請後、大会の準備段階のできるだけ早期に、大会の開催に向けた取組等の状況及び各府省等が実施する大会の関連施策等の状況について分析して報告することとした。そして、今後、大会の開催に向けた準備が加速化し、32年には大会の開催を迎えることになることから、引き続き大会の開催に向けた取組等の状況及び各府省等が実施する大会の関連施策等の状況について検査を実施して、その結果については、取りまとめが出来次第報告することとする。