歳入歳出決算等の検査対象別の概要は第2節に記述するとおりであるが、国の会計等のより的確な理解に資するために、決算でみた国の財政状況について、その現状を述べると次のとおりである。
我が国の財政状況をみると、昭和40年度に初めて歳入補填のための国債が発行されて以降、連年の国債発行により国債残高は増加の一途をたどり、平成29年度末において、建設国債(注1)、特例国債(注2)、復興債(注3)等のように利払・償還財源が主として税収等の歳入により賄われる国債(以下「普通国債」という。)の残高は853.1兆円に達している。そして、29年度一般会計歳出決算総額における国債の依存度は34.1%、国債の償還等に要する国債費の一般会計歳出決算総額に占める割合は22.9%となっており、財政は厳しい状況が続いている。
こうした状況の中で、政府は、8年12月に「財政健全化目標について」を閣議決定するなど、「財政構造改革元年」と位置付けた9年度以降、財政健全化のための目標を掲げて、目標達成に向けて毎年度の予算を作成するなどの取組を進めてきている。
25年には、「当面の財政健全化に向けた取組等について ― 中期財政計画 ― 」(平成25年8月閣議了解)において、①「国・地方を合わせた基礎的財政収支(注4)」(以下「国・地方PB」という。)を32年度(2020年度)までに黒字化し(以下、国・地方PBを32年度(2020年度)までに黒字化する財政健全化のための目標を「32年度黒字化目標」という。)、その後に②債務残高(注5)の対名目GDP比(以下、名目GDPを「GDP」という。)の安定的な引下げを目指すという財政健全化のための目標を掲げた。
そして、27年には、「経済財政運営と改革の基本方針2015」(平成27年6月閣議決定)において、「経済・財政再生計画」を定めて、①及び②の財政健全化のための目標を堅持するとともに、「集中改革期間(注6)における改革努力のメルクマール」として、30年度の国・地方PB赤字の対GDP比「▲1%程度」を目安とすることとして、「経済財政運営と改革の基本方針2017」(平成29年6月閣議決定)において、①及び②の財政健全化のための目標を同時に目指すこととした。
その後、政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2018」(平成30年6月閣議決定)において、「新経済・財政再生計画」を定めて、国・地方PBの黒字化の目標年度を37年度(2025年度)(以下、国・地方PBを37年度(2025年度)までに黒字化する財政健全化のための目標を「37年度黒字化目標」という。)とするとともに、国・地方PBの黒字化の目標年度である37年度(2025年度)までの中間年である33年度(2021年度)における中間指標として、国・地方PB赤字の対GDP比を29年度からの実質的な半減値(1.5%程度)、債務残高の対GDP比を180%台前半、財政収支赤字の対GDP比を3%以下と設定している。
また、国・地方PB、債務残高、財政収支及びそれぞれの対GDP比については、内閣府が、半年ごとに経済財政諮問会議に提出している「中長期の経済財政に関する試算」(以下「内閣府試算」という。)において、14年度以降の実績値等を示している。
前記のとおり、政府は財政健全化のための目標を掲げて、目標達成に向けて毎年度の予算を作成するなどの取組を進めてきているが、国の財政状況は、これらの取組の結果としての決算によって表される。本院は、これまで、財政の健全化に向けた政府の動向を踏まえつつ、国の決算額等により国の財政状況を継続して検査しており、平成28年度決算検査報告の第6章第1節第4「国の財政状況」において、財政健全化のための目標等において用いられる国・地方PB、財政収支対GDP比及び債務残高対GDP比について、28年度の国の一般会計の決算額等を用いて分析した結果を掲記するなどしている。
本院は、30年次の検査においては、正確性、有効性等の観点から、昨年次に引き続き、国の財政はどのような状況にあるのかについて、前記財政健全化のための目標、目安及び中間指標において用いられている、国・地方PB、国・地方PB対GDP比、財政収支対GDP比及び債務残高対GDP比の状況がどのようになっているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、29年度の国の一般会計及び特別会計の決算額等を対象として、一般会計の歳入決算明細書及び歳出決算報告書並びに特別会計歳入歳出決定計算書の決算額の内訳のほか、国の債務に関する計算書等の債務の額を分類及び集計するなどして分析するとともに、内閣府本府、財務本省及び厚生労働本省において関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
国・地方PBは、国民経済計算(注7)における基礎的財政収支を基に算出されるものであり、内閣府試算により公表されている。国・地方PBは、国民経済計算の作成基準等に従い各種の基礎統計を利用して推計されているものであるが、詳細な内訳等は公表されていない。
一方、決算額でみた国の一般会計の基礎的財政収支(以下「一般会計PB」という。)は、税収等(注8)と政策的経費(注9)から直接算出されるものであり、計算の基礎となる詳細な決算額を歳入決算明細書や歳出決算報告書等により把握することが可能である。
国・地方PBには国の特別会計や独立行政法人、地方公共団体等の決算が計算対象に含まれており、一般会計PBには含まれていないなどの点で相違があるが、内閣府試算で示されている14年度以降について、国・地方PB、一般会計PB及び地方の基礎的財政収支(以下「地方PB」という。)の推移をみると図1のとおりであり、国・地方PBと一般会計PBは29年度までおおむね同じように推移している。これは、地方財政計画を通じて国から地方に交付される地方交付税交付金等により地方の財源が保障される仕組みなどにより、地方PBがほぼ均衡して推移していることなどによる。そして、一般会計PBは、24年度以降は改善する傾向にあり、23年度の▲32.2兆円から29年度の▲9.8兆円へと22.3兆円改善しており、28年度は前年度に比べて3.3兆円悪化して▲15.5兆円となったものの、29年度は前年度に比べて5.6兆円改善して▲9.8兆円となっていて、国・地方PBは、29年度には▲15.7兆円となっている。
図1 国・地方PB、一般会計PB及び地方PBの推移
また、国・地方PB、一般会計PB及び地方PBのそれぞれの対GDP比をみると図2のとおりであり、国・地方PB対GDP比と一般会計PB対GDP比は、国・地方PBと一般会計PBと同様に、29年度までおおむね同じように推移している。そして、一般会計PB対GDP比は、24年度以降は改善する傾向にあり、23年度の▲6.5%から29年度の▲1.7%へと4.7ポイント改善しており、28年度は前年度に比べて0.6ポイント悪化して▲2.8%となったものの、29年度は前年度に比べて1.0ポイント改善して▲1.7%となっていて、国・地方PB対GDP比は、29年度には▲2.9%となっている。
図2 国・地方PB、一般会計PB及び地方PBのそれぞれの対GDP比の推移
そこで、一般会計PBの推移の要因について、一般会計PBの内訳となる税収等及び政策的経費の9年度から29年度までの推移をみると、図3のとおりであり、全ての年度において政策的経費が税収等を上回っている。そして、24年度以降についてみると、税収等が増加傾向である一方、政策的経費が減少傾向であることから、前記のとおり、一般会計PBは改善する傾向にあり、28年度は、前年度に比べて政策的経費が0.3兆円減少したものの税収等が3.6兆円減少したため、一般会計PBの赤字が拡大したものの、29年度は前年度に比べて税収等は5.7兆円増加し、政策的経費は0.1兆円増加して、税収等の増加が政策的経費の増加を上回ったことから、一般会計PBの赤字は縮小している。
図3 税収等及び政策的経費の推移
29年度における前年度からの税収等の増加5.7兆円の内訳を性質別等にみると、図4のとおり、租税及印紙収入が3.3兆円、前年度剰余金受入が1.2兆円、雑収入等の「その他」が1.1兆円それぞれ増加しており、税収等の増加の主な要因は租税及印紙収入の増加となっている。
図4 平成29年度における前年度からの税収等の増加の内訳
そこで、25年度から29年度までの直近5年間の租税及印紙収入及び前年度剰余金受入の推移についてみると、図5のとおり、租税及印紙収入は、26年度における消費税率(地方消費税分を含む。以下同じ。)の5%から8%への改定等により、25年度の46.9兆円から29年度の58.7兆円へと11.8兆円増加している。一方、前年度剰余金受入は、一般会計における毎年度の歳入決算総額から歳出決算総額を控除した残額について、財政法第41条に基づき、一般会計の翌年度の歳入に繰り入れられたものであり、一般会計の歳入決算総額が27年度まで減少傾向にあったことなどにより、25年度の10.6兆円から29年度の5.2兆円へと5.4兆円減少している。
図5 租税及印紙収入及び前年度剰余金受入の推移
29年度の租税及印紙収入は58.7兆円に上り、税収等65.7兆円の約9割を占めている。このうち主要な税目である所得税、法人税及び消費税の合計は48.3兆円となっていて、租税及印紙収入の約8割を占めている。上記3税の9年度から29年度までの推移を、景気動向の推移と併せてみると図6のとおりであり、所得税及び法人税は、おおむね、景気後退期に減少し、景気拡張期に増加しており、その推移はおおむね景気動向の推移と連動している。一方、消費税の推移は、所得税及び法人税と異なり、景気動向の推移とはほとんど連動しておらず、消費税率の5%から8%への改定があった26年度を除き、安定的である。そして、29年度の所得税、法人税及び消費税は、前年度からそれぞれ、1.2兆円、1.6兆円及び0.2兆円増加して、18.8兆円、11.9兆円及び17.5兆円となっており、一般会計PBの赤字の縮小要因となっている。
図6 所得税、法人税及び消費税と景気動向の推移
29年度における前年度からの政策的経費の増加0.1兆円の内訳を主要経費別にみると、図7のとおり、「その他」は0.6兆円減少しているものの、社会保障関係費が0.3兆円、地方交付税交付金等が0.2兆円、公共事業関係費が0.2兆円それぞれ増加しており、政策的経費の増加の主な要因は社会保障関係費、地方交付税交付金等及び公共事業関係費の増加となっている。
図7 平成29年度における前年度からの政策的経費の増加の内訳
そこで、25年度から29年度までの直近5年間の社会保障関係費、地方交付税交付金等及び公共事業関係費の推移についてみると、図8のとおり、社会保障関係費は高齢化に伴い年金、医療及び介護に係る経費が増加したことなどにより一貫して増加しており、29年度は25年度の29.2兆円に対して3.2兆円増の32.5兆円となっている。地方交付税交付金等は、地方税収の伸びなどを反映して、25年度の17.5兆円から28年度の15.3兆円へと2.2兆円減少していて、29年度には0.2兆円増加したものの、5年間では減少傾向となっている。公共事業関係費は、25年度の7.9兆円から27年度の6.3兆円へと減少傾向であったが、28年4月に発生した熊本地震等により、28年度は補正予算等が、29年度は前年度繰越額がそれぞれ多額に計上されたことなどにより、28、29両年度に歳出予算現額が増加し、予算が執行されたことに伴い、決算額も歳出予算現額と同様に増加したことから、28、29両年度はいずれも前年度に比べて増加している。
図8 社会保障関係費、地方交付税交付金等及び公共事業関係費の推移
29年度の社会保障関係費32.5兆円は、政策的経費75.5兆円の約4割を占めており、一般会計PBの赤字の支出面の大きな要因となっている。社会保障関係費は、図9のとおり、我が国の高齢化に伴い増加を続けており、特に、社会保障に関する大きな制度改正が行われた11年度(介護保険制度の円滑導入等)及び21年度(基礎年金国庫負担割合の引上げ等)については急増がみられる。
図9 社会保障関係費及び高齢化率の推移
財政収支対GDP比は、国民経済計算における財政収支とGDPを基に算出されるものであり、内閣府試算により公表されている。財政収支対GDP比は、国民経済計算の作成基準等に従い各種の基礎統計を利用して推計されているものであるが、詳細な内訳等は公表されていない。
一方、決算額でみた国の一般会計の財政収支(以下「一般会計財政収支」という。)は、税収等から財政経費(注10)を差し引いた収支差で表されるものであり、計算の基礎となる詳細な決算額を歳入決算明細書や歳出決算報告書等により把握することが可能である。
財政収支には、国の特別会計や独立行政法人、地方公共団体等の決算が計算対象に含まれており、一般会計財政収支には含まれていないなどの点で相違があるが、財政収支、一般会計財政収支及び一般会計PBのそれぞれの対GDP比について、14年度から29年度までの推移をみると図10のとおりであり、財政収支対GDP比と一般会計財政収支対GDP比はおおむね同じように推移している。これは、地方財政計画を通じて国から地方に交付される地方交付税交付金等により地方の財源が保障される仕組みなどにより、地方の財政収支がほぼ均衡して推移していることなどによる。また、同期間内において一般会計財政収支と一般会計PBの差である国債等の利払費等の金額の変動が少なかったため、一般会計財政収支対GDP比と一般会計PB対GDP比についても同じように推移している。そして、一般会計財政収支対GDP比は、15年度から19年度までの間及び24年度から29年度までの間は継続して改善する傾向にあり、14年度の▲5.3%から19年度の▲2.4%へと2.9ポイント、23年度の▲8.1%から29年度の▲3.2%へと4.9ポイントそれぞれ改善しており、28年度は前年度に比べて0.5ポイント悪化して▲4.4%となったものの、29年度は前年度に比べて1.1ポイント改善して▲3.2%となっていて、財政収支対GDP比は、29年度には▲4.2%となっている。
図10 財政収支、一般会計財政収支及び一般会計PBのそれぞれの対GDP比の推移
一般会計財政収支の内訳となる税収等と財政経費について、9年度から29年度までの推移をGDP成長率の推移と併せてみると図11のとおりであり、一般会計財政収支対GDP比が改善する傾向にあった15年度から19年度までの間及び24年度から29年度までの間についてみると、おおむね、GDP成長率が継続してプラスのときに、税収等が増加し、財政経費が減少する傾向が見受けられる。そして、29年度の財政経費は83.5兆円となっており、前年度から0.1兆円減少している。
図11 税収等、財政経費及びGDP成長率の推移
29年度における前年度からの財政経費の減少0.1兆円の内訳についてみると、図12のとおり、政策的経費は0.1兆円増加したものの、利払費等が0.3兆円減少しており、財政経費の減少の主な要因は利払費等の減少となっている。
図12 平成29年度における前年度からの財政経費の減少の内訳
利払費は普通国債の残高と金利(利率)によって定まる。普通国債の利率加重平均(年度末の残高に係る表面利率の加重平均)の推移は、図13のとおりであり、17年度には1.4%まで下がり、その後、27年度には1.0%とおおむね横ばいとなっている。そして、利払費等は、18年度の7.1兆円以降、普通国債の残高の累増による影響が普通国債の利率加重平均の低下による影響を上回っていることから増加傾向となっていたが、29年度においては、29年度末の普通国債の残高が前年度末と比べて22.6兆円増加して853.1兆円となっているものの、普通国債の利率加重平均が前年度1.0%と比べて更に低率の0.9%になったことなどから、前年度から0.3兆円減少の7.9兆円となっている。
図13 普通国債の残高、利払費等、利率加重平均の推移
また、直近5年間の普通国債の残高を利率別にみると、図14のとおりであり、割引国債(無利子)を含む利率1.0%未満の普通国債の残高は一貫して増加しており、25年度末の346.2兆円から29年度末の473.2兆円へと127.0兆円増加している。一方、利率1.0%以上の普通国債の残高は25年度末の397.6兆円から27年度末の419.1兆円へと21.4兆円増加したものの、利払費等が減少した28年度末以降は減少しており、27年度末の419.1兆円から29年度末の379.8兆円へと39.2兆円減少している。
図14 普通国債の残高の利率別の推移
債務残高とその内訳について、9年度以降の推移をみると図15のとおりであり、普通国債のうち復興債を除いた国債(以下「復興債を除いた普通国債」という。)が債務残高の大半を占めており、その残高は引き続き増加している。そして、復興債を除いた普通国債の29年度末の残高は、前年度末から23.8兆円増加(対前年度比2.8%増)して、847.6兆円となっている。
図15 債務残高の推移
復興債を除いた普通国債の29年度末における前年度末からの増加23.8兆円の内訳についてみると、図16のとおり、建設国債は0.7兆円、特例国債は23.9兆円それぞれ増加し、その他の普通国債は0.9兆円減少しており、復興債を除いた普通国債の増加の主な要因は、特例国債の増加となっている。
図16 復興債を除いた普通国債の平成29年度末における前年度末からの増加の内訳
そこで、25年度末から29年度末までの直近5年間の建設国債及び特例国債の残高の推移についてみると、図17のとおり、特例国債の残高が建設国債の残高を大幅に上回る状況が続いている。建設国債は25年度末258.0兆円から29年度末269.1兆円に一貫して増加しており、増加額は11.1兆円となっている。これに対して、特例国債は25年度末448.1兆円から29年度末552.8兆円に一貫して増加しており、増加額は建設国債を大幅に上回る104.7兆円となっている。
図17 建設国債及び特例国債の残高の推移
債務残高と債務残高対GDP比について、9年度から債務残高が計算できる28年度までの推移をGDPの推移と併せてみると図18のとおりであり、債務残高が一貫して増加しているのに対して、GDPが500兆円前後で推移しているため、債務残高対GDP比は、債務残高とおおむね同じように推移している。そして、27年度の債務残高対GDP比は、対前年度比0.7ポイント増の185.2%と、26年度からの増加幅は比較的抑えられているものの依然として26年度を上回っており、28年度は対前年度比2.4ポイント増の187.6%と、27年度に比べて増加幅が大きくなっている。
図18 債務残高と債務残高対GDP比の推移
そこで、24年度以降の債務残高対GDP比の増加について、その増加要因となる債務残高の前年度末からの増加率(以下「債務残高増加率」という。)及びGDP成長率のそれぞれの推移についてみると、図19のとおりであり、24年度以降全ての年度において、債務残高増加率はGDP成長率を上回っている。
図19 債務残高対GDP比の増加要因となる債務残高増加率及びGDP成長率の推移
国・地方PB及び国・地方PB対GDP比は、14年度以降、一般会計PB及び一般会計PB対GDP比とおおむね同じように推移する傾向にあり、29年度の一般会計PBは、前年度に比べて改善して▲9.8兆円となっている。一般会計PBとその内訳について年度別の推移をみると、9年度から29年度までの全ての年度において政策的経費が税収等を上回っている。そして、29年度の一般会計PBは、税収等の増加が政策的経費の増加を上回っていて、前年度に比べて赤字が縮小している。一般会計PBの推移の要因について、その内訳をみると、収入面では、29年度の税収等のうち、租税及印紙収入は3.3兆円、前年度剰余金受入は1.2兆円、雑収入等の「その他」は1.1兆円とそれぞれ前年度より増加している。租税及印紙収入及び前年度剰余金受入の直近5年間の推移をみると、租税及印紙収入は消費税率の5%から8%への改定等により増加しており、前年度剰余金受入は一般会計の歳入決算総額が27年度まで減少傾向にあったことなどにより減少している。そして、租税及印紙収入の約8割を占める所得税、法人税及び消費税が前年度からそれぞれ増加している。支出面では、29年度の政策的経費のうち、社会保障関係費は0.3兆円、地方交付税交付金等は0.2兆円、公共事業関係費は0.2兆円とそれぞれ前年度よりも増加している。社会保障関係費、地方交付税交付金等及び公共事業関係費の直近5年間の推移をみると社会保障関係費は一貫して増加、地方交付税交付金等は減少傾向、公共事業関係費は27年度まで減少傾向であったが、28年4月に発生した熊本地震等により、28年度は補正予算等が、29年度は前年度繰越額がそれぞれ多額に計上されたことなどにより、28、29両年度に歳出予算現額が増加し、予算が執行されたことに伴い、決算額も歳出予算現額と同様に増加したことから、28、29両年度はいずれも前年度に比べて増加している。29年度において政策的経費の約4割を占める社会保障関係費は、我が国の高齢化に伴い増加を続けており、一般会計PBの赤字の支出面の大きな要因となっている。
財政収支対GDP比は、14年度以降、一般会計財政収支対GDP比とおおむね同じように推移している。そして、一般会計財政収支と一般会計PBの差である利払費等の金額の変動が少なかったため、一般会計財政収支対GDP比と一般会計PB対GDP比も同じように推移しており、29年度の一般会計財政収支対GDP比は、前年度と比べて改善して▲3.2%となっている。一般会計財政収支対GDP比とその内訳について年度別の推移をみると、15年度から19年度までの間及び24年度から29年度までの間は改善する傾向にあり、この間、おおむね、GDP成長率が継続してプラスのときに、税収等が増加し、財政経費が減少する傾向が見受けられる。29年度における財政経費は前年度から減少しており、その内訳についてみると、政策的経費は0.1兆円増加したものの、利払費等は0.3兆円減少している。29年度の利払費等は、普通国債の残高が前年度末から増加しているものの、普通国債の利率加重平均が前年度から更に低率になったことなどから、前年度と比べて減少している。そして、普通国債の残高を利率別にみると、28年度末以降、利率1.0%以上の普通国債の残高が減少している。
復興債を除いた普通国債の残高は債務残高の大半を占めていて引き続き増加しており、復興債を除いた普通国債の29年度末の残高は、前年度末から23.8兆円増加(対前年度比2.8%増)して、847.6兆円となっている。復興債を除いた普通国債の29年度末における前年度末からの増加の内訳についてみると、建設国債は0.7兆円、特例国債は23.9兆円それぞれ増加し、その他の普通国債は0.9兆円減少しており、直近5年間の建設国債及び特例国債の残高の推移についてみると、特例国債の残高の増加額は建設国債を大幅に上回る104.7兆円となっている。
債務残高対GDP比は、9年度以降、債務残高とおおむね同じように推移している。27年度の債務残高対GDP比は、26年度からの増加幅は比較的抑えられているものの、依然として26年度を上回っており、28年度は27年度に比べて増加幅が大きくなっている。24年度以降の債務残高対GDP比の増加について、債務残高増加率及びGDP成長率のそれぞれの推移をみると、24年度以降全ての年度において、債務残高増加率はGDP成長率を上回っている。
本院としては、これらを踏まえて、国の財政状況について引き続き注視していくこととする。