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  • 令和4年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第6 厚生労働省|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(5) 後期高齢者医療広域連合が実施している高齢者保健事業において、健康診査の実施後に受診勧奨及び保健指導の対象者の抽出が適切に行われていないことについて、受診勧奨及び保健指導に関する具体的な内容や実施のための方法等を明確に示すなどして、健康診査の事業を対象として交付された補助金等の効果が十分に発現するよう、また、医療機関に存在する診療情報を活用することができるための方策を検討して、高齢者保健事業が経済的に実施されるよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)厚生労働本省 (項)医療保険給付諸費
部局等
厚生労働本省
国の負担の根拠
高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)
補助金等の概要
後期高齢者医療広域連合が実施する後期高齢者に対する健康診査等の事業を対象として交付される補助金等
補助金等の効果について検査の対象とした広域連合数及び補助金等の額
22広域連合41億1984万余円(令和2年度)
上記のうち受診勧奨及び保健指導の対象者の抽出が適切に行われていない健康診査受診者に係る補助金等の額
11億8577万円
診療情報の活用について検査の対象とした広域連合数及び補助金等の額
47広域連合(全広域連合) 76億0444万円(背景金額)(令和2年度)

【意見を表示したものの全文】

後期高齢者医療広域連合による高齢者保健事業の実施に対して交付された補助金等の効果及び高齢者保健事業における診療情報の活用について

(令和4年12月20日付け 厚生労働大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 高齢者保健事業の概要等

(1) 高齢者保健事業の概要

後期高齢者医療広域連合(以下「広域連合」という。)は、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号。以下「高齢者医療確保法」という。)等に基づき、被保険者である各都道府県の区域内に住所を有する後期高齢者(75歳以上の者又は65歳以上75歳未満の者で一定の障害の状態にある者をいう。以下同じ。)に対して、健康診査、保健指導その他の後期高齢者の健康の保持増進のために必要な事業等(以下、これらを「高齢者保健事業」という。)を行うように努めなければならないことなどとなっている。高齢者保健事業のうち保健指導等については、平成28年4月の高齢者医療確保法の改正により新たに努力義務とされたものである。

「高齢者の医療の確保に関する法律に基づく高齢者保健事業の実施等に関する指針」(令和2年厚生労働省告示第112号。以下「指針」という。)によれば、健康診査は、疾病予防、重症化予防等を目的として、医療機関での受診が必要な者及び保健指導を必要とする者を的確に抽出するために行うものとされている。また、健康診査は、高齢者保健事業の中核的な事業の一つであり、健康診査の結果の通知を行うことにより本人の健康への気付きを促すこと、医療機関への受診の機会へつなげること、健康診査の結果を活用した医療専門職による保健指導を行うことなどが重要であるとされている。

また、健康診査の実施内容は、九つの基本項目(表1参照)と、心電図検査等の医師が必要と判断する場合に実施する追加項目から構成されている。このうち基本項目は、40歳以上75歳以下の年齢に達する者(75歳未満の者に限り、妊産婦その他の厚生労働大臣が定める者を除く。)に対して行われる特定健康診査(注1)の基本的な健診項目から腹囲の検査を除いたものとなっている。

表1 健康診査の実施内容(基本項目)

診察
①  既往歴等の調査
血液検査
(7項目)
⑥  肝機能検査
AST (GOT) ⑨  尿検査
 (2項目)
尿糖
②  自覚症状及び他覚症状の有無の検査
ALT(GPT) 尿たん白
計測
③  身長と体重の検査
γ ― GT(γ ― GTP)
④  BMIの測定
⑦  血中脂質検査
中性脂肪
⑤  血圧の測定 HDL― コレステロール
LDL― コレステロール
⑧  血糖検査
空腹時血糖(HbA1c)

指針において、健康診査後の結果の通知に当たっては、医師、保健師等の助言及び指導を得て、治療を要する者に対して、必要に応じて医療機関での受診を勧めること(以下「受診勧奨」という。)を行うことなどとされている。また、保健指導については、健康診査の結果、生活状況、健康状態等を十分に把握し、疾病予防、重症化予防及び健康の保持増進のための方法を本人が選択できるよう配慮するとともに、加齢による心身の特性の変化や性差等に応じた内容とすることなどとされている。

(注1)
特定健康診査  高血圧症、脂質異常症、糖尿病その他の生活習慣病に関する健康診査であって、生活習慣病の発症や重症化を予防することを目的として、生活習慣を改善するための特定保健指導を必要とする者を的確に抽出するために行うもの

(2) 後期高齢者医療制度事業費補助金等の概要

貴省は、健康診査等の事業を対象として、広域連合に対して後期高齢者医療制度事業費補助金(以下「事業費補助金」という。)を交付している。後期高齢者医療制度事業費補助金交付要綱(令和2年厚生労働省発保0327第26号厚生労働事務次官通知)によれば、健康診査に係る事業費補助金の対象経費は、当該事業を実施するために必要な委託料等とされている。また、事業費補助金の想定される所要額が当該事業に係る国の歳出予算額を超過する場合、超過する部分については、別途、広域連合に対して特別調整交付金(注2)を交付することになっている。

(注2)
特別調整交付金  高齢者医療確保法に基づき、後期高齢者医療の財政を調整するために、国が広域連合に対して交付する財政調整交付金の一部であり、災害その他特別の事情がある広域連合に対して交付される。

(3) 診療における検査データの活用

特定健康診査においては、医療機関において診療の一環として特定健康診査の実施内容と同様の検査を受けた者について、本人の同意の下で、保険者が診療における検査データ(以下「診療情報」という。)の提供を受けて、これを特定健康診査の結果として活用することが認められている。

一方、高齢者保健事業においては、診療情報を健康診査の結果として活用する取扱いとはなっていない。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、事業費補助金及び特別調整交付金(以下、両者を合わせて「事業費補助金等」という。)の交付を受けて実施される健康診査が、疾病予防、重症化予防等を目的として、医療機関での受診が必要な者及び保健指導を必要とする者を的確に抽出するように行われるなどして補助の効果が十分に発現しているかなどに着眼して、22広域連合(注3)に対して令和2年度に交付された事業費補助金等計41億1984万余円(注4)を対象として検査した。また、経済性等の観点から、広域連合による高齢者保健事業が経済的に実施されているかなどに着眼して、全国の47広域連合に対して2年度に交付された事業費補助金等計76億0444万余円(注4)を対象として検査した。

検査に当たっては、貴省本省において、高齢者保健事業の内容等を聴取したり、18広域連合において、事業実績報告書等の関係資料や健康診査の実施状況等を確認したりするなどの方法により会計実地検査を行うとともに、残りの29広域連合については、関係資料の提出を受けてその内容を確認するなどの方法により検査した。

(注3)
22広域連合  北海道、岩手県、宮城県、茨城県、東京都、新潟県、富山県、福井県、山梨県、岐阜県、愛知県、滋賀県、大阪府、兵庫県、奈良県、鳥取県、岡山県、山口県、徳島県、福岡県、熊本県、鹿児島県各後期高齢者医療広域連合
(注4)
41億1984万余円は、全国の47広域連合に対して交付された76億0444万余円の内数である。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 受診勧奨及び保健指導の対象者の抽出が適切に行われていない事態

前記のとおり、健康診査は、医療機関での受診が必要な者及び保健指導を必要とする者を的確に抽出するために行うものとされている。そこで、前記の22広域連合(健康診査の受診者計2,251,707人、これに係る事業費補助金等計41億1984万余円)において、健康診査の実施後に、受診勧奨及び保健指導の対象者の抽出をどのように行っているかをみることとした。

この際、指針においては、前記のとおり、必要に応じて受診勧奨を行うことや保健指導における配慮すべき事項等の内容が示されるにとどまっていて、受診勧奨及び保健指導に関する具体的な内容や実施のための方法等について明確に示されていないと思料されたことから、貴省が発出した特別調整交付金に係る通知等を踏まえ、本院において、受診勧奨及び保健指導を表2のとおりそれぞれ定義して、これに沿って対象者の抽出状況をみることとした。

表2 受診勧奨及び保健指導の定義

取組名 定義の内容
受診勧奨 医療機関への受診の有無を確認した上で、受診が無い者に実施された面談等をいう。なお、単に健康診査の結果を通知したものは受診勧奨には含めない。
保健指導 医師、保健師等の医療専門職が、個人の健康診査の結果に応じて個別具体的な指導を行うものであり、次の条件に基づき実施されたものをいう。
①対象者の抽出基準が明確であること
②かかりつけ医と連携した取組であること
③医療専門職が取組に関わること
④事業の評価を実施すること

また、22広域連合はいずれも、受診勧奨及び保健指導を、市区町村に対して委託費を支払うなどして実施したり、市区町村ごとの地域の特性に応じて実施することとしたりしていたことから、各広域連合単位ではなく、22広域連合に加入する915市区町村(注5)の各市区町村単位で対象者の抽出状況をみることとした。

その結果、22広域連合に加入する508市区町村においては、受診勧奨及び保健指導のいずれか又は両方について対象者の抽出が行われており、これらの抽出に基づき受診勧奨及び保健指導のいずれか又は両方が行われていた。一方、15広域連合に加入する残りの407市町村においては、受診勧奨及び保健指導のいずれについても対象者の抽出が行われていなかった(表3参照)。

したがって、上記の407市町村に住所を有する後期高齢者651,986人に対して実施された健康診査は、医療機関での受診が必要な者及び保健指導を必要とする者を的確に抽出するように行われたものとはなっておらず、15広域連合に交付された事業費補助金等のうち、上記の651,986人に係る事業費補助金等11億8577万余円については、補助の効果が十分に発現しているとは認められない。

(注5)
915市区町村  22広域連合に加入する全917市区町村から2年度に健康診査を実施しなかった2市町を除いた市区町村の数

表3 受診勧奨及び保健指導の対象者の抽出状況

広域連合名
受診勧奨の対象者の抽出
保健指導の対象者の抽出
受診勧奨及び保健指導のいずれについても対象者の抽出が行われていなかった市町村の数
左における健康診査の受診者数
左に係る事業費補助金等
行われていなかった市区町村の数
左における健康診査の受診者数
行われていなかった市区町村の数
左における健康診査の受診者数
(人) (人) (人) (円)
北海道広域連合 175 87,572 135 70,531 132 69,740 131,588,000
岩手県広域連合 1 787 1 787 1 787 1,390,000
宮城県広域連合 28 66,346 32 71,983 28 66,346 119,272,000
茨城県広域連合 0 0 0 0 0 0 0
東京都広域連合 8 43,803 54 566,904 5 819 1,512,000
新潟県広域連合 27 65,339 26 35,192 26 35,192 62,871,000
富山県広域連合 0 0 0 0 0 0 0
福井県広域連合 2 793 6 4,736 1 269 483,000
山梨県広域連合 27 18,687 17 11,387 17 11,387 20,882,000
岐阜県広域連合 26 52,814 28 52,125 24 50,710 92,311,000
愛知県広域連合 50 255,928 47 309,137 46 241,293 433,118,000
滋賀県広域連合 0 0 0 0 0 0 0
大阪府広域連合 0 0 0 0 0 0 0
兵庫県広域連合 22 85,739 21 84,703 19 83,508 154,029,000
奈良県広域連合 37 46,311 36 45,359 35 43,933 79,270,000
鳥取県広域連合 15 12,144 12 4,739 10 4,136 7,580,000
岡山県広域連合 22 32,882 21 20,616 19 19,586 36,037,000
山口県広域連合 0 0 19 31,763 0 0 0
徳島県広域連合 20 9,771 20 9,771 20 9,771 17,802,000
福岡県広域連合 0 0 0 0 0 0 0
熊本県広域連合 0 0 0 0 0 0 0
鹿児島県広域連合 24 14,509 24 14,509 24 14,509 27,633,000
22 広域連合 484 793,425 499 1,334,242 407 651,986 1,185,778,000

(2) 診療情報の活用が行われていない事態

前記のとおり、高齢者保健事業において、診療情報を健康診査の結果として活用する取扱いとはなっていない。貴省によれば、貴省においてこの点について検討した記録は特に存在しないとのことであり、診療情報を健康診査の結果として活用する取扱いとはなっていないことについて、特段の理由はないものと思料される。

しかし、①後期高齢者には生活習慣病の治療のために医療機関で診療を受けている者も多いと考えられること、②前記のとおり、健康診査の実施内容のうち基本項目は、腹囲の検査を除き特定健康診査の基本的な健診項目と同一であることなどを踏まえると、特定健康診査における場合と同様に、診療情報の活用の余地があると思料される。

具体的には、ある年度の健康診査の実施に先立ち、広域連合が、医療機関に診療情報が存在すると考えられる被保険者に対して診療情報を当該広域連合に提供するよう協力依頼を行い、被保険者がこれに同意した上で当該年度中に医療機関で診療の一環として検査を受けることになれば、当該広域連合は、診療情報を受診勧奨及び保健指導の対象者の抽出に活用することができるため、当該被保険者に健康診査を受診させる必要がなくなる。また、被保険者は、健康診査と診療との間で検査項目の重複を避けることが可能となる。さらに、国は、健康診査を受診しない結果となる被保険者に係る事業費補助金等の交付額の節減を図ることができる。

そこで、以上の考え方を踏まえて、全国の47広域連合に対して2年度に交付された事業費補助金等76億0444万余円の対象となっている全ての健康診査の受診者4,195,246人のうち、特に、前年度である元年度中に健康診査の基本項目のうちの血液検査(7項目)と尿検査(2項目)に係る全ての項目について、医療機関で診療の一環として検査を受けていた者がいるかについてみたところ、全体の18.9%に当たる791,516人が該当していた。さらに、このうち59.7%に当たる472,548人(全体の11.3%)については、2年度中も、医療機関で診療の一環として血液検査と尿検査に係る全ての項目について検査を受けており、その多くは生活習慣病治療者であった。なお、これらの者の中には、健康診査受診月において、健康診査と診療の双方で同様の検査項目に係る血液検査と尿検査を受けている者も見受けられた。

診療情報の活用は健康診査の基本項目の全てを網羅している場合に限定されるものではないが、広域連合が前記の791,516人に対して、2年度の健康診査の実施に先立ち診療情報を広域連合に提供するよう協力依頼を行っていれば、被保険者の同意が前提にあることを考慮してもなお、上記472,548人のうちの一定数に係る診療情報の提供が得られていたと考えられる。その結果、健康診査を受診しないこととなる被保険者に係る事業費補助金等の交付額を一定額節減して高齢者保健事業を経済的に実施することができたと認められる。

(改善を必要とする事態)

高齢者保健事業の実施に当たり、受診勧奨及び保健指導の対象者の抽出が適切に行われていなかったり、診療情報の活用が行われていなかったりする事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、広域連合において、健康診査は医療機関での受診が必要な者及び保健指導を必要とする者を的確に抽出するために行うものであることなどを十分に理解していないことなどにもよるが、貴省において、次のことなどによると認められる。

ア 受診勧奨及び保健指導の必要性や、これらに関する具体的な内容や実施のための方法等を明確に示しておらず、また、健康診査の結果の活用状況を把握していないこと

イ 診療情報を健康診査の結果として活用する取扱いについて検討していないこと

3 本院が表示する意見

高齢化が進展し後期高齢者人口が増加する中で、今後も、広域連合が実施する高齢者保健事業に対して事業費補助金等の交付が行われることが見込まれる。

ついては、貴省において、事業費補助金等の効果が十分に発現するよう、また、診療情報の活用により事業費補助金等の交付額の節減が図られ高齢者保健事業が経済的に実施されるよう、次のとおり意見を表示する。

ア 広域連合に対して、健康診査の目的等を周知徹底し、受診勧奨及び保健指導の必要性や、これらに関する具体的な内容や実施のための方法等を明確に示すとともに、健康診査の結果の活用状況を把握した上で、受診勧奨及び保健指導の対象者の抽出が適切に行われることを事業費補助金等の交付に際して確認し指導を行うなどの具体的な方策を検討すること

イ 医療機関に診療情報が存在する被保険者について、当該被保険者に係る診療情報を活用して受診勧奨及び保健指導の対象者を抽出することを認める取扱いとした上でこれを周知するなど、広域連合が診療情報を活用することができるための具体的な方策を検討すること