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  • 平成29年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第3節 特定検査対象に関する検査状況

第4 量的・質的金融緩和等の日本銀行の財務への影響について


検査対象
日本銀行、財務省
業務の根拠
日本銀行法(平成9年法律第89号)等
日本銀行の業務の概要
日本銀行券の発行、国庫金の取扱い、国債に関する国の事務、通貨及び金融の調節、金融機関の間における資金決済の円滑に資する業務、信用秩序の維持に資するための業務等
平成29年度末の長期国債の残高
426兆5674億円
平成29年度末の日銀当座預金の残高
378兆2379億円
平成29年度末の自己資本の残高
8兆2248億円
平成29年度の国庫納付金の額
7265億円

1 検査の背景

(1) 日本銀行の金融調節

日本銀行は、日本銀行法(平成9年法律第89号)に基づき、通貨及び金融の調節として、国債等の買入れを行うなどして金融機関等に資金を供給したり、日本銀行が振り出す手形等の売却を行って金融機関等から資金を吸収したりして、金融機関等が相互の資金決済等のために日本銀行に保有している当座預金(以下「日銀当座預金」という。)の残高を増減させることにより、金融市場における資金過不足の調整(以下「金融調節」という。)を行っている。

また、日本銀行は、平成20年10月に、金融調節の一層の円滑化を通じて金融市場の安定確保を図るために、補完当座預金制度を導入している。この制度は、準備預金制度(注1)の対象となる金融機関に係る日銀当座預金及び準備預り金(注2)(以下、日銀当座預金及び準備預り金を合わせて「日銀当座預金等」という。)のうち日本銀行に預け入れることが義務付けられている額(以下「法定準備預金額」という。)を超える額(以下「超過準備額」という。)並びに準備預金制度の対象とならない金融機関等のうち所定の金融機関等(注3)(以下「非対象先」という。)に係る日銀当座預金(以下、超過準備額及び非対象先に係る日銀当座預金を合わせて「超過準備額等」という。)について、それぞれ政策委員会で決定した適用利率(制度導入時は年0.1%)による利息を付すものである(図1参照)。

(注1)
準備預金制度  準備預金制度に関する法律(昭和32年法律第135号)に基づき、銀行等の預金取扱金融機関について、預金等の債務に所定の率を乗じて算定される額を日本銀行に預け入れることを義務付ける制度
(注2)
準備預り金  準備預金制度の対象となる金融機関のうち日本銀行と当座預金取引のないものに係る預り金
(注3)
準備預金制度の対象とならない金融機関等のうち所定の金融機関等  準備預金制度の対象とならないが、資金決済等のために日本銀行と当座預金取引を行っている金融機関等のうち証券会社等

図1 補完当座預金制度の概要

図1 補完当座預金制度の概要 画像

(2) 量的・質的金融緩和等の概要

ア 量的・質的金融緩和の導入及びその拡大

日本銀行は、25年1月に、消費者物価の前年比上昇率で2%とする物価安定の目標(以下「物価安定の目標」という。)を導入した。そして、日本銀行は、表1のとおり、同年4月に、物価安定の目標を2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現するために、金融調節の操作目標を無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベース(注4)に変更し、金融調節の方針(以下「金融市場調節方針」という。)として、マネタリーベースが「年間約60~70兆円」に相当するペースで増加するように金融調節を行い、また、資産の買入れ方針として、①長期国債(発行から償還までの期間が2年以上の国債をいう。以下同じ。)について、保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するように買入れを行うとともに、買い入れる長期国債の平均残存期間を3年弱から7年程度に延長すること、②指数連動型上場投資信託(以下「ETF」という。)及び不動産投資信託(以下「J―REIT」という。)について、保有残高がそれぞれ年間約1兆円及び年間約300億円に相当するペースで増加するように買入れを行うことなどとする金融緩和(以下「量的・質的金融緩和」という。)を導入した。

日本銀行は、26年10月に、量的・質的金融緩和の拡大を決定し、金融市場調節方針として、マネタリーベースが年間約80兆円(拡大前から約10~20兆円追加)に相当するペースで増加するように金融調節を行うこととした。また、資産の買入れ方針として、①長期国債について、保有残高が年間約80兆円(同約30兆円追加)に相当するペースで増加するように買入れを行うとともに、買い入れる長期国債の平均残存期間を最大3年程度延長して「7年~10年程度」にすること、②ETF及びJ―REITについて、保有残高がそれぞれ年間約3兆円及び年間約900億円(同それぞれ3倍増)に相当するペースで増加するように買入れを行うことなどとした。

(注4)
マネタリーベース  日本銀行が供給する通貨の総量。日本銀行券発行高、貨幣流通高及び日銀当座預金の合計額で構成される。平成30年3月末のマネタリーベースの残高は487兆円である。

表1 量的・質的金融緩和の概要

区分 「量」
(金融市場調節方針)
「質」
(資産の買入れ方針)
マネタリーベース 長期国債 ETF J―REIT
買入額 買入れの平均残存期間
平成
25年4月
量的・質的金融緩和の導入 年間約60~70兆円に相当するペースで増加するように金融調節を行う。 保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するように買入れを行う。 7年程度 保有残高が年間約1兆円に相当するペースで増加するように買入れを行う。 保有残高が年間約300億円に相当するペースで増加するように買入れを行う。
26年10月 量的・質的金融緩和の拡大 年間約80兆円に相当するペースで増加するように金融調節を行う。 保有残高が年間約80兆円に相当するペースで増加するように買入れを行う。 7年~10年程度 保有残高が年間約3兆円に相当するペースで増加するように買入れを行う。 保有残高が年間約900億円に相当するペースで増加するように買入れを行う。

イ 量的・質的金融緩和の補完措置の導入

日本銀行は、27年12月に、量的・質的金融緩和の円滑な遂行等のために、①長期国債の買入れについて、28年1月以降、買い入れる長期国債の平均残存期間を「7年~12年程度」に長期化すること、②ETFについて、同年4月以降、新たに年間約3000億円の枠を設けて「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象とするETFを買い入れること、③J―REITについて、銘柄別の買入限度額を当該銘柄の発行済投資口の総数の「5%以内」から「10%以内」に引き上げることなどとする量的・質的金融緩和を補完するための諸措置(以下「補完措置」という。)の導入を決定した。

ウ マイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入

日本銀行は、28年1月に、物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために、従前の量的・質的金融緩和に、日銀当座預金等の一部にマイナスの金利を適用する「マイナス金利」を加えた金融緩和(以下「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」という。)の導入を決定した。上記のマイナス金利は、補完当座預金制度を改正して、日銀当座預金等を3段階の階層構造に分割し、それぞれの階層に応じて年0.1%、年0%及び年マイナス0.1%の利率を適用するものである。

エ 金融緩和の強化

日本銀行は、28年7月に、英国のEU離脱問題や新興国経済の減速を背景に海外経済の不透明感が高まり国際金融市場では不安定な動きが続いているとした上で、こうした不確実性が企業や家計のコンフィデンス(信認)の悪化につながることを防止するなどの観点から、ETFについて、保有残高が年間約6兆円(従来の約3.3兆円からほぼ倍増)に相当するペースで増加するよう買入れを行うことなどを決定した。

オ 長短金利操作付き量的・質的金融緩和の導入

日本銀行は、28年9月に、量的・質的金融緩和及びマイナス金利付き量的・質的金融緩和の下での経済・物価動向と政策効果について総括的な検証を行い、その結果を踏まえて、物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために、上記二つの政策枠組みを強化する形で「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入することを決定した。

日本銀行は、上記長短金利操作付き量的・質的金融緩和の下での金融市場調節方針として、それまでのマネタリーベース増加額目標に代えて、物価安定の目標に向けたモメンタム(勢い)を維持するために最も適切と考えられる短期・長期の金利の形成を促すべく、毎回の金融政策決定会合において、長短金利の操作についての方針(以下「金利操作方針」という。)を示すこととした。具体的には、28年9月の金融政策決定会合において、短期金利については日銀当座預金等の一部に年マイナス0.1%(従来どおり)の利率を適用し、長期金利については10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように長期国債の買入れを行うこととした。そして、①長期国債について、おおむね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するように運営するとともに、引き続き幅広い銘柄を買入対象とし、平均残存期間の定めは廃止する、②ETF及びJ―REITについて、保有残高がそれぞれ年間約6兆円及び年間約900億円(いずれも従来どおり)に相当するペースで増加するよう買入れを行うなどとした。

(3) 貸出支援基金の概要

日本銀行は、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する観点から、金融緩和効果を一段と浸透させるための臨時措置として、我が国経済の成長基盤強化(以下「成長基盤強化」という。)及び貸出増加に向けた民間金融機関による取組を支援するために、適格担保(注5)を担保とする二つの資金供給を実施している。

すなわち、日本銀行は、22年6月に、成長基盤強化に向けた金融機関の自主的な取組を金融面から支援するために、金融機関による成長基盤強化に向けた投融資の取組に応じて当該金融機関に対し長期かつ低利の資金供給による貸付けを行うこと(以下、この資金供給による貸付けを「成長基盤強化支援資金供給」という。)を決定した。

また、日本銀行は、24年12月に、金融機関の一段と積極的な行動と企業や家計の前向きな資金需要の増加を促す観点から、金融機関がその貸出しについて同年10月から12月までの月末残高平均額から増加させた場合に、その増加額を限度として長期かつ低利の資金供給による貸付けを行うこと(以下、この資金供給による貸付けを「貸出増加支援資金供給」という。)を決定した。そして、緩和した金融環境の実体経済への波及を支援するという日本銀行の政策姿勢をより明確化する観点から、金融機関が成長基盤強化に取り組むことと金融機関が貸出しの総額を増やすことは相互に補完的であることを踏まえて、成長基盤強化支援資金供給及び貸出増加支援資金供給の二つの資金供給を「貸出支援基金」の運営と位置付けて実施することとした(両資金供給に係る貸付残高は、日本銀行の貸借対照表の「貸出金」等に計上されている。)。

日本銀行は、25年4月の量的・質的金融緩和の導入以降、上記貸出支援基金の運営に関して、26年3月には、貸出増加支援資金供給の貸付限度額を、金融機関がその貸出しについて24年10月以降の各四半期における月末残高平均額の最高額から増加させた場合における当該増加額の2倍相当額に拡大することを決定した。また、27年12月には、補完措置の一つとして成長基盤強化支援資金供給の対象となる投融資の範囲を拡充したり、28年1月には、マイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入に併せて成長基盤強化支援資金供給及び貸出増加支援資金供給の貸付利率を年0%(従前は年0.1%)に引き下げたりなどすることを決定した。

(注5)
適格担保  日本銀行が通貨及び金融の調節として行う与信に関して、日本銀行の資産の健全性を確保する観点から、信用度及び市場性が十分であり、担保権その他の権利の行使に支障がないと日本銀行が認める国債、地方債等の担保

(4) 債券取引損失引当金の制度の拡充

日本銀行は、日本銀行法施行令(平成9年政令第385号)等に基づき、各事業年度において、債券の売買等に伴い生じた収益又は損失について、債券取引損失引当金の積立て又は取崩しを行うことができることとなっている。

日本銀行は、量的・質的金融緩和の実施に伴って日本銀行に生じ得る収益の振幅を平準化し、財務の健全性を確保する観点から、27年11月に、財務大臣に対して引当金制度による対応の検討を要請した。その後、同月に日本銀行法施行令等が改正されて債券取引損失引当金の制度が拡充され、同引当金について、27年度決算から当分の間、上記収益の額に長期国債利息の金額の全部又は一部を、上記損失の額に有利子負債(注6)に係る支払利息の金額をそれぞれ含めることとされた。

(注6)
有利子負債  超過準備額、売出手形等

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、これまでに、特定検査対象に関する検査状況として、平成25年度決算検査報告に「日本銀行の財務の状況及びその推移について」を、平成26年度決算検査報告に「量的・質的金融緩和の導入及びその拡大の日本銀行の財務への影響について」を、平成27年度決算検査報告及び平成28年度決算検査報告に「量的・質的金融緩和等の日本銀行の財務への影響について」をそれぞれ掲記し、日本銀行が物価安定の目標に向けて、量的・質的金融緩和の下で金融機関等から長期国債を中心に多額の金融資産を買い入れるなどした結果、日本銀行の資産及び負債の規模が急速に拡大していること、日本銀行が保有する長期国債(以下「保有長期国債」という。)の利回りが低下傾向で推移していることなどを記述した。

そして、前記のとおり、日本銀行は、28年9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入することを決定し、29年度においても引き続き長短金利操作付き量的・質的金融緩和を実施している。

そこで、本院は、30年次の検査においては、上記の状況を踏まえつつ、24年度から29年度までの日本銀行の財務の状況について、財務の健全性が確保されているかなどに着目し、正確性、合規性、経済性等の観点から、量的・質的金融緩和の導入以降、保有長期国債、貸出金等の資産及び日銀当座預金、引当金等の負債等並びに損益の状況はどのようになっているか、保有長期国債の利回りや補完当座預金制度に係る支払利息等はどのようになっているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき日本銀行から本院に提出された財務諸表等について書面検査を行うとともに、日本銀行及び財務本省において、日本銀行の財務の状況、国庫納付金の納付状況、財務諸表等に係る財務大臣の承認等に関する各種資料等の提出を受けるなどして会計実地検査を行った。

3 検査の状況

(1) 日本銀行の資産、負債等への影響

ア 日本銀行の資産及び負債への影響

量的・質的金融緩和の導入前後における日本銀行の資産、負債等の状況をみると、その額は拡大の一途をたどっており、総資産残高及び総負債残高は、図2のとおり、それぞれ、24年度末には164兆8127億円及び161兆5239億円であったものが、29年度末には528兆2856億円(24年度末の約3.2倍)及び524兆3363億円(同約3.2倍)となっている。資産及び負債の主なものはそれぞれ長期国債及び日銀当座預金となっていて、長期国債は24年度末に91兆3492億円であったものが29年度末には426兆5674億円(同約4.7倍)に、日銀当座預金は58兆1289億円であったものが378兆2379億円(同約6.5倍)にまで増加している。これは、日本銀行が、量的・質的金融緩和の導入以降、金融機関等から長期国債を中心に多額の金融資産の買入れを継続して行うことにより、金融機関等が日本銀行に預け入れている日銀当座預金の残高が増加していることによるものである。

図2 量的・質的金融緩和の導入前後における日本銀行の資産、負債等の状況

図2 量的・質的金融緩和の導入前後における日本銀行の資産、負債等の状況 画像

イ 保有長期国債への影響

(ア) 長期国債の発行残高に占める日本銀行の保有割合

長期国債の発行残高に占める日本銀行の保有割合は、図3のとおり、29年度末には43.9%(発行残高995兆6806億円(時価ベース)のうち437兆2791億円(同))に達していて、量的・質的金融緩和の導入前の24年度末における保有割合11.5%の約3.8倍となっている。

図3 長期国債の発行残高に占める日本銀行の保有割合の状況

図3 長期国債の発行残高に占める日本銀行の保有割合の状況 画像

(イ) 日本銀行による長期国債の買入額等

日本銀行は、前記のとおり、26年10月から28年9月までの間、資産の買入れ方針として、保有長期国債の残高が年間約80兆円(25年4月から26年10月までは年間約50兆円)に相当するペースで増加するように長期国債の買入れを行うこととしており、この間、保有長期国債のうち償還期限が到来して償還される保有長期国債等の金額に相当する分(以下「償還等相当分」という。)の買入れに加えて、このペースでの保有残高の増加分の買入れを行っていた。

そして、日本銀行は、28年9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和の導入を決定して金融市場調節方針を変更し、長期国債について、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように買入れを行い、従来と同程度の買入れペースをめどとしつつ、金利操作方針を実現するように運営することとした。

日本銀行が24年度から29年度までの間の各年度に買い入れた長期国債の額についてみると、図4のとおり、24年度に44兆8614億円(買入代金ベース。うち償還等相当分24兆1988億円)であったものが28年度には115兆8001億円(同40兆5545億円)にまで増加したが、金融市場調節方針が変更された28年9月以降買入れペースが鈍化したことから、29年度は減少に転じて96兆2303億円(同46兆8071億円)となっている。そして、保有残高の増加分の買入れについては、29年度は前年度の75兆2456億円から25兆8224億円減少して49兆4232億円(減少率34.3%)となっている。

図4 日本銀行による長期国債の買入額の状況

図4 日本銀行による長期国債の買入額の状況 画像

(ウ) 保有長期国債の評価方法等

日本銀行は、会計規程(平成10年10月制定)に基づき、保有長期国債については、原則として償還期限まで保有している実態を勘案して、償却原価法(注7)により評価を行うこととしている。このため、保有長期国債の貸借対照表価額は、取得原価と額面金額との差額を償還期限に至るまで毎期均等に取得原価に加減して算定した金額が計上されており、時価の変動による影響を受けないことになっている。

日本銀行は、国債を含む保有有価証券の時価に係る情報を参考情報として公表しており、また、「特殊法人等に係る行政コスト計算書作成指針」(平成13年6月財政制度等審議会公表)に基づき作成している行政コスト計算財務書類においても、同様に上記の時価に係る情報を公表している。24年度から29年度までの間における保有長期国債の貸借対照表価額、時価及び含み損益について、各年度末の状況をみると、この間の市場金利の動向を反映して、表2のとおり、いずれも時価が貸借対照表価額を上回り、含み益が生じている。

(注7)
償却原価法  取得原価と額面金額との差額を償還期限までの間、毎期均等に償却する方法であり、これに伴う損益は、日本銀行の損益において、長期国債利息に含める形で計上される。

表2 保有長期国債の貸借対照表価額、時価及び含み損益の状況

(単位:億円)
区分 平成24年度末 25年度末 26年度末 27年度末 28年度末 29年度末
貸借対照表価額(a) 91兆3492 154兆1536 220兆1337 301兆8986 377兆1441 426兆5674
時価注(2)(b) 93兆8741 156兆8774 224兆9509 317兆1123 386兆7942 437兆2690
含み損益(c)=(b)-(a) 2兆5248 2兆7238 4兆8171 15兆2136 9兆6500 10兆7016
  • 注(1) 日本銀行の貸借対照表及び行政コスト計算財務書類(特殊法人等に係る行政コスト計算書作成指針(平成13年6月財政制度等審議会公表)に基づき、特殊法人等が民間企業として活動しているとの仮定に立って作成する財務書類)から本院が作成した。
  • 注(2) 時価は、算出方法の相違により、日本銀行「資金循環統計」から作成した図3の日本銀行の保有残高(時価ベース)とは一致しない。
(エ) 保有長期国債の平均残存期間

日本銀行は、前記のとおり、25年4月の量的・質的金融緩和の導入以降、日本銀行が買い入れる長期国債に係る平均残存期間を定めて段階的にこれを延長してきたが、28年9月の長短金利操作付き量的・質的金融緩和の導入に伴い、短期・長期金利の適切な形成を促すために機動的に長期国債を買い入れることとして、この平均残存期間の定めを廃止した。

24年度から29年度までの間の各年度末における保有長期国債の残存期間別の残高及び平均残存期間についてみると、図5のとおり、平均残存期間は、24年度末には3.9年であったものが28年度末には7.4年にまで長期化した。そして、29年度は、上記のとおり28年9月に平均残存期間の定めが廃止されているものの、日本銀行が短期・長期金利の適切な形成を促すために長期国債を買い入れた結果、「5年超10年以下」及び「10年超」に区分される保有長期国債の残高がそれぞれ増加したことなどにより、同年度末における平均残存期間は更に長期化して7.6年となっている。

図5 保有長期国債の残存期間別の残高及び平均残存期間の状況

図5 保有長期国債の残存期間別の残高及び平均残存期間の状況 画像

ウ 日本銀行の貸出金等への影響

日本銀行は、金融機関等への資金供給を行うために共通担保資金供給オペレーション(注8)による貸付け(以下「共通担保資金供給」という。)を実施したり、前記のとおり、金融緩和効果を一段と浸透させるための臨時措置として成長基盤強化支援資金供給及び貸出増加支援資金供給の二つの資金供給を貸出支援基金の運営と位置付けて実施したりなどしている。

上記の資金供給等に係る貸付残高のうちの円貨の残高は、日本銀行の貸借対照表の「貸出金」に計上されており、量的・質的金融緩和の導入前後における残高をみると、前記図2のとおり、24年度末に25兆4870億円であったものが28年度末には44兆6645億円(24年度末の約1.8倍)に増加し、29年度末には更に増加して46兆4119億円(同約1.8倍)となっている。

24年度から29年度までの各年度末の貸出金の内訳及び推移をみると、図6のとおり、共通担保資金供給については残高が減少傾向にある。これは、近年、短期金融市場における資金余剰感が極めて強い状況が続く中で、貸付期間が2週間等と短期となっている共通担保資金供給の需要が低調となっていることなどによると考えられる。他方、貸出支援基金の運営として行っている成長基盤強化支援資金供給及び貸出増加支援資金供給については残高が増加傾向にあり、特に貸出増加支援資金供給の残高の増加が顕著となっている。これは、成長基盤強化支援資金供給及び貸出増加支援資金供給については、いずれも貸付期間が4年と長期となっていてその需要が高まっていること、また、後述のとおり、28年2月のマイナス金利の適用開始に伴い、貸出増加支援資金供給等に係る借入残高等に相当する日銀当座預金等については年マイナス0.1%ではなく年0%の利率が適用される残高に加えることとされたことなどのほか、特に貸出増加支援資金供給については、26年3月に決定された前記貸付限度額の拡大が同年4月から実施されていることなどによると考えられる。

(注8)
共通担保資金供給オペレーション  日本銀行が、公開市場操作として、金融機関等からあらかじめ差し入れられた国債等の適格担保を担保として、金融市場の情勢等を勘案し貸付けの都度貸付期間を決定して当該金融機関等に対して行う資金供給

図6 日本銀行の貸出金の内訳及び推移

図6 日本銀行の貸出金の内訳及び推移 画像

なお、成長基盤強化支援資金供給については、24年4月以降、円貨の資金供給に加えて、外貨建て投融資を対象とする米ドルの資金供給も行われている。この米ドルの資金供給に係る残高については、期末日における円換算額が日本銀行の貸借対照表の「外貨貸付金」に計上されており、同残高は24年度末は3273億円、25年度末は9060億円、26年度末は1兆4403億円、27年度末は1兆3508億円、28年度末は2兆3037億円、29年度末は2兆4667億円となっていて、「貸出金」に計上される成長基盤強化支援資金供給と同様に増加傾向にある。

エ 日本銀行が保有するETF及びJ―REITへの影響

日本銀行は、前記資産の買入れ方針に基づき、自らを受益者として信託銀行を受託者とする金銭の信託を行い、当該金銭の信託に係る信託財産としてETF及びJ―REITを買い入れている。これらについては、金融政策目的で買い入れたものであり、その保有の目的や実態が民間企業等とは異なることを踏まえて、会計規程に基づき、原価法により評価を行うこととしている。

また、日本銀行は、保有等に伴う損失発生可能性に備えて、ETF及びJ―REITの時価の総額がそれぞれの帳簿価額の総額を下回る場合には、その差額に対してそれぞれの引当金を上半期末及び事業年度末に計上することとしている。さらに、ETF及びJ―REITの上半期末又は事業年度末における時価が著しく下落した場合には、減損処理を行うこととしている。

ETF及びJ―REITは、国債のように償還期限が設定されるものではないため、その保有残高は処分又は減損処理によって減少することとなり、処分が行われる場合には、ETF及びJ―REITの貸借対照表価額と処分価格との差額が損益としてそれぞれ計上されることとなる。

日本銀行が保有するETF及びJ―REITについて、24年度から29年度までの間の各年度末の貸借対照表価額及び含み損益をみると、図7のとおり、貸借対照表価額はいずれも増加傾向で推移している。また、株式市場等の情勢により、各年度末とも時価が貸借対照表価額を上回って含み益が生じているが、その額は年度によって増減しており、ETFについては27年度末を除いて毎年度増加していて、29年度末の含み益は前年度末の2兆7692億円から2兆3768億円増加して5兆1460億円となっている。

図7 日本銀行が保有するETF及びJ―REITの貸借対照表価額及び含み損益の状況

図7 日本銀行が保有するETF及びJ―REITの貸借対照表価額及び含み損益の状況 画像

(2) 日本銀行の損益、当期剰余金の処分等への影響

ア 長期国債の市場金利の動向

日本銀行は、前記のとおり、28年1月にマイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入を決定して、日銀当座預金等の一部にマイナス金利を適用することにより、大規模な長期国債買入れと併せて、金利全般により強い下押し圧力を加えていくこととした。また、同年9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和の導入を決定し、短期金利については上記マイナス金利の適用を維持するとともに、長期金利については10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう長期国債の買入れを行うこととした。

そこで、27年4月から30年3月までの間における長期国債の市場金利の推移をみると、図8のとおり、10年国債については、28年2月上旬にマイナスの水準となり、その後は更に低下して同年6月下旬にはマイナス0.2%を下回ったが、同年11月中旬にプラスに転じて以降、ほぼ0%から0.1%までの間で推移している。また、2年国債及び5年国債については、それぞれ28年2月以降一段の低下がみられ、同年7月下旬にはマイナス0.4%近くにまで低下したが、その後はいずれも上昇し、29年5月以降はほぼマイナス0.2%から0%までの間で推移している。

このように、長期国債の市場金利は、日本銀行が28年1月にマイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入を決定して以降低下傾向にあったが、同年8月に上昇に転じた後、10年国債については28年11月以降、2年国債及び5年国債については29年5月以降、それぞれ横ばいで推移している。

図8 長期国債の市場金利の推移

図8 長期国債の市場金利の推移 画像

イ 日本銀行の損益への影響

量的・質的金融緩和の導入前後における日本銀行の損益の状況をみると、図9のとおり、量的・質的金融緩和等に伴う保有長期国債の残高の増加により、長期国債利息は、24年度に6005億円(経常収益の42.9%)であったものが、29年度にはその約2.1倍の1兆2909億円(同70.2%)となっている。

また、超過準備額等の残高に対して発生する補完当座預金制度に係る支払利息は、量的・質的金融緩和等に伴う日銀当座預金等の残高の増加により、24年度に315億円(経常費用の11.8%)であったものが、29年度にはその約5.8倍の1836億円(同30.1%)となっている。

このほか、外貨建資産から生ずる為替差益又は為替差損についてみると、24年度に6036億円(経常収益の43.2%)の為替差益を計上していたが、28、29両年度とも為替レートが円高側に変動したことにより、28年度には1481億円(経常費用の27.0%)、29年度には2119億円(同34.8%)の為替差損をそれぞれ計上している。

そして、経常利益は、24年度に1兆1316億円であったものが28年度には1兆0952億円に減少したが、29年度は、28年度から1335億円増加して1兆2287億円となっている。これは、為替差損が29年度は28年度から637億円増加して(対前年度増加率43.0%)2119億円計上されたものの、ETF運用益が29年度は28年度の1722億円から1066億円増加して(同61.9%)2789億円計上されたことなどによるものである。

図9 量的・質的金融緩和の導入前後における日本銀行の損益の状況

図9 量的・質的金融緩和の導入前後における日本銀行の損益の状況 画像

ウ 長期国債利息への影響

長期国債利息は、毎年度、保有長期国債の受取利息に償却原価法に基づく利息調整損益(注9)を加減して算定されている。そこで、24年度から29年度までの間における長期国債利息の状況をみると、図10のとおり、24年度は6005億円、25年度は7761億円(対前年度増加率29.2%)、26年度は1兆0331億円(同33.1%)、27年度は1兆3083億円(同26.6%)、28年度は1兆3099億円(同0.1%)と28年度まで毎年度その額は増加していたものの、27年度以降は対前年度増加率が低下傾向にあり、29年度は減少に転じて1兆2909億円(同マイナス1.5%)となっている。これは、受取利息が毎年度増加している一方で、利息調整損益については、近年、日本銀行が長期国債の大部分を額面金額を上回る価額で買い入れていることなどにより、利息調整益を上回る利息調整損の額が毎年度増加しているためである。

(注9)
償却原価法に基づく利息調整損益  償却原価法では、保有長期国債の貸借対照表価額及び長期国債利息は、それぞれ、保有長期国債の取得原価と額面金額との差額を取得年度以降償還期限に至るまで毎期均等に加減して算定することとなっており、この場合の取得原価が額面金額を上回る部分が利息調整損、下回る部分が利息調整益となる。

図10 長期国債利息の状況

図10 長期国債利息の状況 画像

エ 保有長期国債の利回り等への影響

24年度から29年度までの間における保有長期国債の利回り等の状況をみると、図11のとおり、25年4月の量的・質的金融緩和の導入以降、保有長期国債の残高が増加したことにより長期国債利息は28年度までは増加してきたが、29年度は減少に転じた。そして、保有長期国債の平均残高の増加率に比べて長期国債利息の増加率は小さくなっていて保有長期国債の利回りは低下傾向が続いており、29年度の平均残高406兆8335億円に対する利回りは前年度の0.381%から更に低下して0.317%となっている。

図11 保有長期国債の平均残高等の対平成24年度増加率、利回り等の推移

図11 保有長期国債の平均残高等の対平成24年度増加率、利回り等の推移 画像

前記のとおり、マイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入決定後の28年2月以降、長期国債の市場金利は一段と低下したが、同年8月に上昇に転じた後、10年国債については28年11月以降、2年国債及び5年国債については29年5月以降、それぞれ横ばいで推移している。そこで、本院が日本銀行、日本証券業協会等の公表資料を基に、29年度(29年6月、9月、12月及び30年3月)に日本銀行が買い入れたとみられる長期国債(変動利付国債及び物価連動国債を除く。)を特定し、これらについて平均落札利回較差(注10)を用いるなど一定の仮定を置いて試算した利回り等の状況をみると、表3のとおり、この間の市場金利の動向を反映して、残存期間別では、残存期間5年以下の長期国債はいずれも利回りがマイナスとなっているが、買い入れた月別では、買入額全体に対する利回りはプラスとなっている。

(注10)
平均落札利回較差  日本銀行が買い入れる長期国債の各銘柄について、買入対象先が売買の際に希望する銘柄ごとの利回りから日本銀行が市場実勢相場等を勘案して銘柄ごとに定めた利回り(基準利回り)を差し引いて得た値の平均

表3 日本銀行が買い入れたとみられる長期国債の利回り等の状況(本院の試算)

(単位:億円)
区分 平成28年
2月
29年
6月
9月 12月 30年
3月
残存期間1年以下 買入額 1402 2007 2004 1007 1007
利回り ▲3.23% ▲0.10% ▲0.13% ▲0.14% ▲0.15%
残存期間1年超3年以下 買入額 2兆0020 1兆9621 1兆6822 1兆5026 1兆5021
利回り ▲0.08% ▲0.12% ▲0.15% ▲0.15% ▲0.14%
残存期間3年超5年以下 買入額 2兆1013 2兆1031 1兆8024 1兆8024 1兆9831
利回り ▲0.05% ▲0.09% ▲0.12% ▲0.11% ▲0.11%
残存期間5年超10年以下 買入額 2兆2519 2兆2533 2兆4640 2兆4642 2兆2537
利回り 0.20% 0.01% 0.00% 0.02% ▲0.01%
残存期間10年超25年以下 買入額 1兆0419 1兆2062 1兆0037 1兆0026 1兆1465
利回り 0.94% 0.44% 0.42% 0.50% 0.33%
残存期間25年超 買入額 7209 6024 5017 4520 4227
利回り 1.44% 0.87% 0.85% 0.84% 0.73%
計 買入額 8兆2582 8兆3278 7兆6544 7兆3245 7兆4088
利回り 0.21% 0.07% 0.05% 0.07% 0.03%
  • 注(1) 日本銀行「日本銀行が保有する国債の銘柄別残高」、日本銀行「オペレーション」、日本証券業協会「公社債店頭売買参考統計値表」等から本院が作成した。
  • 注(2) 表中「利回り」の数値は銘柄別の買入額等を基に加重平均して算出している。

オ 補完当座預金制度に係る支払利息等への影響

(ア) 日銀当座預金等に対する利率の適用方法

日本銀行は、前記のとおり、28年1月にマイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入を決定するとともに補完当座預金制度を改正して、日銀当座預金等を3段階の階層構造に分割し、それぞれの階層に応じて年0.1%、年0%及び年マイナス0.1%の利率を適用することとした。

日銀当座預金等に対する上記利率の適用方法をみると、図12のとおり、まず、利息を付する対象となる積み期間(注11)(以下「付利対象積み期間」という。)における平均残高のうち、法定準備預金額に達するまでの金額については、年0%の利率を適用することとなっている。

次に、量的・質的金融緩和の下で各金融機関等が積み上げた既往の残高(27年1月から12月までの各月の積み期間の平均残高。以下「基準平均残高」という。)から付利対象積み期間における法定準備預金額を減じた金額に達するまでの金額については、年0.1%の利率を適用することとなっている。

さらに、マクロ加算額(注12)及び貸出支援基金等による借入れの平均残高等の合計金額に達するまでの金額については、年0%の利率を適用することとされ、これを上回る部分の残高について、年マイナス0.1%の利率を適用することとなっている。

(注11)
積み期間  当月16日から翌月15日までの期間
(注12)
マクロ加算額  基準平均残高に日本銀行が定める比率を乗じた金額

図12 日銀当座預金等に対する利率の適用方法(概念図)

図12 日銀当座預金等に対する利率の適用方法(概念図) 画像

(イ) 日銀当座預金等の適用利率別の残高の状況

マイナス金利の適用が開始された27年度(28年2月)から29年度までの間における日銀当座預金等の適用利率別の残高をみると、図13のとおり、日銀当座預金等全体の残高が増加傾向にある中で、年0.1%の利率が適用された残高はいずれも210兆円程度で推移している。この年0.1%の利率が適用される残高は、前記のとおり、基準平均残高から付利対象積み期間における法定準備預金額を減じた金額に達するまでの金額とすることとなっていることから、今後、法定準備預金額の大幅な変動等がない限り、上記と同様の水準で推移することが見込まれる。

一方、年マイナス0.1%の利率が適用される残高は、いずれも20兆円台で推移している。この残高は、各金融機関等における日銀当座預金等の残高のうち年0.1%及び年0%の利率が適用される残高を上回る部分の残高を金融機関等ごとに合計した額となっている。

上記について、日本銀行は、金融機関等の収益を過度に圧迫し、かえって金融仲介機能が低下するようなことがないように、マクロ加算額の規模を見直すことで年マイナス0.1%の利率が適用される残高の規模を調整することとしており、その見直しは、原則として3積み期間ごとに短期金融市場における取引の動向を踏まえつつ適宜行うこととしている。なお、マクロ加算額は、基準平均残高に日本銀行が定める比率を乗じて算定することとなっており、マイナス金利の適用が開始された28年2月の積み期間以降の同比率の推移をみると、同月の積み期間は0%、同年4月の積み期間は2.5%、同年6月の積み期間は7.5%、同年9月の積み期間は10.0%等と段階的に拡大してきており、30年3月の積み期間では23.5%となっている。

図13 日銀当座預金等の適用利率別の残高の状況

図13 日銀当座預金等の適用利率別の残高の状況 画像

また、日本銀行は、28年2月のマイナス金利の適用開始に伴い、貸出支援基金の運営として行っている資金供給等による貸付けに係る貸付利率を年0%(従前は年0.1%)に引き下げるとともに、日銀当座預金等に対する利率の適用において、これらの貸付けに係る借入残高とこのうち28年3月末以降に増加した分との合計金額を年マイナス0.1%ではなく年0%の利率が適用される残高に加えることとしている(図14参照)。

図14 貸出支援基金による新規の貸付けを受けた金融機関の日銀当座預金に対する利率の適用例(概念図)

図14 貸出支援基金による新規の貸付けを受けた金融機関の日銀当座預金に対する利率の適用例(概念図) 画像

(ウ) 支払利息の状況

超過準備額等の残高に対して発生する補完当座預金制度に係る支払利息の額は、24年度から26年度までの各年度については全て年0.1%の利率を適用して算定されているが、27年度から29年度までの各年度については、前記のとおりマイナス金利の適用が開始された28年2月以降、日銀当座預金等の一部に対して年マイナス0.1%の利率を適用して算定された受取利息が発生しているため、年0.1%の利率に係る支払額から当該受取利息の額を減じて算定することとなっている。

24年度から29年度までの間における補完当座預金制度に係る支払利息の状況をみると、表4のとおり、24年度の315億円に対して、25年度は836億円、26年度は1513億円、27年度は2216億円とそれぞれ前年度から増加していたが、28年度は前年度から343億円減少して1873億円、29年度は更に前年度から36億円減少して1836億円となっている。これは、年0.1%の利率に係る支払額について、基準平均残高が一定となっている中で、図13のとおり、28、29両年度に法定準備預金額の平均残高がそれぞれ前年度よりも増加し、相対的に同利率が適用される残高が減少したこと、また、年マイナス0.1%の利率に係る受取利息が、日本銀行がマクロ加算額の見直しを行う中で、28年度は同利率が通年で適用されたことから前年度より増加し、29年度は前年度より若干増加したことなどによると考えられる。

表4 支払利息の状況

(単位:億円)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
年0.1%の利率に係る支払額(a) 315 836 1513 2236 2111 2090
年マイナス0.1%の利率に係る受取利息(b) ― ― ― 20 238 253
支払利息(c)=(a)-(b) 315 836 1513 2216 1873 1836

(注) 平成27年度の年マイナス0.1%の利率に係る受取利息20億円は、マイナス金利の適用が開始された28年2月16日から同年3月末までの期間を対象として算定されている。

カ 当期剰余金の処分等への影響

(ア) 当期剰余金の状況

日本銀行の各年度における剰余金(以下「当期剰余金」という。)は、経常利益に債券取引損失引当金等の積立て又は取崩し等に係る額を特別損益として加減したものから法人税、住民税及び事業税(以下「法人税等」という。)を差し引いた額となっている。

経常利益は、表5のとおり、25年4月の量的・質的金融緩和の導入以降、日本銀行が多額の長期国債を買い入れていることに伴い長期国債利息が増加したことなどから24年度に1兆1316億円であったものが25年度は1兆2805億円、26年度は1兆7137億円にそれぞれ増加したものの、27年度は為替差損が計上されたことなどから7626億円に減少している。そして、26年度は、為替差益が計上されたことに伴い3800億円を特別損失として外国為替等取引損失引当金に積み立てるなどした結果、当期剰余金は24年度の5760億円に対して1兆0090億円にまで増加している。これに対して、27年度は、上記のとおり為替差損が計上されたことに伴い特別利益として外国為替等取引損失引当金から2041億円を取り崩す一方で、特別損失として債券取引損失引当金に4501億円を積み立てるなどした結果、当期剰余金は前年度から減少して4110億円となっている。

また、28、29両年度においては、為替差損が計上されたもののその額は27年度よりも減少したことなどから、経常利益は、それぞれ27年度よりも増加して1兆0952億円、1兆2287億円となり、また、為替差損が計上されたことに伴い特別利益として外国為替等取引損失引当金からそれぞれ740億円、1059億円を取り崩す一方で、特別損失として債券取引損失引当金にそれぞれ4615億円、4451億円を積み立てるなどした結果、当期剰余金は、28年度は5066億円、29年度は7647億円と両年度とも前年度から増加している。

なお、29年度の法人税等は、前年度の2007億円から756億円減少して1251億円となっているが、これは、法人税及び事業税に係る課税所得の算定に当たり損金の額に算入される国庫納付金の額が前年度から2452億円増加したことなどによるものである(後掲の表7参照)。

表5 当期剰余金の状況

(単位:億円)
区分
平成
24年度
25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
経常利益(a) 1兆1316 1兆2805 1兆7137 7626 1兆0952 1兆2287
特別利益(b) 69 110 181 2051 740 1064
  うち外国為替等取引損失引当金取崩額 ― ― ― 2041 740 1059
特別損失(c) 3019 3099 3803 4506 4618 4453
  うち債券取引損失引当金積立額 ― ― ― 4501 4615 4451
うち外国為替等取引損失引当金積立額 3018 3097 3800 ― ― ―
法人税等(d)(注) 2606 2573 3424 1060 2007 1251
当期剰余金(e)=(a)+(b)-(c)-(d) 5760 7242 1兆0090 4110 5066 7647

(注) 国庫納付金の額は、日本銀行法に基づき、法人税及び事業税に係る課税所得の算定上、損金の額に算入することとなっている。

(イ) 債券取引損失引当金等の状況

日本銀行は、日本銀行法施行令に基づき、各事業年度において、財務大臣の承認を受けて、債券取引損失引当金及び外国為替等取引損失引当金を積み立てることができることとなっている。そして、会計規程によれば、債券取引損失引当金及び外国為替等取引損失引当金の積立て又は取崩しは、各上半期及び各事業年度の日本銀行の自己資本比率(注13)が10%程度となることを目途として、おおむねその上下2%の範囲となるよう運営するとされている。そして、その積み立てるべき又は取り崩すべき金額は、債券又は外国為替等に係る損益の50%に相当する金額を目途として、自己資本比率の水準等を勘案して定めるなどとされている。

29年度においては、債券取引損失引当金積立額として4451億円が計上されている。これは、会計規程等に基づき、長期国債利息の金額(1兆2909億円)に29年度における有利子負債の平均残高を保有長期国債の平均残高で除して得た比率を乗じて得た金額と、有利子負債に係る支払利息の金額との差額の50%に相当する額について財務大臣の承認を受けて積み立てたものである。また、前記の外国為替等取引損失引当金取崩額1059億円は、為替差損2119億円の50%に相当する額を計上したものである。

上記の結果、表6のとおり、29年度末において、債券取引損失引当金は3兆6001億円に増加し、また、外国為替等取引損失引当金は1兆4019億円に減少している。

(注13)
日本銀行の自己資本比率  上半期末又は事業年度末の資本金、準備金(当期剰余金の処分において積み立てられる金額を含む。)、債券取引損失引当金、外国為替等取引損失引当金等の合計額(自己資本残高)をその期中における日本銀行券の平均発行残高で除して得た比率

表6 債券取引損失引当金等の状況

(単位:億円)
区分 平成24年度末 25年度末 26年度末 27年度末 28年度末 29年度末
債券取引損失引当金 2兆2433 2兆2433 2兆2433 2兆6934 3兆1550 3兆6001
  対前年度末増減額 ― ― ― 4501 4615 4451
外国為替等取引損失引当金 1兆0963 1兆4060 1兆7861 1兆5819 1兆5078 1兆4019
  対前年度末増減額 3018 3097 3800 △2041 △740 △1059

(注) 債券取引損失引当金は、平成14年度以降、取崩しの実績はない。

(ウ) 当期剰余金の処分の状況

日本銀行は、日本銀行法に基づき、当期剰余金の5%に相当する金額を準備金(以下「法定準備金」という。)として積み立てなければならないこととなっており、特に必要があると認められるときは、財務大臣の認可を受けて当該金額を超える金額を法定準備金として積み立てることができることとなっている。そして、法定準備金の積立てについても、債券取引損失引当金等の積立て又は取崩しの場合と同様に、会計規程に基づき、自己資本比率が10%程度となることを目途として、おおむねその上下2%の範囲内となるよう運営することとなっている。

法定準備金の積立額は、表7のとおり、25、26両年度において、それぞれ当期剰余金の5%に相当する額を超える1448億円及び2522億円となっている。これらは、日本銀行が、財務の健全性を確保する観点から、量的・質的金融緩和等に伴い資産規模が拡大していることにより、従来よりも収益の振幅が大きくなると見込まれる状況を踏まえて、財務大臣に対して上記の法定準備金の積立額に係る認可申請を行い、同大臣の認可を受けて、25年度は当期剰余金の額の20%に相当する額を、26年度はその25%に相当する額を積み立てたものである。一方、27、28、29各年度においては、特別損益の経理において債券取引損失引当金にそれぞれ4501億円、4615億円、4451億円を積み立てた後、当期剰余金の5%に相当する額を積み立てている。

そして、日本銀行は、日本銀行法に基づき、当期剰余金のうち法定準備金への積立て及び出資者への配当を行った後の残額を国庫に納付しなければならないこととなっており、国庫納付金の納付の状況をみると、25、26両年度はそれぞれ前年度から増加して5793億円、7567億円となっていたが、27年度は26年度から減少して3905億円となっている。また、28、29両年度はそれぞれ前年度から増加して4813億円、7265億円となっている。

表7 当期剰余金の処分の状況

(単位:億円、%)
区分 平成24年度 25年度 26年度 27年度 28年度 29年度
当期剰余金(a) 5760 7242 1兆0090 4110 5066 7647
法定準備金積立額(b) 288 1448 2522 205 253 382
  積立率(b)/(a) 5.0 20.0 25.0 5.0 5.0 5.0
配当金(c)(注) 0 0 0 0 0 0
国庫納付金(d)=(a)-(b)-(c) 5472 5793 7567 3905 4813 7265

(注) 配当金は、出資者に対して各年度総額500万円が支払われている。

(エ) 自己資本比率の状況

日本銀行は、将来の損失発生に備えて、自己資本を保有し、財務の健全性の確保に努めている。日本銀行の自己資本比率は、表8のとおり、24、25両年度末は7%台となっていたが、26年度末は、当期剰余金の額の25%(25年度は20%)に相当する額を法定準備金に積み立てるなどした結果、8.20%に上昇している。そして、27、28、29各年度末は、前記のとおり債券取引損失引当金を積み立てる一方で、日本銀行券平均発行残高が増加するなどした結果、それぞれ8.05%、8.07%、8.09%となっている。

表8 自己資本比率の状況

(単位:億円、%)
区分 平成24年度末 25年度末 26年度末 27年度末 28年度末 29年度末
資本勘定(a) 2兆7415 2兆8863 3兆1386 3兆1591 3兆1845 3兆2227
  資本金 1 1 1 1 1 1
法定準備金等 2兆7414 2兆8862 3兆1385 3兆1590 3兆1844 3兆2226
引当金勘定(b) 3兆3396 3兆6493 4兆0294 4兆2754 4兆6628 5兆0020
  債券取引損失引当金 2兆2433 2兆2433 2兆2433 2兆6934 3兆1550 3兆6001
外国為替等取引損失引当金 1兆0963 1兆4060 1兆7861 1兆5819 1兆5078 1兆4019
自己資本残高(c)=(a)+(b) 6兆0811 6兆5357 7兆1680 7兆4346 7兆8474 8兆2248
日本銀行券平均発行残高(d) 81兆5695 84兆4116 87兆3941 92兆2957 97兆1988 101兆5887
自己資本比率(e)=(c)/(d) 7.45 7.74 8.20 8.05 8.07 8.09

(注) 法定準備金等は、当期剰余金の処分における法定準備金積立額及び特別準備金(1319万円)を含む。

4 本院の所見

25年4月の量的・質的金融緩和の導入以降、日本銀行の資産及び負債の額は拡大の一途をたどっており、主な資産である長期国債は導入前の24年度末に91兆3492億円であったものが29年度末には426兆5674億円(24年度末の約4.7倍)に、主な負債である日銀当座預金は58兆1289億円であったものが378兆2379億円(同約6.5倍)にまで増加している。そうした中で、29年度については、経常利益がETF運用益の増加等により前年度から1335億円増加して1兆2287億円となっているほか、超過準備額等の残高に対して発生する補完当座預金制度に係る支払利息が前年度から36億円減少して1836億円となり、また、本院が一定の仮定を置いて試算したところ、市場金利の動向を反映して日本銀行が買い入れたとみられる長期国債の利回りは29年6月、同年9月、同年12月及び30年3月のいずれにおいてもプラスとなっている。一方、25年度から28年度まで毎年度増加していた長期国債利息が減少に転じて1兆2909億円(対前年度増加率マイナス1.5%)となり、また、保有長期国債の平均残高406兆8335億円に対する利回りは、保有長期国債の平均残高の増加率に比べて長期国債利息の増加率が小さくなっていて低下傾向が続いていることなどから、前年度の0.381%から更に低下して0.317%となっている。

そして、日本銀行は、29年度決算において、長短金利操作付き量的・質的金融緩和の実施に伴って日本銀行に生じ得る収益の振幅を平準化する観点から、27年度に拡充された債券取引損失引当金の制度の下で同引当金に4451億円の積立てを行い、29年度末の同引当金は3兆6001億円に増加している。

したがって、日本銀行においては、金融調節等を通じて取得した金融資産について、保有長期国債の利回りが低下してきているなどの状況も踏まえて適切に各引当金を積み立て、また、特に必要があると認めるときは、当期剰余金の5%に相当する額を超える金額を法定準備金に積み立てるなど、財務の健全性の確保に努めることが重要である。また、財務省においては、日本銀行から引当金の積立てを含む財務諸表等の承認又は当期剰余金の5%に相当する額を超える金額の法定準備金への積立ての認可の申請があった場合には、今後の日本銀行の財務の健全性等を勘案した上で、国民に還元されるべきとされている日本銀行の利益の特質等に留意しつつ、引き続き適切に承認又は認可を行っていくことが必要である。

本院としては、今後の金融経済情勢の変化を踏まえつつ、今後とも日本銀行の財務の状況について引き続き検査していくこととする。