厚生労働本省(以下「本省」という。)は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対処するために本省が調達した注射針・注射筒、超低温冷凍庫等及び布製マスクのうち、都道府県、市町村等に対して配布していないものの保管・管理及び配送を行わせるために、令和3年4月に、随意契約(単価契約)により、佐川急便株式会社(以下「会社」という。)との間で、新型コロナウイルスワクチンの接種に係る注射針・注射筒等の保管・管理及び配送業務に係る請負契約を締結しており、3年6月から4年4月までの間に計1,571,618,605円を支払っている。この内訳は、注射針・注射筒に係る分が311,178,131円、超低温冷凍庫等に係る分が1,094,191,963円、布製マスクに係る分が166,248,511円となっている。
本件契約により保管・管理及び配送を行わせる物品のうち、注射針・注射筒及び超低温冷凍庫等は、新型コロナウイルスワクチンの接種に係るものである。
一方、布製マスクの保管・管理等についての経緯は、次のとおりとなっている。
ア 政府は、元、2両年度において、新型コロナウイルス感染症の全国的な感染拡大に伴うマスクの品薄状態に対処するため、国内の全世帯等を対象に布製マスクを配布する事業を実施しており、この事業の一環として、本省は、2年3月から同年6月までの間に布製マスクの調達契約を締結して計2億8741万余枚を調達している。その後、一律配布の中止や配布方法の変更等があったことから、当初予期しなかった布製マスクの在庫(3年3月末現在で8272万余枚)が発生した。そこで、本省は、布製マスクの配布を行っていた日本郵便株式会社に布製マスクを保管させていたが、保管費用等を低減させるために、2年10月に一般競争入札により会社と請負契約を締結し、同月から3年3月までの間、布製マスクの保管・管理等の業務を、注射針・注射筒、超低温冷凍庫等の保管・管理等の業務と一体的に行わせた。
イ 本省は、3年3月に改めて一般競争入札を実施し、その結果、上記業務のうち注射針・注射筒と布製マスクの保管・管理等の業務について、同年4月以降は日本通運株式会社(以下「日本通運」という。)に行わせることとした。
ウ イにより、会社が3年3月末時点で在庫として保管していた布製マスク等を日本通運に移管する必要が生じたことから、本省は、同年4月に本件契約を締結した。そして、日本通運に移管するまでの間、布製マスクの保管・管理を行わせるとともに、引渡しに当たっては、①布製マスクが梱包されているケース(注1)(外箱)を保管場所から作業スペースに引き出して、破損の有無を確認するなどの作業、②確認等が完了したケースをパレット(荷物の保管、倉庫内作業、輸送等のために使用される荷役台)に積載して、作業スペースから引渡場所に搬出するなどの作業、③引渡場所においてケースを日本通運側に引き渡すなどの作業(以下、①から③までの作業を「布製マスクの搬出・移管業務」という。)等を行わせることとした。
本院は、合規性等の観点から、本件契約の支払額が適正なものとなっているかなどに着眼して、本件契約を対象として、本省及び会社において、契約書、仕様書、請求書等の書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
会社は、仕様書に基づき、千葉県千葉市所在の倉庫及び同県船橋市所在の倉庫に保管していた布製マスクを、3年4月から同年6月までの間に日本通運に移管していた。そして、本省への請求に当たり、布製マスクの保管・管理等の業務に係る費用については、ケース等の数量に作業ごとに契約で定められた単価を乗ずるなどして計166,248,511円と算定していた。このうち、布製マスクの搬出・移管業務に係る費用については、①ケースを両倉庫の保管場所から作業スペースに引き出すなどの作業に係る分として計122,377ケース、26,922,940円、②ケースをパレットに積載して作業スペースから引渡場所に搬出するなどの作業に係る分として計6,290パレット(注2)、8,994,700円、③引渡場所においてケースを引き渡すなどの作業に係る分として計121,083ケース、26,638,260円とそれぞれ算出して、合計62,555,900円としていた。
しかし、会社は、千葉市所在の倉庫分の数量に、誤って、船橋市所在の倉庫分の数量を含めるなどしていて、①の作業に係る分計122,377ケースのうち15,435ケース、②の作業に係る分計6,290パレットのうち770パレット、③の作業に係る分計121,083ケースのうち15,435ケースについては、数量が過大に計上されていた。そして、会社は、数量の誤りに気付かないまま算定した前記の費用を本省に請求していた。
本省は、会社に対して、布製マスクの移管の都度、引き渡したケース等の数量を記載した受渡書等の関係書類を提出させることとしており、これらの関係書類に基づき実績数量の確認を行うこととしていた。そして、これらの関係書類には実績数量が記載されるなどしていたにもかかわらず、本省は、実際には実績数量の確認を十分に行わないまま、請求を受けたとおりに前記の額を会社に支払っていた。
したがって、会社が誤って含めていた数量を除いて適正な支払額を算定すると1,563,726,105円となることから、前記の支払額1,571,618,605円との差額7,892,500円が過大に支払われていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、本省において、実績数量の確認が十分でなかったことなどによると認められる。