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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

無償資金協力(草の根・人間の安全保障無償資金協力)の実施に当たり、小学校等の建設工事を実施する事業において、進捗状況の確認のために事業実施機関から取り付けることとしていた中間報告書が期限までに未提出であるなどの場合、遅延の原因の究明や工事の現況把握のための現地訪問等により事業の進捗を確認する措置を十分に講ずるなどして、無償資金協力の効果が十分に発現するよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)外務本省 (項)経済協力費
部局等
外務本省
政府開発援助の内容
無償資金協力
検査及び調査の実施事業数並びにこれらの事業に係る贈与額計
29事業 125億0829万余円 (平成24年度~26年度、28年度~令和2年度)
事業の目的が全く達成されていない状況となっていて無償資金協力の効果が全く発現していないと認められる事業数及び贈与額計
2事業1863万円(平成30、令和元両年度)
事業の目的が十分に達成されていない状況となっていて無償資金協力の効果が十分に発現していないと認められる事業数及び贈与額
1事業1635万円(背景金額)(平成30、令和2両年度)

【意見を表示したものの全文】

無償資金協力(草の根・人間の安全保障無償資金協力)の実施状況について

(令和5年10月19日付け 外務大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 政府開発援助の概要

開発協力大綱(令和5年6月閣議決定)によれば、我が国は、開発途上国との対等なパートナーシップに基づき、開発途上国の開発課題や人類共通の地球規模課題の解決に共に対処し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の下、平和で安定し、繁栄した国際社会の形成に一層積極的に貢献することなどを目的として、開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動を一層戦略的、効果的かつ持続的に実施していくこととされている。そして、政府開発援助について、その他公的資金や民間資金との連携を強化し、開発のための相乗効果を高めていくこととされている。

貴省は、援助政策の企画立案や政策全体の調整等を実施するとともに、自らも、無償の資金供与による協力(以下「無償資金協力」という。)等を実施している。また、独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)は、無償資金協力、技術協力、有償の資金供与による協力等を実施している。このほか、各府省庁がそれぞれの所掌に係る国際協力として技術協力を実施するなどしている。

このうち、無償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、返済の義務を課さないで資金を贈与することにより実施されるものである。無償資金協力は、貴省が実施する一部の無償資金協力を除き、機構が実施することとなっている。貴省が実施することとなっている無償資金協力の中には、在外公館が資金を贈与する草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下「草の根無償」という。)等がある。草の根無償は、開発途上国で活動するNGO、地方公共団体、教育機関等の非営利団体を対象とし、事業の実施期間が贈与契約締結日から1年以内に完了することとされている比較的小規模なプロジェクトである。

令和4年度に貴省及び機構が実施した無償資金協力の実績は2745億2142万余円(うち草の根無償60億5810万余円)となっている。

2 本院の検査及び調査の結果

(検査及び調査の観点及び着眼点)

本院は、貴省又は機構が実施する無償資金協力を対象として、合規性、効率性、有効性等の観点から、貴省及び機構は、交換公文、贈与契約等に則して援助を実施しているか、援助を実施した後に、事業全体の状況を的確に把握、評価して、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか、また、援助の相手となる国又は地域(以下「相手国」という。)等において、援助の対象となった施設、機材等は当初計画したとおりに十分に利用されているかなどに着眼して、検査及び調査を実施した。

(検査及び調査の対象及び方法)

本院は、無償資金協力29事業(贈与額計125億0829万余円、うち草の根無償14事業に係る贈与額計1億3341万余円)を対象として、貴省本省及び機構本部において援助対象事業について協力準備調査報告書等を確認して、説明を聴取するなどして会計実地検査を行うとともに、2か国(注1)に所在する在外公館及び機構の在外事務所において事業の実施状況について説明を聴取するなどし、2か国(注2)に所在する在外公館及び機構の在外事務所から事業に係る資料等や現地の画像の提出を求めてその内容を確認したほか、情報通信システムを活用して事業の実施状況等について説明を聴取するなどして検査した。

また、貴省又は機構の職員の立会いの下に相手国等の協力が得られた範囲内で、2か国(注1)の事業実施責任者等から直接説明を受けて事業現場の状況を確認するなどして現地調査を実施し、ネパールの事業実施責任者等から情報通信システムを活用して説明を受けるなどして調査した。さらに、相手国等の保有している資料等で調査上必要なものがある場合は、貴省又は機構を通じて入手した。

(注1)
2か国  ヨルダン・ハシェミット王国、タイ王国
(注2)
2か国  フィジー共和国、ネパール

(検査及び調査の結果)

検査及び調査を実施したところ、次のとおり、草の根無償2事業(贈与額計1863万余円)については事業の目的が全く達成されていない状況となっていて無償資金協力の効果が全く発現しておらず、また同1事業(同1635万余円)については事業の目的が十分に達成されていない状況となっていて無償資金協力の効果が十分に発現していなかった。

(1) 草の根無償:ナヴアケゼ・ディストリクト小学校整備計画

ア 事業の概要

この事業は、フィジー共和国ナイタシリ県にあるナヴアケゼ・ディストリクト小学校内に新校舎を建設することで、二つの学年を併せて1学級となっている複式学級を解消するなどして児童及び教職員に適切な教育等の環境を整備することを目的とするものである。

在フィジー日本国大使館(以下「大使館」という。)は、平成30年12月に、事業実施機関であるナヴアケゼ・ディストリクト小学校との間で贈与契約を締結し、31年1月に、この事業に必要な資金として、82,176.48米ドル(邦貨換算額920万余円)を贈与している。また、事業計画において、事業実施期間を6か月としている。

そして、草の根無償については、貴省が定めた「草の根・人間の安全保障無償資金協力ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)によれば、事業実施機関は、贈与契約に定められた供与限度額及び品目の範囲内で供給業者と調達契約を結ぶなどして調達を行うこととされており、在外公館は、事業実施機関に専用口座を開設させ、贈与した資金を事業実施機関が口座から引き出す前に支出の裏付けとなる請求書等によりその使途を確認することなど、供与資金の適正使用を担保し、確認する手段を講ずることとされている。また、事業の進捗の把握や問題の早期発見、対応を目的として、現地視察等を行うこととされている。

本事業では、大使館は、ガイドラインの定めなどに基づき、事業計画において、事業実施機関による資金の引出しに際しては、事前に請求書等の証拠書類を提示させその使途等を確認するなどとしている。また、事業の進捗を確認するために、事業の中間時点である贈与契約締結後3か月以内に事業実施機関から中間報告書を取り付け、大使館からも電話等により適宜進捗状況を確認するなどとしている。

イ 検査の結果

検査したところ、事業実施機関と施工業者との間の契約において、支払は9段階の建設工事の工程に応じて行われるとされ、大使館によると、5段階目までの工事分に相当する支払が行われていたものの、資金を管理していた当時のスクールマネージャーが、本事業の供与対象ではないホール建設に資金を流用するなどしたために、資金が不足するなどしたとしていて、建設工事が中断していた。そして、新校舎は基礎工事及び外壁工事が完了したのみで完成しておらず、新校舎を建設することにより、二つの学年を併せて1学級となっている複式学級を解消するなどして児童及び教職員に適切な教育等の環境を整備するという事業の目的が全く達成されていない状況となっていた。

上記の状況に関し、大使館は、事業計画に定めていた、事業実施機関が資金を引き出す際の請求書等の証拠書類による事前の使途等の確認を一度も行っておらず、資金の引出しが、新校舎の建設工事の契約書に記載された段階どおりのものとなっていないことなどを把握していなかった。

また、贈与契約締結後3か月以内に取り付けるとしていた中間報告書は未提出の状況が続いていたのに、大使館は、電話等で中間報告書の提出を督促するのみであった。そして、月1回程度工事の進捗は問題がないといった報告を電話で受けたとしているものの、口頭での報告内容の根拠の確認や、中間報告書の提出が遅延している原因の究明、工事の現況を把握するための現地訪問等、事業の進捗を確認する措置を十分に講じていなかった。

そして、大使館は、事業完了予定時期を1年以上経過した令和2年9月に、事業を前任者から引き継いだ事業実施機関のスクールマネージャー等の要請により現地訪問を行い、新校舎の建設工事が中断していることなどを把握したが、事業実施機関に対して自助努力によって新校舎の建設工事を完了させることなどを指示していたのみで十分な働きかけを行っておらず、建設工事は中断したままとなっていた。

(2) 草の根無償:カランブ小学校整備計画

ア 事業の概要

この事業は、フィジー共和国カランブ村にあるカランブ小学校内にトイレ棟及び幼稚園舎を建設することなどにより、生徒、園児及び教職員の学習等の環境の改善を図ることを目的とするものである。

大使館は、元年12月に、事業実施機関であるカランブ小学校との間で贈与契約を締結し、2年1月に、この事業に必要な資金として、85,706.03米ドル(邦貨換算額942万余円)を贈与している。

また、事業実施機関は贈与契約締結の同日に、施工業者とトイレ棟及び幼稚園舎の建設等を行う契約を締結している。

そして、大使館は、本事業では、ガイドラインの定めなどに基づき、事業計画において、事業実施機関による資金の引出しに際しては、事前に請求書等の証拠書類を提示させその使途等を確認するなどとしている。また、事業の進捗を確認するために、事業の中間時点である贈与契約締結後6か月以内に事業実施機関から中間報告書を取り付け、大使館からも電話等により適宜進捗状況を確認するなどとしている。

イ 検査の結果

検査したところ、事業実施機関と施工業者との間の契約において、トイレ棟及び幼稚園舎の建設それぞれについて4段階の工程があり、支払は工程に応じて行われるとされ、大使館によると、事業実施機関は、工程等に応じて支払を行っていたが、2年5月に前払金を含む5回目の建設工事費等を支払って以降施工業者と連絡がとれなくなったとしており、トイレ棟及び幼稚園舎はいずれも未完成のまま工事が中断していて、トイレ棟及び幼稚園舎を建設することなどにより、生徒、園児及び教職員の学習等の環境を改善するという事業の目的が全く達成されていない状況となっていた。

上記の状況に関し、大使館は、事業計画に定めていた、事業実施機関が資金を引き出す際の請求書等の証拠書類による事前の使途等の確認を一度も行っていなかった。

また、贈与契約締結後6か月以内に取り付けるとしていた中間報告書は期限内に提出されなかった。しかし、コロナ禍のため出張を抑制していたこともあり、大使館は、現地訪問によらず電話により状況を確認していたとしているものの、中間報告書の提出を督促するのみで、口頭での聞き取り内容の根拠の確認や中間報告書の提出が遅延している原因の究明等を行っておらず、事業の進捗状況を十分に確認できていなかった。このため、大使館は、事業実施機関が施工業者と連絡がとれなくなっていて工事が中断していることについて、同年9月に事業実施機関からの報告があるまで把握していなかった。

さらに、大使館は、事業実施機関が施工業者と連絡がとれなくなっている状況を把握した2年9月以降も、数か月にわたり施工業者と連絡が可能であったとしていて、施工業者に複数回面談の約束を取り付けたとしていた。しかし、その面談の約束が全てキャンセルされていたのに、大使館は、施工業者の事務所等に事業実施機関と共に赴いて協議するなど、事業継続のために必要な措置を十分に講じていなかった。そして、工事が中断している原因の究明や事業実施機関が工事未完了分について返金を受けることなどができないまま、3年4月頃に大使館も施工業者と連絡がとれなくなる状況となっていた。

(3) 草の根無償:バウ・ディストリクト小学校整備計画

ア 事業の概要

この事業は、フィジー共和国バウ島にあるバウ・ディストリクト小学校内に校舎及び寄宿舎を建設することなどで、複式学級の解消や、児童や園児、教職員の生活環境の改善等を図ることを目的とするものである。

大使館は、平成31年2月に、事業実施機関であるバウ・ディストリクト小学校との間で贈与契約を締結し、同年3月に、事業に必要な資金として、141,389.98米ドル(邦貨換算額1583万余円)を贈与している。また、大使館は、贈与を受けて建設した校舎及び建設中であった寄宿舎が大型サイクロンによって損傷したとして、令和2年8月、修復工事及び追加資材調達のためのフォローアップ費4,741米ドル(邦貨換算額52万余円)を更に贈与している。

そして、事業実施機関は、当初の贈与契約に基づいて施工業者と校舎及び寄宿舎の建設等を行う契約(以下「当初契約」という。)を締結し、フォローアップ費については、当初契約の下請業者と直接契約を締結している。

イ 検査の結果

検査したところ、事業実施機関は、寄宿舎建設等のための前払金を受け取った当初契約の施工業者とは、工事が完了しないまま、2年8月頃連絡がとれなくなったとしており、建設工事等が遅延している状況となっていた。そして、5年7月の貴省本省会計実地検査時点においても、校舎は完成したものの、寄宿舎は完成しておらず、校舎及び寄宿舎を建設することなどにより、複式学級の解消や、児童や園児、教職員の生活環境の改善等を図るという事業の目的が十分に達成されていない状況となっていた。

また、本事業の当初契約の施工業者は、(2)カランブ小学校整備計画においても建設工事等を実施していて、(2)イのとおり、工事が完了しないまま、2年5月にカランブ小学校は施工業者と連絡がとれなくなっていたとしていた。そして、本事業では、同年8月頃に事業実施機関であるバウ・ディストリクト小学校は同施工業者と連絡がとれなくなっていたとしていた。

上記の状況に関し、大使館は、カランブ小学校整備計画における状況を把握した2年9月に、本事業の状況についても、事業実施機関であるバウ・ディストリクト小学校に電話で確認し、口頭により工事は最終段階であるとの報告を受けていた。しかし、施工業者に対しては本事業の状況を確認していなかった。そして、大使館は、2年9月において最終段階にあると報告された工事の進捗状況等を十分に確認しないままであったため、本事業についてもカランブ小学校整備計画と同様に、事業実施機関であるバウ・ディストリクト小学校が施工業者と工事が完了しないまま連絡がとれない状況となっていることを3年2月まで把握していなかった。

また、大使館は、この状況を把握した3年2月以降も、同施工業者に取り付けていた面談の約束が全てキャンセルされていたのに、施工業者の事務所等に事業実施機関と共に赴いて協議するなど、事業を継続させるために必要な措置を十分に講じていなかった。そして、工事が中断している原因の究明や事業実施機関が工事未完了分について返金を受けることなどができないまま、(2)イのとおり、3年4月頃に大使館も施工業者と連絡がとれなくなる状況となっていた。

(改善を必要とする事態)

このように、事業の目的が全く達成されていない状況となっていて無償資金協力の効果が全く発現していない事態及び事業の目的が十分に達成されていない状況となっていて無償資金協力の効果が十分に発現していない事態は適切ではなく、貴省において必要な措置を講じて効果の発現に努めるなどの改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、次のことなどによると認められる。

ア ナヴアケゼ・ディストリクト小学校整備計画については、供与資金の適正な管理を担保し、確認する手段として行うとしていた、資金引出しに際しての請求書等による事前の使途等の確認が行われておらず、資金の引出しが建設工事の契約書に記載された段階どおりのものとなっていないことなどを把握していなかったこと、中間報告書が未提出の状況が続いていたのに、電話で提出の督促を行うのみで、口頭での報告内容の根拠の確認や遅延の原因の究明、現況把握のための現地訪問等、事業の進捗を確認する措置を十分に講じていなかったこと

イ カランブ小学校整備計画については、資金引出しに際しての請求書等による事前の使途等の確認が行われておらず、事業に係る支払状況を把握していなかったこと、中間報告書が期限までに提出されていなかったのに、電話で提出の督促を行うのみで、事業の進捗状況が十分に確認できていなかったこと、事業実施機関が施工業者と連絡がとれなくなっている状況を把握した後も、大使館が事業実施機関と共に施工業者を訪問して協議を実施するなど、事業継続のために必要な措置を十分に講じていなかったこと

ウ バウ・ディストリクト小学校整備計画については、事業実施機関が施工業者と連絡がとれなくなっていることなどの把握が遅れるなど、事業の進捗状況を十分に確認しておらず、その状況を把握した後も、大使館が事業実施機関と共に施工業者を訪問して協議を実施するなど、事業継続のために必要な措置を十分に講じていなかったこと

3 本院が表示する意見

貴省において、無償資金協力の効果が十分に発現するよう、次のとおり意見を表示する。

ア ナヴアケゼ・ディストリクト小学校整備計画、カランブ小学校整備計画及びバウ・ディストリクト小学校整備計画について、事業実施機関等に対して、速やかに工事を再開するなどして施設を完成させるよう働きかけるなどすること

イ ナヴアケゼ・ディストリクト小学校整備計画及びカランブ小学校整備計画における事態を踏まえて、今後、草の根無償を実施するに当たり、小学校等の建設工事を実施する際に、事業実施機関から施工業者等への支払が工事等の進捗に伴い段階的に行われることとなっている場合、施工業者等に対する事業実施機関の支払においては、契約書等に記載された段階どおりのものとなっているかなど、資金引出しに際して事前に請求書等で使途等の確認を徹底すること

ウ ナヴアケゼ・ディストリクト小学校整備計画及びカランブ小学校整備計画における事態を踏まえて、今後、草の根無償を実施するに当たり、小学校等の建設工事を実施する際に、進捗状況の確認のために事業実施機関から取り付けることとしていた中間報告書が期限までに未提出であるなどの場合、口頭による確認のみならず、その内容の根拠の確認、遅延の原因の究明、工事の現況把握のための現地訪問等、事業の進捗を確認する措置を十分に講ずること

エ カランブ小学校整備計画及びバウ・ディストリクト小学校整備計画における事態を踏まえて、今後、草の根無償を実施するに当たり、小学校等の建設工事を実施する際に、事業実施機関と施工業者等との連絡がとれなくなっているなどの場合、事業実施機関からその状況を速やかに報告させることを徹底するとともに、在外公館が事業実施機関と共に施工業者等を訪問し十分に協議を行うなどして事業の継続を図ること