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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 令和元年12月|

東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果について


第1 検査の背景及び実施状況

1 検査の要請の内容

会計検査院は、平成29年6月5日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月6日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。

一、会計検査及びその結果の報告を求める事項

(一)検査の対象

内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、独立行政法人日本スポーツ振興センター等

(二)検査の内容

東京オリンピック・パラリンピック競技大会に関する次の各事項

  1. ① 大会の開催に向けた取組等の状況
  2. ② 各府省等が実施する大会の関連施策等の状況

2 30年報告の概要

上記の要請により、会計検査院は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「大会」という。)に向けた取組状況等に関して、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、14府省等(注1)の本省、外局及び地方支分部局、9独立行政法人(注2)、日本中央競馬会(以下「JRA」という。)、18都道府県(注3)、同都道府県の92市区町村、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(26年以前は一般財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会。以下「大会組織委員会」という。)及び14府省等の国庫補助金等交付先又は委託先である23法人において、①大会の開催に向けた取組等の状況、②各府省等が実施する大会に関連して講ずべき施策(以下、大会に関連して講ずべき施策を「大会の関連施策」という。)等の状況等について検査を実施するなどして、30年10月4日に、会計検査院長から参議院議長に対してその結果を報告した(以下、この報告を「30年報告」という。)。

(注1)
14府省等  内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省
(注2)
9独立行政法人  国立研究開発法人情報通信研究機構、独立行政法人造幣局、同国際協力機構、同国際交流基金、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、独立行政法人日本スポーツ振興センター、同日本芸術文化振興会、 同日本貿易振興機構、同国際観光振興機構
(注3)
18都道府県  東京都、北海道、京都府、宮城、福島、茨城、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、石川、山梨、長野、静岡、兵庫、福岡、大分各県

30年報告における検査の結果の概要は、次のとおりである。

① 東京都及び特定非営利活動法人東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会(以下「招致委員会」という。26年3月解散)が国際オリンピック委員会(以下「IOC」という。)に提出した立候補ファイルにおける、大会の開催に要する経費(以下「大会経費」という。)の試算は、他の立候補都市と比較可能なようにIOCにより計上対象とする経費が設定されているため、輸送やセキュリティ等の大会の運営に要する経費が一部しか計上されていないなどしており、大会経費の全体を試算したものとはなっていない。

また、大会組織委員会が公表した大会経費V2(バージョン2。以下「V2予算」という。)における試算の対象は、大会組織委員会が負担して実施する全ての業務、東京都及び国(独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「JSC」という。)を含む。)が負担する所有施設の新規整備等となっている。一方、国及び都外自治体(東京都外の競技会場が所在する地方公共団体をいう。以下同じ。)が行う所有施設の改修整備や、「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の役割(経費)分担に関する基本的な方向について」(以下「大枠の合意」という。)に基づき国及び都外自治体が担うこととなっている業務の経費は、行政経費であるとして試算の対象となっておらず、V2予算は大会の開催に関連して行われる全ての業務に係る経費を示すものではない。

そして、国が29年度末時点で大会に関連して行う業務に要する経費の規模を公表しているのは、所定の要件を満たすとして各府省等が整理し、内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局(以下「オリパラ事務局」という。)へ回答した2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会関係予算(以下「オリパラ関係予算」という。)のみであり、オリパラ関係予算として整理されていないが、大会組織委員会を対象とするなど大会との関連性が強いと思料される業務に要する経費の規模は公表していない。

② 27年12月に新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議において決定された整備に係る財源、分担対象経費、分担割合等の内容(以下「財源スキーム」という。)に基づき、JSCが行う新国立競技場の整備に係る分担対象経費(スタジアム本体・周辺整備に係る工事及び設計・監理等に要する見込額等)1581億円の国、東京都等の分担内容は、国はその2分の1相当額である791億円を負担し、東京都は4分の1相当額である395億円を負担することとなっているが、東京都の負担見込額395億円については、29年度末時点で協定書等は締結されておらず、JSCへの入金時期や入金方法等は未定となっている。

③ 新国立競技場について、文部科学省に設置された大会後の運営管理に関する検討ワーキングチームにより29年11月に策定された「大会後の運営管理に関する基本的な考え方」(以下「基本的考え方」という。)によれば、31年年央を目途にコンセッション事業(公共施設等運営事業)(注4)等の民間事業化の事業スキームを構築して、公募を経て、大会終了後に改修を行い、34年後半以降の供用開始を目指すことなどとなっているが、29年度末時点で改修に係る財源や期間等は定まっていない。また、新国立競技場の完成後は、施設の維持管理費が必要とされ、民間事業化までの期間は所有者であるJSCの負担が生ずることが想定される。

④ 大会の円滑な準備及び運営に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図るための基本方針として、27年11月に「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」(以下「オリパラ基本方針」という。)が閣議決定された。オリパラ基本方針は、大会の円滑な準備及び運営の推進の意義に関する事項、大会の円滑な準備及び運営の推進のために政府が実施すべき施策に関する基本的な方針、大会の円滑な準備及び運営の推進に関して政府が講ずべき措置に関する計画等を定めたものである。各府省等は、大会の関連施策について、オリパラ基本方針に基づき、立案と実行に取り組むこととなっている。各府省等が実施する大会の関連施策等の状況について、29年5月に公表された「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営の推進に関する政府の取組の状況に関する報告」(以下「政府の取組状況報告」という。)に記載された取組内容に該当する25年度から29年度までの支出額は、計8011億余円(事業ごとの支出額を算出することが困難な事業等に係る支出額を除く。)となっている。各府省等が29年度までに実施した大会の関連施策の状況をみたところ、各府省等が実施する様々な施策において、大会の円滑な準備及び運営並びに大会終了後のレガシー(注5)の創出に資するための取組において課題等が見受けられた。

(注4)
コンセッション事業(公共施設等運営事業)  利用料金の徴収を行う公共施設について、施設の所有権を公共主体が有したまま、施設の運営権を民間事業者に設定する方式により運営を行う事業。公共主体が所有する公共施設等について、民間事業者による安定的で自由度の高い運営を可能とすることにより、利用者ニーズを反映した質の高いサービスの提供が可能となる。
(注5)
レガシー  オリンピック憲章により開催国と開催都市が引き継ぐよう奨励されている大会の有益な遺産。長期にわたる特にポジティブな影響であり、スポーツ、社会、環境、都市及び経済の5分野によるものをいう。

そして、30年報告の検査の結果に対する所見は、次のとおりである。

国は、大会の招致について、国際親善、スポーツの振興等に大きな意義を有するものであり、また、東日本大震災からの復興を示すものともなるとして東京都が招請することを了解して、万が一、大会組織委員会が資金不足に陥った場合は、東京都が補塡し、東京都が補塡しきれなかった場合には、最終的に、国が国内の関係法令に従い補塡すること、大会組織委員会の費用負担なしに、大会に関係する政府関連業務を提供することなどを内容とした政府保証書をIOCへ提出している。そして、大会の開催決定後は、大会が大規模かつ国家的に特に重要なスポーツの競技会であることに鑑み、オリパラ推進本部が行う総合調整の下、各府省等による大会の関連施策の立案及び実行により大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会、開催都市である東京都等が実施する取組の支援に取り組んできたところである。

会計検査院が検査したところ、各府省等が実施した大会の関連施策に係る25年度から29年度までの支出額は計8011億余円となっており、各府省等が実施する大会の関連施策については、30年度以降も大会の開催に向けて多額の支出が見込まれる。

今後、大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会を中心として大会の開催に向けた準備が加速化していくことから、オリパラ事務局、各府省等及びJSCは、引き続き次の点に留意するなどして、大会組織委員会、東京都、都外自治体等の関係機関と連携して、32年7月からの開催に向けて、大会の円滑な準備、運営等に資する取組を適時適切に実施していく必要がある。

  • ア オリパラ事務局は、国が担う必要がある業務について国民に周知し、理解を求めるために、大会組織委員会が公表している大会経費の試算内容において国が負担することとされている業務や、オリパラ事務局がオリパラ関係予算として取りまとめて公表している業務はもとより、その他の行政経費によるものを含めて、大会との関連性に係る区分及びその基準を整理した上で大会の準備、運営等に特に資すると認められる業務については、各府省等から情報を集約して、業務の内容、経費の規模等の全体像を把握して、対外的に示すことを検討すること
  • イ JSCは、新国立競技場の整備等の業務に係る確実な財源の確保等のために、財源スキームに基づく東京都の負担見込額395億円について東京都と協議を進めて、速やかに特定業務勘定への入金時期等を明確にするなどしていくこと
  • ウ 早期に新国立競技場の大会終了後の活用に係る国及びJSCの財政負担を明らかにするために、JSCは、大会終了後の改修について文部科学省、関係機関等と協議を行うなどして速やかにその内容を検討して、的確な民間意向調査、財務シミュレーション等を行うこと、また、文部科学省は、その内容に基づき民間事業化に向けた事業スキームの検討を基本的考え方に沿って遅滞なく進めること
  • エ 大会の関連施策を実施する各府省等は、大会組織委員会、東京都等と緊密に連携するなどして、その実施内容が大会の円滑な準備及び運営並びに大会終了後のレガシーの創出に資するよう努めること。また、オリパラ事務局は、引き続き大会の関連施策の実施状況について政府の取組状況報告等の取りまとめにより把握するとともに、各府省等と情報共有を図るなどしてオリパラ基本方針の実施を推進すること

3 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

会計検査院は、30年報告において、今後、大会の開催に向けた準備が加速化し、32(令和2)年には大会の開催を迎えることになることから、引き続き大会の開催に向けた取組等の状況及び各府省等が実施する大会の関連施策等の状況について検査を実施して、その結果については、取りまとめが出来次第報告することとした。

オリパラ基本方針によれば、大会の成功のためには、国、大会組織委員会、東京都及び競技会場が所在する地方公共団体が一体となって取り組むことが不可欠とされており、政府の取組状況報告によれば、国は大会の円滑な準備及び運営の実現に向けて、大会組織委員会、東京都及び競技会場が所在する地方公共団体と密接な連携を図り、オールジャパンでの取組を推進するために必要な措置を講ずるために、政府一体となって、オリパラ基本方針に基づき施策を総合的に推進しているところであるとしている。

そして、30年報告以降、新国立競技場等の大会に必要な施設(以下「大会施設」という。)の整備が進むなど、大会の開催に向けた準備は佳境を迎えつつあり、また、30年度以降、多数執行される見込みであるパラリンピック競技大会の大会施設及び運営に必要な経費(以下「パラリンピック経費」という。)に対しては、国の負担額として既に東京都に交付されている東京パラリンピック競技大会開催準備交付金(以下「パラリンピック交付金」という。)も充てられることとなる。

そこで、今回の検査では、前記の要請の趣旨を踏まえて、大会の開催準備の進捗状況、パラリンピック経費の執行状況、30年報告の検査結果に対して執られた改善の処置の状況等について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した(以下、30年報告の検査結果に対して執られた改善の処置の状況について確認する検査を「フォローアップ検査」という。)。

ア 大会の開催に向けた取組等の状況

(ア) 国は、大会の開催に向けて、大会の準備及び運営を行う主体である大会組織委員会、開催都市である東京都等とどのように情報共有を図るなどして相互に連携して、取組内容等の調整を図っているか。

(イ) 国が既にその一部を負担している経費や今後負担することとなる経費が含まれている大会経費の試算等の内容はどのようになっているか。特に、オリパラ事務局は、30年報告を踏まえて、大会との関連性に係る区分及びその基準を整理した上で、大会の準備、運営等に特に資すると認められる業務について、各府省等から情報を集約して業務の内容、経費の規模等の全体像を把握し、公表しているか。

(ウ) 国が東京都に交付したパラリンピック交付金について、大会組織委員会によるパラリンピック経費の執行、共同実施事業管理委員会(注6)によるパラリンピック経費の確認及び東京都による額の確定は適切に行われているか。

(エ) 新国立競技場等の大会施設の整備状況等はどのようになっているか。特に、新国立競技場の整備に係る財源の確保、大会終了後の活用方法の検討等について、30年報告以降の進捗状況はどのようになっているか。

イ 各府省等が実施する大会の関連施策等の状況

(ア) 各府省等が実施する大会の関連施策の実施体制及び実施状況はどのようになっているか。また、実施内容は大会の円滑な準備及び運営並びに大会終了後に残すべきレガシーの創出に資するものとなっているか。特に、30年報告において課題等が見受けられた大会の関連施策についての実施状況は改善されているか。

(イ) 各府省等が実施する大会の関連施策以外に、東京都(大会施設が所在する11市区(注7)を含む。)、都外自治体である8道県(注8)15市町(注9)等が実施する大会の関連施策等に対する各府省等の支援状況はどのようになっているか。

(注6)
共同実施事業管理委員会  大枠の合意に基づき、大会経費のうち、大会準備のために、大会組織委員会が東京都、国等の役割(経費)分担に応じた負担金を使用して実施する事業である共同実施事業に関し、コスト管理・執行統制等の観点から、国、東京都及び大会組織委員会の三者間において、大会組織委員会による各種取組等について確認の上、必要に応じて指摘を行うことなどにより共同実施事業の適切な遂行に資する管理を行うことを目的とする協議の場
(注7)
11市区  調布市、千代田、中央、港、新宿、墨田、江東、品川、世田谷、渋谷、江戸川各区
(注8)
8道県  北海道、宮城、福島、茨城、埼玉、千葉、神奈川、静岡各県
(注9)
15市町  札幌、福島、鹿嶋、さいたま、川越、狭山、朝霞、新座、千葉、横浜、藤沢、伊豆各市、宮城郡利府、長生郡一宮、駿東郡小山各町

(2) 検査の対象及び方法

大会の開催に向けた取組等の状況については、25年度から30年度まで(一部については令和元年度まで)に各府省等、JSC及びJRAが実施した大会施設の整備状況等について検査するとともに、東京都、大会組織委員会及び都外自治体が国庫補助金等を活用するなどして実施した大会施設の整備状況等について検査した。また、各府省等が実施する大会の関連施策等の状況については、平成25年度から30年度まで(一部については令和元年度まで)に14府省等が実施した大会の関連施策等に係る事業の実施状況等について検査した。

検査に当たっては、14府省等の本省、外局及び地方支分部局、4独立行政法人(注10)、JRA、24都道県(注11)、同都道県の70市町村、大会組織委員会及び14府省等の国庫補助金等交付先又は委託先である31法人において、大会施設の整備状況、各府省等の大会の関連施策の実施状況等について、672人日を要して会計実地検査を行うなどして、調書及び関係資料を徴したり、担当者等から説明を聴取したりなどした。また、公表されている資料等を基に調査分析を行った。

なお、公益財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)、大会組織委員会、地方公共団体等において国庫補助金等の交付を受けずに実施されているなどの会計検査院の検査権限が及ばない取組等については、協力が得られた範囲で説明を受けるなどして調査を行った。

(注10)
4独立行政法人  国立研究開発法人情報通信研究機構、同新エネルギー・産業技術総合開発機構、JSC、独立行政法人国立病院機構
(注11)
24都道県  東京都、北海道、岩手、宮城、山形、福島、茨城、埼玉、千葉、神奈川、山梨、岐阜、静岡、三重、兵庫、鳥取、山口、徳島、高知、福岡、佐賀、長崎、大分、宮崎各県