外務本省(以下「本省」という。)は、「在外公館用会計事務の手引き(改訂版)」(平成27年3月外務省大臣官房会計課)に基づき、館員住宅基盤整備として、勤務環境が著しく厳しい地の在勤者に対して、停電時の対応のために、在外公館の館員住宅を対象に自家発電機を設置等することとしている。
また、本省は、在外公館が保有している自家発電機について、耐用年数の10年が経過した後は、各種消耗品の交換、保守・点検等の予防保全を施したとしても予期せぬ不具合が発生する蓋然性が高いと考えられるとして、原則として定期的に更新する方針としている。そして、毎年、耐用年数が近い自家発電機を保有する在外公館に対して、更新の必要性を改めて精査した上で買換えの申請を行うように通知(以下「買換えの通知」という。)している。
本省は、在外公館課所管予算の概要、配賦・執行方針等を明らかにした「在外公館課予算の執行方針及びりん請の手引き」(外務省大臣官房在外公館課。以下「手引」という。)を毎年度改訂している。そして、在外公館が自家発電機を調達する際は、手引に基づき、配備先を検討した上で、申請書に申請理由、所要額等の必要事項を明記し、本省に対して申請することとしている。
在外公館は、買換えの通知、手引等に基づき、保有する自家発電機について、本省に対して買換えの申請を行い、本省は、内容を審査し、買換えを承認した上で、在外公館に対して必要な前渡資金を交付している。そして、交付を受けた在外公館は、その前渡資金により自家発電機を調達して、貸与を必要とする館員住宅に配備している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、在外公館は更新の必要性を精査した上で適時適切に自家発電機を調達しているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、在外公館が平成29年度から令和3年度までに買換えにより調達した自家発電機のうち、政情不安のため職員が国外へ退避している在イエメン日本国大使館を除く11在外公館(注1)で調達した52台(取得価格計5506万余円。邦貨換算は取得年度の出納官吏レート。以下同じ。)を対象として、本省において、申請等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。また、在インド、在パキスタン両日本国大使館から情報通信システムを活用して説明を聴取するなどして検査するとともに、本省を通じて11在外公館から関係書類の提出を受けて、これを確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
上記の52台について、関係書類を基に館員住宅への配備状況をみたところ、表のとおり、調達後1年以上にわたり配備されないまま在外公館の倉庫等に保管されていたものが5在外公館(注2)で13台(取得価格計908万余円)、そのうち4年9月末の検査時点まで一度も配備されていなかったものが4在外公館で7台(取得価格計511万余円)となっていた。
表 自家発電機の配備状況
在外公館名 | 調達年度 | 1年以上未配備だったもの | |||
---|---|---|---|---|---|
左記のうち令和4年9月末時点で一度も配備されていないもの | |||||
台 | 取得価格(千円) | 台 | 取得価格(千円) | ||
インド大使館 | 平成30 | 7 | 4,435 | 3 | 1,900 |
ニカラグア大使館 | 29 | 3 | 1,194 | 2 | 796 |
パキスタン大使館 | 29 | 1 | 1,037 | 0 | - |
ルワンダ大使館 | 令和元 | 1 | 1,315 | 1 | 1,315 |
スリランカ大使館 | 平成29 | 1 | 1,100 | 1 | 1,100 |
計 | 13 | 9,083 | 7 | 5,113 |
前記のとおり、在外公館は、自家発電機の買換えを本省に対して申請する際、買換えの通知に基づいて、更新の必要性を精査することとされている。そこで、上記の5在外公館が、13台分の買換えに当たって、配備先となる貸与を受ける館員(以下「被貸与者」という。)について具体的に検討していたのか申請時の関係書類等を確認するとともに、本省を通じて5在外公館に確認したところ、いずれも被貸与者について具体的な見込みがない、又は具体的な見込みがあったか確認できない状況となっており、配備先が明確になっていなかった。
本省によると、自家発電機の発注から納品までに要する期間については、国により数日から2か月以上までと状況が異なるものの、人事異動により新たに着任する館員が確定するなど配備先となる被貸与者が明確になってから申請しても、多くの在外公館では、被貸与者が館員住宅に入居するまでに調達できるとしている。
しかし、本省は、買換えの通知において、自家発電機を更新する必要性について改めて精査するよう記載していたものの、在外公館が申請時に、配備先となる被貸与者の見込みを関係書類に記載することまでは求めておらず、申請の審査時においても、調達後の配備の見込みを確認していなかった。このため、前記の5在外公館においては、配備先となる被貸与者を明確にしないまま館員数を基に買換えが必要な台数を算出するなどしており、更新の必要性を十分に精査していなかった。
このように、在外公館において、自家発電機の買換えに当たり、更新の必要性を十分に精査しないまま自家発電機を調達した結果、5在外公館において13台が調達後に長期間にわたって未配備となっていて、適時適切な調達となっていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、本省において、在外公館が自家発電機の買換えの申請を行う際に配備先の見込みを関係書類に記載することを求めていなかったこと、申請の審査時に自家発電機の配備の見込みの確認が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、外務省は、自家発電機の買換えに当たり、原則として、在外公館が自家発電機を調達する際には配備先となる被貸与者を明記した上で申請するよう、また、本省においても配備の見込みを確認した上で承認することができるよう、申請に用いる様式を新たに作成した。そして、これにより在外公館に配備先となる被貸与者を明記して申請させることとし、6年度に予定する手引の改訂に先行して5年7月に通知を発して、上記の様式を用いて調達の申請を行うよう在外公館に周知するとともに、本省において、申請の審査時に同様式を用いて配備の見込みの確認を十分に行うこととする処置を講じた。