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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

高度無線環境整備推進事業により整備された伝送用専用線設備について、利用状況の評価により十分に活用されているか把握できるようにするとともに、十分に活用されていない場合には、必要に応じて補助事業者に助言等を行うことができるように、更に活用する方策を検討するよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)総務本省 (項)電波利用料財源電波監視等実施費
部局等
総務本省
補助の根拠
電波法(昭和25年法律第131号)
補助事業
高度無線環境整備推進事業
補助事業の概要
電波の能率的な利用に資する技術を用いて行われる無線通信を利用することが困難な地域の解消を図るため、当該無線通信の業務の用に供する無線局の開設に必要な伝送用専用線設備を整備するもの
検査の対象とした補助事業者数、事業数及び国庫補助金交付額
31補助事業者 63事業 72億9457万余円(令和元年度~3年度)
上記のうち整備した伝送用専用線設備が十分に活用されていない事業に係る補助事業者数、事業数及び国庫補助金交付額
20補助事業者 31事業 34億3066万円(令和元年度~3年度)

【意見を表示したものの全文】

高度無線環境整備推進事業により整備された伝送用専用線設備の利用状況等について

(令和5年10月10日付け 総務大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 高度無線環境整備推進事業の概要等

(1) デジタル社会の実現に向けた政府の取組状況

デジタル社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進し、もって我が国経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福な生活の実現に寄与することを目的として、令和3年9月に、デジタル社会形成基本法(令和3年法律第35号。以下「基本法」という。)が施行された。

基本法によれば、デジタル社会の形成に関する施策の策定に当たっては、高度情報通信ネットワークの利用及び情報通信技術を用いた情報の活用の機会における格差が生じないよう、情報の取得及び利用の機会を確保するための情報通信機器の研究開発の推進及びその導入の促進その他の全ての国民に当該機会の確保が図られるようにするために必要な措置が講じられなければならないとされており、政府は、デジタル社会の形成に関する重点計画を作成しなければならないこととされている。

そして、基本法に基づき4年6月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」によれば、デジタル社会の実現に向けて、全国の光ファイバ世帯カバー率(注1)を9年度末までに99.9%(未整備世帯約5万世帯)とすることを目指すとともに、未整備世帯についても光ファイバを必要とする全地域の整備を目指すこととされている。また、同計画における基本的な施策の一つとして、過疎地、辺地等の条件不利地域において通信インフラの整備を推進することが引き続き掲げられており、このために、元年度から開始されている高度無線環境整備推進事業(以下「高度無線事業」という。)等を実施することとなっている。

(注1)
光ファイバ世帯カバー率  住民基本台帳等に基づき、一定の仮定の下に推計した利用可能世帯数を総世帯数で除した数値

(2) 高度無線事業の概要

貴省は、電波法(昭和25年法律第131号)に基づき、無線通信の利用可能な地域の拡大等を図ることなどを目的として無線システム普及支援事業費等補助金を交付している。同補助金の交付対象事業には、電波の能率的な利用に資する技術を用いて行われる無線通信を利用することが困難な地域の解消を図るため、当該無線通信の業務の用に供する無線局(注2)の開設に必要な伝送用専用線設備(注3)を整備することを目的とする高度無線事業がある。

無線システム普及支援事業費等補助金交付要綱(平成17年11月総基移第380号。以下「交付要綱」という。)によれば、高度無線事業は、原則として、条件不利地域を含む都道府県又は市町村において事業を行うものに限ることとされている。また、補助の対象となる経費は、伝送用専用線設備の整備に要する経費に限られ、無線設備は、補助事業者の責任において設置することとされている。さらに、補助事業者は、事業終了後、速やかに無線局が開設されるように留意することや、交付申請時に総務大臣に提出した光ファイバ整備計画及び無線局開設計画において設定した目標の達成状況等について評価(以下「事後評価」という。)を行い、これを公表するとともに、事後評価に関する報告書を総務大臣に提出することなどとされている。そして、同報告書の提出を受けた総務大臣は、補助事業者に対して必要な助言をすることができることなどとされている。

また、「無線システム普及支援事業費等補助金高度無線環境整備推進事業実施マニュアル」(以下「マニュアル」という。)によれば、事後評価として、高度無線事業を実施した地域におけるインターネットサービスの提供開始から2年後の年度末時点において中間評価を行い、中間評価から1年が経過した最初の9月末時点において再評価を行うこととされている。また、目標の達成状況を測定する評価指標については、無線局として家庭内にWi―Fiを設置する場合は、家庭内Wi―Fiの設置世帯数とすることなどが例示されていて、高度無線事業により達成される目標値及び目標年度を評価指標ごとに補助事業者が設定することとされている。

(注2)
無線局  マニュアルにおいて、無線局の種類として5G、LTE、Wi―Fi等が示されていて、その使用例として家庭内Wi―Fiを用いたインターネット接続、農業IoT、教育IoT、観光IoT、コワーキングスペース、スマートモビリティ、スマートホーム等が考えられるとされている。
(注3)
伝送用専用線設  備無線局の開設に必要な伝送路設備、伝送路設備と一体として設置される附属設備及びこれらの設備を設置するために必要な工作物

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、高度無線事業により国庫補助金を用いて整備された伝送用専用線設備が十分に活用されているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、元年度から3年度までに実施された高度無線事業390事業(国庫補助対象事業費計1021億9817万余円、国庫補助金交付額計407億3175万余円)のうち、14道県(注4)管内において31補助事業者が実施した63事業(国庫補助対象事業費計183億3952万余円、国庫補助金交付額計72億9457万余円)を対象として、31補助事業者において無線局開設計画、実績報告書等を確認し、また、貴省本省において事後評価の把握状況を確認するなどして会計実地検査を行った。

(注4)
14道県  北海道、岩手、群馬、長野、静岡、兵庫、奈良、島根、岡山、広島、山口、愛媛、大分、鹿児島各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 目標値の設定状況及び事後評価の状況

63事業に係る31補助事業者が設定した評価指標をみると、いずれの高度無線事業においても、マニュアルにおける例示を踏まえて、家庭内Wi―Fiの設置世帯数、公共用Wi―Fiの設置箇所数等の補助事業者の責任で設置することとされている伝送用専用線設備に接続する無線局の数が設定されていた。また、マニュアルにおいて目標値の具体的な設定方法は定められていないことなどから、補助事業者は、地域の実情を踏まえるなどして、それぞれの考え方に基づいて目標値を設定していた。

そして、63事業のうち、中間評価の実施時期が到来していた11事業における事後評価の内容をみると、上記のとおり、補助事業者がそれぞれの考え方に基づき目標値として設定した無線局の数に対する達成状況の評価が行われていたものの、整備された伝送用専用線設備そのものの利用状況について評価が行われるものとはなっていなかった。このため、今後事後評価が行われる事業も含めて、貴省において、整備された伝送用専用線設備が十分に活用されているか把握できない状況となっていた。

(2) 高度無線事業により整備された伝送用専用線設備の利用状況

高度無線事業では、国庫補助金により伝送用専用線設備が整備されていることから、その評価に当たっては、接続する無線局の数について補助事業者がそれぞれの考え方に基づき設定した目標値に対する達成状況の評価のほか、当該設備そのものの利用状況の評価を行うことも重要である。

そこで、前記の31補助事業者が実施した63事業について、補助事業者が整備した伝送用専用線設備により提供できるインターネットサービス等の回線数に対する利用回線数の割合(以下「利用率」という。)を評価指標として、本院において利用状況の評価を行った。その結果、図表1のとおり、利用率が100%となっているものがあった一方、補助事業の完了日から1年経過時点で5.5%(最小値)にとどまっているものや、同3年経過時点で26.0%にとどまっているものがあるなど、利用率が50%未満のものは、20補助事業者が実施した31事業(国庫補助対象事業費計82億7868万余円、国庫補助金交付額計34億3066万余円)となっていて、63事業の約半数は、整備された伝送用専用線設備が十分に活用されていない状況となっていると認められた。

なお、63事業の中には、提供できるインターネットサービス等の回線数が整備対象地域に居住する世帯数等を超えていたものは見受けられなかった。

図表1 補助事業の完了日からの経過期間別の利用率の状況(4年度末時点)

図表1 補助事業の完了日からの経過期間別の利用率の状況(4年度末時点)画像

さらに、前記63事業のうち、4年度末時点における目標値の達成状況を把握できた46事業について、補助事業者が目標値として設定した無線局の数に対する実績値の割合(以下「達成率」という。)と利用率との関係についてみると図表2のとおり、達成率が100%以上となっている33事業の利用率は15.9%から100%となっていて、目標値を達成していたものの、利用率でみると50%未満となっているものが15事業(国庫補助対象事業費計40億5573万余円、国庫補助金交付額計17億7291万余円)見受けられた。

図表2 達成率と利用率の関係

図表2 達成率と利用率の関係画像

<事例>

木曽広域連合は、令和元、2両年度に、長野県木曽郡南木曽、木曽両町内でインターネットサービスを提供するなどのため、インターネットサービス等の回線数5,272回線分の伝送用専用線設備を整備していた(国庫補助対象事業費2億8246万余円、国庫補助金交付額1億4123万余円)。同連合は、高度無線事業を行うに当たり、整備対象地域内に居住する世帯のうちインターネットサービスに加入する世帯数を1,460と推計した上、このうち7割が家庭内Wi―Fiを設置すると見込み、無線局開設計画において、家庭内Wi―Fiの設置世帯数を1,022とする目標値を設定していた。そして、同連合は、4年度末に中間評価を行い、上記の目標値を達成したとする報告書(達成率151.5%)を総務大臣に提出していた。

しかし、目標値を達成していたものの、同年度末時点において、インターネットサービス等の回線数5,272回線に対して利用回線数は1,625回線(利用率30.8%)となっていた。

このように、補助事業者が設定した目標値を達成していた事業の中にも、利用率が50%未満となっている事業が見受けられたことから、整備された伝送用専用線設備そのものの利用状況の評価を行うことも必要であると認められた。また、前記のように高度無線事業により整備された伝送用専用線設備が十分に活用されていない事業があるにもかかわらず、貴省は、これらの伝送用専用線設備を更に活用する方策を十分に検討するなどしていなかった。

(改善を必要とする事態)

高度無線事業により整備された伝送用専用線設備について、事後評価の内容は利用状況の評価が行われるものとなっておらず、十分に活用されているか把握できない状況となっており、また、十分に活用されていない伝送用専用線設備について、更に活用する方策を十分に検討するなどしていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、整備された伝送用専用線設備について、利用状況の評価を行うことの重要性について認識が欠けていること、また、十分に活用することの重要性について理解が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

高度無線事業は、元年度から国庫補助金を用いて実施されており、5年度以降も引き続き実施されることとなっている。

ついては、貴省において、高度無線事業により整備された伝送用専用線設備が十分に活用されるよう、次のとおり意見を表示する。

ア 整備された伝送用専用線設備について、利用状況の評価を行う方法について検討した上で、利用状況の評価により十分に活用されているか把握できるようにすること

イ 十分に活用されていない伝送用専用線設備について、必要に応じて補助事業者に助言等を行うことができるように、更に活用する方策を検討すること