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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

公立学校情報通信ネットワーク環境施設整備事業の実施に当たり、過大に交付されていた補助金について返還を行わせるよう適宜の処置を要求し、また、補助対象外経費を網羅した資料等を事業主体に示した上で実績報告書の内容の確認を求めるなどするよう改善の処置を要求するとともに、今後同様の事態が生じないよう、補助対象経費について、誤りの多かった点を記載した資料を公表するなど十分な理解を得るための方策を検討するよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)文部科学本省 (項)公立文教施設整備費
部局等
文部科学本省
補助の根拠
予算補助
補助事業者(事業主体)
173事業主体
補助事業
公立学校情報通信ネットワーク環境施設整備事業
補助事業の概要
公立の小学校、中学校等において情報通信ネットワーク環境施設を整備するために必要とする経費を補助するもの
検査の対象とした事業主体数及び国庫補助金交付額
173事業主体 271億4140万余円(令和2、3両年度)
上記のうち国庫補助金が過大に交付されていた事業主体数及び交付額
18事業主体2億5869万円(令和2、3両年度)

【適宜の処置を要求し並びに改善の処置を要求し及び意見を表示したものの全文】

公立学校情報通信ネットワーク環境施設整備事業の実施について

(令和5年10月20日付け 文部科学大臣宛て)

標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し並びに同法第36条の規定により改善の処置を要求し及び意見を表示する。

1 公立学校情報通信ネットワーク環境施設整備事業の概要等

(1) 公立学校情報通信ネットワーク環境施設整備事業の概要

貴省は、「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」(令和元年12月閣議決定)等を踏まえて、教育の質の向上を狙いとする「GIGAスクール構想」の下、児童生徒1人1台端末や情報通信ネットワーク等のICT環境を整備している。

上記構想の下、貴省は、令和元年度から3年度まで、公立学校情報通信ネットワーク環境施設整備費補助金交付要綱(令和2年文部科学大臣決定。以下「交付要綱」という。)に基づき、公立の小学校、中学校等において情報通信ネットワーク環境施設を整備するために必要とする経費を補助することにより、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学びを全国の学校現場で実現させることを目的として、都道府県及び市町村(東京都の特別区及び市町村の組合を含む。以下、これらを合わせて「事業主体」という。)に対して公立学校情報通信ネットワーク環境施設整備費補助金(以下「補助金」という。)を交付している。

交付要綱によれば、補助金の補助対象経費は、事業主体が公立学校情報通信ネットワーク環境施設整備事業(以下「補助事業」という。)を実施するために必要な経費のうち、校内LANの新設・更新の事業に必要な経費(以下「新設等経費」という。)等とされ、補助金の交付額は、新設等経費の2分の1とすることなどとされている。

そして、貴省は、「公立学校情報通信ネットワーク環境施設整備費補助金の事業概要について」(令和2年文部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課長通知)において、新設等経費について、サーバー、無線アクセスポイント等(以下、これらを合わせて「ネットワーク機器」という。)の整備等に要する経費とするなどとしている。

また、交付要綱によれば、事業主体は、補助事業が完了したときは、文部科学大臣(事業主体が市町村の場合は都道府県教育委員会。以下同じ。)に実績報告書を提出することとされ、文部科学大臣は、実績報告書の審査を行い、交付すべき補助金の額を確定することとされている。

(2) 補助対象とならない経費の周知

貴省は、事業主体から補助事業に関する複数の問合せがあったことなどから、2年に、補助事業についての基本的な考え方、整備費見直しの助言事例、自治体向けFAQ等を記載した各種資料(以下「説明資料」という。)を作成し、事業主体に対して通知等により計7回にわたって提供している。そして、貴省は、説明資料において、補助事業実施年度の翌年度以降(以下「後年度」という。)の期間分のライセンス費用、ネットワーク機器の保守等に係る費用(以下「保守費用」という。)、ネットワーク機器の故障に対応するための予備の調達に係る費用(以下「代替機費用」という。)、校外施設の整備に係る費用(以下「校外施設費用」という。)等は補助対象とならない経費(以下「補助対象外経費」という。)であることを周知している。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、合規性等の観点から、補助金の交付額は交付要綱等に基づき適正に算定されているか、補助対象外経費の周知は適切に行われているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、2、3両年度に22府県(注)の173事業主体に交付された補助金計271億4140万余円を対象に、貴省本省及び22府県のうち富山、佐賀両県を除く20府県の163事業主体において、契約書、実績報告書等の関係書類及び現地の状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行うとともに、富山、佐賀両県の10事業主体については、上記関係書類の提出を受けてその内容を確認するなどして検査した。

(注)
22府県  京都、大阪両府、青森、岩手、茨城、群馬、千葉、富山、長野、愛知、滋賀、和歌山、鳥取、島根、岡山、徳島、香川、福岡、佐賀、長崎、宮崎、鹿児島各県

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 補助金が過大に交付されていた事態

ア 後年度の期間分の費用を補助対象経費に含めていた事態

前記のとおり、貴省は、ネットワーク機器の整備に要する経費に複数年度分のライセンス費用が含まれる場合は、当該費用のうち補助事業実施年度の期間分の費用は補助対象経費であるが、後年度の期間分の費用は補助対象外経費であるとして、その旨を説明資料において周知している。

しかし、7府県の11事業主体において、ライセンス費用について、校内LANが機能するために必要不可欠であり後年度の期間分の費用を含む全額が新設等経費に該当するとの判断や、複数年度分の費用を含む契約を締結して当該費用を補助事業実施年度内に一括して支払うことは後年度の期間分の費用を負担することに当たらないとの判断等から、誤って、後年度の期間分の費用についても補助対象経費に含めていた。

イ 保守費用を補助対象経費に含めていた事態

前記のとおり、貴省は、保守費用は新設等経費に該当せず、補助対象外経費であるとして、その旨を説明資料において周知している。

しかし、6府県の8事業主体において、保守費用について、ネットワーク機器の保守とネットワーク機器とが一体で販売されていて新設等経費に該当するとの判断等から、誤って補助対象経費に含めていた。

ウ 代替機費用を補助対象経費に含めていた事態

前記のとおり、貴省は、代替機費用は新設等経費に該当せず、補助対象外経費であるとして、その旨を説明資料において周知している。

しかし、5府県の5事業主体において、代替機費用について、説明資料の記載を見落としていたなどとして、誤って補助対象経費に含めていた。

エ 校外施設費用を補助対象経費に含めていた事態

学校からのインターネット接続には、各学校のインターネット回線を学校外の建物にあるサーバー室等に集約して接続する方式や、各学校からインターネット回線へ直接接続する方式等があり、前者の方式については、校内LANの新設・更新の際に、校外施設費用が発生することがある。

前記のとおり、貴省は、補助金は学校施設の整備費を補助するものであるため、校外施設費用は新設等経費に該当せず、補助対象外経費であるとして、その旨を説明資料において周知している。

しかし、3県の3事業主体において、校外施設費用について、校内LANが機能するために必要不可欠であり新設等経費に該当するとの判断等から、誤って補助対象経費に含めていた。

このように、11府県の18事業主体において、補助対象経費の算定に当たり、補助対象外経費を含めていたため、表1のとおり、補助金計2億5869万余円が過大に交付されていた。

表1 過大に交付されていた補助金額等

府県名
事業主体名
過大に交付
されていた
補助金額
(千円)
事態
後年度の期
間分の費用
保守費用
代替機費用
校外施設費
岩手県 釜石市 8,479
群馬県 太田市 4,885
千葉県 千葉市 76,566
匝瑳市 2,296
山武郡芝山町 1,037
愛知県 名古屋市 27,862
滋賀県 高島市 1,978
大阪府 大阪府 28,776
和歌山県 和歌山県 4,160
島根県 松江市 7,526
岡山県 総社市 8,481
福岡県 太宰府市 1,233
宮崎県 宮崎市 65,810
延岡市 12,318
串間市 1,295
東諸県郡国富町 2,707
児湯郡都農町 1,557
東臼杵郡門川町 1,730
11府県 18事業主体 258,696 11 8 5 3

(注) 「事態」欄は、該当する事態に「〇」を付している。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

大阪府は、令和2年度に、府立中学校、高等学校及び特別支援学校計181校において、情報通信ネットワークの整備を目的として、補助事業を事業費計1,125,381,362円で実施し、1,120,731,992円を補助対象経費として、補助金560,365,000円の交付を受けている。

しかし、同府は、ライセンス費用については、補助事業実施年度内に複数年度分のライセンス費用を支払済であり後年度の期間分の費用を負担することにならないと考えたこと、保守費用については、ネットワーク機器の保守とネットワーク機器とが一体で販売されていること、代替機費用については、説明資料の記載を見落としていたことなどから、後年度の期間分のライセンス費用、保守費用及び代替機費用の計57,552,255円を、新設等経費に該当するとして、上記の補助対象経費に含めていた。

したがって、補助対象外経費である上記の57,552,255円を除外して適正な補助対象経費を算定すると1,063,179,737円となり、これに対する補助金の額は531,589,000円となることから、前記の補助金交付額560,365,000円との差額28,776,000円が過大に交付されていた。

(2) 補助対象外経費の周知における具体的な記載内容

前記のとおり、18事業主体は、後年度の期間分の費用、保守費用、代替機費用及び校外施設費用について、新設等経費に該当するとの判断等から、誤って補助対象経費に含めていた。

そこで、説明資料における補助対象外経費に関する具体的な記載内容をみると、補助対象外経費の記載がGIGAスクール構想に関連する多数の資料の各所に散在していて、補助対象外経費の記載を見落としやすい状況となっているほか、表2のとおり、説明資料ごとに補助対象外経費として挙げている内容が区々となっているなどしており、個々の説明資料を確認しただけでは補助対象外経費について十分な理解を得られない状況となっていた。

表2 説明資料における補助対象外経費に関する記載内容(事態別)

説明資料
事 態
基本的な考え方
(令和2年1月28日、3月19日、5月26日)
  Q&A
(2年2月20日)
補助対象外の整備を計画している事例
(2年3月5日、3月19日、5月26日)
整備費見直しの助言事例
(2年3月19日、5月8日、5月26日)
自治体向けFAQ
(2年5月8日、8月24日)
後年度の期間分の費用
記載なし
単年度会計の原則上、複数年の有償保証サービス等、後年負担を含むことはできない
記載なし
無償のものがネットワーク機器にバンドルされている場合を除き、後年負担となる有償のネットワーク機器のライセンス・保証経費については補助対象外
保守費用
運用保守などのランニングコストは補助対象外
記載なし
無線アクセスポイントにおける代替機、保守・運用費は補助対象外
記載なし
代替機費用
記載なし
記載なし
校外施設費用
記載なし
校外の機器整備費用は補助対象外
記載なし
記載なし

(注) 本表は、説明資料を基に本院が作成した。

このように、説明資料は、補助対象外経費について十分な理解を得られるものとなっていなかった。

(是正及び改善を必要とする事態)

18事業主体において補助金が過大に交付されている事態は適切ではなく、是正を図る要があると認められる。また、説明資料が補助対象外経費について十分な理解を得られるものとなっていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、18事業主体において、補助金の補助対象経費についての理解が十分でないこと、9県において、管内の16事業主体から提出された実績報告書等に対する審査が十分でないことなどにもよるが、貴省において、府県の2事業主体から提出された実績報告書等に対する審査が十分でないこと、補助事業における補助金の補助対象経費について、十分な理解を得るための方策が講じられていないことなどによると認められる。

3 本院が要求する是正の処置並びに要求する改善の処置及び表示する意見

前記のとおり、貴省は、GIGAスクール構想の下、児童生徒1人1台端末や情報通信ネットワーク等のICT環境を整備している。そして、貴省は、公立学校におけるICT環境の整備は引き続き不可欠なものとしていることから、補助金の交付は3年度で終了しているものの、今後、校内LANの更新等、同様の事業が実施されることも考えられる。

ついては、貴省において、補助金の交付額を適正なものとするよう、また、今後実施することが考えられる同様の事業において同様の事態が生ずることのないよう、次のとおり是正の処置を要求し並びに改善の処置を要求し及び意見を表示する。

ア 前記の18事業主体に対して、過大に交付されていた補助金を速やかに返還するよう求めること(会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求するもの)

イ 補助金の交付を受けた事業主体に対して、補助対象外経費を網羅した資料等を示した上で、改めて実績報告書の内容を確認するよう求めること。そして、当該確認の結果、補助金が過大に交付されていたと認められる場合には、速やかに当該補助金の返還を求めること(同法第36条の規定により改善の処置を要求するもの)

ウ 今後、校内LANの更新等を対象とする同様の事業を実施する際に、前記の18事業主体と同様の事態が生じないよう、補助対象経費について、今回誤りの多かった点を記載した資料を公表するなど十分な理解を得るための方策を検討すること(同法第36条の規定により意見を表示するもの)