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労働保険の保険料の徴収に当たり、徴収額に過不足があったもの[10労働局](59)


会計名及び科目
労働保険特別会計(徴収勘定) (款)保険収入 (項)保険料収入
部局等
10労働局
保険料納付義務者
徴収不足があった事業主数 264事業主
徴収過大があった事業主数 72事業主
徴収過不足額
徴収不足額 102,879,709円(令和2年度~4年度)
徴収過大額 21,127,178円(令和元年度~4年度)

1 保険料の概要

(1) 労働保険

労働保険は、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)及び雇用保険を総称するものである。このうち、①労災保険は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)等に基づき、労働者の業務上の事由又は通勤による負傷、疾病等に対する療養補償給付等を行う保険である。また、②雇用保険は、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、労働者の失業等に対する失業等給付、雇用安定事業等を行う保険である。

(2) 保険料の徴収

政府は、「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」(昭和44年法律第84号。以下「徴収法」という。)等に基づき、労働保険の事業に要する費用に充てるため、保険料を徴収することとなっている。そして、保険料は、①労災保険分については事業主が負担して、②雇用保険分については、失業等給付に充てる部分を労働者と事業主とが折半して負担し、雇用安定事業等に充てる部分を事業主が負担して、①と②のいずれも事業主が納付することとなっている。

保険料の納付は、原則として次のとおり行われることとなっている。

ア 事業主は、毎年度の6月1日から40日以内に、都道府県労働局(以下「労働局」という。)に対して、その年度の労働者に支払う賃金総額の見込額に保険料率(注1)を乗じて算定した概算保険料を申告して、納付する。

イ 事業主は、次の年度の6月1日から40日以内に、労働局に対して、前年度に実際に支払った賃金総額に基づいて算定した確定保険料申告書を提出する。

ウ 労働局は、この申告書の記載内容を審査して、その結果に基づき保険料の過不足分が精算される。

そして、労働局は、必要に応じて、事業主に徴収法に基づく実地調査を行うなどして、保険料の算定等について調査確認や指導を行っている。

この労働保険の保険料の令和4年度の収納済額は3兆1336億余円に上っている。

(注1)
保険料率  労災保険率と雇用保険率に分かれており、それぞれ次のとおりである。

① 労災保険率は、労災保険の適用を受ける全ての事業の過去3年間の業務災害及び通勤災害に係る災害率等を考慮して事業の種類ごとに定められており、令和元年度から4年度までは最低1000分の2.5から最高1000分の88までとなっている。

② 雇用保険率は、失業等給付、雇用安定事業等に要する費用を考慮して定められており、元年度から3年度までは1000分の9(ただし、農林、水産等の事業は1000分の11、建設の事業(土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業をいう。以下同じ。)は1000分の12)、4年度は、4年4月1日から9月30日までの期間が1000分の9.5(ただし、農林、水産等の事業は1000分の11.5、建設の事業は1000分の12.5)、同年10月1日から5年3月31日までの期間が1000分の13.5(ただし、農林、水産等の事業は1000分の15.5、建設の事業は1000分の16.5)となっている。

(3) 労災保険及び雇用保険の適用対象

労災保険は、原則として、労働者を使用する事業に適用されることとなっており、これらの事業に使用される全ての労働者が保険給付の対象となる。

また、雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間未満である者、継続して31日以上雇用されることが見込まれない者等には適用されないこととなっているため、これらの者を被保険者としない取扱いとなっている。したがって、常時雇用される一般労働者のほか、いわゆるパートタイム労働者等の短時間就労者のうち、1週間の所定労働時間が20時間以上で継続して31日以上雇用されることが見込まれることなどの要件を満たす者が被保険者となる。

(4) 労災保険分の保険料の算定についての特例

保険料の算定に当たっては、前記のとおり、事業主が実際に支払った賃金総額に基づいて算定することが原則となっているが、徴収法等によれば、特例として、労災保険分の保険料の算定に当たり、請負による建設の事業、立木の伐採の事業等であって、賃金総額を正確に算定することが困難なものについては、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則(昭和47年労働省令第8号)に基づいて算定した額を賃金総額とすることとされていて、このうち請負による建設の事業の場合には、工事の請負金額に労務費率(注2)を乗じて賃金総額を算定することとされている。また、請負による建設の事業の場合には、請負金額の算定に当たり、消費税等相当額を除くこととなっている。

(注2)
労務費率  工事の請負金額に占める賃金総額の割合として、事業の種類ごとに定められており、工事開始日が平成30年4月1日から令和5年3月31日までのものは最低100分の17から最高100分の38までとなっている。

(5) 一括有期事業に係る労災保険分の保険料の算定、納付等

労災保険の適用を受ける事業のうち、建設の事業や立木の伐採の事業のように、事業の期間が予定される事業(以下「有期事業」という。)については、原則として、一つの工事現場等を一つの事業単位とすることとなっている。

ただし、徴収法等によれば、事務の簡素化を図ることを目的として、二つ以上の有期事業について、事業主が同一人であること、それぞれの事業が一定規模以下(建設の事業の場合、概算保険料の額に相当する額が160万円未満で、かつ、消費税等相当額を除いた請負金額が1億8000万円未満)であること、それぞれの事業が他のいずれかの事業の全部又は一部と同時に行われることなどの要件に該当する場合には、それぞれの有期事業を一括して一つの事業とみなすこととされている(以下、一つの事業とみなされる有期事業を「一括有期事業」という。)。

そして、一括有期事業に係る労災保険分の保険料については、通常の場合と同様に、申告や納付が行われることとなっていて、確定保険料申告書を提出する際には、概算保険料を納付した年度内に終了した一括有期事業に該当する全ての工事等の名称等を記載した一括有期事業報告書を併せて提出することとなっている。

さらに、前記のとおり、請負による建設の事業であって賃金総額を正確に算定することが困難なものについては、労災保険分の保険料を算定するに当たり、請負金額に労務費率を乗ずることにより賃金総額を算定することとされていて、一括有期事業に該当する工事のうちこの方法により賃金総額を算定するものについては、工事ごとの請負金額や労務費率を一括有期事業報告書に記載することなどとなっている。

2 検査の結果

(1) 検査の観点、着眼点、対象及び方法

本院は、合規性等の観点から、事業主の雇用する労働者の保険加入が適正になされているか、確定保険料申告書が適切に作成されているかなどに着眼して、全国47労働局のうち10労働局管内の1,222事業主を選定して、元年度から4年度までの間における各労働局の保険料の徴収の適否について検査した。

検査に当たっては、上記の10労働局において事業主から提出された確定保険料申告書等の書類により会計実地検査を行い、適正でないと思われる事態があった場合には、更に当該労働局に調査及び報告を求めて、その報告内容を確認するなどの方法により検査した。

(2) 検査の結果

検査の結果、次のア及びイのとおり、前記1,222事業主のうち、10労働局管内の264事業主(注3)について徴収額が102,879,709円不足しており、また、10労働局管内の72事業主(注3)について徴収額が21,127,178円過大になっていて、不当と認められる。

ア 事業主が、雇用保険の加入要件を満たす短時間就労者を加入させておらず、その賃金を雇用保険分の保険料の算定の際に賃金総額に含めるべきところ、これを含めていなかったり、雇用保険の加入要件を満たしていない短時間就労者の賃金を雇用保険分の保険料の算定の際に賃金総額から除くべきところ、これを含めていたりなどしている事態が見受けられた。このため、10労働局管内の150事業主について徴収額が42,896,318円不足しており、また、8労働局管内の22事業主について徴収額が10,067,585円過大となっていた。

イ 事業主が、概算保険料を納付した年度内に終了した一括有期事業に該当する工事の一部を一括有期事業報告書に記載しておらず、これらの工事の請負金額を含めることなく賃金総額を算定して、この額に基づき労災保険分の保険料を算定したり、消費税等相当額を除いた請負金額を一括有期事業報告書に記載すべきところ、消費税等相当額を含めた請負金額を一括有期事業報告書に記載して、この額に基づいて労災保険分の保険料を算定したりなどしている事態が見受けられた。このため、10労働局管内の125事業主について徴収額が59,983,391円不足しており、また、10労働局管内の51事業主について徴収額が11,059,593円過大となっていた。

(注3)
事業主の重複があるため、徴収額が不足していた事業主数264について、ア及びイの事業主数150と125とを合計しても一致しない。また、徴収額が過大となっていた事業主数72について、ア及びイの事業主数22と51とを合計しても一致しない。

このような事態が生じていたのは、事業主が確定保険料申告書、一括有期事業報告書等を提出するに当たり、制度を十分に理解していなかったことや計算誤りをしたことにより、保険料算定の基礎となる賃金総額、請負金額等の記載が事実と相違するなどしていたのに、上記の10労働局において、これに対する調査確認及び指導が十分でなかったことによると認められる。

前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

大阪労働局は、建設業を営む事業主Aから、令和2年度の労災保険分の保険料について、4工事(請負金額計152,269,000円)が2年度に終了した一括有期事業であるとして、4工事の請負金額により算出された賃金総額に基づいて労災保険分の保険料を350,036円と算定した確定保険料申告書、一括有期事業報告書等の提出を受けて、これに基づき、当該保険料を徴収していた。

しかし、事業主Aは、上記4工事のほかに一括有期事業に該当する427工事(請負金額計800,529,417円)が2年度に終了していたのに、これら427工事の請負金額を一括有期事業報告書に記載しておらず、これら427工事の請負金額を含めることなく賃金総額を算定して、この額に基づき労災保険分の保険料を算定するなどしていた。このため、労災保険分の保険料2,301,465円が徴収不足となっていた。

なお、これらの徴収不足額及び徴収過大額については、本院の指摘により、全て徴収決定又は還付決定の処置が執られた。

これらの徴収不足額及び徴収過大額を労働局ごとに示すと次のとおりである。

労働局名
本院の調査に係る事業主数
徴収不足があった事業主数
徴収過大があった事業主数
徴収不足額
徴収過大額(△)
      千円
青森
118 18
2
5,276
△ 666
群馬
117 28
12
9,536
△ 2,263
千葉
135 45
14
12,163
△ 3,588
東京
143 47
15
17,306
△ 3,877
神奈川
124 27
4
11,519
△ 1,322
三重
114 23
3
6,120
△ 244
大阪
132 40
15
24,469
△ 3,613
香川
115 11
2
2,453
△ 71
大分
110 12
2
10,623
△ 183
沖縄
114 13
3
3,410
△ 5,294
1,222 264
72
102,879
△ 21,127